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レイトン・カレッジ  作者: みすみいく
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緑蔭

 日本からの留学生政直は、学寮の向かいの部屋で、姫君に出会う。お伽噺の中に迷い込んだように翻弄される彼は、自分の問題を解決する事は出来るのだろうか?!。

 オックスフォードの深部に分け入りながら、その実、俺はその場所に拒否されるのでは無いかと密かな危惧を抱いていた。


 この地を訪れた理由が、留学という名を借りた現実からの逃避だった事が、危惧を生む理由だったのだろうが。


 その後ろめたさは、学寮の隣人で有った彼、によって肯定されることになる。


 建てられた当時は神学校だったというその建物は、築後優に500年は経過していて、その後ここそこに現代人が生活する上での設備が新たに加えられているものの、暗く沈み込む石壁だの、真ん中がすり減った石段だのが、明らかに中世の面影を遺していて、今にも甲冑が重々しい足音を響かせて降りてきそうだった。


 割り当てられた寮の部屋は、よりにも選って最上階。

 ペントハウスと言えば聞こえは良いが、何の事は無い、塔のてっぺん、要するに屋根裏部屋だ。


 老婆が回す糸車の錘に、指を刺された姫君が、100年の間眠っていたのはこんな所だったろうかと…馬鹿なことを考えていた俺の目に、向かいの部屋のドアが開くのが見えた。


 このオックスフォードと言う大学は、大学が街を形成している所だが、全てを含めて巨大な総合大学が存在している訳では無く、個別経営形態の「カレッジ」と呼ばれる大学が、いわば協力関係を保つ事によって、単体ではなし得ない教育体制を作り上げて居るところだった。


 個々の大学がそれぞれに特性を備えていて、学生の要求に応えてくれる。

 教官や設備、環境と言った、言わばハードの部分だけで無く、設立者から連綿と受け継がれる精神を今も保っていて、ソフトと言われる部分からも、アイデンティティを主張して止まない。


 自分の目指す大学に願書を提出して試験を受け、入学が許可されて事務手続きを済ませた後は、常の如く、手取り足取り、少なくとも学寮までは関係者が付き添ってくるものと、些か諦め気味で覚悟していたものが、予想に反して必要事項を書類で渡されて、一通りの説明を受けた後、あっさりと放り出された。


 学寮も地図と番地を手がかりに自分で探し、荷物を抱えて階段を上がった。中には両親と共にやってきたものも居たが、女性徒はその方が賢明だろう。


 何しろ構内はとてつもなく広く、増築を繰り返した建物は錯綜を極めているからだった。


 俺としては誰かの手を煩わせる事も無く、誰かに張り付かれる事も無いのは有り難い事だったのだが。

 この分だと自己紹介も、生活のルールも、自分で習得するしか無いようだった。


 開いたドアから現れる人物は、その後の展開で何になるかは判らないにしても、同じカレッジに所属する同窓生に他ならなかった。


 で、一応、通り一遍の礼儀を通して置くべきだろう。

 俺の真意はただそれだけの動機で、他に何を思うことも無く、声をかけようと…口を開いて正に言葉を発しようとしたのだが、声が出なくなった。


 大学の学寮に、それも、女子寮ならいざ知らず、ここは紛れもない男子寮なんだぜ?!


 なのに、姫君がいた。

 

