62 依頼人捜索
タイトルが思いつかない。
水辺での休憩を挟んで、詠たちは再び森の中を進み始めた。
場所的にはそろそろ指定されたエリア内に入った頃だろう。
ようやく指定されたエリアまで来たとはいえ、クエストは此処からだ。
このエリアの何処かに居る依頼主を見つけることが始まりである。
「さてと、ささっと見つけますか!」
「とは言っても、この広い場所を探すのはかなり大変よ。どれだけ時間がかかることやら」
森の中は相変わらず木々で溢れている。
まぁ森だから当然だけど、先までの場所に比べれば多くはあるけど木々の間の開けた場所がそれなりに見かける気がする。恐らくだけどその開けた空間の何処かにでも目的の人は居るのだろう。
それに、エリアは広く指定されているから開けた空間を重点的に探すだけでも、ヒントが無ければ、時間がかかるのは目に見えている。
あと、今回は先輩が居ないので、途中でログアウトすることも考えなければならない。出来れば早めに済ませたいところである。
「此処じゃ…ないか」
「向こうの開けたところにも居なさそうですね」
捜索を開始して手当たり次第に周囲を探す一行。だけどそれらしき人影は居ない。人影はないけど敵も今のところ居ないのは幸いか。
ちなみに探すのは基本的に依頼を受けた二人を中心としてである。
こういった場所での探し物は手分けして探した方が得策なのだろうけど、既に現れている場合なら兎も角、参加者が近付いた場合にのみ現れるようなものだと、クエストに関係のない人が見ても無駄となってしまう。
戦力的にもそちらの方で正解かな。
「それにしても、どんな人かぐらい教えてくれてればいいものを…」
「そうですね。ヒントぐらい書いていてもいいですよね。」
「彷徨ってろってことかバカヤロー!
何が"諸君らを鍛えよう"だ、そんなに構って欲しかったらそっちから来いっての!!」
「「そーだそーだ、クリームソーダ」」
皆が珍しく叫んでいる。まぁ本当に怒っているっていうよりは呼び寄せようとしているのだろうけど。
それにしても相槌適当すぎない?駄洒落なのそれ?
それで、向こうからどうこうの言い分は分からなくもないけど…これはこれで五月蠅いから。
そんな叫びが周囲に響くと、それに応えるかのように近くで何かが動いた気がした。音が聞こえ、その方向を見ると確かに揺れている。
それは徐々にこちらへと近づいてくる。
「何か来てる?」
「えっ、まさか本当に来た?」
………。
揺れはすぐ近くまで。
移動の際にちらっと見えた気がしたけど、これは恐らく違う。
――――ササッ―カササッ……
――――グギャ(敵が飛び出してきた)
――――ボッ(引火)
ギャアァァァァ!?
違うのは分かってたから出てくるのと同時に《ファイア》を放ってしまったけど良かったらしい。だけど武器を外しているからか、倒せはしないのは分かっていたけど、思っていたよりもダメージを与えられてはいない。制限って結構やり辛い。
「やっぱり敵かー!」
「…さっきので呼び寄せた?」
「ほんとごめんなさい!」
確かにさっきのが原因としか思わないねこれは。
まぁ、原因はどうあれ、逃がしてはくれなさそう。
「流石にこれは戦わないと駄目ね」
「あ、それなら私たちが戦います!」
「そのための分担でもあるしね」
武器が外れている私たちに代わって、三人が敵と対峙する。
装備がなくても先程みたいに魔法で攻撃できる私はともかく、Akariは厳しいからね。大人しく距離をとっているし。
此処はお言葉に甘えて任せよう。
――――――――――――
フォレストモンキー / Lv 17
――――――――――――
敵は一体のみ。
素早そうな敵ではあるけれど三人なら問題ないだろう。
敵のことは任せて、此処は周りでも見ていよう。もしかしたら対象人物が近くに居るかもしれないからね。…っと、その前に。
「《フィーア・エンフローア》」
唱えると共に周囲の味方の武器が強化付与を表わす炎のような燃えるオーラを纏う。代わりに戦って貰うのだからこれくらいはしておかないと。
