番外編 〈アンサー・トーカー〉1
ファッション! パッション! クエスチョン!
…何故言ったのかは読んでくれれば分かります。
「…なんか増えてない?」
「言われてみればゲートが増えてるね?」
ある日、いつものように『バーチャルリンク』に入ると、その世界の中には確かな違和感があった。普段は真っ直ぐに突き進む所を立ち止まって視線を少し回してみると、五つだったはずの門の数がさらに増えているのだ。そこは幾度と帰りの時に見えていたはずの場所なのだが、前回の帰りの時には何も無かったはずである。いつの間に。
「折角だし行ってみない?」
「…そうね。集合の時間まではまだあるし、行ってみようか」
今日も中で集合する予定ではあるのだが、朱里の要望で約束の時間よりも早めに来たのでまだ時間が余っている。少しぐらい寄り道しても大丈夫なはず。此処から得られる情報からしてそれほど時間を使ってしまうこともないと思われる。
そういうわけで方向転換して向かった先の門は他の門よりも小型のようである。そして其処には【アンサー・トーカー】という名称が記されていた。
アンサーという名前と、名前の近くに幾つか描かれている?マークで大体内容は予測できる。
「クイズかぁ」
「ふっふっふ…腕が鳴るねぇ…」
…普段のテストでもこのくらいやる気出せば良いのに。というのは言わないでおこう。同じ答えがあることでも形式一つ違えば大分違って思えるからね。気持ちが軽いというか。
二人はそんなことを話しながら同時に小型ゲートを潜る。
すると瞬時に景色は真っ黒へと変わり、暗闇から一つの声が聞こえた。
―― 問題。君たちは謎に挑む者か、○か×か ――
周囲は明るくなり、目に入ってきたのはホールのような場所だった。
そしてその場所に○や×の記号が刻まれた人型が立っていた。人型と言ったのは全身スーツのような見た目で顔が無かったからである。
『正解は○。
ようこそ、謎が絡まる【アンサー・トーカー】の世界へ』
その人型は二人を目視すると真っ直ぐに近付いてきた。どうやらあの人型がこの場所におけるナビゲーターのようだった。
ナビゲーターは二人の前で止まると案の定簡単なナビゲートを始めた。
『此処には問題を絡めたコースが複数用意されている。と言っても大きく分けてまだ二種類しか無いがね。それでも順番に説明するとしよう。
まずは君たちから右側を見てくれ』
ナビに従って右側を見てみると上にルービックキューブのような四角形が投影された扉が存在した。
『右側に見えるのはTHE LABYRINTH。問題を解いてゴールへと進んでいくコースだ』
「要は脱出ゲームみたいね」
「あー、そういうやつか」
一時期リアル脱出ゲームってよく聞いたし、アレもその手のものを取り入れたのだろう。
『次は左側を見てくれたまえ。
彼方に見えるのは王道のQUESTION ANSWER。【アンサー・トーカー】における基本のコースだ。問題を解く他に自分で問題を登録することも出来る。』
左側には上に豆電球のようなマークを投影された扉。其処が基本であるらしい。こういう場所で基本と言うことは早押しクイズのようなものだろう。おまけに自分で問題も作れるらしい。視聴者投稿みたいな感じだね。それにしても何故投影が豆電球なんだろう……ひらめき?
『コースは此れから順次増えていく予定だ。是非楽しみにしていてくれ。それでは好きなコースを選んで謎に挑むと良い。』
そう言い残して人型は後から入ってきたプレイヤーにナビゲートをするために離れていってしまった。本当に言うべきことだけ言っていったなぁ。
さて、どうしようか。時間はあるにはあるけれど、そんなしっかりとしていれば大分時間を使うだろうし、此処は簡単なものが良いだろうか?……簡単なものってどれだろう?基本?