 とりわけ何の仕草をするわけでは無いのだが、溜息を誘う典雅な物腰。黄金の髪に翡翠の瞳、淡く色付く薔薇の頬。


 俺は特段絵画を嗜む訳では無く、文学に造詣が深い訳でも無いのだが、その人を包む空気そのものが、寓話の世界を具現しているようだったのだ。


 気が付くと、馬鹿の見本のようにあんぐりと口が塞がらず、日本人がおおよそ一般的に「姫君」と言った時に思い浮かべるだろうその姿を、目の当たりにしていた。


 その人は、ドアを開けたその時から、俺の存在に気付いて居たらしく、これと言って驚いた様子も見せずに此方を見やっていた。

 ただ間抜け面で見詰めて居る俺に呆れたのか、怪訝そうに一瞥すると何も言わずに立ち去りかけた。


 呆然と見送っていた俺が、何かを忘れたのだろうその人が戻ってきて、黒縁のメガネを手に部屋から出てくるまで、終始そのまま見ていたのに気付いて、ようやく興味を示した。


 「君、そこで何をしている?!」


 語気はきつく無いものの、その人の口を就いて出てきたのは、明らかに誰何だった。

 訛の無い正確なキングスイングリッシュ。

 思うに反した低めのアルト。その余韻が俺の聞き慣れた癖のようなものを含んでいた気がして、惚けが融けた。


 平手で横っ面を張られた気がして我に返ると、自分のしていた錯覚が如何に馬鹿げたものだったかを自覚した。

 その人は姫君などと言うも憚られる程に、魂の難い手触りを感じさせた。何者をも寄せ付けない、堅固な城壁の中に守って居るものは、その身か、プライドか。


 「失敬。向かいの部屋に入った錦木政直だ。PPEに在籍を許された。以後、宜しく」


 差し出した手を冷たく細い指先が、儀礼的に握ると直ぐに離された。


 「アンドリュー・ロイド。同窓らしいな」


 あほ面を晒していたものの、あからさまなあしらいが感に触った。ふと出がけにかける眼鏡が不可解だった。


 無論彼に必要だとは思わないが、老眼で文字を見るとき以外は必要ないなら、出がけには外すだろう。また、勉学に打ち込みすぎての近視ならば、薄暗い階段を延々と降りられるものでは無い。


 「護身用か?!」


 虫の好かない親父だが、俺が親父の息子だという紛れもない事実は、こんな突拍子も無い事を平然と口にする辺りからして、似通って居る特徴が証明しているのだった。


 果たして、言われた方は大抵図星を刺されて居る事が多いらしく、目の前の彼も分に漏れず、進めていた歩を止めてぎくりとした顔で振り返った。


 今初めて俺の存在を認識したように、上から下までまじまじと見詰めた後で口を開いた。


 「…言葉に不自由しない様だが、今言った単語の意味が間違ってはいないか?!」


 好奇心が強すぎるのか、以後の対処に余程自信が有るらしい。俺の真意がどこに有るのかを確かめるために聞いていきた。


 「いや。何処にでも馬鹿は居るらしいなと思ったもので」


 王女様が…あ、いや、姫君だった。が、ぷっ、と噴き出した。笑うと今まで俺の前に引かれていた警戒線が取り払われた。


 「失敬した。私はコンスタンツ・アウロォラ・フォン・オルデンブルク。偽名はこれと同じものだ。君の言う護身用だ。私の事はアウルと、錦木君と言ったか?!改めてよろしく」


 差し出された手を改めて握って、漸くきちんと相手の顔を見た。俺の視線が少し俯く、初めに姫君と言って憚ら無かったのも、彼の、男としては柔らかい輪郭やら、通った鼻梁、その下の、白い肌に浮かぶ…。


 「錦木?!」


 応えの無いのに小首を傾げると、氷の様だった美貌が、僅かにコケティッシュになる。次いで、碧色の双眸が、怪訝そうにそばめられた。


 「…ああ、凄い美貌だなと思って」


 そう答えると、うんざりといった様子で溜息を吐き出した。言われ飽きて、それも、聞きたくも無さそうだった。


 「それが何の役に立つ?!邪魔になりこそすれ…第1、君に言われたくないな。私のことを言えた顔か?!」

 「俺が?!」


 それが例え的を外れたもの言いだったとしても、いきなり切り込まれてたじろいた。微動だにしない様子で一歩も引かない。温室育ちと言うわけでは無さそうだった。


 駆け引きの必要な修羅場も、何度か潜っているようだった。嫋やかで、さながら少女の様な…こんなでかい少女は馴染めない俺には気味が悪いが、受ける印象はその様なのだ。構成されている線の1つ1つが細く、しなやかで10代のダ・ヴィンチの描いたミカエルの様な趣がある。