範囲で付与するが為に武器を持っていないAkari自身にもオーラが発生して、どうしろとといった感じに此方を見てきているが放っておこう。そういう魔法なので。
「ありがとう!」
「…さっさと終わらせよう」
戦闘が始まった中、暇なので周囲を探す。
とは言っても、現在地から見える範囲は大体調べている気がしなくもない。木で隠れている所はさておき、見えている開けた場所は先程居た場所のはずだし。
それにしても、森の中は本当に方向感覚が無くなりそうになる。
看板などがあればまだマシだったろうに、そんな人工物はこんな自然の中にはない。マップデータがあるお陰でなんとかなっているくらいだ。
一体此処の何処に居るのだろうか…
「…ん?」
理由もなく顔を上に向けていて、ふとあるものが目に止まった。
それは木から垂れる蔓だった。
「よし、終わりっと」
戦っていた敵がポリゴンの光となって砕けていく。
戦闘も難なく終わって三人が戻ってくる。
それでも詠は上を見ている。
そういえばそっちの方が効率が良いのかもしれない。敵を回避できるかもしれないし。って言っても流石に其処までは出来ないか。危ない。
「どうしたのですか?上を見上げて?」
るる。が何処かを見ている詠が気になって訊いた。
「いや、遠くを探したりするのなら木の上からの方が良いのかなと思ってね。よく見ると登れないこともなさそうだし。」
そういう詠の言うように、何時ぞやのバウンドゾーンはないが、幾つかの木は長い蔓が上から手の届く範囲まで垂れている。何処ぞの野生児なら登りそうな状態である。
「あー、確かに上から見たら探しやすそうではありますけど…」
「…それは危ない」
まぁ危ないのは自覚している。思っちゃったものは仕方ないじゃないですか。だけど、今のままでも効率がいいとは言い切れないし。
「…ま、いっか。」
そう言ってAkariが垂れる蔓を引っ張る。引っ張るたびに上の葉が揺れているけれど、思いっきり引っ張っても千切れるような気配はない。
それを確認したAkariが何も言わずに登り始めた。あ、上ってくれるのね。
「どう?」
「向こうが来た方向だから……お、あっちの方にも広いところがあったよ」
「じゃあ、とりあえず其処を目指してみますか」
やっぱり上から見た方が見える範囲が広がるなぁ。訊けば見つけたのは一つではないらしいし。
まずはAkariが見つけてくれた場所に行って、居なかったらまた木の上から探せば良いか。
それじゃあ其処を目指して…
「あ、ストップ。
違う方向に変なのが見える!」
「変なのって?」
「此処からじゃよく見えないなぁ…」
他とは異なるようなものでもあったのだろうか? となると其処に行ってみる必要がありそうかな。もしかすると其処に対象が居るかもしれない。
◇ ◇ ◇
「何でしょう…これ…?」
「この間の木のエネミーに似てる気もするけど、襲ってきたりはしないよねー」
そういうわけで、Akariが見つけた"変なもの"の場所に来てみたのだけど、今探している人は此処には居なかった。
その代わりと言ってはなんだけど、確かに変なものを見つけてしまった。
「これって、人面樹ってやつ?」
「人面…って言うには顔以外の線も浮かんでるよね…」
一行の前に現れたのは人面樹よりもやけに人間らしいシルエットが見える一本の木だった。人間のシルエットがある他にサイズも周りに比べて何やら小さいと、不思議な雰囲気が出ていた。
少し前に木に擬態したエネミーに追われた身としては警戒してしまう。
「それにしても顔がはっきりしてるなぁー。女の子かな?」
「…分析」
――――――――パチッ。
……え?
――――――――ジー。
……う、
「「「動いたーー!?」」」
此処では書き溜めが有ったので、あまり影響を感じませんが、今回から執筆再開となります。
少しばかり環境?状況?…が変わったので誤字脱字ミスが増えるかもしれませんが、今後も大目に見てください<(_ _)>