65 アイテムなぞ、使ってんじゃねぇぇ!
「私と勝負だ!勝てば合格とする!」
そう言ったNPCが仁王立ちで此方を見ていた。
……あれ? 話しかけないと始まらない感じなの?そのまま行きそうな雰囲気出てたのに。
休む時間をくれるというのなら有り難いけれど、どうせしないといけないのなら早めにやってしまおう。
そう思い、軽い疲労でだれ始めていたAkariを起こしてからNPCに話しかけた。
すると、NPCは勝負内容を悠々と話し始めた。
内容は単純な戦闘。とはいえ、幾つかルールが存在する。
勝利条件はNPCのHPを一定数まで削ること。此方への制限としては此処まで通りの魔法などの使用禁止に加え、攻撃手段を指定してきた。指定したのは素手…"体術"による攻撃。
説明が一段落すると、二人の手に淡い光が纏わり付いて武具が装備された。先程の練習などとは違う、初心者用武器で見たことあるタイプだ。
それと同時に獲得を知らせるアナウンスが表示された。
【スキル《体術》を獲得しました※】
【注意!このスキルは一時的な獲得である為、条件を満たさない場合消去されます。】
スキルは報酬として得られると訊いていたけれど、ルールがルールだけに一時的に獲得したようだ。言うなれば前借り。
確かにスキルを確認してみると、このクエスト中限定と記されていた。その下にクエストクリアで獲得とも。
それは分かったけど…、内容を見て改めて思ったのだけど、武具を着けて無くても格闘で攻撃が出来るようになるのであって、専用の武具をしっかりと着けていたら別に無くても何とかなるらしい。威力が上がるとか補正が付いたり幅が広がったりするようだけど。
それならこの戦闘もどちらかだけでも良かったんじゃ……あまり触れないでおこう。お試しってことだと思っておこう。
そして前置きが終わるや否や、NPCの雰囲気が変わった。
格好が動きを重視した戦闘装束のようになり、手には布が巻かれ、頭上にはHPのゲージが現れた。完全に敵に変貌した。
「それじゃあ…始めますか!」
相手が軽いステップを踏みながら此方の様子を窺い始めたのを見て、Akariもボクサーを意識したかのような構えでそれに応じる。
先程までの雰囲気は何処かへと隠れ、機械的を思わせるような動きで此方の動きを待っているように踏み出しては来ない。プレイヤーではなくNPCである故に意思を感じないその動きは、妙な怖さを感じさせる。
「これ、待ってくれてるって取っていいのかな?」
「どうかしらね…動いた途端に来たりしてね」
カウンターを狙っているようにも見えてしまう以上、下手に動くことも躊躇われる。こういう状況は本当にどう取ればいいのか分からない。
「カウンターを狙ってるって言うならそれすら返してやれば良いじゃん。こっちは二人なんだからさ」
そう簡単に言うけど、私たちはそういう技術を持ち合わせてはいないのだけど?というか流れてから察するにそれ私の役目みたいにならない?
…だけど仕方ないか。
「努力はするけど、自分で躱す努力はしてよ…」
「はいはい、じゃあ…行くよ!」
そう言ってAkariが先に動き出す。
すると、それを見てすぐNPCも動き出す。
「ちょっ!?はやっ!」
ふいを突くような動きで一瞬でAkariの前まで踏み込んだNPCは、対応がワンテンポ遅れたAkariに向かって右ストレートを繰り出した。
「あぶっ!?」
躱して直撃はしなかったものの、顔を掠めたことでその分のHPが削られる。
詠が反撃に付こうにも反対側で行われているので、しようにも遅れてしまう。それならと攻撃に切り替え、Akariの陰を利用してそのまま側面へと出る。
「これなら…!」
勢い任せの蹴りをNPCの脇腹目がけて振るう。
「ぐへっ!?」
「まさかっ!?……きゃっ!」
詠の蹴りが届く前にNPCはあろうことか、伸びたままの腕を戻さずそのままラリアットという形でAkariを攻撃、そしてその勢いでその後ろの詠諸共吹き飛ばした。
「…大丈夫?」
「なんとか」
まさかあんな豪快に対応してくるとは思わなかった。巻き込まれた形の詠はそれほどHPは減っていないが、直撃のAkariは割と減っている。まだ一度も攻撃を当てていない状態でこの状況はキツい。思ったよりも加減が無いじゃないですか…
固まっていたらまた巻き添えもあり得るかもしれないから一度ばらけた方が得策なのかなこれは…
「…作戦変更。今は固まってたら危ないわ」
「確かにね。共倒れしたら元も子もなさそうだしね」
「じゃあ、動くなら今のうちに…」
相手はまた出方を窺っているのか、ペース配分のつもりなのか、連続で攻めてくる様子は無い。それを確認した上で静かに二人は別れる。
だが、それは突然だった。NPCの目が怪しく光った気がした。
――――――ダッ!