 深窓の姫君の様な気品のあるあどけなさが時折覗く。

 だが、それでいて、全体の印象が柔弱に成っていかないのは、恐らくその溢れんばかりの闘志と、突き通すような意志を湛えた双眸のせいだったろう。


 嘗て、俺は彼のような者に見えたためしが無かった。


 新しい発見に突き当たる度に、恐ろしい勢いで引き込まれてゆく自分に驚き、呆れるばかりだった。

 出会ったばかりだ。

 相手は俺と同じ男だぞ。

 綺麗な男なら身の回りに結構いるにはいたが、惹かれた例は1度も無い。

 そりゃ…目の前の彼は度を超えた美貌の持ち主では有るが。…どうかしている…


 幾ら俺のモラルが事態を否定してみても、もう一方の狂いかけた俺が言う。

 彼ならば本気になれる。

 彼で無ければ駄目だ…と。


 俺が避難場所にこのオックスフォードを選んだのには、それなりの理由が有った。

 第1に、日本を離れて居られる事。第2に、勉学に没頭出来る環境を備えている場所だったからだ。

 専念しなければ、1年半後に行われる最初の試験で、在籍資格を失い退校を命じられてしまう。厳しいとしか言いようが無い。学間を追及するための学問が出来る此処のような大学は日本には見当たらない。


 取りも直さず、それは何かを忘れたいが為の没頭であり、逃げるための留学だった訳だが、自分が必死にやらなければ成らない環境ならば、効果が上がる事この上無い。


 とにもかくにも、オックスフォード、レイトン・カレッジでの大学生活がスタートした。重々しく退屈な入学式。

 新入生に言い渡された服装は、男性はダークスーツ、女性は黒いスカートに白いブラウス。襟元に黒いリボンを結ぶというものだった。


 制服や喪服同様、色を抑えたモノトーンの着衣は如実に着ける者の本質を際だたせるものだと、俺の横で瞳を伏せているアウルを見ていて、改めて認識させられていた。


 どうせ列席者は居ないのだからと、示し合わせて出かける約束をした。


 翌朝、ドアをノックされて、何気なく開けた俺は、一瞬何か、とんでもない手違いでも有ったのかと我を忘れた。

 薄暗い戸口に佇む端正な青年。その美貌に相応しい、だが、甘さを全く含まない冷たいまでの印象。

 清雅な碧。


 「政直?!」

 「…アウル?!」

 「どうしたんだ?!何か有った?!一緒に式に出ようと言って居ただろう?!それとも日本から何方か来られたのか?!なら、私は…」

 「いっ…いや、そうじゃないんだ。実は…」


 言い訳を繕いかけてやめた。馬鹿が、また、同じ事の繰り返しをやる積もりか?!自分で言い出した事に引っ込みが付かなくなって、それでもまだ、意地で繕い続け、作り上げた建前に自分で腹を立てた。


