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電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
夏の終わりと蒼乱の大陸
95/237

90 戦闘? いいえ、餌付けです。

 味に謎が残るとはいえ目当ての餌を手に入れたことに変わりなく、詠はフィールドへと出ていた。


 ミストウェルから訊いたクエストの目的としては、此れから敵と出会って、何かしら交流をすれば良いとか何とか。要は人間と接するように交流し、エネミー側に好感を与えれば上手くいくだろうとのことだった。助言の段階でクエストのクリア条件に確証が無いのは、言ったミストウェルにも確証が無かったからである。


 詠は知らないが、当のミストウェルはエネミー同士が争っている所に偶然割って入るように乱入し、其れが争いを止めるような結果になったことで、不利だった側のエネミーに好感を与えていたのだ。ミストウェルはその事に気付いてはいなくともその辺から推測し、それでいて正解に辿り着いていたのだ。


 そんな彼のように倒してしまいそうな一か八かな事をしなくとも、餌を与えるぐらいが一番分かり易くて平和的じゃないかというアドバイスを受けたので、今回はそれを実行することにしたのだ。


「それにしても…いつもならそろそろ出てきそうなのに何も出ない。…クエスト効果が効いてるのね」


 詠が居る森からは、何時飛び出してきても不思議ではない程度には音が聞こえていた。その音は木の葉の揺れる音だけでなく獣のような声も混じっている。だけど何一つとして出てくる気配は無い。

 敵が出てこない理由としては、このクエストの進行中、プレイヤーが一人となり敵の撃破も禁じられる代わりとして、敵との遭遇率も下がるようである。一見有り難いようにも思えるが、出会わないといけないクエスト内容のことを考えれば、有り難迷惑に近かったりする。おのれ…。


 いっそのこと撒き餌で呼び寄せようとも思ったが、手元にある餌はそういった効果があるのかという疑問が過ぎって止めてしまった。売買の時の商品説明では既に来ている相手に与えるような物のようだったので、香りなのか、遠くからでも分かるような要素は其処まで強くは無さそうである。


「出会いは時の運って言うのかなこういうの…」


 今の所は待つしか選択肢は無いようで、丁度開けた所に来たことも相まって、詠はその場に座り込んで待つことにした。


 声は聞こえど姿は見えず。自然の音だけが耳に届く。

 森の植物を眺めたり、餌の入れ物を取り出してみたり、暇ながらに時間を潰す。ただただ時間が流れていくが、自然を眺めている為か、ある意味リラックス効果が得られているように思える。


 そんなのんびりとした時間を過ごす中で、ようやく変化があった。

 向かい側の茂みからエネミーが姿を現した。そのエネミーは周りの木々に似た外見をしているがサイズは何周りも小さく、根っこの部分を足としてがさがさと動いていた。



――――――――――――


モンスターウッド / Lv 23


――――――――――――



 この大陸で何度か見た木のエネミーである。相手は此方に気付くと腕を少し上げ、襲うとばかりにゆっくりではあるが確実に距離を詰めてきていた。

 此方が好感を与えることが目的でも相手はそんなことを知るわけも無いから襲うのは当然である。


 一瞬いつもの流れで武器を取り出すが、今回は撃破をしてはいけないということを思い出して仕舞う。その代わりに地面に置いていた餌の入れ物を拾い上げる。


「一体だけなのは都合が良い……丁度良いから試してみよう」


 腕を振り回す木のエネミーと一定の距離を保ちながら詠はそう判断した。此れが複数体ならば餌を与えるだけの余裕は無かったであろうが、一体のみならばそれだけを気にしていれば良いから身を守り易いのだ。


 そんなわけで、相手に意識を向けながら入れ物を開けて中から餌を少量取り出す。取り出した餌は固形で其処まで硬くは無く、触るとぐにっと凹む程度の感触だった。

 エネミーがぐおーという感じに口を開いて近寄ってくるので、その開いた口を目がけて餌を放り投げた。投げられた餌は狙い通りに口の中に入り、物が入ったことを認識したようにエネミーはその場で止まって口を動かす。


「大人しくなった…?」


 大人しく口を動かしているエネミーを見ながら、地面に次の餌を置く。エネミーはそれを拾っては自分の口に入れる。味に疑問はあったけれど、様子からして不味くはないらしい。

 大人しいと思ってそのまま見ていると、全て飲み込んだであろうエネミーは顔を上げて視線を詠の持っている餌の入れ物に固定した。気のせいか、目が光った気がした。


「?」


 すると突然エネミーは興奮したように襲いかかってきた。まるでもっと寄越せとばかりに。



 無理。やっぱり逃げる。



 詠は咄嗟に入れ物に入っていた残りをぶちまけながら振り返り、そのまま来た道をダッシュで走って行く。後ろからはエネミーは来ていない。獣人としての速度もあるが、何より餌に惹き付けられているので、簡単に逃走することが出来た。


 後ろから来ていないことを確認してから、詠は先程の結果を振り返る。


 何というか。相手は選ぶべきだったかもしれない。それと与える量や方法も気をつけた方が良かったかもしれない。先程は明らかに与えたことで更に狙われたような感じがしたので。

 と言う訳で、餌もまだ多めにあるので、次は与える対象を絞ってみようかと思った。出来れば木ではなく一般的な知能をもってそうな獣辺りにでも。この森ならそういったエネミーも生息しているので、出会うのは可能な筈だろう。


 と、そんなときに早速とばかりに近くの茂みががさがさと動いた。出てきたものによっては逃げようと思いながらその茂みを凝視した。凝視していることに反応したかのように茂みは黙り込み、少し間が空いてから其処から何かの影が立ち上がった。


 その影はすらっとして身軽そうながらも、其れなりに筋肉も見られ、左手には自前の武器であろう槍も持っている。

 その影は此方を真っ直ぐに視認し、ゆっくりとその右腕を挙げ――


「ヤー」


 挨拶をしてきた。それもフランクに。



 ターザンでした。



 暢気なターザンの登場に、お前かよ!と叫びたい気分になったが口には出さない詠だった。




関係ないけど、この話を書いてた時の総文字数が2434でした。

本当に関係ないけど。

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