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死因。

 




 隣に座っていたはずの風の乙女(シルヴェストル)の姿が、焼き菓子の盛り合わせとともにいつの間にかに消えていた。

 朝まで見回り続けるって言ってたし、上のゲートの安全確認へ行ってくれたのかな?



「それにしても……この卵、なんだろう?本当に記憶に無いんだけど…どうしよう」


「卵に見覚えは……本当に、ないのか?」


「ない。なんだろうこれ?」



 ルークは酷くショックを受けたように目を見開いて、悲しげに視線を伏せてしまった。

 本当に、全くもって、記憶にない。

 でも、知らないといけない事なのだろうか?


 なにか思い出せないかと、隣に置かれた卵に触れてみる……温かい。

 卵は、ほんわかと内側から発光しているのかと見紛うほどに、白い。

 魔物の氾濫(スタンピード)があったあの日から、ずっと眠り続けているという時点で、精霊か聖獣……神獣と呼ばれるような種族の卵なのだとは思う。


 いや、待って?『獣』ってつくから哺乳類みたいに、お母さんから生まれてくるんじゃないの?

 卵で良いのか……?



(……あの夢でシシリー(わたし)が助けようとしたのは、子供だったはずだ…卵は知らない)



 あの子供は無事だったのだろうか?

 どうしても思い出せず、助けを求めるようにルークを見ると、視線は伏せられたまま、言いにくそうにポツリと言葉を発した。



「あぁ……それは、まぁ……端的に言えば、シシリー(きみ)の死因だ」


「死因って……」



 まさかの死因!

 ……これ、起こしたら、また死んじゃうとかいうフラグじゃないよね?!


 フレアを『どんな理由で縛りつけていた』のか……。

 もしかして手に負えない魔物を封じた『封印』なのか。

 もしくは守るために閉じ込めた『保護』なのか。


 ざーっと寒気が背を駆け巡る。



(理由、聞いてないや…でも、起こしてあげてって言ってたし、害のあるモノじゃ無いよね?)



 ていうか、1000年放置の時点で…起こしても恨まれてたりしない?

 今回のタイミングでもなければ、下手すると2000年後とかにもなってたかも知れないわけで……。



シシリー(キミ)は、それを守るために、死んだらしい」


「らしいってのは?」



 手が、寒くもないのに、かじかんでくる。

 腕に震えが……ぞわり、と背にも寒気が襲ってくる。



(あ、これはヤバイかも……あぁ、でも知りたい!)



 そう思っていると、膝の上で抱えていたユージアの、私に抱きつく腕にぎゅううっと力がこもった。

 ……3歳児(いまのわたし)に聞かせる話ではないのはわかっているのだけれど、どうしても気になる。



「……私が駆け付けた時には、(それ)と子供しか残されていなかった……遺体は確認できなかった」


「遺体が無いって?」


「無いんだ。ただ、目撃者はいた。シシリーは持てる全て(・・)を使ってその卵と子供を守ったらしい……それだけだ」


「全て……」



『全てを使う』……咄嗟に足りない魔力を補うために、自分の身体の一部を生贄のように捧げて魔力へと還元、使用するという事がある。

『大きな魔法を使った反動で、視力を失った』とか『普段は使えない魔法を必死に発動させたら、腕を失った』こういうものは無意識に行われてしまう事もあるのだけれど、流石に命どころか身体全てとなると……確実に本人(シシリー)の同意があってのことだと思う。


 自殺同然の行動だ。

 絶対にやってはいけないし、誰かがやらなくてはいけないような状況を作ってはいけない。

 ……それをやってしまったのなら、シシリーはどんな気持ちだったのだろうか?

 せめて状況を知りたいと思ったのだけど……怖い。

 身体が強張っていくのがわかった。



「その時に、精霊(あのこ)を縛り付けちゃってたのかな?」


「多分だが、シシリーの死の記憶が無いのは、自らの死を認識する前に、消滅したからなのでは……と思う」


「守らせたまま、それも忘れてたとか、ダメダメだね……フレア、ごめんね」



 視界が一気に歪む。堪えようとしたのに、決壊したかのように止まらなくなる。

 酷く緊張したときのように、呼吸が難しくなる……。



(あぁ、やっぱりダメか……怖いよね。いきなり死ぬ話とか。しかも脳内で覚えてるだけは再生されちゃうから……恐怖映像だよね)



 精霊(フレア)への罪悪感よりも自分の死への恐怖が止まらない。

 怖い、怖い、怖い……。



「親父、ストップ。紋が痛い」


「わかった……」



 ユージアが胸を掴むようにおさえている。

 紋…奴隷紋の事だよね。

 護衛契約がメインの奴隷紋の場合、雇い主の生命の危機に際して、奴隷門が反応して、主人のもとへ呼び寄せる、というのがあった気がするのだけど。


 ……生命の危機を感じるほどの、恐怖だったのだろうか。

 まさか痛みで知らせるなんて……ユージアも痛かったんだね、ごめん。


 謝らないと……と思ったら余計に涙が止まらなくなってしまった。



「ねぇ、多分だけど、離宮の屋根を吹き飛ばした時も、その辺りの怖い夢だったんじゃないかな?紋の痛み方が同じ感じだし」


「離宮で見た夢は……街で……魔物がいて、子供を助けようとする夢だったの。でもすごく、怖かった」



 多分、あの夢は、ルークの説明してくれた、そのときの記憶の一部なんだろうね。

 記憶としてははっきりと覚えていないのだけど。

 目撃者がいたということは、いずれははっきりと理由を知る事ができるんだろうか?


 ……そして、シシリー(わたし)が全てをかけてまで、守ろうとしたものは、ちゃんと守られたのか?

 今は無理でも、いずれは知りたいです。


 そう伝えたくて、ルークにお願いしようと思って……でも、呼吸でいっぱいいっぱいの口からは言葉が出てこなくて、そのまま泣き続けることになってしまった。



「……大切な話ではあるから、いずれまた……学園入学前くらいには、説明の場を作ろう」


「うん……お願い」



 でも、ルークが先に言ってくれた。

 ありがたい。

 いずれは知りたい事、入学前だったら、落ち着いて聞けるようになれるかな?



「セシリアも辛そうだし、帰りの道も安全そうだし?明日の朝早いなら、さっさと寝ちゃおうよ。あとは食料持つだけでしょ?体調を整えておくのも大事だよ?」



 相変わらず、胸を鷲掴みにしたままで、少し苦しそうに顔を歪ませつつ笑顔を作っているユージアを見て、ただただ申し訳なくて、余計に涙が止まらなくなる。

 本当にごめん。

 心配かけちゃって、ごめんね。




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