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電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
夏の終わりと蒼乱の大陸
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67 強襲する爪

作業時間は変わらないのに、ペースがかなり落ちてる…


 突然頭上から襲いかかってくる影に気付いたのも束の間、それは真っ直ぐにこちらを見据えていて、咄嗟に回避することで何とか躱すことが出来た。だけど、衝撃で生じた煙の中で淡い光が集まっていることに気付いた次の瞬間、それは煙の中から飛び出してその手の鋭い爪をこちらへと向けて突進をしてきた。


「うわ危なっ!?」


「……ッ!!」


 一行はなんとかその一撃を躱したかと思った時、通り過ぎたと思っていたそれはすぐ近くで止まっており、拳に次の光を宿らせて思い切り振るう。振るわれた腕から発せられた光が斬撃のように鋭く、衝撃と共に広がる。


「くあっ!」


「一体何!?」


 明確な敵対意思を受けて、吹き飛ばされながらもようやく思考を切り替える面々。各自すぐに体勢を立て直して敵を見据える。


「一体…何者よ…」


 そして其処でようやく気付いた。相手はエネミーでも何かしらのイベントNPCでもなく自分たちと同じプレイヤーであることを。

 そのプレイヤーの姿は見覚えの無い姿をしていた。エルフや鬼のような基本的な形の人種でもなければ、兎人や狐人のような獣らしさも見受けられない。その代わりに透明感と言うべきか、輪郭が揺らいでいるように靡いている。プレイヤーなのだからアレも歴とした種族には間違いないはずなのだが、やはり此れまでに見たことのある姿とは違う。…もしかするとアレが以前に聞いたせんなとは別の上級種族かという可能性が浮かび上がる。そうだったとするなら相手はかなりの実力かもしれない。


 相手は此方の疑問に反応する様子も無く、手に装着された爪が再び光を纏おうとしていた。理由は一切分からないけど攻撃意思はまだあるらしい。そんな相手の頭上にはプレイヤー名が表示されている。


「フィルメル…それがアイツの名前か…」


「何度見てもプレイヤーよねアレ…」


「え、プレイヤー!? プレイヤー同士では〈決闘システム〉じゃないと戦えないんじゃないんですか!?」


「別にそういう決まりは無かったと思うよ」


 るる。が少々混乱しているが、プレイヤーの戦闘が禁止されているのは安全圏の街中に限った話。〈決闘システム〉はそんな街中に限らず場所を問わずにHPのセーフティの付いた対戦が出来るだけ。フィールドに出てしまえば決闘を介さずにダメージを与えることは可能になる……現状のように。


「あーもぅ!向こうから喧嘩売ってきたんだからどうなってもいいよね!」


ガキン!


「確かに……ねっ!」


 セーフティは無いのでHPが尽きる恐れもあるけれど、相手の目的が分からない以上応戦しないと全員やられる。…だというのに少し妙に思える。相手の攻撃に遠慮は無いけれど其処まで削ろうとしているかは少し疑問が出る。そう思わせるように此方の反応を待っているかのように攻撃していなかったりする。スキルの再使用待ちとも思えなくはないけれどそこは別のスキルの使えばいいだけのことだし…


「わんたん!」


「オッケー!」


 相手の意図を読めないでいる内に、応戦の意思を見せたAkariとわんたんの近接組が相手に斬りかかりに行く。


「こいつ早い!」


「このっ!」


 だが、二人の連携は嘲笑うかのように軽く躱されている。というか本当に笑っている。まるで遊んでいるように。


「……猿みたい」


「あー、確かに。傍から見てると猿に遊ばれてる光景ね…」


「そんな暢気に言っている場合ですか!?」


 いや、相手は一人だし。

 とはいえ、二人が全く相手に攻撃を当てられていないばかりか、反撃を貰っているのは事実だけど。でもなんとか直撃は避けている。


「仕方ない…」


 喧嘩を売られたとはいえ数的有利は大幅にある上に絵的にアレなので、応戦しようと決意しても少し躊躇われていたけれど、こんなに実力差があるのなら手を出さざるを得ない。


「二人とも一度離れて!」


 そう言った後に牽制の意味を込めて矢を射る。早い相手に当然矢は当たらないが、この矢を合図にたんぽぽが武器を携えて接近、るる。が魔法で援護を開始する。


「…早い」


 乱戦に慣れているかのように、スピードを意識していると思われる相手は被弾を恐れないような大胆な動きで攻撃を躱し続け、そこから急に進行方向を変える。その先にはわんたんが。

