94 スキル体験会
もうすぐ100話ですねぇ(。・ω・。)
集落大樹の名称がラグレシアであったことを誰が覚えていましょうか。
私は設定を確認するまで忘れていました(・∀・)
「お久しぶりです」
「おう。訊いたぞ、先に進んでいたらしいな」
近くに転送されたのでそのままラグレシアに戻り、Akariのメッセージに記されていた集合場所に行ってみると、自由行動に出ていた他のメンバーも其処に集まっており、様子からしてまだ始まってはいないようだった。
それを裏付けるように集まっていたメンバーは特に何かをしていたと言う訳でもなく、近付く詠に気付くと手を振っていたぐらいである。ちなみに先に集まっていたメンバーは詠以外のレギオン全員である。
そしてメンバーが集まる場所に後から来た唯一の男性プレイヤーであるジャンキーと軽い挨拶を交わす。ジャンキーからすればメンバーの半分は繋がりが薄いだろうが、其処まで気にせずに普通に交流していた。
「此れで全員か。皆自由行動と訊いていたが思いの外集まったな」
「移動が短縮できたからね」
「近くで居たので」
自由行動でバラバラになっていた筈なのに、詠以外のメンバーは街の中、もしくはその近くに居たらしい。クエストを受けて何処かに行ったと思っていたわんたんですら、早々に終わらせて街の中に戻っていたという。
「それで、結局何を教えてくれるって? 術技系じゃないってことしか聞いてないけど?」
Akariがジャンキーに本題を切り出した。その言葉を聞く限り、皆を集めたAkariでさえ詳細は聞いてなかったようである。
聞かれたジャンキーはそうだったなといった感じで内容を話し始めた。
「俺が教えられるのはスキルの中でも裏方的なものだ。その方が狙って得ることも可能だからな」
「裏方?」
「所謂プレイヤーを支えるような仕事だな。教えようと思うのは〈鍛冶入門〉ってスキルさ。だから此れから場所を移ろうと思う」
そう言ってジャンキーは街の奥へと歩き出した。教わるスキルに場所が関係しているようなので、詠たちもその後を付いていく。
一行は裏道を抜けて、大樹の陰になっている方向へと進む。
「〈鍛冶入門〉は名前で分かるように鍛冶を始めるのに必要なスキルだ。入門というだけあって簡単なものしか作れないが、極めればスキルが発展するらしい。自分で使うものを自分で作れるようになるのも悪くは無い」
「そういうジャンキーも当然獲得してるんだ?」
「冒険も良いが、こういうことも一つの楽しみ方だぞ」
鍛冶という商売といい、どうやらジャンキーはそういう方向に進んでいるようだ。本人が満喫しているように、確かにそういう遊び方も有りかもしれない。
ちなみに、インベントリに入れているらしく今は武装をしていないジャンキーだが、現在装備している武器は〈鍛冶入門〉で自分で作り出した武器だという。ただし、市場の武器の数値にはまだ満たないとかなんとか。
「アレだ。あの建物で場所を借りる」
そんなこんなで一行が進む先に現れたのは、煙突があって少し廃れた雰囲気のある小さめの建物。建物は何処からか伸びた蔓などに少しばかり浸食されており、入り口に扉は無く開け払われている。ジャンキーが言うにはあれで工房らしい。
中に入ってみると確かに工房のようだった。
家具などは極力置いておらず、代わりに大きな炉であったり、金床が置かれている。現在其れを使っている者はいない。そもそも中に居るのは頑固職人のような見た目のNPCらしき一人だけ。
ジャンキーは知っているからか、遠慮せずに入っていってはNPCに話しかけた。NPCは見た目に反して気さくに応えていた。
「此処の場所を借りて基礎を経験する。そうすれば〈鍛冶入門〉のスキルは取れる」
「意外と簡単そうだね」
そう思うだろう?とAkariに対してジャンキーが返すと、ジャンキーは工房の道具を借りて早速作業を始めた。
自前の鉱石を素材として変換してから熱した後、取り出してはハンマーでカンカンと音を響かせながら叩いていく。システムだからと言うのもあるだろうが、初めてではないだけあって手際は良い。
だけど、突然ジャンキーが皆の方を確認しては、見ておけと言ってから、ハンマーを金属の中心辺りに思い切り振り下ろした。すると、当然その部分が大きく凹んだ。凹んだだけなら良かったが、その凹んだ部分を中心に全体に罅が入り、次の瞬間全てが砕け散った。
