68 詫びと招待
「本当申し訳ない」
「あ、いえ、大丈夫です」
軽い口喧嘩ののち、シグと呼ばれた人が此方に視線を移してから謝罪の意を込めて軽く頭を下げてきた。しっかりと片腕でフィルメルに頭を下げさせながら。
「ちょっ、痛いって!」
「お前ももう少しその癖を直そうと思ってくれ」
…苦労してそうねあの人。
シグの格好を今一度見てみると、身体的に変わった部分が無いところからヒューマンのようで、大きなマントで身体を覆っている。旅人とでもいった風貌だろうか。
そんなシグが一切分からない此方に対してしてくれた説明によると、今回襲ってきた理由はフィルメルの悪い癖であり、近い言葉を挙げるなら其処まででは無いけれど戦闘狂というのが一番近いだろうか。普段は問題が起きないように知人が見張っているらしいが目を離すと、単なる暇潰し目的であったり、興味のある相手を見つけたりすると、その相手にちょっかいを出しては戦っているという。そうして戦いを挑んでは、HPは無くなるまではせず、ある程度楽しんだら帰っていくという、結構人迷惑な子だ。
「いいじゃん、たまにそういうイベントもあるでしょ?」
「あった気もするが、奇襲の必要性はなかったぞ」
「えー、そうだっけ?」
「…ったく。とりあえずまたやった事は伝えておくからな」
そう言ってシグはメニューを呼び出しては何かを打ち込み始めた。きっとメッセージでも書いているのだろう。
そして通報されている当のフィルメルはというと、特に焦っている様子も無いが、また勝手に何処かへ行こうとしては首根っこをシグに捕まれて止められていたりする。懲りない。
「…これでよし。一度戻るぞフィルメル。見つけたら回収するように頼まれていたしな」
「えー、別にうちのレギオン、行動の度に一々集まったりするんじゃないから戻らなくてもいいでしょー」
「そういう話じゃ無い。好きに動くのはいいが、勝手に動いた先で迷惑かけられたら此方が困るんだ」
何度も尻拭いをさせられたのか、その言葉から随分と苦労しているように感じる。フィルメルを引っ張る手も容赦がないように見える。まぁ、しっかり掴んでおかないとほいほいとすり抜けそうなのは確かだけど。先程までの動きから考えて。
――――――ピコン。
「ん?早いな。……。」
フィルメルを引っ張っていこうとするシグから電子音が響いたと思ったら、シグが再度メニューを開いて何かを確認しだした。反応からするにきっと返信でも来たのだろう。そしてそれを読み終わると次は此方を向いた。
「こいつが迷惑をかけたことだし、君らも来るか?」
「いえ、それはご迷惑になるので…」
「いや迷惑なのは此奴だから気にしなくてもいい。許可も今出されたことだし」
どうやら先程の返信は、どうせなら連れてきなさい的なことを書いていたらしい。折角向くが言っていることを無下にするのも失礼か…。
「余所のグループと交流することってあんまりしてなかった良いんじゃない?」
「折角ですし…」
「…どうせなら何か見ていく」
皆もこう言っている訳だから、此処はお言葉に甘えておこう。
と、此処で一つの問題?が。
「あ、でも今フレンドが一人此方に向かっているのですけど、此れから向かう場所によっては合流出来なくなるかも…」
「それは恐らく大丈夫だと思うが、気になるのなら後で探しておこう」
そんなこんなで未だにフィルメルを引っ張るシグの後を追って一行は森へ。この方向は少し探索したけれど、何かがあったような覚えはない。
「そういえば何処に向かってるのこれ?」
「レギオンホームだ」
「レギオンホーム?」
そういえばそんなものもあったね。
レギオンホームとは、その名前から大体の予想が出来るように、レギオンで入手することで利用できるようになるレギオン専用の拠点である。詳しくは知らないけれど拠点を持てばプレイヤー間の交流の他にも何か出来るらしい。折角なのでその辺も今回で教えて貰おう。
「此奴のレギオンのホームがこの先にあってな。回収したから戻るように言ったんだ。」
「あれ? "此奴の"ってことは貴方は違うの?」
「ああ。俺は客人的なものだから属してはいない。」
シグはフィルメルやその仲間とはフレンドではあるが、同じレギオンに属してはいないという。それどころかレギオンに所属すらしていないソロということらしい。一応、フィルメルのレギオンとは交流を何度もしているらしいので、レギオンの仲間と言えなくも無い。
「それなのに面倒事を引き受けてるんだ?」
「知らぬ間柄でもないしな。それに……どちらにしろ火の粉が飛ぶのなら早めに片付けた方が良い…」
「あ、巻き込まれること前提なんですね…」
そんなシグに連れられ、一行は森の中の湖に戻ってきた。この辺りに交流場のようなものはなかったようなと思っていたら、シグは其処では止まらずに湖に沿って歩いて行く。すると、少し歩いた先に建物のようなものがあった。湖からでは微かに陰になっていて見えなかったようだ。
「着いたぞ。中に入ってくれ」
その建物は周りの自然を意識しているように、金属よりも植物などを生かした見た目となっている。屋根は葉で覆われており、扉には風通しを考えてなのか、締め切ったりはせずに代わりに布を垂らしている。
シグたちが入り口の暖簾のような布を潜って中へと入っていくので、その後を追う形で一行もその建物の中に入ることにした。