「跳んだ!?」
「ってか、なんでこっちなの!?」
Akariが今のうちにと、別れている間に受けた分を回復しようとアイテム欄からライフポーションを取り出して自身に使おうとした途端、NPCが突然高く跳躍し、その右手に力が宿る――
「うぉらぁぁぁぁぁああ!!!」
――ドドドドドドガガガガガガ!!!
落下の速度に乗せて地面に叩き込まれた拳が、周辺の地面を砕き、生じた衝撃波が瓦礫と共に襲いかかる。
「Akari!」
「大丈b…っ!」
ダメージは何とかなったようだが、NPCの奇襲はそれだけでは終わらず、すぐさま立ち上がってAkariとの距離を詰めては右ストレートを繰り出す。先程と同じ構図ではあるが、その一撃は先程とは違って感じる。
「…っ、それはさっきもされた!同じ動きなら!」
――ガスッ
先程と同じこともあってか、また拳が顔を掠めながらもカウンターのように自分の拳を叩き込むAkari。ようやくNPCのHPが削れた。
「っ――急にあの勢いは駄目だって!」
「と言いながら大体いなせてた気がするんだけど……まぁ、確かにさっきのは急だったのは確かだけど」
カウンターを入れた後、無理に追い打ちはせずに一度離れたAkari。NPCも離れたことで落ち着きを戻している。
それにしても先程の動きは何だったのか、奇襲と言えば奇襲だったのだけど、緩急などを無視して自分のペースすらも外れた反応をした気がする。条件反射などに近い。
条件反射で考えると原因は明らかに此方の行動。タイミングで言えば分散しようとした時。…いや、正確にはAkariが回復しようとした時ぐらいにNPCの目つきが変わったはず…アレ?
……。
「…Akari」
「何?」
「そういえば今回はアイテムも禁止されてなかったっけ?」
「……あ」
だからか。制限を違反したからあんな反応をした上に、此方には目もくれずにAkariだけを執拗に攻撃してたんだ…。
「つまりAkariが違反したから鉄槌が下ったと…」
「あー、確かに鉄槌だわ…。上から降ってきたし、狙ってきたし…」
「だけど、こう言うのもなんだけど…鉄槌の方がまだ動きが分かり易そうではあったよね」
豪快ではあったけど、単調でもあった。
そのお陰でやっと一撃を当てられたのも事実だし。
「そういえば回復は出来たの?」
「回復する前に襲ってきたから出来るわけないじゃん!
…まさかまた違反させようと思ってない。」
「それは流石に思ってない」
分かってもまたしようとは思わないけれど。制限には従う。
それにしても、実質回復が禁止されたようなことになっているのが厳しく思える。魔法が禁止されているが、魔法ではなく自己再生のようなスキルがあれば回復も可能だっただろうけどそのようなスキルは持っていない。これ此方のHPが無くなったらどうなるんだろう。
などと思っている間にAkariが突っ込んでいった。作戦はないんだろうなぁ…
「とりゃあああ!」
――――ガッ!
――――ドッ!
跳び蹴りから始まる連続攻撃も悉く防がれている。というか途中から同じ動きの繰り返しだから防がれて当然だろうか。
「それな―――らっ!」
今度は妨害されることもなく、詠が相手の背後へと回りそのまま攻撃に加勢する。詠の攻撃は防がれたが、その隙に前からAkariが攻撃を当てる。
いける! 反応はするけど身体が横を向いていなければ、前後を同時には防げない。もし防がれても今のようにどちらかが当てられる!
「この位置関係を維持して!」
「分かった!」
これを切っ掛けに、二人は相手との位置関係を何とか保ちながら攻撃を行う。たまに両方とも防がれることもあるが、それでも交互に攻撃を行うことで相手からの片方への攻撃も止めさせることが出来ている。
「―――甘いぞ!」
NPCの拳に光が宿る。まさかまたさっきの!?
「離れて!」
NPCは拳を地面に叩き付けて衝撃波を起こす。
二人はそれを先読みして退避していたことでダメージを逃れる。そしてそれによって出来た隙に向かって同時に攻撃を繰り出す。
「「てやぁあ!!」」
攻撃は当たり、NPCのHPはもうすぐ半分になろうとしていた。クリア条件であるHPのラインは半分を過ぎること。終わりが近づいていた。
「(それにしても…)」
今二人で攻撃を当てるとき、スキルを使った訳でもないのに光った気がした。とはいってもスキルとは違ってかなり薄くて淡い光だった気もした。アナウンスが出てないからスキルが出た訳でもないようだし、何だったのだろうか?
