85 釣り人はかく語りき…?
「何が釣れるんです?」
「魚」
「いやそれは当然なんじゃないの…」
広い海に垂らされた一筋の糸。その先に付けられたキーホルダーにでもありそうなデザインのルアーが静かに浮かんでいる。その糸が繋がる青い釣り竿を持っているせんなは、木製の陸地の縁に座りながら、いつの間にか取り出した麦わら帽子を頭に装備してのんびりしていた。
他のメンバーもそれを見たり、周りの景色を見てみたりと、クエストのことを一度頭の片隅に置いてゆったりとしている。
「餌って付けました?」
「無くても釣れるときは釣れる」
「あー、付けてないんすね」
せんな曰く、この世界での釣りについて、大体の形は現実とあまり変わらない。けれどやはり其処にはシステム的なものが関わってくるらしい。要するに全部では無いとはいえ釣りをする場所と釣れる物が関係なかったり、道具によってはっきりと違いが出たりするようである。流石というべきか、それ故に広さがあれば魚が居ない水溜まりでも何かしら釣れてしまう仕様らしい。
さらに釣れる物は魚だけに限らず、割と様々なものが釣れるらしい。
「…何これ?」
「何って…宝箱?」
「Treasure」
「何故にネイティブ!?」
せんなが引き上げた竿の先の釣り針にぶら下がっていたのは、紛うこと無く金色に近い宝箱だった。せんなはさらっと答えた後は特に触れることなく釣り針からそれを外すとすぐに続けて海に糸を垂らし始めていた。その後ろでは釣果である小さめの宝箱を調べていたりする。
「宝箱には間違いないようですよね…」
「これ大丈夫なの?ご丁寧に箱入りってのが逆に怪しいんだけど」
「あー、ミミック的な可能性?大丈夫なんじゃないの?こうして触ってても襲ってこないから、エネミーでは無いっぽい」
そう言いながらAkariが箱の上部に手を掛ける。確かに触れても襲ってこないので偽物では無い。そしてそのまま宝箱は開かれ、その中に入っていたのは―――
「あれ?何も無い?」
箱の中には赤い布が敷き詰められているだけで、此れと言って物は見受けられなかった。
「箱の中身には外れもあるから」
釣りを続けるせんなが雰囲気を察したのか、背中を向けたままそう言った。
「「「えー…」」」
せんなは後ろの雰囲気を気にしないまま、そのまま釣りを続けた。そんな中で、開けられた宝箱は空気を読んで立ち去るかのように自然消滅していた。
それからも一定間隔毎にそれなりの釣果を上げていった。食料アイテムとしての魚であったり、魚の鱗であろう素材アイテムだったり、終いには―――
「ちょっ、こんなのもあるの!?」
「…弱らせてゲットでもすればいい?」
「とりあえず撃退して!」
―――終いにはエネミーを釣り上げていた。レベルはまだ同じぐらいで数も一匹だった為に撃退に其程苦労は無かった。もしもの時は海に落とせばそのまま帰ってこない場合もあるようなので。……ちなみにせんなはそれでも気にせず釣り続けていた。
そして、再びそれは釣り上げられた。
「今度は外れじゃ…無いよね?」
「…開けてみれば分かること」
一行の前には再び宝箱が存在した。その箱は先程よりも一回りほど小さく箱自体の重さも軽く感じる。触っても大丈夫そうなことは確認したが、脳裏に先程のことが過ぎったために、誰も過度な期待は抱かない。それに入っていたとしても横幅からして剣や盾などの一部の武器などは入っていないだろうことは予想が付く。
面倒事では無いことを祈りながら、その箱を開く。
「……また何も無し?」
「いえ、ありますよ」
紛れて見えなかったのか、その言葉の通り、箱の底には緩衝材のように四方を覆っている赤い布とは別の色の紙切れが埋もれていた。
その紙を手に取り、裏を向けてみると其処には文字が書かれていた。所々文字が掠れていたりするが読めなくもない。
