表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編

プロポーズ

作者: 神通百力

「ごめん、待った?」

「うんうん、全然待ってないよ」

 本当は一時間も待っていた。約束の時間よりも早く着いたわけではない。時間通りに到着した。つまり拓司たくじが一時間も遅刻したのだ。七時に中華料理屋で会う約束をしていたが、現在時刻は八時を過ぎている。外は真っ暗だった。

「もうお腹ぺこぺこだよ。何か注文しようよ。すみません!」

 私は近くを歩いていた店員を呼び止めた。

「激辛ラーメンを一つ」

「俺もそれで」

「激辛ラーメン二つですね。かしこまりました」

 店員はペコリと頭を下げると去っていった。

「約束の時間に遅れて本当にごめん。ゲームで遊んでたら時間が過ぎていたんだ」

「そうなんだ。よっぽど面白いゲームだったんだね」

「ああ、面白いよ」

 拓司は目を輝かせた。少しイラっとした。私との約束よりもゲームの方がいいのだろうか? 食事をするよりもゲームの方が楽しいかもしれないが、私との時間も大切にしてほしい。

「お待たせしました。激辛ラーメンです」

 私と拓司の前に激辛ラーメンが置かれた。店員はペコリと頭を下げ、去っていく。

 麺をスープに絡ませ、口に運んだ。思っていたよりも辛かったが、麺にコシがあっておいしい。このくらいの辛さがちょうど良い。拓司は麺に手を付けていなかった。どことなく険しい表情をしている。

「どうしたの? 食べないの?」

「辛いのが苦手でね」

「そ、そうなんだ。知らなかったよ」

 辛いのが苦手なら何で『俺もそれで』と言ったんだ。拓司はバカなのか。それともメニューを決めるのが面倒くさくてつい言ってしまったのだろうか? 仮にそうだとしてもバカということに変わりはないだろう。そんなバカを好きになった私もバカと言えるかもしれない。

 拓司は水を飲みながら激辛ラーメンを食べている。苦しそうな表情だ。私が激辛ラーメンを頼まなければ拓司は苦しまずに済んだ。しかし、食べたかったのだから仕方がない。拓司も食べたいものを頼んでいれば苦しまずに済んだのに。

美沙みさにプレゼントがあるんだ」

 食事を終えて帰り支度をしていたら、拓司が神妙な面持ちでそう言った。

 拓司はポケットから小さな箱を取り出すと、蓋を開けた。中には指輪が入っていた。

「俺と結婚してください」

 中華料理屋ですることか? こういうサプライズは高級レストランでするものじゃないのか? こんなところでサプライズされても、リアクションに困る。

「はい!」

 そう思いながらも私は力強く返事をした。中華料理屋でするのはどうかと思うものの、結婚したい気持ちはあったし、とても嬉しい。

 拓司は嬉しそうな表情を浮かべながら、指輪をはめてくれた。なぜか髑髏が付いた指輪だった。これは婚約指輪ではなく、ファッションリングじゃないのか。見た目がかっこいいから別にいいけど。

「ねえ、拓司の家に泊まっていい?」

「もちろんだよ」

 私は先に外に出て拓司が勘定を済ませるのを待った。

「お待たせ、行こうか」

「うん」

 私は拓司と手を繋ぎ、歩き出した。

 

 ――こういうサプライズもありだな。

感想頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 可愛らしいお話ですね。微笑ましいです。 ちょっとダメなところのある彼氏と、『こういうところがなぁ』、と思いながら暖かく見守る彼女。 エピソード1つひとつに、『お? 彼氏におこっちゃうの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