59 特殊スキルを探して…
「うーん、それらしいクエストは見つからないね」
「此処には無いのでしょうか?」
クエストボードの前が空いていたのは良かったが、目的のクエストらしきものは中々見つからなかった。
詠たちは移動艇で修練島から翠の大陸に戻ってきた後、その足で集落大樹の中心まで移動し、今こうしてクエストボードに目的のものがないかと探していた。まぁボードの前を占領してまで探したのに、見つからないのだけど。
「スキルだから多分報酬が隠されてるものだと思うけど…」
「…ないね」
今貼られているクエストには全て律儀に報酬内容が書かれている。いや、それが正しい形なのだけど。
従者のスキルはないだろうとは思ったけど、二刀と体術のどちらもそれらしいクエストは見当たらない。というか報酬欄が隠されているもの自体が此処には無かった。
「これって更新されたりするのかな?」
「言われてみればどうなんでしょう?」
「するでしょ? でないと、もう誰もクエストを受けられないことになってそうじゃん」
クエストボードを見ていた数人がそんなことを言っていた。
そういえば、以前に先輩に似たようなことを訊いたことがある気がする。
確か、クエストボードに載っているクエストは基本的にゲーム内の時間で一日が経てば更新されるって言っていた気がする。その他にもクエストの総数が一定以下になっても変わるらしい。
今貼られてるクエストの数はまだまだ残っており、一日が経つにしてもまだ長いので、今回のログイン内では更新はないと思った方が良いだろう。
「いっそのこと前の大陸に戻ってみる?」
「いや、そこまでしなくてもいいんじゃない……ねぇ?」
いや、此処で此方に振られても。
だけど、他の場所のクエストボードを確認するというのは偶には良いかもしれない。…前の大陸まで戻るのは時間がかかるだろうけど……あ、そういえばこの大陸の中で他にクエストを受けられる場所を私たちは知っている。
「それなら、あの場所に行ってみる? 称号を付けてたら大丈夫なはずだから」
「あの場所?称号?」
「あー。確かにあそこも一応は揃ってたか」
Akariは言っていることを悟ったらしいが、他のメンバーはイマイチ伝わっていないようだった。君たち結構居座ってたんじゃないの?
「ほら、ターザンの…」
「「「あー」」」
そこまで言うとようやく伝わった。変に伏せずに始めからそう言っておけば良かった。それほど時間を無駄にしたということは無いけど注意しておこう。
「それじゃあ今度はそっちに行こっか。……で、場所何処だっけ?」
行くとなったのは良いけど、問題は場所である。正直正確な場所までは覚えていない。他のメンバーも同じようなものらしい。無理もない。何度か迷ってたからなぁ…。
一斉にマップを確認し出す一同。
マップと言っても場所が隠れ家的なものだけに、通常のものには記されていないだろうから、ギルドの備え付けのマップではなく、行ったことのある自分たちのマップを確認する。
「…あった」
「結構離れてますね」
「確認だけど本当に行くんだよね?」
そりゃあ、行きますよ。
今回はそういう目的ですから。
そんなわけでターザンのアジトを目指して、一行はギルドを後にして方向を確認しながら集落大樹の外へと歩いていく。
「分かってたことだけどさぁ…もう少し何か無かったの?」
「何かって何?」
「ぱっと行くぅ?的なものをないのかなぁ……無いよね。はい」
自分で聞いておいて自分で完結してしまったようである。fin。
まぁ、詠も聞き返しておいて何を言いたいのかは何となく分かっていた。恐らく移動のことであろう。
集落大樹からターザンのアジトへ向かうのは結構難しい。これまでこの移動をしたことは無いが。目的地のターザンのアジトは集落大樹とは違って遠くから分かるような目印などは勿論ない。絶対迷う。
それに加え、自然に溢れている大地であるが故に道も整備されているものは殆どない。
前の大陸で馬車を一度使っていてこの世界にそういうものがあると分かっているからこそ、よりそういうことを思うのだろう。
だけど、ある程度集落大樹の中を周った上で言うけど、その手のものはあの場には無かった……はず。なので自分の足で行かなければならないのです。
「ていうか、こんな場所だからこそそういう移動手段を用意しておいて欲しかった」
「まぁ、場所が場所だからね。
例えば馬車を用意してもこんな道通れないと思う…けどっ!」
そう答えて足場に伸びる木の根を跳躍で越える。
「言われてみればこんなとこ走られたら振動とかやばそうではある…」
微妙にずれた返答があったりもしながら一行は森の中を往く。
そして―――やらかした。
「ちゃんと前見て進まないから!」
「ごめんって言ってるじゃん!!」
「まだ追って来てますよ!」
一行は速度を上げながら逃げていた。
その理由は背後に迫っていた。
――――――――――――
スパイダー / Lv 14
スパイダー / Lv 15
スパイダー / Lv 14
スパイダー / Lv 14
モンスターウッド / Lv 18
モンスターウッド / Lv 18
――――――――――――
毎回こんなことをしている気がする…。
簡単に今の状況を言うと―――
Akariが邪魔な木を避けようとした。
ドジを踏んで避けられずに木に激突した。
Akariにダメージは無かったが、ぶつかった木が動き始めた。
その木は擬態していたエネミーで、それが動き出すと同時に周りに追加の敵が湧いた。
逃げた。今ココ。
「撒ければ一番楽だったけど、戦うにしても足場的にやり辛いからなぁ…」
「というか、意外と逃げれてるよね」
言われてみれば、追いかけてきてはいるけど、今の速度で差が全く縮まらないということは追い付かれる心配も無いのか。
だとしてもこのまま走り続けていれば確実に迷子ルートだよこれ。
「あ、あそこ開けてるんじゃないですか?」
「それじゃああそこで迎撃!」
一行は木々を抜けて開けたスペースまで来ると、一斉に武器を構えて追ってくるエネミーに備える。
「付与はするけど一応周りに気を付けてね…《フィーア・エンフローア》!!」
スキルの発動と共に、詠を中心とした朱色のゾーンが広がり、その中に居る全員の武器が炎のように燃えるオーラを纏う。
そしてそのオーラを纏った武器で、勢いのままに襲い掛かってくる人型の木?木のような人?の敵に、Akariとわんたんが同時に一太刀を入れて、火花を散らす。
それに続くかのように詠たちも攻撃を行う。
そして戦闘が始まって暫くすると、その戦いに文字通り横槍が入った。
突如飛来してきた槍がエネミーの頭に突き刺さる。
皆がその槍の飛んできた方向を確認した。
「「「あ、貴方は…!」」」
「助太刀ニ…キタゾ」
槍の飛んできた方向、遠方の木の枝に登場したのはターザンだった。
ターザンはこちらに対して右手の親指を立てている。
「「「アニキ!」」」
え、なにこのノリ。
レベル変化なし