 自分に嘘をつく恐ろしい深みは、こんな何気ない一言から始まる。まだ懲りてなかったらしい。


 「…魅とれて居たんだ。見違えたかと…スーツが似合う」

 「…そうかな」


 思えばあの後、彼は何故だか不機嫌なまま終始した。


 「俺、何か悪いことを言ったのかな?!」


 この大学街の象徴のようなラドクリフ・カメラを出て、次の会場に向かう道すがら、彼の前を遮るように背を丸めて聞いた。


 「何でも無い。君のせいじゃ無い」


 何かを考えながら、言葉を詰まらせ、その上、言い終えた彼の頬が、何故か、上気していた。


 必死に取り組まざるを得ない状況を欲して、俺は、留学聴講生としてでは無く、試験で選別される正規の学生となることを選んだ。

 これは即ち、3年の在学期間中に2度の試験があり、前にも触れた通り、最初の試験にパスし無ければその時点で在学資格を失い退校となる。追試などは有り得ない。


 だいたい、追試なるものが大学に存在する自体が理解できない。(日本では)4年課程の大学を終了すれば、その人は学士と呼ばれ、修士課程を終了した者となる。

 学問を修めた者だ。知識を習得した者では無い。


 知識の浸透の度合いを見極めるための試験なら、浸透の足りない所を補って追試、得点が目標に達すれば合格。

 意味が違う。


 知識の浸透を試す必要が有るのはせいぜいが高校までだろう。文字を解読、また、活用する術が身に付いて居なければ、学問は出来ないからだ。大学受験資格試験、通称バカロレアがこれに当たる。


 オックスフォードの第一段階いわゆる入試では、知識を習得した段階で、自分なりに会得した思考形態が形成されて居るか否かを見るものになる。

 次いで前期の試験は、思考の芽が、大学の環境によって育まれたか、否かが、試される。従って追試なるものの意味は無い。

 そして、最後の卒業試験に至るや、3年の間に、自己独自の学説をそれぞれの文献、次項に仕立て、学説として試験官を納得させられるかが問われる、実戦紛いの試験となる。

 卒業試験が近づくと、最上級生の形相が変わり、試験期間に死亡の場合は、自動的にクラスBでの卒業に成るため、過去の噂の様に学寮の窓から飛び降りようかと言う諦め組まで出るという。


 日本の大学の様に1年目或いは2年目の半ばまでの、一般教養なるものは存在しない。一通りの歓迎行事が終わると共に、希望した学部での専門授業に突入する。


 とは言うものの、授業は自分の学説を裏打ちする為の関連項目の補足に過ぎず、知識の受託では無い。

 くどいほどの繰り返しだが、授業内容の理解が大学側の目的では無いのだ。従って、専門の教授陣の質の高い講義ではあるものの、出席の義務は課せられず、在学期間の規定は有るが、講義への出席義務は無い。

 必要なしと判断し、卒業試験にパスするなら卒業を認められる。


 日本の大学と決定的な差が顕著に表れるのは、テューター制度であろう。通常5~6人で1人の専門教官に付いて、と言うと、ゼミと言う答えが返って来そうだが、此処でも同じ事が出て来る。

 自分の思考形態を何を持って説明すれば、より的確に伝え得るのか?!が、テーマなので、扱うものは1種の例題の様なものでこれを理解するのが目的では無い。


 1個の例題が提示され、次の面会までにエッセイとして自分で読み上げる。

 当然何かの文献の引用だけで纏めたものでは、テューターの鋭い質問の前に穴だらけのそれは、見るも無惨に切り崩されてしまう。


 その文献はの引用は何のためか?!どの様な効果を狙ってこの個所に用いたのか?!と。

 自己の哲学が確立されたと、評価されるまでテュートリアルと呼ばれる、授業とは言い難いものが続き、その内に自分の中にぼんやりとしか無かったものが、次第に形を成してくる行程を会得できると、テューターや同級生の力を借りずとも学説を完成させる事が出来るようになるのだった。


