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身体。

 




「では、今は?」


「……わからない」



 希望に縋るような切ない顔で見つめられて、返答に困ってしまう。


 いや、さぁ、3歳児に恋愛とかわからないからね?

 ユージアを助ける時だって、勝手にぼろぼろと涙が流れるくらい、かなり心に負担がかかってたのだろうし。

 思考(なかみ)は婆ちゃんだけど、実物は3歳児だからね。


 せめて精神だけ、身体だけでも……ってなら、きっと今までのことも、もう少しまともに動けたのだろうし。

 何より、オネショ卒業だってもう少し早かったはず!



「わからない、とは?」


3歳児(いまのわたし)には理解できない。同じ年齢の子供が持ちえない知識や記憶からの学習があるから、今こうやって喋ったり考えたりはしてるけど、それでも中身は身体も精神(こころ)も3歳児なの。だから、お昼寝必須だし。感情も、好きか嫌い、可愛いとか怖いとか。単純なものしかわからないのよ」



 なんとか伝わったかな?

 まぁ、思考だけじゃなくて精神も大人のままであったら……と考えると、きっと成長の過程にある思春期やら、身体の変化などに、何かがついていけず、変調をきたしてしまうのでは無いだろうか?と思ってる。



「そう、なのか」


「そうだと思うよ……決して私の性格からの鈍さだけではないと思いたい」



 説明する私を見て、ふっと皮肉げに口元が歪み、端正な顔に笑みがこぼれる。

 今、明らかに『性格が一番影響してる』って言おうとしたよね?!


 シシリーの時だって、ちゃんと学園内で浮いてたのは理解してたし、そんなに言われるほど鈍く無かったはずだよ?


 鈍くは…無いはずなんだけど、一つだけ、気づいたことがある。


 ルーク、キミが座ってる1人がけの椅子…服の山があったはずなんだが、何処へやったんだい?

『何処へ』行ったのかが、すごく……恐ろしくて聞けない。

 まさか、クローゼットじゃ無いよね?


 いや、あの質量を突っ込めるのは、この部屋にはクローゼットしかない。

 ていうかサイドチェストに被せてあった服も消えてる。

 ……クローゼット開けたよね?


 会話しつつぞわぞわと背を冷気が走り抜けていった。

 この寒気は、大量の寝汗で身体が冷えたのが原因ってだけじゃないと思う。

 そういえば、ユージアはお風呂に行ってたんだもんね、私も行きたいな。



「その点で言うと、ユージアにかかってる呪は凄いよね。見た目と同じように身体の機能まで変わってたし。さすがエルフの魔法だよね。ほら、お昼寝必須だし?」


「……単に魔力切れなだけかもしれないがな」



 いやいや、背中とんとんするだけで寝ちゃうとか、ちゃんと幼児だからね。

 しっかり縮んで……というか若返っているのか!長命なエルフなのに、さらに若返りとか凄い。


 逆に私はと言えば、よくある『大人になってみたい』って魔法で変身しちゃった☆的な感じで、見た目だけ変わってる感じだ。

 滑舌が良くなってるってことくらいしか利点が、正直ない。



「って事で、私も幼児特有の……寝汗がね、ぐっしょりで…お風呂行きたいんだけど、お風呂どうだった?」


「普通に入れたよ」



 使えた?と聞きたい。

 と思ったけど、私が寝てる間にやっぱりお風呂入ってたのね。

 さっぱりしてたもんね。


 魔法でもさ『綺麗に保つ、綺麗にする』ってものもあるけど、基本はお風呂でさっぱりするのが一番ですよ。

 なにより、気持ちもスッキリするからね!

 ……学園の大浴場って広いんだよ。使えるなら絶対に入りたい。

 しかも形状が、バスタブに湯を張ってもらって~みたいなやつじゃなくて、それこそ王宮にあった日本の温泉みたいなタイプ!

 これは楽しみすぎる。



「やったね!じゃ、行ってくる!……ちなみに、今のセシリア(わたし)から見たルークは『好きか嫌いか』なら、好きだから!ずっと応援してるから……これからもね。だから、絶対に無理しないでね?」



 ベッドから降りて、颯爽とドアへ……向かおうとして思いだした。

 ここは私室だった。……これ以上色々見られるのは、イヤだな……と。



「あ……その部屋の…引き出しとか、勝手に開けないでね?」


「わかった……」



 ルークは何かを思い出したかのように、ふっと笑みが湧いてきたわけですが……。

 やっぱり何か見たね?!

 クローゼットとか、クローゼットとか……。

 主にクローゼット!



「……もう見ちゃったよね」


「ごめん」



 さっと視線をそらされたし。何を見たのっ?!

 ぎゃああああ。


 ……ここに最初にきた時にさ、見られたくない衣類(!)や物とかをクローゼットに、放り込んでたわけですよ。

 それでもう満タンっぽかった上に、この部屋に積まれてた衣類を詰め込むにはですね……畳むなり、綺麗に入れ直さないと入りません。

 って事は、ただ詰め込むだけじゃなく、元からクローゼットに入ってたものも入れ直してるわけで。



「……ルークだって在学中酷かったもんね。おあいこって事にしとくから、それ以上はやめてっ!」


「わかった……ふふ」



 堪えきれずに、笑い出す。

 うん、良い笑顔……じゃなくて、これはしっかり見られてる。

 ていうか下着もあったわけですが……おのれ。許さん。


 ユージアの言う通り、ルークは変態親父化してるのかもしれない。

 抱きつき魔だし。


 見た目は素敵なままなのに、学生時代の真摯なルークは、どこへいっちゃったんだろう。

 ちょっと目が遠くなる。








 ******








「きゃあああああっ!」



 そして、大浴場に入ったわけですが、入った途端にこだまする絹を裂くような幼児の悲鳴。

 私じゃないからね?

 ユージアの、悲鳴。



「いやああああっ!セシリアっ!来ないで!」


「えー、ちょっと待って……そこ、私が叫ぶとこじゃないかな?!」



 って、何このお風呂ドッキリ。


 でもさ、悲鳴が聞こえたら助けにいかなくちゃダメでしょう?

 近づけば近づくほど拒否されるんですけど……。



「じゃなかった、どうしたの?大丈夫?」


「ダメかも…でも来ないでっ!」



 どんどん、と強めにドアをノックする音が聞こえて、ドアの向こうにルークが来ている事に気づいた。

 悲鳴、部屋まで聞こえてたのかな?



「どうした?悲鳴が……」


「あー……女湯の奥から、ユージアの悲鳴が聞こえてくるの……悪いんだけど、助けに行ってくれない?」



 ひとまず、緊急用の解錠ボタンを押した。


 痴漢とかね、そういう被害に遭わないために、保安機能が付いてるんです。

 それを切らずに、異性が……今の状況でいうなら女湯に男性が入室すると、捕まります。

 物理的に。


 助けにきたはずのルークが捕まらないために、保安機能を解除すると、管理システムからアナウンスが流れた。



『5分後、スタッフが入室します。スタッフが入室します』


「……では、失礼」



 ガチャリ……と音が響き、解錠されたようで、ドアが開かれた。

 ルークが入室し、真っすぐに奥へ向かうとユージアとルーク、2人の声が聞こえ始める。




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