「…え?」
「一度ミスをすると修正も許されずに失敗判定になるんだ。だから初心者が一つ作り上げるだけでも難しいんだ」
ガシャガシャと打っていた金属が光となって砕け散っていくことを気にも留めず、ジャンキーは作業を完全に止めて戻ってくる。
「ちなみに失敗は使った素材も丸ごと失うことになる」
「結構シビアだね…リスクの方が多いんじゃ無い?」
「現実に比べれば幾分簡略化されている上に危険性も少ないのだから仕方がない気もするが…、この鍛冶のシステムに関しては少しばかり要望があるらしいな。もしかしたらいずれ調整が来るかもな。まぁ今はミニゲームとでも思えば良いさ」
ミニゲームにしてもコストが重いのではというツッコミは思っても口に出さない一行であった。
そんなこんなで、詠たちも鍛冶を体験する為に各自空いている場所に付いた。鍛冶場は建物内のNPCの数より多いとはいえ、流石に全員同時に出来る程数も広さもないので、順番に三人ずつ経験することとなった。
まずはわんたん、たんぽぽ、るる。の三人から。
「素材に出来る鉱石は持っているのか?無ければ貸すが?」
「鉱石ってどんなのでも良いの?」
「どんなの…という訳ではないが、採掘で手に入るような鉱石なら出来るぞ」
位置に付いた三人の前にはガイダンスのようなものが表示されており、其れとジャンキーの説明に従って手順を熟していく。
「練習だからな、製作物は一般的な剣を選択してくれ」
三人は表示されるウインドウを操作する。鉱石が熱されている間に準備をしておくようである。選び終わった三人はそれぞれ慎重に熱されて形が変わりやすくなっている金属を取り出しては、ハンマーを構える。
そして叩く。
カン――カン――
「思ったより順調そうね」
「始めはな。今は集中しているから良いが、集中が途切れて少しでも打ち間違えればすぐに砕けるぞ」
三人の練習風景を見ながらそんなことを言っていると、言った傍から響いていた音が変化した。音のした方を見てみると、たんぽぽの打っていた金属が丁度砕けようとしていた。打ち間違えて失敗したようだ。
たんぽぽがミスしたことが影響したのか、隣に居たるる。もズレた所を叩いてしまって金属を砕いていた。
只一人残ったわんたん意外にも慎重に作業を進めていたが、詰めが甘いように形が整ってきた辺りで油断して壊していた。ドンマイ。
「あー、もうちょっとだったのに…!」
惜しい所まで出来ていただけあって、わんたんが悔しがっていた。だけど其れで折れて止めてしまう様子は無く、他の二人と一緒に次に挑んでいた。
其れとは別で、Akariは先程出来かかっていた物について気になっていた。
「ねえジャンキー」
「なんだ?」
「これってオリジナリティのあるものって作れるの?」
「オリジナリティか…」
先程形になっていた剣を見てそう思ったのだろう。先程の剣はまだ熱で表面がはっきりとしていなかったとはいえ、シルエットがやたら細身な事を除けば、序盤で見たようなシンプルな形になっていた。刀身の形に其処までバリエーションがあるのかは知らないし、素材が違えば全くの別物として認識されるのかもしれないが。
「少なくとも俺が知る限りでは、現在のシステムでオリジナリティを出せるものは色ぐらいだった筈だ。造形は既存の武器に近い物になると聞く」
「そうなんだ」
「だが、この辺りの幅は運営自ら後日改良すると予告されているからな、オリジナルが出来るようになるのはそれからじゃないか?」
「そうなの?」
「ああ。そもそもこの世界は広いがまだまだ発展途上だからな。そういった点ぐらい幾らでもあるさ」
運営がどれだけの人手でプログラムを行っているのかは分からないが、この世界全てを同時に手を加えるのは人手があっても大変だろう。そう考えると仕方ないと思う反面、プレイヤーと共に成長するのだという取り方も出来る。今後に期待という奴である。
自分たちで話をしてる間にも金属を打っている三人はまたも失敗しては金属を爆ぜさせていた。流石に疲れたのか、その失敗を頃合いとして後のメンバーの下に戻ってきた。
「結構疲れるね…これ…」
「あれ?もう良いの?」
「思っていたよりも集中するので疲れるんです…」