「ほー」
などと一人で悩んでいるうちに朱里が先に行っていた。朱里が居たのはTHE LABYRINTHの扉の前だった。
「あえての変化球と行きますか!」
「変化球って…時間かからない?」
「ものによってはあまり時間を使わないみたいだよ」
「そうなの?」
そういった情報を何処から聞いたのか分からないけど、周囲に居た他の人たちから聞こえた話によると、中には幾つかのパターンが用意されているらしい。確かに幾つか用意されているのなら、ものによって使用時間が違うかもしれない。
それならとTHE LABYRINTHの扉を潜った。
するとその中はまた別の空間に繋がっており、複数の道に分かれていた。此処で難易度を選ぶようである。各道の先にあるものについての説明は道に入る前のパネルに表示されていた。その内容はアスレチック要素の高いものからパズルを重視したものなど様々。
「へぇ…説明に平均使用時間とかも表示されてるんだ?」
「あ、これ簡単そう」
「どれ?」
朱里が示すコースを確認してみると、それは謎解きよりもアスレチック要素が多めと書かれていた。確かに朱里にはこっちの割合の方が向いているだろうけど…
「これはこれで難しそうなんだけど……」
というか、前情報を見れば見るほど簡単には思えないのだけど。主にアスレチック要素の方で。というか脱出ゲームがごり押しになるよねこれ。表示されているマップに関しては形が異様だし…。
「じゃあ、難易度を下げてこっちは?」
「…それならまだ優しいそうね。じゃあそれで」
コースも決まったことで、二人はそのコースの道へと入っていく。
道の進んだ先にマップ内へ行くのであろう転送ゾーンがあり、それを使うことでいよいよマップ内へと足を踏み入れる。
「さて、スタート地点ってことで良いのよね?」
「多分ね……ん?何これ?」
転送後、程なくして二人の手首辺りが光った。気付くと腕にはデジタルの腕時計のようなものが付いていた。見覚えもなければ付けた覚えもないので此処に関係のあるものなのだろう。
そして時計に気を取られていると前方に発光体が現れる。そしてその発光体が変化した文字が音と共に開始を知らせると、腕時計の数字も動き始めた。
「あ、動き出した」
「時間が減っていくってことはこれが時間制限ってことか…。すぐに確認が出来るのは有り難いかもね」
「それなら始めますか。さーて始めの問題は何処だ?」
説明で見たときの仮マップは、端のエリアを起点とするなら端から一方向に少し伸びた後、其処から幾つかに伸びるような形をしていたと思うけど、今居る部屋は何処にも繋がっていない立方体の部屋。恐らく此処から道を開いて行くのが正規なんだろう。
そうなると、問題がある場所は四方の壁の何処かかしら…
試しに一方向の壁を適当に触っていると、壁がモニターとなって問題が現れた。
【問題。
"青"の英単語は次のうちどちらか。正しいと思う方に進め。
A,RED B,BLUE】
問題が表示された後、問題の空白部分に二つの扉が現れた。その扉にはそれぞれ大きくAとBと書かれている。
「この程度なら簡単だね」
このマップの難易度がそれほど高くないというのもあるけれど、どんな人が挑戦するかも分からないから必要以上に問題のレベルを下げているのかもしれない。…ただ単に始めだからというのもあるけれど。
それで問題の方はというと、これは特に問題もなく二人同じ答えを出して扉を選ぶ。選んだ扉の先は隣の部屋へと続いていた。選ばなかった方の扉は消えたけど、もし選んでいたらどうなっていたのだろうか?
「……石?」
訪れた部屋の中は先程とあまり変化のない部屋だった。だけどその部屋の中央に先程には無かった台があり、その上には宝石のような青い石が置かれていた。石は台から着脱可能らしい
「外せるけどどういう意味かしら?」
「とりあえず持っておけば?もしかしたら集める必要があるかもしれないし」
「そうね」
ということは後でこれを使った問題もあるかもしれないわね。無くさないようにしないと。
「で、次は…」
「これだね」
【問題。
次のうち、読み方が"はたはた"となる漢字はどれ?