 気まずい入学式以来、向かいの部屋に寝起きし、殆ど同じ授業を取り、テューターの担当も同じだというのに、アウルと顔を合わせる機会が無かった。


 もうこれ以上は…と、今日辺り声を掛けてみようと目論んでいた矢先、学食の席に着いた所で声を掛けられた。


 「隣、良いかな?!」


 印象的な声と言うのが時たま有るが、こいつの場合がそうだった。聞いたこの身の状況が問題でも有るのだろうが、声で躰に触れられて、全身に鳥肌が立った。


 返事を待たずに長椅子をまたぎ超して、俺の隣にストンと腰を下ろした。俺と同様、或いはそれ以上に、彼にしても何も無い日々では無かった様だった。

 そう思うと、とたんに彼の何が余裕を無くさせていたのかが気になって仕方なくなった。


 「…ここ何日か…君を追いかけていたんだ。謝ろうと思って」

 「君が?!俺に?!なんで?!」


 予想した反応の範疇だった様で、やはりなと言うように、視線が天を仰いだ。


 「謝ると言うのは少し大げさかな…式の後のことで誤解を解きたい…と、言えば良いか」


 嫌われたくないと思ったから彼はこうして声を掛けてきた。俺にしてもそうするつもりでいた。

 そう思った瞬間、肩の力が抜けた。


 「俺も」

 「?!」

 「君に厭な想いをさせたなら…って。今夜押しかける積もりでいた」


 そう言って終った後で、言葉の選択を誤ったことに気が付いた。


 「今度はしくじったな?!」

 「然り」


 食事を摂りながら、オックスフォードに来ることに成っても、良い顔をしなかった俺の親父の愚痴を零していた。


 「昨日も連絡をよこして、18迄は母の遺産を凍結すると言って来やがった」

 「君の行動を抑制するためか?!」

 「ああ、日本ではスキップは一般的では無くて、俺が休校扱いでここへ来るのも良い顔をしなかったんだ」

 「君も母上は居られないのか…」

 「そうか。君は父上ももう居られないんだったな。俺の父の様なのなら居ない方が良いかもしれないぞ」


 「えらい父上だな。確かに、今ならハーバードだろう。世界はアメリカを中心に回っているし、ロウ・スクールは覗いてもみたい。だが、父上が良い顔をなさらなかったのは、君の魂胆が読まれていたからだよ」


 ギクッ!!もうばれたか。クスクスと面白そうに笑いながら言われた。


 「そうさ。一定の条件を満たして尚かつ、自分が考える余裕を持てる場所。選択の条件にそれが入っていたのを見抜かれたのさ」


 事も無げに言う彼に、少々の恐怖を感じていた。

 こいつ思った以上に気が抜けない。

 それもその筈、彼が名乗ったオルデンブルクと言うのは、欧州の真ん中辺りにあるシェネリンデと言う王国の公爵の名前だった。


 「君の本名を聞きたいな?!日本に君の言う父上の様な人物で、錦木と言う名は覚えが無い。私は明かしたが?!」


 うっ…くく…。流石は統治者、独自の情報網と哲学を既に持っていやがる。


 「父の名は藤堂。従って俺は藤堂政直だ。錦木は母の旧姓だよ」

 「なるほど。父上は次の首相を狙い、息子に後を継がせたがっているが、当の息子は拒否って所か?!」

 「まぁ、そんなところだ。隠すつもりは無かったんだぜ。君の眼鏡と同じ」


 俺何を弁解して居るんだろう?!。


 「聞かれるまで言わなかった」

 

 ひらりと挙げた眼で射抜かれて、ギクッと動悸がした。


 「さ…作為は無かったと言って居るだろう?!君に見惚れて居たんだ。忘れていただけ…」


 思わず叫ぶように言ってしまって、そこが学食だったのを思い出した。


 言った俺も、言われた方も今後が怖い。


 「済まない。えらい事を言った」


 からかいが即座に飛んでくるほど低俗では無いにしろ、直に反応が有るだろう。特に彼には。


 同じ1年の中には、インターナショナル・スクールの同級生もいて、彼等が情報を提供してくれた。それによるとアンディ(アンドリューの略)は、(実はそれも偽名で有る事は既に知っている、アウルと呼ぶよう言われたアウルだって?!梟?!、何ともよく似合うコールネーム、可愛らしい姿をしていて、その実、猛禽類なんだ梟は。そのものじゃ無いか?!)俺がポカをやらかす前から、1部の学生の間で注目の的だった様だ。

 

