8 初めてのダンジョン*
「思ったより鬱陶しいよね…」
「森…と言うよりは天然の迷路みたいね」
他のプレイヤーに倣い、木々で出来た入り口から森の中へと進入した。森は外から見た印象よりも深い。高い木が光をある程度遮っているから一定して暗く、だからといってじめじめとはしていない。静けさはあるものの他のプレイヤーの存在から其程孤立感等は感じない。そして道はまるで戦闘でも考慮しているかのようにある程度開けており、そしてとても迷路である。そう、迷路である。つまり絶賛迷っています。
「これって一応初心者用だよね…」
「…多分ね」
「その割には…ひどくない」
「…そうね」
もう応えることも億劫である。歩けど歩けど同じ景色、同じ場所をぐるぐる回り、そして…
―――――――――――――
フォレストスライム / Lv 1
ブルースライム / Lv 3
―――――――――――――
このように敵と出くわすまでがパターンとなりつつある。レベルも手頃で戦い方の練習になるのは良いけれど、繰り返していれば疲労感を覚える。もう何度もすれば、流石にスライム相手なら簡単に対処できるようになってしまった。そして何度も倒すうちにひとつ気になることが…
「で、結局これなんだろね?」
Akariが拾った一つのアイテム、その名も「苔の付いたピース」。
モンスターは倒した時、確率でアイテムを落とすのだが、このピースもその類で先程も戦った苔の生えたスライム、"フォレストスライム"が落とすようだけど、これがよく分からない。
「もう四つ目だけど何かに使うのかな?」
「どうだろうね。でも何かあるとすればそれなんだけどね」
何度も同じような場所を歩かされている気がするが、此れと言って変わった場所は無かった。何度も他のプレイヤーとすれ違ったが相手も同じように迷っているようだった。そんな中で唯一の手掛かりと言えそうなものがこのピース。ピースはフォレストスライムを倒した時に必ず落とし、そのフォレストスライムも他のモンスターと違って必ずレベル1で出るというところも気になる。初心者でも倒しやすいように1で出るようになっているのなら、このピースに必ず意味がある筈。
――――――――――――――――――
アイテム / 消費
名称:苔の付いたピース
説明:苔の生えた古びたピース。
ピースから不思議な雰囲気を感じる…気がする。
――――――――――――――――――
アイテム欄から概要を見てみたがやっぱりよく分からない。気がするって何さ…。
だけど、攻略の手掛かりがこれしかないからとりあえず集めてみるしかないか…。
「よっしゃ!これで六個だ」
「これでクリアか?」
「結構楽勝だったな」
ピースの謎に惑わされている時、遠方に三人のグループが現れた。エルフ、ドワーフ、犬人のパーティだ。彼らも丁度、ピースのことを話しているようだった。
「これを合わせればいいんだったよな」
「そう言ってたと思うぞ」
「えっと…おっ、〈森の円盤キー〉になったぞ」
「まさか、それがクリアに必要だとは思わねえよな普通」
「だな。そんじゃ行くか」
エルフが手にした円盤キーを掲げると、光がパーティを覆い、三人組はどこかに姿を消した。
「…今の見た?」
「やっぱりこれが奥地に辿り着くための鍵だったのね」
「なら、絶対集めないとね。いいところに敵が居るし」
――――――――――――――
フォレストスライム / Lv 1
イエロースライム / Lv 2
イエロースライム / Lv 2
――――――――――――――
Akariの言う通り、いいところに現れた。必要と分かれば遠慮は要らない。必要なのは六つ。残りの二つも早々に狩らせてもらおう。
◇ ◇ ◇
意識して探すと意外に居た。やはり攻略の鍵の欠片を持っているから、そこそこ出現率は高めなのだろうか。逆に考えると、意識して探さないと偶にしか出会わなかった私たちって…
「思ったんだけどさ」
「何?」
「この収集仕様って、初心者に強制的にレベルを上げさせる為だったりするのかな…?」
「状況次第じゃない?」
仕様が分からず延々と彷徨ったりしていればその言葉通りにレベルは上がるだろう。ただ物は考えよう。仕様さえ分かれば方向音痴でも集めれば奥に辿り着けるようにされている点は初心者に優しく思える。敵に関しては其程動かなくとも出てくるからね。
そんなことはさておき、目的のピースが六つになったことだからあの円盤キーを作ればいいんだよね。確か、彼らはウインドウを操作していた筈。
そう思ってメニュー画面を呼び出すが、彼らが「合わす」と言ってたのでそれ用の機能があるのかと思ったがそれらしいものはなかったので、アイテム欄の「苔の付いたピース」を選択すると、先程までなかった文章が追加されていた。
―――――――――――――――――――――
アイテム / 消費
名称:苔の付いたピース ×6
説明:苔の生えた古びたピース。
ピースから不思議な雰囲気を感じる…気がする。
6つを使用することで【森の円盤キー】にすることが可能です。
作成しますか? 〈YES〉/〈NO〉
―――――――――――――――――――――
恐らくこれだ。YESを押すと画面に六つのピースが現れ、それが繋がって一つの円になり、画面の外に実体化した。
「できた」
実体化したそれを手に取って見ると、ピースの時に付いていた苔は無くなり、表面には不思議な模様が刻まれていて、欠けたところもない綺麗な石の円盤だった。粉ひきに使えそう。
「で、これをどうすればいいんだろう?」
先人の真似をして掲げてみても何も起きない。これで鍵は完成した筈であり、何か他に必要ということもない筈。ではなぜ起動しない?