――――――――――――――――――
フカイ フカイ クロキソコ
タシカニ ソレハ アッタ
ウワサ ホント ダッタ
――――――――――――――――――
「何かのメモかしら?」
「読めるけど何でこんなカタコトなのコレ?」
「先輩、これ何なのか知ってます?」
紙にはそれしか書いておらず、文章は分かるが其れが何の意味があるのか理解が出来なかったので、丁度釣りを一度休憩しようとしていた先輩に聞いてみた。すると先輩は特に重大視するような様子も無くあっさりと答えた。
「多分ただのヒント」
「ヒント?」
「このカタコトが?」
「ええ。海の中にも行動範囲は広がっているぞ、っていうヒント。ヒントも何も既に海の中にもあるのは経験済みだけど」
確かにこの場所に来る前に一応水中に設置された街を訪れている。しかもそこは大体のプレイヤーが必ずと言って良いほどに通る道である。そういう経験から、わざわざヒントを出されなくても、水中に街があるのだから同じようにダンジョンなどもあるだろうという考えに至らないことも無いが、親切設計なのだろう。
「水の中ってどうやって行くの? やっぱりウンディーネじゃないと駄目とか?」
「深い場所はそうだけど、浅い場所なら、《《泳げるようになれば》》どの種族でも行くことは出来るって訊いた」
「あ、一応行けるんだ。それじゃあ試しに…」
そう言ってわんたんは海の中に入ってはぷかぷかと浮かんでいる。そのままぷかぷかと左右に動いてみたりしているので、海の成分的には入るだけなら特に危険は無さそうである。それを見て面白そうとでも思ったのか、続くようにAkariも海の中に入り、共に潜り始めた。
一体何処まで行くつもりかと思って、潜った場所に浮かび上がってくる気泡を眺めていると、案外すぐに水面に二人の顔が出た。
「どうしました?!」
「攻撃受けたわけでも無いのに何故かダメージ受けたんだけど!」
「それも一回だけじゃ無くて毒ダメみたいに徐々に!」
二人はそう言ってすぐに海を出て陸に上がってきた。二人の頭上に浮かび上がるHPを見てみれば、証言通り先程までは全快に近かったものが何割か減っていた。
「ま、海は危ないと言うことで」
「結構理不尽なダメージだったと思うんだけど!」
「だけど、潜るのが駄目で、顔を出したまま水面を泳ぐぐらいなら出来るんだよねー…?」
「水中での行動が阻害されるのですか?」
「そういうシステム判定だから」
「やっぱり?というかどういう判定なのソレ?」
「簡単に言えば、水中行動」
一応この世界では泳ぐという行為にもシステムが働くらしい。正確には泳ぐという技術はリアルに影響されるので、この場合は水中での滞在時間とでもいうのか、その手のものが変わってくるらしい。
主な内容は、息が長く持たないような潜水中のダメージや、身体を冷やすかのように長時間海に浸かっているとダメージに変わってしまうという、要は海がダメージゾーンに変わるような、海を嘗めるなと言っていそうな判定である。
「そういうのもあるんだ…」
「無かったら、皆潜り出すから」
「…合っても、潜るんじゃないかな?」
まぁ、そこは皆分かっているから、節操なしに飛び込んだりはしていないようで少しマナーの面で安心した。それに加えてある意味ダメージの仕様は現実に対する教訓になりそうで、それを見越しての事なのだろうかと思った。……そもそもの話、飛び込んだところで敵に的にされそうで危険ではないだろうか。
そんなこんなで、どうやらこの大陸内を十分に動き回るには色々と準備が必要なようである。別に、船を使えばある程度は進めないこともないが、それでも全部は行けない。
この大陸ではまずそれらを用意するのが基礎のような気がした。
ノリで進めてたら何やら説明回になってしまった?