86 今はクエスト優先
「まぁ、何をするにしても、まずは今受けてるクエストの方が先決」
この大陸を進むならば、色々と準備をしていた方が何かと都合が良いことは分かったが、取り敢えずは目先の用事を片付けることを優先する。
そもそもこの辺りのレベルを調べるといった目的だったので、その結果次第では予定が変わって準備がまた後になる可能性だってあり得るのである。
「今何体倒したっけ?」
「えっと、釣られた敵としか戦ってないから四体くらい?」
「違いますよ? 一体海に帰しましたから倒したのは三体だけですよ?」
「あ、そういえばそうか」
此処に来てから釣りの見学ぐらいしかしていないので、禄に戦闘は起こっていない。起こったものは前述の通り釣り上げたものによるものだけな上、それも一体ずつだったので、撃破数も片手で数えられる程しかない。
とは言っても、このクエストを受けた理由が情報なので、一体ずつで戦闘に余裕がありレベルを確認し易いこの状況は其処まで悪くは無かったりする。そしてそれだけの情報でも少しは役に立つ。
「やっぱり、レベルが下のものはあまり居なさそうね」
「今のところ、低い奴でも私らと一緒ぐらいだからねー」
「同じレベルにしても、本当に同じかある意味疑いたくなるけどね」
この大陸に来てから戦ったエネミーのレベルは波はあれど大凡が此方と同じかそれ以上。それも、レベルが同程度のものはこの大陸における最低値なのか偶にしか出ない上、それ以下は今の所は出ていない。ならば当然基準は今の自分たちよりは上だと予想できる。というより、上だと思った方が慢心するようなことはないので良い。
「そもそも私ら正規のルートで来てないからね。レベルが多少上でも仕方ないよ」
「…ボスダンジョンを踏破出来るだけの実力があるのかどうか分からないからね」
本来ならボスダンジョンへの挑戦でそれなりのレベルになるのだろうけれど、一行は開放後に追加されたショートカットで此方に来たので、資格の概念があるとすれば、資格が無い方である。
そのショートカットがあったダンジョンでも似たような戦闘を繰り返していてレベルも上がったけれど、そもそも流れで進んだということで其処に入った頃のレベルが低かったので。
「レベル上げなら此処でも出来ないことは無いけれど…」
「低いところでコツコツとしていた方が危険は少ないですからね」
「えー、でも高い相手なら経験値を多く貰えるからレベルアップも早いよ?」
確かに格上の相手の方が経験値は多く貰える傾向にあるけれど、パーティ戦だと皆に分配されて、一人の時に比べて其処まで早くは無い。先程までのように一体ずつなら尚更。戦闘は楽ではあるけど。
などと、そんなことを思っていたからだろうか、会話を遮るぐらいの音が突如発生した。
――――――バシャァッ!
幸か不幸か、海の中から先程戦ったものと同種のエネミーがビシャビシャと濡れた足で陸地に着地した。
――――――――――――――
サハギン / Lv 29
サハギン / Lv 30
サハギン / Lv 30
――――――――――――――
サハギントリオが現れた。
二足歩行になって人型に近付いた魚人たちが、手に変化したヒレでシンプルな槍を掴んで此方に槍先を向けている。
「レベルを見たところ、逃がした奴が仲間連れて戻ってきた、って感じかな?」
「戻ってきたとこ悪いけど、稼がせて貰うよ!」
クエスト達成までの数稼ぎには丁度良いということで、皆好戦的に戦闘へと入っていく。とあることが心配だけれど、数的有利が此方にはある。
足場の広さ的に意思とは関係なく誰かしら落ちてしまう心配はあったけれど、そんなこともなくサハギントリオとの戦闘が終わった。…終わったのだが、悲鳴が助けを呼ぶように、消滅と共に水から次のサハギンが姿を現した。それもレベルがさらに上の。シチュエーションとしてはこちらが悪役のように思えなくもない。そんなことは関係なく倒したけれど。
「追加のサハギンがこんなの落としたんだけど?」
わんたんが拾い上げたそれは、先程ヒーローの如く現れたサハギンからドロップした品。細長いシルエットのそれは一瞬サハギンが使っていた槍かとも思ってしまったが、よく見ると槍よりも短く、それでいて桃色に染まっていた。
