92 街での再会
一方その頃な、Akariの話です。
詠が森で餌付けを試みているであろう頃、街では残ったメンバーが思い思いに行動していた。
詠のようにクエストを受けてフィールドに出た者も居れば、フィールドに出ることはせずに街中で出来ることを模索している者も居る。Akariもどちらかと言えば後者の一人だ。仲間にはすぐに外に出そうと思われていたが、Akariの興味をそそるようなクエストは無かったらしく、優先すべき目的も無かったりするので、街中を一人で散策していた。
「こうして街中を見るのも初めてな気がするなぁ」
此れまでこの街での行動は、ギルドでクエストを受けるか道具を補充するかぐらいでそのままフィールドに出ていくことが大半で、街の全体を見て回るようなことは無かった。(特に勢いで進むAkari辺りは。他数名はそうでは無い)
故に此れは此れで新鮮で、何か発見があるかもしれないと、面白いことが起きないかと薄らと心待ちにしているAkariは、いざとなれば大樹を目印に出来ることを良いことに、街中の通れる場所を縦横無尽に歩き回っていた。大通りであったり路地であったり。
「へぇー。この辺り結構宿あるんだねー。
あ、此処に変な木の実が成ってる…取って良いのかな?」
普段通る道から逸れた場所で色々と発見をするAkariは、休憩を挟もうかと一度良く通る道まで戻ることにした。
路地を通って見知った道へと移動し、そのまま大樹方面に歩いていた。
「本当に良いのか?自分で言うのも何だが、それだけ資金があるのなら底上げする道具より、装備を新調した方が手っ取り早いだろう?」
「確かにそうなんだけど、今使っている物はなんかこう…気に入ってるんだ、デザインが」
「そうか。ならこっちが値段だ」
そんな会話が聞こえてきたので、何気なくその出所を探してみると、その声は近くにあった屋台のような店からだった。
屋台の前にいた一人の客がお金と交換する形で何か小さいアイテムを受け取ってその場を去って行く。受け取っていたアイテムはちらっとしか見えなかった上、すぐにインベントリに仕舞っていたが、輪っかのように見えたので、指輪か腕輪のようなアイテムをあの店は売っているのだろう。
たった今、客が去っていって店の前が空いたこともあり、予想の答えを確認するようにAkariはその店を覗いた。
「いらっしゃい」
「あれ?ジャンキーじゃん、何してんの?」
店を覗いてみると、その店の店主は覚えのある長身の男性プレイヤーで、よく見てみるとその人物は最初の大陸で何度か関わったことのあるジャンキーだった。
ジャンキーの方もAkariの事を覚えていたようで、顔を見ては久し振りだなと言った感じの反応を見せた。
「どうしたんだ?今日は一人か?」
「今日は自由行動って事になってね。で、ジャンキーこそこんなところで何してんのさ。お店?」
「ああ。この間商業向けのスキルを幾つか手に入れたものでな、折角だから試しに自分で商品を作って売っているんだ」
「え、仕入れたんじゃ無く商品まで作ったの?」
「その手のスキルもあるからな」
Akariはジャンキーが扱っている商品に目を向けた。
ジャンキーが店頭に並べている物はどれもシンプルなデザインをした指輪型の装飾品だった。磨かれた鉱石の類いを輪っか状に削り取ったものに取り付けたといった感じで、確かにお手製感が感じられるものだ。
しれっと指輪の一つのアイテム説明を呼び出してみると、効果は使用されている素材に影響しているようにアイテム毎に微量ではあるが違った効果を持っていた。今確認している物なんて、軽めの素材を使ったのかAGIが微量上昇させる他に、風系では含まれていることが多い【毒】性質への耐性も微量付与するという物だった。
「この辺に比べると結構安いんじゃない?」
「効果が気休め程度の底上げぐらいだから、あまり高い値段は付けちゃいないさ。こんなので高い値段を取ってたらぼったくりになっちまうからな」
「確かに効果は低いかもしれないけど、材料費とか制作費用とか色々あるんじゃないの?」
「其れこそ無いようなものだ。材料は殆どは余ってたドロップ品とかな上、制作に関してはスキルの練習にもなるから俺の不利益はあっても僅かさ」
物価がこの街で売られている装備品よりも安く感じたのはそういうことだったのか。話を訊いた限りではジャンキーにしてみれば、物を売ってお金を稼ぐことよりも、物を作ったり店を経営したりしてスキルの経験を積むことの方が大事なように思えた。
その証拠なのか、あまり売れ行きは良くは思えなくとも、ジャンキーからはその現状を気に留めている雰囲気は感じられなかった。此れは此れで楽しんでいるようである。
「これ、上昇値や安値のことを考えたら、此処より前の大陸で初心者支援にでもした方が向いてるんじゃない?」
「やっぱりそう思うか? 俺も本気で売ることを考えたらそうしたよ」
ジャンキーも一度はその手のことも思いはしたらしい。そうしないのは、其処まで売ることに拘ってはいないという他に、移動の面のこともあるようである。今の大陸が現在の行動の軸となっているので戻るのはまだ遠慮したく、戻るにしても手間がかかるといった様子。
「そういえば私らもこの大陸での戻る場所は知らないなぁ。先輩なら知ってるだろうけど」
「此処は殆ど森だからな。戻るにも苦労するのは目に見えてる」
「確かにね。蒼の大陸なら結構分かり易かったけど、此処じゃあどの方向に行けば良いかも分かり辛いしねー」
蒼の大陸では先導もあって街に隣接していたようなものだったから戻ることには簡単であったが、今の大陸ではその先導もなく、始めに足を付けた場所から考えても木の上だった為に参考にはならない。
自身のレギオンメンバーでは唯一せんなだけがこの大陸の中から転送場所を見つけて戻っているが、よく戻れたなと感心する。
「まさか、もう先の大陸に行ってきたのか?」
「色々あって飛ばされる感じでねー」
「そうか…あの時は俺とあまり変わらない初心者だった君らが、気付けば自分よりも先に進んでいるとはな…。
それで、先を進んでいるにも関わらずこの大陸に戻ってきたのには何かあるのか?」
こんな話の流れになれば当然その辺りのことが気になるだろう。気になられたとしても此れと行って重大な理由は特に無いのだが。
「いや別に。強いて言えばまだ早いって判断したって感じ。レベルは兎も角スキルの方がさ。さっきも言ったけど先に行ったのも飛ばされてだからね」
だからこの大陸でスキルを得られるものがあれば何も考えずに一度は飛びつくことだろう。とは言っても其れは自分に必要と思ったものに限るけど。現にスキルが関わっているであろうクエストを一つ詠に譲ってある。あれは必要云々の他に、本人が得た情報だったから遠慮したというのも少なからず存在…した…筈。
「そうかスキル面か…」
するとジャンキーが何かを思い出したように、おっと声を漏らし、何事かと見ていたAkariに対してこう言った
「それなら少しばかりスキルの習得法を教えてやろうか? 術技系ではないから方向性に左右されずに誰でも獲得は出来るはずだ」
「え、マジで!?」
Akariとしては良い申し出であった。
Akariはその提案にすぐ乗ったが、言い出したジャンキー自身が少し待てと制止を掛けた。教えてはくれるが、店の事があるとかで少し時間を待つ必要があるようである。
それならとAkariは他のメンバーを集めることにした。
スキルの内容は聞いていないけど、折角のチャンスだから。
何話ぶりだろう?
そろそろ出そうと思いつつ出せていなかった筈だから、ジャンキーの登場は始めの頃以来だと個人的には思っている。間違っていたら少々矛盾が生じる場面がいずれ…。