A,鰰 B,鰤 C,鰍】
大体場所は同じだろうからと壁を調べると問題が現れた。今回の問題は三択らしく、正面の他に左右に扉が出現した。今回は方向が異なるのか。それで問題は漢字かぁ。
「なんか…急に難易度上がってない? ぶり以外読めないんだけど…」
「確かに、赤か青かに比べれば難易度は上がってるかもね」
これは確かAね。Bは朱里が読んだようにブリだし、Cは…カジカだったかな? 兎も角答えはAだから扉は正面のものを。
正面の扉の先は同じように部屋が広がっている。そしてその中央には石が乗った台。石があるということは選択は間違ってはいないはず。
「割と順調に進むね」
「今のところはね」
確かにこれくらいなら単なる問題だから良いけど、二問目からの急な難易度の変化のこともあるし、クイズじゃなくひらめきを求める謎解きがこれから出てきたりしたらまた違うかもしれないわよ。
「まぁ、時間制限もあるからすんなり進めるのは良いんだけどねー」
そう言いながら次の問題を探し始める。そして表示される問題。先程あのようなことを思って早々変わった問題と出くわした。
【あれは昨日のことでした…】
「はい?」
【昨日の帰り道、何か視線を感じるなぁ…と思って後ろを見たんですけど何もなかったんでおかしいなぁと思ってまた歩き出したんです。だけど歩けど歩けどずっと視線が離れないんです。そしたらね、出たんですよ――
A,友達 B,烏 C,鰤】
「「知るか!!」」
◇ ◇ ◇
「これで石は…六つかぁ」
「問題の幅は大分増えてきたけど、石の活用出来そうな場所は今のところなさそうだね」
二人は順調に問題を解いては次の部屋へ行っては石を回収している。此処までの問題は計算だったり漢字だったりなぞなぞだったりと問題の方向性がばらけてきた。特になぞなぞに関しては壁面パズルなどが取り入れられていたりした。お陰でそれなりに時間が減ってしまったよ。
ちなみに、準備を聞かれた先程の問題に関しましては、恐らくだけどどれを選んでも同じだった気がする。言うならばサービス問題。なら何故用意したって言われそうだけどそれは分からない。
「時間的にそろそろゴールのヒントぐらいは出てきて欲しい所だけど…」
「どの辺まで進んでるのかすら分からないからねー」
此処まで一問辺りに使っている平均時間を元に考えても余裕を持って残りは多くても二、三問くらいにして欲しい、そう願いながら次の問題を表示させる。すると――――
【地に星が宿るとき 青き塔が天を指す】
それは問題というには不可思議な文章であった。
「なにこれ? これが問題?」
「なぞなぞにしても突然だから、どちらかというと暗号に近いかもね…」
此れまでの流れから問題の方向転換をする理由も思いつかないし、問題としても文章が表示されるだけで選択肢が現れないのも妙である。此処までの問題は全て数は違えど選択問題にされていた。なのにここに来てそれがない。もしかするとこれが最後なのだろうか?
「もしかして別の場所に選択肢があるパターン?さっきも進行エリアが別の場所だったりしたし…」
「そもそも選択問題ではないけど、別の場所で何か…っていうのは有るかもね」
「じゃあ一度戻っt―――」
ピー!
戻ってみる?と言い終わろうとした時、二人の手首に付けられた腕時計が突然騒ぎ出した。何事かと確認すると、時間を表示している箇所が赤くなっていた。
【残り時間が五分を切りました。残り時間が0になった場合、脱出は失敗となりますのでご注意を】
ガチャッ―――
―――バシャー
「今度は何?」
「これって水…だよね」
腕時計が残り時間を知らせて静かになったかと思うと、今度は壁の上部に小さな隙間が出現し、そこから何かが流れ込み始めた。隙間は一つでは無く、各エリアで幾つか開いている。
流れているものは色を付けた水のようではあるけれど、水のような抵抗は感じない。濡れた感じもない。雰囲気ということだろう。だけど時間からして時間が無くなればエリア中が水に没するということだろう。そうなればアウト。
「どうなるにしても、この文章を解かないとね」
「うーん、単純に考えてこの"天を指す"の"天"ってのが次の道っぽいんだけど…」
「"青き塔"と"地に星が宿る"が分からないと。まぁ確証は無いけど星がどれのことなのかは分からなくもないかな」
もしこの暗号が最後だとしたら、此れまで回収した石の使い道は此処しかない。というか、そう思わないと次が思いつかない。石を星とするならば、"地に星が宿る"というのは石を何処か…文章通りに捉えるなら地面に置くか填めるかすればいいとなる。これで仮とはいえ何をすれば良いのかは判明した。問題は場所となる。
"青き塔が天を指す"というのは石を使った後に起こる事だと思われる。塔は真っ直ぐなものだから、青き塔と指される天は同じ場所だと読めなくもないのだけど、その塔の場所が文章からは読み取れない。
「どうせこういう書き方をするのだから何処でも良いってわけではないよね……」
「試しに置いてみる?」
「やめておく」
よくよく考えれば地面に配置するにしても無造作なのか何かの法則があるのかというのも有るのか…。星といえば、少し前の問題で星座の問題があったけど、関係があるのかどうか…
「やめておくとしても、あんまり時間無いよ? 試せることは試していかないと」
「それはそうなんだけど…」
気持ちは分かるけれど場所が違っていたならば、此処でしても意味が無い。せめて青き塔が分かってから…。此処までのエリアで塔は当然無かった。エリアの中にあったのは石が置かれている台くらい…そういえばそんなに高くは無いけど台も見方によっては塔と思えなくも無い。それ以前に他にそれらしいものは見当たらない。だけど台の中に青い台はないし、そもそも色の違いは特になかった。…だとすれば青は置かれていた物の色?
