黒歴史。
「細工はそれで終わりだよ。蓋を一度閉めたらまた見れるから……」
名残惜しそうに、まだ龍頭をかりかりと回し始めたので、回しすぎて壊す前に教えておくことにした。
しかし、感動させるどころか、どうもシシリーの情けないとこばっかり映り込んでた気がしなくもない。というか、自分の黒歴史を思いっきり見せつけられた気分だわ……。
達成感で気持ちスッキリどころか、色々と削られて、私が泣きそうです。
「ちゃんと使ってね?出来上がるまで、結構大変だったのよ?……箱の中に入ってるチェーンと金具を使えば、ズボンにもジャケットにも着けれるからね」
「ありがとう……」
布張りの小箱を手渡そうと、ルークに向かって突き出すと、ずっと手の上にあった懐中時計の蓋を優しく閉め、そっとポケットへ仕舞い込んでから、受け取り、中身を確認し始めた。
……渡した後で、思った。
これって思いっきり古代の魔道具だよね。
しかも画像……じゃなくて動画まで保存されているという。
内容がアレだけど。
性能で言えば国宝級になるんだろうか。一応、当時でも最先端だったはず。
恐ろしい価値になりそうだね。
……願わくば、ルークにとって、それ以上に価値のある懐中時計になれますように。
今も、この技術は残っているのだろうか?
(個人的に言えば、残っていて、さらに進歩発展してくれている方が嬉しいな)
ユージアとかエルネストとか王子たち……可愛い盛りのちびっ子がいっぱいいるからね。
動画に残したい。残せたら、親としてはすごく嬉しいと思うよ。
写真とはまた違う感動があるからね。
赤ちゃんの時なんて、育児に必死すぎてそれどころじゃなくてもさ、何年か経って動画を見ちゃうと、もう、可愛くて可愛くて。
画面に手を突っ込んで直接触れたらなと、切望してしまうくらいに幸せを分けてもらえるよ。
赤ちゃんは泣くのが仕事だから、よく泣くけど、外出先なんかで泣かれると……結構焦ったりで『周囲に迷惑かな』とかそういうのも考えちゃうと、精神的にぐったりしちゃうんだよね。
(育児ノイローゼじゃないけどさ、どうしても睡眠時間が足りない状態でずっと育児していくから、どんなに頑張ってもしんどい時期があるんだよね……そうなっちゃうと、泣き声を聞いただけでうんざり……って。一緒に泣きたくなっちゃう)
それがさ、数年経ってから動画で見るともう、とにかく可愛くて可愛くて……。
おもちゃで釣って、カメラに目線合わせて必死に笑わせて……って、頑張って撮った写真や動画より、泣き顔の方が目を奪われる。
できるものなら手を突っ込んで、あやしたい思いっきり触りたい。
……そんなことを考えてたら、ユージアをぎゅっとしたくなってきたぞ。
ていうか、今のユージアも動画に残したい!
さて、相変わらずルークは懐中時計の入っていた布張りの小箱を凝視中なわけですが、私は眠くなってきたのですよ。
時刻は昼下がり。どう考えても、ユージアと同じく『お昼寝の時間』です。
ルークに抱きつかれたりでぽかぽかだったのもあるんだろうけど、とにかく眠い。
ていうか、ルークも動画で泣かなかったにせよ、しっかり『泣きました!』って感じに目に充血があったり、前髪が不自然に跳ねちゃってるし。
「あーあ、ずいぶん酷い顔してるね……喜んで欲しいから、渡したんだからね?あんまり泣かれると、私も居た堪れなくなるから……笑って?」
ずっと無表情なルークに笑いかけてみる。
無表情だし無反応だし、さっきから気になってた顔に涙で貼り付いてしまった髪をはがして、サイドへ流そうと手を差し入れると、そのまま背を押されて引き寄せられ抱きしめられてしまった。
やっぱり抱きつき魔だった……。
隣に座ってる状態から髪を直そうとしてたので、そこから抱き寄せられてしまうと、思いっきりバランスを崩して自然と私がルークの首に抱きつくような格好になってしまった。
また逃げられない。
そして、温かくてヤバい。眠い。
私の肩に顎を乗せ、髪に顔を埋めていて呼気が熱くて……また泣いてませんか?
泣いてますよね?
(もしかして無表情なのって、感情を必死に抑えてるからとか?)
とりあえず、そろそろ解放してもらわないと、本当にこのまま寝てしまいそうなくらいにまぶたが重くなってきたので、ルークの背中をさするように叩いてみる。
「ルーク~、ちょっと落ち着いて?」
「……シシリーに、直接……言いたかっ……た……」
時間差号泣きました……。
肩口にぽたぽたと雫を感じた。
「大丈夫、ちゃんと渡せて満足したから……大事に…じゃない、ちゃんと使ってね」
……ルークには申し訳ないのだけど、抱きしめられている温もりが心地良すぎて、意識失いそう。
なんとか早く落ち着いてほしくて、宥めるように背をさすってみる。
細く見えるわりに、やはりというかしっかり鍛えてるようで背にしっかりと筋肉の凹凸があった。
これって筋肉がないと真っ平らなんだよね。
肩から背にかけての、ちょうど今私の手が届く範囲の筋肉はそれこそ、腕の動作を強化することができる部分だ。そりゃあの重い剣を軽々と使えるわけだ。
……そうじゃない、眠気から全く関係ないことが次から次へと浮かんでは、意識が飛びそうになる。
「ごめん…ちょっと限界……お昼寝タイムです。ルークも顔洗っておいで……廊下の突き当たりのドア、大浴場だから……」
ふああ…と、我慢してたのにもかかわらずあくびが出る。
抱きしめられていた腕が解けたので、そのまま立ち上がると、ふらふらと自室へのドアへ向かい歩き出す。
すでに、視界が怪しい。
「ルーク、ごめんね。ちょっと休ませてね…おやすみなさい」
「あ…ああ……」
朦朧としながら、自室のベッドに潜り込もうとして、先客であるユージアが小さく丸くなってるのを見つけた。
もちろん、ほくほくと腕の中に抱え込み、私も意識を手放した。
……子供湯たんぽ、最高です。
裏拳とか蹴りとかたまに飛んでくるけど。
逆に、無意識にすりすりされたり、ぎゅーって抱きつかれたりもするんですよ。
幸せだよ~。
******
「んん~。あれ……?」
目を覚ますと、抱きかかえて寝ていたはずのユージアがいなくなっていた。
代わりに、ルークがベッドサイドの1人がけの椅子に腰掛けてこちらを見ていた。
「おはよう」
「ユージアは……?おは……って!えええええ!何その写真っ!?どこからっ?」
さっきまでの泣き虫ルークはどこへ行ったのか、にこりとその美貌に爽やかな笑顔で挨拶と……その手に持っていた封書からちらりと見えた写真に、私は絶叫した。