「あともう少し!」
「油断しないで!」
「…少しは動きが良くなったな。だが…これはどうだあああ!!」
どっしりと構えNPCの拳が再び光を纏う。また地面に向かってするのかと思われたが、今度のは姿勢が違う。おまけに今度は両手に光が宿っている。
「これは……」
どんなことをするのかは分からないけど、当たったらそれで終わりそうだ。
「なら使われる前に終わらせる!」
Akariが臆せずに駆けていく。
確かにそれは分かるけどそれは危ない!纏っている光が落ち着いている…アレはまだ使えないんじゃない、使わないんだ!
「Akari、横に避けて!」
「おらぁぁぁ!!!」
NPCの両手が勢いよく突き出され、発生した衝撃波が壁のように二人に迫る。だけど……咄嗟に回避したAkariはギリギリそれにぶつかることは無く、衝撃の範囲外から駆けていた詠と共にNPCへと向かっていく。
「これで――」
「――終われ!!」
二人の同時攻撃は光と共にNPCを弾き飛ばした。吹き飛んだNPCはHPがまだ残っているにも関わらず、すぐに起き上がるような様子は無かった。
【YOU WIN!】
「……ふぅ」
「…終わったー」
勝敗を示すアナウンスが現れ、
これで戦闘は終了。ということはクエストの内容も殆ど終わったって事で良いのかな?
それにしてもまた最後に光った気がした。なにこれ、エフェクト?
などと思っていたらその答えもすぐに判明した。
――――ピロン!
【スキルを獲得しました】
「おぉ、《体術》の正式獲得かな?」
「まだクエストは完全には終了してないんだけど…」
【獲得したスキル 《リンクドライブ》はマルチ専用のスキルとなっています。】
「……《リンクドライブ》?」
「マルチ専用とか言ってるけど?」
後続の文章から此れまでとはかなり異なるであろう獲得スキルを詳細画面を広げて確認する。中身を見てみれば中身も此れまで得たものとは確かに違っていた。
――――――――――――――――――――――――
○リンクドライブ
説明:仲間との絆により力は更なる段階へと昇華する。
このスキルを持つ仲間同士がそれぞれスキルを使用する場合、
連携技を発動することが出来る。
――――――――――――――――――――――――
此れまで得たスキルはどんなものでも何かしら効果や補正があったけど、このスキルはこれ単体では何もないらしい。……正確にはこれを必要とすることが出来るようになるのだけど、現状では使い方が分からない。
「ふぅん。変わったスキル」
「あっ」
変わったスキルの確認をしていると、いつの間にか起き上がっていたNPCが此方へと近寄ってきた。その頭上にはもうHPの表示は無かった。
「良い動きになったではないか。これなら少しはマシになることだろう」
「あー、ありがとうございます」
「これからは今の技術も活用していくと良い」
合格だ、とNPCが言葉を続けると、突如クエスト終了を告げるアナウンスが現れた。ここでクエストは終了らしい。受けた場所に戻って完了手続きをしなくていいらしい。
そしてクエストが終了した事で色々と情報が纏めてやって来た。
【EXPを獲得しました。】
【☆レベルアップ☆ ポイントを振り分けることが出来ます。】
【スキル《体術》を獲得しました】
大体の表示が終わった頃にはNPCは黙っていた。話しかけては世間話程度の同じ事を数パターン話すぐらい。クエスト内における役目を終えたと言うことなのだろうか。ならそろそろ休もうか。
「…とりあえず戻ろうか?」
「そうだね。大分待たせただろうし。それより家の中ってログアウト出来るのかな?」
「さぁ、どうなんだろうね。」
クエストを終えた二人はログハウスの中に戻って残りのメンバーと合流し、軽い雑談をした後、ログアウトを試みた。
ログハウス内はセーフティ判定だったようで、詠たちは問題なく元の世界へと戻ることが出来た。
「でかい音が聴こえると思ったらこれか。」
そして、詠たちがログアウトをするより少し前からその場を観察する影があった。その影は近くの木の上から静かに試練の行く末を見ていた。
「さてさて、どうしてやろうかなあの子たち……へっ」
イタズラを考える子どものように怪しげに笑ったその影は端々がゆらゆらと不安定な輪郭をしていた。
最後にレベル上がったの何時よ……
レギオン『Celesta Sky』
詠 / 狐人
Lv 24 → 25
―――
ターザンの同盟者
HP: 118 → 120 / MP: 230 → 234
STR(攻撃力): 30 → 31
VIT(耐久): 35 → 37
INT(知力): 56 → 58
MND(精神力): 68 → 70
DEX(器用さ): 44 → 46
AGI(素早さ): 92 → 97
LUK(運): 28 → 29
BP : 31 → 34