79 海は広いな、大きいな
「海上遺跡…って、蒼の大陸!?」
渦から出た先、天井からは青空の輝きが差し込み、周囲には白い石柱が見られ、その近くの水路には水が流れている、如何にも忘れられた遺跡のような雰囲気がある場所で詠は叫んだ。
驚くのも無理はないだろう。先程まで居たのは翠の大陸で、現在居るのはその次の蒼の大陸だと言うのだ。それもボスダンジョンなどの通常の進行過程を無視しての移動である。ショートカットにしては突然である。
「あでっ!」
「おっと」
「と……本当にワープらしいな」
詠が驚いてる間にも周囲では続々と渦に飛び込んだのであろう面々が彼方此方に姿を現した。どうやら一人残らず此方に跳んできたようだ。『Celesta Sky』も変な体勢で落ちているけれどしっかりと揃ってい……
「アレ?そういえば先に飛ばされたはずじゃ…?」
ふと、るる。が居ないことに気付き周囲を見渡してみたのだが、せんなは居るのに、一番始めに飛ばされたるる。が何処にも居なかった。
「彼女なら少し周りを見に行ったはず」
「え、大丈夫なんですか!?」
「ええ。此処はエネミーが居ないはずだから」
次の大陸に来てしまったのならエネミーも前の大陸より強くなっているだろうから心配になってきたが、大陸経験者が言うのならそうなのだろう。それならそっちは待つとして、後ろの方をどうにかしようか。
「にしても此処何処? 古い建築って感じがするんだけど」
「同じ地下という訳では無いんですね?」
「なんか…この造り見たことあるような気がするんだよな…?」
そういえば説明がまだだった。様子的に放っておいても答えに辿り着きそうではあるけれど、早めに話を通しておこう。
ということで全員を集めて軽い説明をした。やはりというか『サークルブルーム』の数名はこの大陸に来たことがあるようで、大陸を越えてワープしたことはさておき、この場所の雰囲気については納得していた。それに比べてうちのメンバーは、またまたぁって風にまだ信じ切れていない感が感じられるのだけど放っておこう。次第に受け入れるでしょ。
「あ、皆さんも来たんですね」
粗方説明が終わった頃、唯一この場に居なかったるる。が物陰から姿を現して無事に合流を果たした。
「本当に別の大陸なんですね。外の景色が全然違いました」
「え、マジで!?」
「…どんなの?」
「それは自分の目で見た方が…」
何故か明言を避けている様子だけれど、其処は驚きを温存しているということにしておこう。別に驚き確定では無いと思うけれど。新鮮な反応を温存したということで。
「それにしても、以前に聞いた事はありましたがあんな風に出現しているのですね」
「出現って、あのワープした渦のことか」
「はい」
「そういえば俺も心当たりがあるな…」
マリナとシグがそんなことを思い出したことで話題は先のワープのことに戻った。あのワープは少し前から存在は囁かれていたらしい。というより公式がしれっと言っていたとか。
「追加要素? …あー、言われてみればそんなこと書いてた時があったな」
「開放後とはあったが、場所までは言わなかったからな。すっかり忘れていた」
あのワープゾーンは次の大陸への道が開かれた後に追加されるショートカット要素だろうという結論に至った。というのも、公式が大陸が開かれる度に各大陸間に用意するという情報があったという他、先程攻略していたダンジョンが既に道が開かれた後に発見されたダンジョンであるということで、この説が最も有力であろうと判断したのだ。
「まさかあんなダンジョンの地下から、こんな辺鄙そうな場所に飛ばされるとは思わなかったがな」
「だが、飛ばされてすぐに戦闘というのも嫌だろう?」
「確かにな」
状況を確認しながら、ワープ先の情報を得るために一行は先に出口があると思われる一本道を進む。とはいえその道もそんなにあるわけでは無く、始めの部屋を抜けて少し歩いたぐらいですぐに出口へと辿り着いた。
そして抜けた先には大陸の名に相応しい蒼い景色が広がっていた。
「え…これって…」
「ほぅ…これは…!」
「「「海だぁぁぁ!!!」」」
一面に広がるのは広大な海。
大陸のはずなのに、今目の前にあるのは陸では無く紛れもなく海であった。それでその海のあちこちには重力を感じさせないぐらいにうねる水の流れがあったり、大きな渦も確認出来る。そして水流が妙な軌道を描いていたりする場所には、島々というか、陸のようなものが何故か水に沈まないのかと気になるぐらいに点々と存在している。
大陸が蒼を冠するに相応しいほどに大地よりも水に溢れている空間だった。
「よく見れば此処も小島なんだね」
現在自分たちが居る場所は島のようになってはいるが、先程のワープ先の部屋がある程度で、外に出てみれば不必要な部分を限りなく削り取ったように陸地部分が極端に少なかった。確かに敵が出ないというのも頷ける。戦闘をしようにもこれは狭すぎる。
さらに言えば現在地は、一面に海の様々な水流の動きを見れるぐらいには辺境に位置していた。あ、魚が跳ねた。
「此処は以前までの大陸とは色々と異なりますからね」
それは見た瞬間理解できる。そして恐らく皆は当然の疑問に当たるだろう。
「これってどう移動すれば良いの?」
此れまでの大陸とは違い、フィールドに大地がなく、海が広がっているとなると、歩いて進むというのは恐らく不可能だろう。水上を移動するなら船ぐらいありそうだけどそんなもの今は持っているはずはない。これもしかして詰んだ?止めるか?
「流石に初見で飛ばされた後、何処にも行けなくなるって事は無いでしょ……ないよね?」
「ないだろ」
「ない。普段は専用の移動手段でフィールドを移動する。だけど通常の手順でこの大陸に進んでもこの問題に差し当たる。その為に措置は用意されてるの。……こっち」
説明をしながらせんなは迷い無く近くの海水に足を踏み入れた。
水に入れた足は沈んでいくかと思われたが、ある程度沈んでから安定して、次の足を出す為の重心にしているので、水の中に道が存在することを示す。どうやらあの辺りは歩いて通れるように浅くしてあるようだ。そしてその足の行く先を確認してみると小さな集落が存在した。少し陰になっていたから気が付かなかった。
「つまり、飛ばされた初見の人は始めにあそこの村に行けと」
「確かに詰み防止は用意されてるか」
進める方向が其処しかない以上、一行は水の中に足を入れながら目的地へと進んでいくこととなった。
…ちなみに、大陸経験者の数名は既に水上移動手段を持っていたりするが、此処は流れに乗って黙っていることにしたのだった。
一応これで、3つ目の大陸に入ることは出来たのですが…どうしようかな…(´。`)
本編内容とは関係ないですが、今月はほぼ週二投稿にすると思われます。