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シチュー。




 さて、風呂から出て執務室へ帰ると、すでにユージアがあつあつのシチューと戦っているところだった。

 お腹すいたよね。長風呂でごめん。


 3歳くらいって、まだ身体全体がむくんでるかのようにぷくぷくだから、普通にできるはずの『シチューをスプーンですくって口に運ぶ』これだけが意外に難しい。

 いつもの中学生くらいの体格なら、ユージアも綺麗に食べれるんだろうけど、今は上手くできないみたいで、ほっぺに……って、おでこにまでシチューがついてるよ?



(もう一回お風呂かな……ふふふ)



 ちなみにルークは、紅茶片手に読書中。

 ……その本、どこから持ってきたーっ?!


 怪しい本じゃないことを祈りつつ、平静を装って……むしろ見なかった事にして、ご飯にしちゃおう。



「ただいま~私もシチュー食べたい!ルークは何か食べた?」


「おかえり。まだだが……では、私もシチューにするかな。それと……これ、この部屋の本棚にあったものだが」



 えっ……やっぱ怪しい本でもあった?!

 そう思ってぞわぞわしながら本を手に取る。


 ユージアはちらりとこちらを見たが、読めない文字であったために、そのままシチューとの格闘に戻ってしまった。

 古代文字だもんね。読めないか。



「……疎い。ということは理解したから、最低限これくらいは知識としてあったほうがいい」


「こんな本、あった?見覚えないんだけど」


「だろうね。ま、軽く目を通しておくことをお勧めするよ」



 にこりと営業スマイルのような笑みを浮かべて、お勧めされてしまった。

 これは『文句言わずに取り敢えず読め』って事ですよね……。


 表紙には『多種族交流のための一般常識』とあった。


 人間から見た、他の種族との習慣や考えの相違点等々。

 栞紐が挟まれている場所は『種族独特の求愛表現』


 ……3歳児に見せる必要はないでしょう!?と反射的に怒ろうとして、ページが目に入る。



『獣人……求愛行動以外で成人男性の耳やしっぽを触れるのは恋人、既婚であれば家族のみである』



「……ん?あれ、獣人って……しっぽはともかく、耳も触っちゃダメなんだ?後輩は触らせてくれたけどなぁ。エルネストには怒られたけど」



 懐中時計の動画にも写ってた、獣人の後輩です。

 ちょっと珍しい狼の獣人らしいってのは聞いた事がある。

 まぁ性格的にはとても人懐こくて、狼というよりは、犬みたいな子だったけど。



「エルネスト君はまだ子供だ。キミの後輩は……」


「成人、してました……」



 しっかり成人してました……後輩も、学園を卒業してから、シシリー(わたし)と同じ進路を選んだ子なので、立場的にも社会人。

 つまり立派な成人ですね。



「という事は、つまり?」


「シシリーだった時のセシリアはモテたんだね!」



 ルークの問いに、はーい!と元気に手を上げて、にこにことユージアが答えた。

 か、可愛い……でも、えーと、えー……。


 求愛行動ってつまり、意中の女性を振り向かせるためにのみ行うものだから……

 シシリー(わたし)は後輩に……恋愛感情での好意を持たれていたという事で。


 ほぼ、女を捨ててたシシリー(わたし)のどこにそんなモテ要素があったのか、謎すぎるんですけど。



「……ユージアの方が、優秀なようだが?」


「エルが恥ずかしがりなだけだと思ってた……うわぁ……どうしよ」



 頭を抱える私に、ルークは満面の笑みを。何か凄みのある笑みを浮かべている。

 美人ってだけで迫力あるんだから、怖いですよ。



「セシリアは、やっぱりセシリアだね~。普通なら知ってるようなことを知らなくて、みんなが知らないようなことを知ってる。面白いね」


「……シシリーの時も今も、世界が狭すぎたのかな。ていうか、こういう事は亡くなる前に知りたかったわ。もう……」


「研究に関する勉強しかしてなかったから、疎い以前に無知だったと」


「……ですね」



 自分の生まれや、外見なんかを考えても、結婚なんて絶対無理だと思ってたし。

 そもそも学園でも浮いちゃってたから、そんな相手がいるともできるとも思ってなかったし。

 ああああー知ってたら、また違う学園生活だったのかなぁ……。



「って事はですよ、もしかして……毛並み整えたりとかも、まずかった……かな?」


「まずい、ね。そこまでしてたか……」



 ルークに凄みのある笑みから一転、遠い目をされてしまった。

 やっぱりまずいのか……。

 悪気も他意も全く無くて、単なる親切心だったんだけどね。



「いや、毛の生え替わり時期で痒そうにしてたから……」


「余計に駄目だ」


「やっぱり、セシリアと一緒にいると、退屈しないね!」



 ユージアが面白そうに笑いながら、ポテトをかじる。

 お子様ランチのように可愛く盛り付けられていたのは、シチューにフライドポテトとサラダ。

 デザートに小さなケーキ。


 なんだか遊園地とかで食べるような軽食セットのようで、お腹が鳴る。


 もう、現実逃避をしたい勢いで、ポテトに手を伸ばそうとしたら、ユージアが得意げに口を開いた。



「エルフにもあるんだよねっ。えっと、あ、きゅ…むーむーっ!!」


「ルーク……ユージアを虐めない!」



 ユージアの口を、また魔法で拘束、というか塞いだっぽくて、ユージアが唸ってた。


 そういや、エルフも独自の里で暮らしてたりするわけだから、習慣や考えの違いってあるよね。

 これも言われてから気づいたわ。


 改めてさっきの本を開き直して、エルフの項に向かってページを進めてると、突如、本が私の手から逃げていってしまった。



「あっ!……読まなくて良いの?」


「いい」


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