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ぬくもり。

 



 暖かい。

 お腹が温かい……ん?


 ん~……?


 ユージアを抱えて寝ているから……これはユージアの足かな?

 シャツが少し上へめくれている感覚があったので戻そうとして、妙な違和感に気づいて急激に意識が覚醒する。



(お腹に手がある!?)



 ……正確には、手が当てられている。


 いやーちょっと待って?

 えーっと、寝る時にベッドを2つ……そう、セミダブルのベッドを2つ並べてくっつけて、私は自分のベッド、ゲストルームに置いてあった方のベッドをルークが使って、その真ん中にユージアが寝てたはず。


 ていうか、ユージアが毛布を蹴飛ばしたから、風邪を引かせたくもないので、そのまま抱いて寝てしまっているわけだから、この手はユージアではない。



(明らかにここは私のベッドだし……)



 私から見て、ユージアのさらに隣に寝てるはずのルークも見当たらない。


 ていうか、この手!

 お腹にダイレクトにくっついてるんですけど!

 少し上に添えられている方の手の親指が、下着を潜って微妙に胸下の部分まで届いてるんですけど……。



「随分、良い寝相してるわね……」



 声が聞こえたのか、手が、びくっと反応し動いた。



「……キミだって、ユージアにしてるじゃないか」


「ユージアは子供でしょう?」



 毛布蹴飛ばしちゃうから、抱えてるだけだよ?

 風邪引かせたくないもん。



「私はユージアの服の中に手を突っ込んだ記憶はないなぁ」


「キミが、ユージアばかり気にかけるから……」



 なにこれ、もしかしてユージアに妬いてる?ユージアに?

 ユージアは子供だし、というか幼児だし、慈しむべき対象じゃないの?

 できないことも多いから、手伝ってあげたりとか、注意して見ていなきゃいけないんじゃないの?



(ていうか、ユージアはお腹触ってきたりしません!)



 抱えていたユージアをそーっと離して、毛布をかけ直すと、そのまま私に背を向けるように転がって寝直してしまった。


 その様子を確認してから、背後にいるだろうルークに振り向こうとしていると、私を上に引き寄せるように手に力が入る。


 どうやら私はルークに背後から抱きつかれた状態で、寝てたらしい。

 夢の感触がやたらとリアルだなと思ったのは……これが理由だったのかな。

 ま、夢と違って抱きついてたのはカイルザークじゃなくてルークだったわけだけど。


 ……じゃなくて。

 痛い。猛烈に胸が痛い。

 触られたとかそういうのじゃなくてね、上に引き上げられたときに、下からぐーっと圧迫されての激痛。



「痛っ!ルーク、手、胸の下、圧迫しないで……痛い……」


「すまん」



 私の小さな悲鳴に近い声に、びくっとして手が緩む。

 ……緩むついでにお腹から手を離そうよ。



(あああー、激痛でした。息が止まるかと思った)



 相変わらず、抱きつかれたままだけど、あまりの痛さに思わずうずくまるように背を丸める。

 これはあれだなぁ……私も今気づいたけど。



「今のは……痼り?腫瘍?セシリアは、何か病気でもあるのか?」


「あー、ないない。全くの健康体ですよ~ふぁ……」



 ルークの心配そうな声に、欠伸をしつつ、返事を返す。

 腕の力が緩んだので、くるりとルークの方へ向きを変える。


 ……案の定だけど、目の前に胸がありました…ルークの。

 この抱きつき魔めっ!

 ちゃんと自分のベッドで寝なさいよねっ!


 ていうかこれって、もしかして貞操の危機ってヤツですかね?

 見た目はともかく『初体験が3歳でした』とか、シャレにならないからこれは回避しないと!


 いや、そうじゃないな、この見た目自体でもアウトだった!


 いつの間にかに、擬似窓からの月の淡い光が消されていて、ほとんど視界がなくなっていたので表情は見えないけれど、ルークを見上げるようにして話しかける。



「ねぇ……ルーク。この外見のセシリア(わたし)って、何歳くらいに見えてる?」


「17か8くらいだろう?……実際は幼児だからって言いたいのか?」



 頭上から、ため息混じりにかかる息が熱い。

 いつもより、低くて掠れ気味な声。また、色気たっぷりですね。

 ぎゅっと自身を押し付けるように、腕に力を込められて抱き寄せられる。


 ルークの胸にぺたりとくっつくような状態にされてしまった。

 って、胸にぺたりはともかく、私のお腹辺りにナニカが当たってますよ……まぁそうか、押しつけるように抱き寄せられてるんだもんね。

 そりゃ当たりますか。


 これってやっぱり貞操の危機ってやつですかね?



(とりあえずパニックになって私まで固まってる場合じゃ無いから、思考の方向を変えてみよう)



 ……それにしても胸、硬いなぁ。細身なのに、しっかり筋肉あるのね……。

 相変わらずの白檀の香りと、私より少し高めの体温で、温かくてほっとする。

 うん、平常心、平常心。

 ぎゃーとか頭の中で叫んでる場合じゃ無い。


 さて、性教育のお勉強再開だ。



「あはは……違うのよ。どうもセシリアは身体の発達が早い子っぽくてね。背も胸もあるけど、多分12歳前後なのよね。証拠、という言い方をするのもどうかと思うけど、胸の痼りみたいなやつ。あれってね、女の子が思春期に女性らしく胸が大きくなり始めるときに、出来るものなのよ。ちなみに押されると……めちゃくちゃ痛い」



 って事でやっぱり、こっちの世界での成人以上に見えてたっぽい。

 でも、この身体でも未成年です。

 まぁいろいろと成長が良いよ、セシリアは。

 ただ、まだそういう体験は早いと思うのですよ。


 私、今世も長生きしたいし、そう思うと、身体を壊すようなリスクをみすみす冒す気はない。

 ……ていうか、性教育の再開以前にこれくらいは知っておいて欲しいかなぁ。



「……ごめん」


「見た目はともかく、生理もまだ……なんじゃ、ないか…な?それでもっ……」



 急激に視界が歪むと、なぜか涙がぽろぽろとこぼれていく。

 なんとか説明をしたかったんだけど、震えまで出てきてしまった。

 ん~やっぱ怖かったか。


 私は怖くないつもりなんだけど、セシリア(こころ)は怖かった。

 まだ3歳だもんね……ごめんね。



「思考っ…と、精神(こころ)は、別だかっら……っく……うぅ…」


「……悪かった」



 説明したいのに、涙は止まらないし、しゃくり上げてしまって言葉が出ない。

 ルークは私が泣いてることに気づいたのか、恐る恐るという風に、背を撫でてくれていた。



「おい、変態親父。自分のベッドに戻れ……紋が、痛い」



 背後から、男の唸るような低い声がした。



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