「アイテム説明に何か書いてないの?」
そう言われ、円盤に触れて説明文を呼び出す。
―――――――――――――――――――――
アイテム / 貴重品
名称:森の円盤キー
説明:プラクティスフォレストの奥地に入る為に必要な鍵。
森内部で使用することで使用者を含むパーティを奥地にワープさせることが 出来る。
使用しますか? 〈YES〉/〈NO〉
―――――――――――――――――――――
アイテムが貴重品に変わっている。と、そんなことよりここを操作すればよかったんだ…。じゃあ掲げる必要まったくないじゃないですか。なぜあげたし。
YESを押すと説明文が消え、円盤が光を帯びる。そして円盤から光が放たれて視界が全て白に覆われると、次の瞬間、先程までいた場所とは違う開けた場所に立っていた。
「おお…!」
――――良いの出たか?――――
――――ちょっと休んで――――
まだ森の中ではあるが先程と違って小さいながら賑わいがあり、その場所は視界が開けていて、中央には石でできた台とその上に展示品のように置かれた何かがあった。その場に辿り着いた他のプレイヤーたちが皆、中央の台に向かって進み、台の上の何かに触れると?ある者は喜び、またある者は用は済んだとばかりに立ち去って行く。皆、中央のものが目当てだと分かる。ならばそれがスキルを覚えられるというアイテムだと推測できる…のだが、それなら何故持って行こうとはせずに触れただけで喜んだりするのだろうか?
「映像?これがスキルを会得できるアイテムなの?」
疑問は近くで見てみて分かった。台の上のアイテムは投影なのだ。円盤キーとは違い実体がない。試しにそれに手を触れてみると、システムメッセージがアイテムを獲得したことを知らされる。確認してみるとアイテム欄には「秘伝の書 "序"」という名前が増えていた。成程、こうすれば争いを起こさず皆が取れるようになるのか。
?マークを浮かべていたAkariも真似てアイテムを獲得できたようで、すぐにアイテム欄からだして実体化させていた。
「此れを使えば直ぐにスキルを得られるんだよね。どうする?今すぐ使っちゃう?」
「そのことなんだけど…」
先程アイテムを確認するときにチラッと見てしまったことがある。
「現実の時間もうすぐ五時なんだけど!」
「あちゃー、もうそんな時間か」
「これってどうすれば帰れるの?」
「いや、普通にメニューからログアウトを選べばいいんじゃない?」
そう言われたからメニューを呼び出してみると下の方に確かに存在した。其れならと問答無用で〈ログアウト〉を選ぼうとするとAkariに止められた。
「ログアウトするなら街の宿とかそういうゾーンの方がいいよ?色々と安全だから」
「なら早く戻ろう。スキルはまた明日ということで」
そこからは早かった。
森の奥地には滑り台のような通路が入り口辺りまで繋がっていて、それを使って戻りもとい排出されてから急いで街に付くと、適当な宿を借りてログアウトした。次からは帰路分を含めた時間の事も頭に入れておこう。
ステータス
未所属
詠 / 狐人
Lv 6
―――
―――
HP: 85 (HP+150) / MP: 165
STR(攻撃力):9 (STR+16)
VIT(耐久): 10 (VIT+10)
INT(知力): 21
MND(精神力): 25 (MND+5)
DEX(器用さ): 18
AGI(素早さ): 33 (AGI+10)
LUK(運): 16
BP : 5
装備
「ノーマルアロー」(STR+8)(重複)
「ノーマルダガー」(STR+8)(重複)
「旅立ちの帽子」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのシャツ」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのロングスカート」(MND+5、HP+50)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
ステータス
未所属
Akari / 鬼
Lv 7
―――
―――
HP: 175 / MP: 90
STR(攻撃力): 30 (STR+15)
VIT(耐久): 24 (VIT+20)
INT(知力): 15
MND(精神力): 17
DEX(器用さ): 20
AGI(素早さ): 21 (AGI+5)
LUK(運): 11
装備
「ノーマルブレード」(STR+15 AGI-5)
「ノーマルシャツ」(VIT+10)
「ノーマルズボン」(VIT+10)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)