表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
夏の終わりと蒼乱の大陸
98/237

93 獣国の狐女

皇女ではありません、狐女(コジョ)です。

 警戒されたり奪われたりしながらも、餌を与えたことで何とか猿とうり坊から敵対心を消すことに成功したと思われる詠は、意味ありげに進んでいくその二匹に付いていく形で森の奥へと歩いて行く。


「(一体何処まで行くんだろう…)」


 二匹は此方のペースを見ずに進んでいく割に、一定以上の距離を開けると止まって此方を待つように様子を確認してくる。何処かへ導こうというのは確かなようだけど、目的地は全く見えてこない。そもそも視界全てが森なんだけど。


 そんな道すがら、気付くと見覚えの有るものが見えてきた。人体樹ことドライアドである。二匹が連れてきたかったのはこの場所…という訳ではないようで、詠が道を外れたことを察して、先で待機していた。

 先日ぶりのドライアドは以前とあまり変化は無い。しいて言えば今回は此方に一切反応しないぐらい。前回は開いた目も今回はずっと閉じている。だけどそれ以外で妙な部分があった。


「何だろう…?」


 詠はドライアドの前に落ちていたものを拾い上げた。

 始めはゴミとでも思ったが、この世界では其れすら素材に出来かねないので少なくとも素材だろうとも思ったのだが、拾った物は素材とは少し…いや、かなり違った。



【霊樹木の欠片】



 霊樹木というのは恐らくドライアドの事だろう。

 見た目はペットボトルぐらいの大きさではあるが欠片と言うように砕けた後のような木片と、見た目は知っている素材アイテムと大差ないのだけど、分類は素材ではない。武器でも消耗という訳では無く、何か重要な物のように扱われているが、触っても特に反応はなく使い道は分からない。詳細情報を開こうとしても何故か開けず、それどころか手の中から消えて勝手にインベントリの中に移動する始末。


「拾っちゃったけど…どうしろと…」


 一応インベントリに入った欠片は任意で取り出せるようではあるが、出したからと言って何かがある訳でも無い。インベントリの枠を圧迫するぐらいである。とはいえ拾っちゃった上に、インベントリに入っちゃったものは仕方が無いと割り切って、持っておくことにした。無理に捨てても戻ってくる感じがしたし。



――――ポン。



「?」


 欠片の事を考えていたら、突如として機械的な音と共に視界の上部に何かが表示された。どうやらメッセージが届いたらしい。差出人はAkariだった。


「…へぇ、この大陸で会ったんだ」


 メッセージには、以前に交流のあるジャンキーと再会したという報告と、そのジャンキーがスキルについて教えてくれるけどどうする?といった誘いの内容が記されていた。

 教えてくれるジャンキーの都合上、まだスキル関係を始めるまで時間はあるらしいが、詠が今していることは何時まで掛かるかは謎である。だけど折角の誘いなので、「行けたら行く」と結局行かなそうな返事を書いて送り返す。



「キィ」


「…あ」


 メッセージも返したのでその辺のことは一度置いておき、待たせている二匹のことに頭を切り替える。先を見てみれば未だに此方に視線を向けながら待機しているのが見えたので、其方へと歩いて行く。

 二匹は詠が再び進み出したことを認識すると、待機を止めて進み出す。

 一度通ったであろう進路を通りながら、何処まで行くのだろうと思っていると、二匹の進路は突然方向を変える。此処までどちらかと言うと大陸の外側に近付いていた進路が直角に曲がって中心寄りに進み出した。此処まで来ると地図を見ても訪れた記録はない。もう少し方向を調整して進めば中央に辿り着くだろうが、中央に向かっているのなら始めからこんな遠回りのような進路は取っていない筈だから、その手前に何かがあるのだろう。


 その予測を裏付けるように、森の中で少々開けた場所に出た途端に二匹は足を止めた。詠はその二匹を追い越す形でその場所まで進むと、視界に動くものを捉えた。

 その場所には此処まで案内してくれた二匹の他にもエネミーが存在した。だけどどれも身体が小さい上に、警戒はあれど敵意をあまり感じなかった。どちらかと言えば怯えに近い。

 そんなエネミーたちに混ざるように二匹もバラバラの方向に進む。自分の定位置かのように。この場所は中心が少し開けていてその周りにエネミーが集まっており、まるで小型エネミーの集会場のようである。

 定位置に戻った二匹はすぐに近くのエネミーに何かを説明するような素振りを見せたかと思うと、次に此方を見た。

 詠がその視線の意味に気付くよりも先に、猿の方がパンパンと地面を軽く叩いていた。


「…もしかして、餌をやれと?」


 その動きが何かを要求しているようにしか思えず、要求されるような物は餌ぐらいしかないと、試しに餌の入れ物を取り出せば猿の反応が少し変わった。合っていたらしい。

 詠は集会場の中心部分に近付いて入れ物を傾ける。入れ物からカラカラと餌が地面に落ちる。すると、待っていたとばかりに猿が餌に近付き食べ始めた。一匹が警戒も無しに食べ始めたことが影響したのか、他のエネミーたちも一匹、また一匹と次々に餌に近付いていく。

 殆どのエネミーが餌に食い付き始めたので、詠は追加で餌を数カ所に分けて用意した。それらにもエネミーが群がっては餌を食べる。そんな時間が続いた。



――続いていたのだが、人生…という程では無いが、世の中何が起こるかは分からないものである。



 餌を食べるエネミーたちの中に新たに来た一匹のエネミーが加わった。エネミーは種族が狐人の詠に方向性が似た形をしており、それ故に集まったエネミーたちの中では一匹だけ浮いていた。