「スキル迄は行ってないけど、経験すれば獲得出来ると分かっただけでも良いよ」
「あ、そう?」
先に経験した三人が今回はこの辺で良いと棄権したので、残りの三人が…と思いきや、せんなが辞退したとのことで挑戦は詠とAkariだけとなった。
「アンタはいいのか?」
「今の所は必要ないから」
「そうか」
そんな会話を背に、詠とAkariはそれぞれの位置に付いた。すると目の前にウインドウが二種類表示された。一つは手順の説明を簡単に記したものであり、もう一つは選択画面だ。
先程の光景を思い出しながら、まず選択画面で製作物を指定する。といっても現段階で選べるものは剣一つなのだけれど。なので剣を選択すると、次に素材の指定画面に移行する。其処に表示されたのは、どうやら現在自分が持っている物の中で素材に選べる物のようだった。意外と持っていた。素材を一つ選択して炉の中に入れる。すると鉱石を入れた筈が中で金属の塊に変換されて熱され始める。
赤く溶けて、溶けきる前の形が少し残っているところを取り出して、冷めて固まらないうちにハンマーを打つ。ハンマーを構えると同時に熱を持った金属の表面に波紋のようなものが浮かび上がる。それに合わせて叩いてみると良い音が響いて、次の波紋が浮かび上がる。なので次も叩き、繰り返し。
「なんか、リズムゲーみたい」
隣ではカンカン鳴らしながらAkariが言っていた。
確かに多少のリズム感があれば難なく出来るかもしれないけれど、叩く度に波紋が生じるのが早くなったり、生じている時間が変化したりと、リズムは一定では無い。どちらかというと求められているのは反射神経かもしれない。
カンカンとリズミカルに叩き続けること少々、二人は揃って剣を仕上げていく。思いの外手際が良い二人を見て、先に挑戦した三人が驚いていたりするが、黙々と熟すことが苦ではない詠と、ジャンルに関わらずゲームをしているAkariからすれば、此れ位どうということはなかった。
そして、別々に打っていた筈の二人が鳴らす音が重なる。其れが最後と言うかのように音が重なったと同時に二人の手元の金属が光を纏う。ガイダンスに従ってその金属を近くにある水場に浸けると、シューと音を立てながら水蒸気が生じる。視界が白に埋め尽くされる。
視界を塞いでいた煙が消えてから水から金属を引き抜くと、其れはもう刃だった。逆に言えば刃しか無かった。ガイダンスがまだ続くように、これだけではまだ完成とは言えない。刃をすぐ近くの台に置くと、加工に関するウインドウが表示された。加工と言っても刃の形はもう変えることはなく、鍔や柄と合わせるだけである。なので簡単なものを合わせることで漸く完成となり、完成した武器が剣としてアイテム化した。
完成した剣は形や名前こそ序盤で見たようなものだったが、自動的に判定されるらしい作成評価が影響しているのか、その性能は類似品よりも少々高めになっていた。剣は使わないからあまり関係ないのだけど。
「…出来ちゃったんだけど」
「こっちも出来た!」
二人揃ってそれぞれの剣を完成させると、NPCが近付いてきては、「もう教えることはない」と言って何かを語り始めたが、正確にはNPCに教えられた覚えはありません。
そしてNPCの話が終わったと思うと、スキルの獲得を知らせるアナウンスが浮かび上がった。
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○鍛冶入門
説明:鍛冶の基礎を学んだことで、
今日から君も鍛冶職人の仲間入りだ。
さぁ、試しに一つ作ってみよう。
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一通り経験し完成まで辿り着いたことで、聞いていたとおりスキルが獲得出来た。入門というだけあってまだほんの入り口のようなものだが、其処を追求するかは気紛れ次第である。
見て見て、とAkariが皆に自分の剣を見せている横で、詠は自分で作った剣を持って改めて見た。剣は主武器にしていないが、自分で作っただけあってこの剣には妙な愛着のようなものがあった。こんな気分になるのなら、今後自分で使う物の為にまた挑戦するのもいいかもしれない。呪符ってどう作るんだろう?