 あの美貌だ。無理も無いが、ガードが堅くて誰も踏み込めずに居たところへ、俺の失言だった。

 かなりヤバいところまで来ていると覚悟しなければ成らなかった。


 暫く彼についてあるくことにしよう。

 だが、俺自身にアプローチがかかるとは、思ってもみなかった。

 その日、読書対象の哲学書を古書市で山ほど買って帰る道すがら、両手に提げて部屋へと続く階段を上がって居ると、背後から声を掛ける奴がいる。


 「よう。部屋まで辿り着けるのか?!手を貸そう」

 

 振り返るとそこには、ああ、同じ1年の…何と言ったか、見覚えは有るが、名前は出て来ない。だが、まぁ、同じカレッジの学生で有るのは間違いないし…と。


 「ああ、有り難う。大丈夫だ」


 と、言っているのに、片手の荷物を取り上げて言う。


 「どう?!そろそろ堪能した頃だろう?!俺の相手も良い奴なんだけど、彼を連れて来ないか?!」


 堪能?!、彼?!、ああ、アウルの事を言っているのか?!…う…これって、スワッピングのお誘い?!。


 「俺は君の方が良い。それとも君も…」


 する方か、される方かって話か?!げ。


 そいつは1年と言っても、俺や彼とは違って、一旦社会に出た後、企業や団体から専門研究の為にオックスフォードにやって来ている男だった。従って年齢もかなり上。経済状態の悪い若い学生の中で、金がものを言う場面が有るのは事実だった。


 俺が黙って、自分の部屋の前まで付いて来させたのを、良い様に誤解して居るだろう。部屋へ入れると思って居るから付いて来ているのだ。


 確かめたかった事は果たした。部屋の前まで来ると、振り返って満面の笑みを載せて言った。


 「有り難う。助かったよ」


 荷物を受け取る為に右手を差し出した。

 その手をぐいと引かれた。


 「ここでさよならは無いだろう?!中へ入れろよ」


 耳元で囁く様に言われて、虫唾が走った。

 捕まれている手をそのままに、推してくるそいつの体を利用して、懐に背を向けるようにして屈みこむと、腕を真下に引き、背中で跳ね上げた。男の体が踊り場の床の上にどうっと落ちて、ひしゃげた。


 そう。1本背負い。

 運が良かったらしく、奴は呻いて身を起こした。


 「床は石だ。頭から落ちずに助かったな?!耳は聞こえているか?!俺はな、頼みもしないなのに護身用とかで、3つの時から仕込まれたおかげで、柔、剣道共に有段だ」

 「今度俺にこんな気色の悪いことしてみろ!!腕の1本や2本じゃ済まない事になるぜ!!よっく覚えときゃぁがれ!!」

 

 胸ぐらを捕まれて、凄まれて、震えあがりながら奴は這々の体で逃げていった。

 見送っている俺の背後でクスクス笑う奴がいる。


 「お見事」


 アウルが、ぶ然として振り返る俺に言う。


 「流石はサラブレッド、仕込みが違う」

 「からかうか?!そっちだって似たり寄ったりのくせに」

 「然り」

 「やっぱり馬鹿はここにも居たって訳だ。だが、奴らの趣味にはついて行けん。俺の何処見て抱きたいって?!」


 膨れている俺を横目で見ながら、彼が言う。


 「呆れたな、知らないのか?!自分がどんなに…鏡見てみろ、シノワズリの陶人形みたいじゃ無いか。興味を持つのは奴ばかりじゃ無い」


 自分の部屋に引き上げかけて、彼が俺に釘を刺す。


 「寝る前にしっかり鍵を掛けろよ」


 げげっ!!嘘…。

 え?!でも、彼のもの言いが変だった。

 奴ばかりじゃ無い…それって…

 お読みいただき有難う御座いました。

 新しいキャラクターが、登場して、外から見たアウルを書いたつもりです。ドラマチックに展開する次作をお楽しみに。

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