わんたんがすぐに品を調べると、それは珊瑚から作られた道具だったらしい。
「へぇー。変わり物だね」
「確かに変わってるよ。素材アイテムとして使えるけど、そのまま敵に投げてダメージを与えることも出来るんだって」
「…投擲武器ってこと?」
「いや、装備は出来ないから其処はまた別みたい」
「要はダメージ与えられる消耗品ってことでしょ?偶には良いんじゃない、そういうのも」
「確かに近接メインの人にはサブぐらいに良いかもしれないけど…一個しか無いんだけど」
「其処はほら…探せぇ!って奴だよ」
「誰今の」
どうあれ、あって困るような物ではないので見つけたら回収するという方向でその話は終わった。この大陸特有なら大陸の何処かの扱っているかもしれないと思いながら。…だけど実は、このアイテムは当時まだ実装していない判定が機能するかを見るために試験的に実装されただけで、現在は放置されているので今ではドロップでしか手に入らないのだが、彼女たちは知る由も無い。
「あ、意外と来た!」
「釣りじゃないのに意外と寄ってくるものね…」
詠が確認がてら水面に何かを撒くと、少ししてその辺りに気泡が現れ始め、其処から数体のエネミーが現れた。
詠が撒いたのは道具屋で補充をしている時に念の為に一つだけ購入した物の中の一つ、撒き餌アイテム(粉末タイプ)、要は餌である。入れ物含め顆粒出汁みたいだったけど、効果は見ての通りである。
「まだまだ増えてるんだけど!?」
撒き餌に惹かれて1、2体ずつといえど、間隔毎に陸に上がってくるエネミーたち。その光景を見て詠はまだ消滅せず手元に残っている撒き餌が入っていて今は空になった入れ物を確認する。
「あ、これ、数分は効果が持続するみたい」
「ちょっ!?それ始めに確認してよ!」
自分でやったこととはいえ、これは面倒なことになった。
とはいえ、既に陸に上がっている敵だけで目的の数は揃っているので、ある意味結果オーライではと、反省をする気は無く、それでも少々現状から目をそらした。
「どうやら…効果は終わったみたいね」
戦闘が終わり、撒き餌の効果も切れて静かになった水面を見ながらそう呟いた。
「目標数より、余分に多く倒した気がするんだけど…」
「そりゃ…HPやらMPやらが消費が多い訳だよ…」
他のメンバーも少々疲れが出ているらしい。意外と忙しなかったので仕方が無いだろう。だけどその甲斐もあって聞き覚えのある電子音が鳴り響いていた。
詠を始めとした数人のレベルが上がった。
レベル三十台も目前となってきた中で、先に三十に到達したAkariがレベルアップの知らせを見て、何やら疑問符を浮かべていた。
「どうしました?」
「いや、なんかいつもと違う文章が出た気がしたんだけど……」
「けど?」
「飛ばしちゃったぜ☆」
「……ちょっと拳骨いい?」
「なんで!?」
いや…なんでそう思ったんだろう?特に理由は無い。強いて上げるならツッコミか何かじゃないかな?答えは誰にも分からない。
Akariがレベルアップと共に何かを見たのは多分本当だろう。文章は見えなかったけれど薄らと表示されている文章が多かったことは確認出来たから。だけどしっかり見ていなかったばっかりにその内容は分からない。タイミングから考えて此方もレベルが三十台になれば表示されるかもしれないし、今深く追求しなくてもいずれ分かるだろう。
それよりも今は目的を達したので一度戻ろう。
……ちなみに、そのレベルアップと共に表示されたものについては、当然せんなは知っていたが、静かに回復薬を含んでいたので、答えを口にする事は無かった。
レギオン『Celesta Sky』
詠 / 狐人
Lv 28 → 29
―――
ターザンの同盟者
HP: 126 → 128 / MP: 251 → 256
STR(攻撃力): 36 → 37
VIT(耐久): 39 → 40
INT(知力): 66 → 69
MND(精神力): 82 → 85
DEX(器用さ): 53 → 56
AGI(素早さ): 113 → 118
LUK(運): 30
BP : 43 → 46