「だとすれば…」
「何か思いついた?」
「雑な読みだけど、時間も無いし行ってからにするわ」
「するわ…って、ちょっと!」
青い石が置かれていた台は一番始めに出くわした石がある部屋。その部屋を目指して二人は来た道を戻っていく。
そして例の台がある部屋まで戻ってくると、まず地面付近に何か無いかを探し始めた。
「…これ…っぽいわね」
台からは少し離れた場所、部屋の角の付近の地面に幾つかの窪みを見つけた。だけどその窪みは持っている石よりも数が少しばかり多く、試しに填めてみたが全て填めた後に少し光っただけで弾かれてしまった。
「光ったからとりあえずは此処で合ってるみたいだけど、問題はこれかぁ…」
弾かれたところをみるに案の定何かの法則があることは間違いない。確か文章には"星"と表わしていたから、数問前の答えの星座を今度は試してみることにする。だけどこれも光っただけで弾かれた。他の選択肢の星座を試そうにももう忘れかけているから上手く示せない。…もしかして、色の順番も指定していたりする?それはまた面倒な。
――【残り時間 二分】――
「朱里!星座の問題の答え覚えてる?」
「え、一応覚えてるけど」
「色も?」
「色!?そんな細かい所まで覚えてないって!」
それもそうだよね。まさかこんなところで回収されるとは思ってなかったし。
正直答えは残っていたはずだから確認が出来ないことも無いけれど、今から行って覚えて戻ってくるにしても時間は足りないはず。今取れる手は記憶を繋ぎ合わせることだけ。
「星座の答えを再現するから手伝って!」
答えの星座は狙ったかのように手元にある石だけで表わす事が出来る。狙ったも何も此処で使うように計算されたのだろうけど。
地面の窪みは一見雑なように見えるけれど、星座のことを考えればしっかりと用意されているように思えなくもない。
「確か始めは青だったよね…」
「この辺り赤かった気がする」
「え、こっちじゃ……」
――【残り時間 一分】――
「こんな感じだったんじゃない?」
パァァ……
記憶を手繰り寄せ合って地面に星座を刻んだ時、星座に光が灯り、その光が台に向かって伸びていく。そしてその光は台へと移り、台から天井へと光が伸びる。それによって天井の一カ所に入り口のようなものが出現し、そこから縄梯子が垂れてきた。
「もう大分沈んでるんだけど!?」
「多分あそこよ!」
二人は現れた縄梯子を急いで登って入り口へと向かう。
登り切った頃、丁度時間は無くなり、先程まで居たエリアは水に沈んだ。
「此処まで水は来ないみたいだけど、此処は何?」
急いで入っては良いが、周囲は黒一色で別のエリアなのかゴールなのかどうかも判断できない。もし別のエリアだったとしてももう時間は無くなったからこれで終わりのはずだけど…
――パァン! パァン!
【おめでとう。見事ゴールだ。】
軽い破裂音と共に周囲は明るくなる。
すると其処にはマネキンのようなものが立っていた。しかも喋る。
【今君たちが挑んだゲームはこれにて終了だ。
どうする? 別のものに挑戦するかい?それともこのまま終了するかい?】
「…じゃあ終了で。」
【了解した。ではこのままメインホールへと転送しよう。少々待つといい。】
そう言われてから数秒。二人の身体は軽くなるような錯覚に囚われ、気がつくとナビゲートを受けた始めの場所に戻っていた。
「なんかゴール後はあっさりと戻ってきたね」
「転送されたからね」
二人は軽く伸びをする。
まぁ息抜きには良かったかな。最後の方は結構焦らされたけど。
さて、そこそこ時間を使ったことだからそろそろ向かうことにしよう。もしかしたらもう誰かが入ってるかも知れないし。他のものはまた今度にでもすればいい。
【それでは、またの挑戦をお待ちしております。】
と言うわけで唐突に挟み込む番外編でした。
話数配分的にそろそろ章を変えようかなと思いましてね?
サブタイトルが1となっていますが今回は1話だけです。