 相手の爪に再び光が宿る。


「ぃっ!」


 加速と共にわんたんに突撃して吹き飛ばし、そのまま今度は詠へと接近する。矢を真っ直ぐに射っても足下に射って進行妨害をしても効果はなく、爪撃が迫る。



―――キッ



 爪が迫ろうかという瞬間、詠の前に突如として赤い光が出現する。


「〈ファイア〉!」


 突如発生した炎が身代わりのように爪撃を受け、炎の勢いで衝撃は抑えられて、その上で両者を弾く。

 そして距離を取らされた相手の頭上にはジャンプしたAkariが。


「…っ」


「…、〈エンフレア〉!」


 認識と共に術を唱え、武器を構えて落下しているAkariの前に赤い魔法陣が出現する。これで付与が伴うはずなのだが今回は違った。

 Akariの武器に炎のようなオーラが纏うのでは無く、Akari自身が出現した魔法陣を通過し、その身に炎を纏って突進する。


「!?」


「…!」


「いっけぇぇ!」


 炎を纏った一撃はようやく相手に文字通り一太刀を入れる。そしてAkariは武器に炎が残ったまま、追撃をかける。その追撃では接触時に炎のエフェクトが入るのはいつもと変わらなかったが、先程の一撃は一体…。

 などと思っているとスキルの入手を告げるアナウンスが出現した。その内容は先程の正体であり、どうやら今のが先日のスキル〈リンクドライブ〉による連携技らしい。



――――――――――――――――――――――――――――――――

○魔炎刃 

 ※連携技 

 効果:仲間の作り出した魔法陣を通過し、炎を纏って相手に突撃する。

    使用後、接近側の攻撃に一定時間、【火傷】性質を付加。

 性質:【斬撃】【火傷】【妖魔】

 消費MP:25

――――――――――――――――――――――――――――――――



 元のスキルの関係なのか、使用後に付与効果があるらしい。今のAkariに付与が成立している訳はこれらしい。…というかこんな早くに習得出来る物なの?それなら一か八か色々と試してみる価値もありそう…


「Akari、そのままで!」


 それならと、こんな状況にも関わらず実験も兼ねて接近戦を試みる。射撃をするにしても分が悪いし、〈体術〉を得た今なら素手でも戦える。


 とはいえ、近接は相手の分野。そう簡単に攻撃は通らないはず。なので以前にも使った至近距離の〈ファイア〉を絡めながらAkariと猛攻を仕掛ける。至近距離〈ファイア〉は被弾する恐れもあるけれど今回は援護もある。


「――っ、そのなりで近接とは面白いな!」


 此処で初めて相手がまともに喋ったが、攻撃は止める気は無いらしい。それなら此方も続けるしかない。

 時折、るる。の援護やわんたんとたんぽぽの攻撃で注意を引きつつ、二人で当たらなくとも猛攻をかけ続ける。


 決め手はイマイチ無いけれど思ったよりは善戦している…というよりは相手が遊んでいると言った方が正しいだろうか。先程までの動きなら幾らか避けれるであろうものをわざわざ爪で反応しているのだ。本当に何を考えているのか。


「――ッ、このまま畳みかけるよ!」


 Akariのその声に、詠は手に小さな炎を、Akariは刀にスキルの光を纏わせる。すると二人は意図せぬ力によって身体が動かされた。


「これって!?」


「まさか狙って出せるとはね…!」


 淡い光を纏った刀で斬り、手のひらに携えた炎で叩きつける。二人は見えぬ力に動かされるまま、相手に交互に攻撃を加えていく。



――――――――――――――――――――――――――――――――

○フレイムダンス 

 ※連携技

 効果:炎魔法を近接に転用し、魔術と格闘、

    二人の連携から踊るように繰り出される連続攻撃。

 性質:【斬撃】【火傷】【人間】【獣】

 消費MP:40

――――――――――――――――――――――――――――――――



 発現した連携技は徐々に相手の防御を崩していく。切れが増した動きが防御をこじ開けて手加減なく攻撃する。


「……ふぅ…」


 連携技が終わり、相手が距離を取る。

 連携技を入れても相手のHPはまだ半分程残っているが、不思議なことに始めほど戦意を感じない。その証拠に離れてから爪を下ろしていたりする。


「これは…ようやく話せるようになったと思っていいのかしら?」


「そこんとこどうなの?フィルメルって人ぉー」


「……君ら結こあいたっ!?」


 フィルメルもようやく話す気になったかのように、武装を解いて口を開いたかと思ったら、突如後ろから現れた人影がフィルメルの頭を小突いた。


「全く……頼まれたから探しに来てみればまたやったのかお前…」


「ちょっとシグ!何すんの!」


 現れた人とフィルメルが軽い喧嘩を始めたのを、詠たちは状況が分からずに少々眺めていた。


「何アレ…?」


「さぁ…?」



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