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卵。




「そういえば、上のゲート付近の安全確認て、どんな感じだったの?」


「あぁ……そろそろ呼び戻すか。周囲の安全確認とともに、魔物の侵入経路になりそうなものや、侵入した痕跡の有無も調べさせてたところだ、夜の間だけ行動する奴も多いから、この後も朝まで監視はさせる」



 ルークに一瞬悲しげな表情が見えた気がしたのだけど、すぐ復帰したようで、さっと手を挙げる。

 それを合図にルークの隣にふわりと、白いワンピース姿の可愛らしい女の子の姿の風の乙女(シルヴェストル)が姿を現した。



『ただいま。魔物はいなかったし、入っても来れないから危険では無いと思うけど……セシリア、あなた、早めに迎えに行ってあげたほうがいいわよ?上であなたを待ってるって……凄く怒ってる子がいたわ』



 にこりと笑みを浮かべると、目の前にある焼き菓子に手を伸ばす。


 子?上に?

 意味が理解できずに、ぽかんとしていると……誰かが執務室のドアを開けて入ってくる。


 いや、魔導学園(ここ)は無人だったよ?

 しかも上なら、今世の高ランク冒険者すら到達してない危険地帯だよ?


 今ドア開けたのも、誰よ……無人のはずなんだからね?

 混乱しつつドアを凝視していると、開いた先に獣人が姿を現した。

 銀髪の……よくよく見ると淡い紫が掛かっている、歩くたびにふわふわと風を孕む柔らかな長髪で、犬のようなケモ耳が見える。



「カイ……?」


『……行かなくていいよ。来たから』



 声が聞こえた。

 姿は獣人だったが、声は……違った。精霊独特の魔力のこもった、よく通る声。

 そして、怒っている声。



『ずっと逢いたかったのに……呼んでもくれないし、しかも何?…なんで、あいつが筆頭なの?ねぇ、僕は用済みなの?飽きちゃった?』



 赤に近い綺麗な瞳を潤ませて、私に跪くようにして訴えてくる。

 カイ……カイルザークは……こんな表情なんてしないよ。


 私の膝の上のユージアは、びっくりして口を開けたまま固まってる。



「とりあえず、黙りなさい。その姿もやめて。流石に怒るよ?フレア」


「ははっ……学生時代の私の次は、カイルザークか。その次は誰が出てくるんだろうな」



 ルークが爆笑してる。肩を震わせるどころか、本当に声を上げての爆笑。

 ルナフレアと契約した時も笑ってたよね……おもいっきり。


 その隣に座っている風の乙女(シルヴェストル)は、気にした様子もなく、黙々とクッキーを食べている。

 みんな、クッキーが好きね。

 焼き菓子は他にもいろいろあるのに。


 カイルザークの姿をした精霊フレアは、今にも泣きそうな表情で私を見あげている。



『ごめんなさい……でも、ずっと待ってたのは本当。なんで呼んでくれなかったの?どうして僕をコレに縛り付けたままにしてたの?』


「縛り付けてた?ごめん記憶に無いんだけど」



 全く記憶に無い。

 フレアは知ってるけど、彼を縛りつけた記憶はない。


 しかし……今の言葉に唖然と私を見上げ、ショックで見開かれた赤に近いオレンジ色の瞳には、涙が滲んでいるようにも見える。



『もっと酷かった……じゃあ、これ、返すね。今度はちゃんと呼んでね』


「コレ……?何?」



 卵……?。

 ガッカリ顔のフレアから、ダチョウより少し大きめの真っ白な卵を渡された。

 ずっしりと重くて、ユージアを抱えている私の腕では支えきれずに、私の隣にそっとおろす。



『あの日から…ずっと寝てるから。起こしてあげて?』


「あったかい……生きてるの?この子?」


『うん。……ね、僕の事……忘れずに呼んでね?』



 フレアはカイルザークの姿のまま立ち上がると、私のおでこにキスを落とし、ふわりと照れたような笑みを浮かべながら、姿を消した。


 偽物だけど、カイルザークの姿が消えた場所を見つめ、少し寂しくなり、視界がじわりと歪む。


 フレアを怒ってはしまったけど、懐かしい……。

 カイルザークはシシリーの数少ない後輩であり、友人だった人物だ。


 小さい頃から知っている。

『ねえさま、ねえさま』と私を慕ってくれて、後ろをついてくるような、とても可愛らしい子だった。


 成長すると、獣人だと言われなければ気づけないほどに華奢に、そして優美な、俗にいう端正な女好きのする顔に育った。

 獣人としては、その華奢な体格がコンプレックスだったようだけど。


 そもそもカイルザーク自身、人との付き合いが苦手なようで、女性が近づいてくるだけで逃げてしまう子だったから……シシリー(わたし)から見たカイルザークの長所だと思ったものは、本人にしては短所でしか無かったようだけど。

 とても可愛い子だった。


 ……カイルザークは魔物の氾濫(スタンピード)から無事に逃げられたのだろうか?

 どんな生涯を送ったのだろうか?



「……シシリーは、精霊使いだったの?2人も契約してたの?セシリアも使えちゃうの?」



 ユージアの声で我に返って、袖でこぼれそうになった涙を拭う。


 偽物とはいえ、もう会えないと思っていた人物の姿を見てしまうと、ダメだね。

 一気にいろいろ思い出しては、考え込んでしまう。

 ……そして、どうしてもしょんぼりとしてしまう。



「違うよ?今、契約しなかったでしょう?あれもルナフレアなの」


「あれは少し変わった……珍しい…姿を2つ持った精霊だ」



 ルークの説明の通り、あれはルナフレアのフレアで、王宮の庭園で契約したのはルナ。


 2人揃って、ルナフレアという1つの精霊になる。

 真逆の性質を持った、双子の精霊だ。


 まぁ、ルークのように精霊を使いこなすどころか、暴走しっぱなしなんだけどね。

 全くというほどに、言うことを聞きやしない。

 聞かないどころか、いつの間にかに周囲にいたずらを振りまいたりしてくれる。



(……今回のこの急激な体の成長だって、きっとルナの仕業だろうし…無事に帰宅したら説教大会だわ)



 今回も、きっと制御不能なんだろうなぁ。

 しかも筆頭……あ、双子だからさ、仕事を頼む時に喧嘩するんだよね。

 それを回避するための妥協案として、どっちがお兄さんなのかを決めたの。


 シシリーの時はフレアだったんだよ。

 セシリアはルナに……契約せざるを得ない状況にさせられてしまったのだけれど。

 フレアは真面目さんだけど、ルナは確実にトラブルメーカーだから。怖すぎる。


 さて、予想外の出来事があったにせよ、帰路の安全も分かったし、ていうかこの卵!なんだろう?と必死に思い出そうとするのだけど、やっぱりなにも思い出せない。


 うーん……と考え込み始めてると、ユージアがにやりと悪戯っぽく笑い、上目づかいに話しかけてくる。



「綺麗な獣人さんだったね、あの人がしっぽ触らせてくれた人?」


「うん……後輩…そうね、学校で出来た大切なお友達だよ。ルークと違って長命な種族ではないから、さすがにもう再会は出来ないでしょうけど……」



 からかうような色を持ったユージアの質問だったのだけど……『もう会えない』とわかっているのに、それを言葉に出した途端、その意味を再確認してしまったのか、また涙で視界が歪み出す。

 感情が暴走を始めてしまいそうになって、思わず、私を見上げるユージアの頭を撫でる。



「長命……か」



 ぽつりとルークの呟きが聞こえて、反射的に視線をそちらへ向けると……。

 とても哀しそうな表情で卵をじっと見つめていた。




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