 それぐらいならまだ其処まで気にしなかっただろうが、そのエネミーはどういう訳かステータスが表示されない、いや、見えなかった。他のエネミーは名称表示もしくはHPのゲージのどちらかは見えているのに対して、その狐のようなエネミーだけが、その辺りが幾ら集中して見ようとしてもぼやけたように情報が伏せられていた。


 それだけで怪しさが充分過ぎるが、他に混ざって餌を食べているだけだったので其程警戒はしていなかった。だからだろうか――



『悪くは無いのぅ』



 ――其れが変化する等とは全く予測していなかった。


 何かを察したように狐のようなエネミーの周囲から、他のエネミーが距離を取ったかと思うと、怪しいエネミーが突如として爆発して煙を吹き出す。爆発といっても炎も出なければダメージも発生はしていない。地面に残っていた餌が吹き飛んだぐらい。

 立ち昇る煙の中に先程のエネミーとは違う大きさの影が現れる。影の形からして獣よりも人型に近かった。煙は長くは続かず、風に吹かれたように揺れたことを切っ掛けに殆どが消えた。そして其処には人が居た。只の人では無い。詠と同じような獣人であり、詠よりも高価そうな衣を纏っている。



―――――――――――


??? / Lv 50 (レア)


―――――――――――



「50…!」


 ステータスはバグかのように未だにぼかされているが、そんな中で見えた数字に詠は驚いた。何せ大陸の基準値を無視したようなレベルを持っていたのだから。下手をすれば最前線のプレイヤーと同じぐらいかそれ以上の数字かもしれない。

 まともに戦えばすぐに負けることは目に見えている相手であるが、幸い相手に敵意は無いようである。近くに落ちている餌を拾ってはおつまみのように食べている。絵面的に拾い食いはどうだろうか…。


『まぁ良い。合格じゃ』


 はい?


『人柄は分かった。今尚臨戦態勢すら取らんぐらいの暢気な者なら大丈夫じゃろう』


 何か勝手に判断されているのだけれど、何が大丈夫なのだろうか?


『もう無いのか?』


 そう言いながらその狐人は二本の指で抓んだ餌をひらひらとさせながら此方に向けている。その動きで理解して、詠はまだ残っている餌を蓋を外した入れ物ごと狐人に渡した。

 するとどうだろう、渡した瞬間に詠の身体が淡く光り出したのだ。そしてその影響なのかはたまた答えなのか、偶に見るシステムアナウンスが視界の中に表示された。



【スキルを獲得しました】



――――――――――――――――――――――――


○異種族との絆

 説明:別名、従者システム。テイマーとも。

    戦闘内外を問わず、低確率でエネミーが自身の従者となる。

    従者となったエネミーは味方判定となり、共に行動をする。


――――――――――――――――――――――――



 獲得したというお知らせの後に、ポンと獲得されたスキルの内容が表示される。そのスキルこそ、今回の目的であった従者システムであった。

 餌を手渡した事で達成されたのかは知らないけれど、此処に来てこんな簡単に獲得して良いのだろうか。

 それに、此れを手に入れたと言うことは、このクエストはもう終盤なのではないだろうか?


『お主は少なからず自身と異なる種と縁を結べるようにはなった。じゃが其処から先どうするかはお主次第じゃ』


 パクパクと餌を食べ進めながら狐人は最小限の説明のような言葉を紡ぐ。其れを聞きながら詠は、手元に少し残しておきながらも、残りの餌を全て狐人の前に置いておく。置くと狐人は「うむ」と小さく反応していた。


『ではな。結ぶのなら良い縁を結べよ――』


 言葉を終わらせると同時に狐人は配下を呼ぶかのように指を鳴らした。

 すると、詠の足下に光が浮かび上がり、次の瞬間光に覆われた。



  狐人によって詠が覆った光は転送の光だったようで、気が付くと未だに森の中ではあったが先程とは違う場所に移動していた。移動した先は、目と鼻の先に中央の大樹が見える場所であった。行きが案内によるものだったので帰りで迷子になる可能性を配慮したのだろうか。時間短縮になって有り難いけど。

 そして到着と同時にクエスト完了にアナウンスが表示された。やはり此れで終わりだったようだ。終了と共にクエストによる経験値が振られる。



【☆レベルアップ☆ ポイントを振り分けることが出来ます。】

【レベルが30となったことで種族開放条件を満たしました。】



 今回の経験値でレベルが上がったが、その際の表示が此れまでとは少し違っていた。レベルの事を考えるとAkariが以前に見逃したのはこの表示だろう。種族開放というワードがよく分からないが、条件を満たしたと書いているので出来るようになったと言うことなのだろう。重要な部分がイマイチ伝わらないけど。


 伝わらないが、満たしたのならこの先で何かが出来るようになっている筈なので、今の所は気にせずに集落大樹に戻ることにした。帰りが短縮したことでまだ誘いの件が間に合うかもしれないと思って。









 のちに確認したことだが、このレベルに成ったことで新たに記された内容は、とあるクエストの挑戦権を得たというものだったらしい。そのとあるクエストというのは、各種族毎に効果が異なる種族専用スキルを得るための試練のことであり、それをクリアすることで初めて専用スキルを使用可能になるのだそう。そのクエストの場所は種族毎に場所が異なるという噂があるのだが、異なっていようが、挑戦するのはまた別の話。




レギオン『Celesta Sky』 

詠 / 狐人

Lv 29 → 30

―――

ターザンの同盟者

HP: 128 → 132 / MP: 256 → 262

STR(攻撃力): 37 → 38

VIT(耐久): 40 → 42

INT(知力): 69 → 72

MND(精神力): 85 → 89

DEX(器用さ): 56 → 58

AGI(素早さ): 118 → 124

LUK(運): 30


BP : 46 → 50


BP獲得値がまた上がります。

というか最近振り分けてませんね。


レベル条件も満たしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