52 修練開始 Akariとわんたん
今回から数話はばらばらっすね
「それじゃあ…入るよ」
「行きますか」
Akariとわんたん、意外と方向性が似ている二人が一つのダンジョンの前に着いた。そのダンジョンが秘めるは攻撃力。この島でSTRを伸ばすのに最適なダンジョンだ。
元から種族の中でSTRが伸びやすい傾向にある鬼を選んでいるAkariがこのダンジョンを選んだのは、他が予想している通り長所を伸ばすという理由が大きいが、一番の理由は性格上だろう。困ったらごり押し的な。
わんたんがこれを選んだ理由はチーム内の役割的なものだ。以前は後衛をしていたがこれまでの冒険の中で前衛へとスタイルを変え、パーティ全体のバランスが良くなったこともあり、それに専念する上でこの能力を選んだのだ。
入り口の重々しい扉を押してダンジョンの中へと進入する二人。中は思ったよりしっかりとした造りとなっていた。壁が土壁ではなくてきちんと石材とセメントで固めたようなものだったり。言いようによっては整備されたような、そんな感じ。
「中は意外とすっきりしてるね」
「そうですね―――アレ、扉は!?」
後ろを振り返るとすぐ後ろにあったはずの扉が見る影も無く消失していた。
「もしかしてあの扉、ワープゲートか何かだった!?」
「いやいや私たち普通に入って来たから!」
扉を開けたAkariがそれを一番分かっている。あれがもし転送か何かだったら触れた途端に転送されていても可笑しくないからだ。仮に扉ではなく、扉を潜った瞬間に転送される仕組みだったとしても感覚はあるはずだろう。
そんな二人を突然淡い光が覆い始めた。
「うわっ、今度は何さ!」
「光?…バフ?」
淡い光はすぐに消え、代わりとしてなのか二人の前に文字が表示された。
「何これ? なになに―――」
眼前に現れたメッセージにはこう書かれていた。
【ダンジョン内に入ったプレイヤーにはとある効果が付加されました。それによりプレイヤーがダンジョン内でHPが0となった場合、強制的にダンジョン入り口に戻され蘇生されますのでご心配なく】
ただのダンジョン内での仕様の説明だった。何が"ご心配なく"なのだろうか…
「つまりは遠慮なく死んでこいって言いたいのか!?」
「デスペナルティが無くて良いんじゃ?」
そんなことは知らん!
謎の付与があったりはしたけど、扉が消えたので前に進むしかないと歩き出す二人。敵の姿はまだ見当たらないが、遠くからそれらしき声と戦闘音のようなものが響いて聴こえてくる。他のプレイヤーも居たようだ。それもそうか。
「なんかすっごい聞こえるんだけど」
「ダンジョンですからねー」
「なんか……遊園地のお化け屋敷みたい」
「その割には綺麗すぎません? 雰囲気ぶっ壊しですって」
「出るのもおばけじゃなくてエネミーだけどね……っと、言ってたら来たね」
暢気に雑談しながら進んでいた二人の前に敵が現れた。その敵は普段と違って赤いオーラを薄く纏っていた。何かが違う。
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スモールゴーレム / Lv 10
※攻撃力アップ
スモールゴーレム / Lv 10
※攻撃力アップ
スモールゴーレム / Lv 10
※攻撃力アップ
ストレイドール/ Lv 10
※攻撃力アップ
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「赤いのって攻撃力が上がってるってことなんだ?」
「此処が攻撃力関係のダンジョンだから?」
「そうかもね」
全員攻撃力が上がっているらしいけどレベルは一律十。おまけにサイズは小さい。これは結構楽そうだ。
「そんじゃあ一気に行くよ」
「了解っ」
二人は武器を構えると同時に走り出す。そして敵の中を突っ込むと自分の得物で相手を斬りつける。相手は揃って動きが速い方ではないことを意識的なのか無意識なのか理解した上で、二人は移動を続けながら相手のHPを削っていく戦い方をとった。そして武器に淡い光が宿る。
「〈スラッシュカット〉!」
光を帯びた剣の一撃がスモールゴーレムのHPを削る。当たり所が良かったのか思った以上にHPが削れた。もう一撃と行きたいけど一度離れよう。ヒットアンドアウェイという奴だ。どう見ても相手の攻撃は痛そうだからね。小さくてもゴーレムだし。
「後ろっ!」
「へ?……ちょぉぉい!?」
何!? ゴーレムに気を取られてたけどあの人形みたいな敵、変な遠距離攻撃してきたんだけど!小さいシャドー◯ール!?さっきまでそんな動きしてなかったじゃん!?
「また来た!」
HPが半分を切ってから先程まで置物のように動いていなかった人形が、もうアンタは砲台かとばかりにバレーボールより少し小さいぐらいの球体をこちらに向けて一定間隔で撃ってくる。結構めんどくさい。だけど幸いなことに―――
「あ、落ちた」
目の前で盾にしたスモールゴーレムが後ろからの射撃で崩れ落ちていく。
幸いなことにあの攻撃は他のエネミーにも判定があったようで、その為に目の前で小さなゴーレムが光に消えていった。
……
「逃げよう!」
あの攻撃が他にも当たるのなら無理に削らなくてもいいじゃん!少しは自分で削ってあるからかドロップもちゃんとあるし、あとは逃げ回っとけば数は減るじゃん!
そういう判断故にAkariはスモールゴーレムを盾にするように、自分とゴーレムと人形が一列になるような位置を保つ。その間も人形は遠慮なく球体を放ってくれるのでゴーレムのHPが少しずつ削れていく。自分でやっておいて不憫に思えてきた…。
ちなみにAkariがこんなことをしているからか、わんたんも同じように人形のターゲットを取ってはゴーレムを盾にしている。不憫な盾ゴーレムであった。
ごォぉ………
鳴き声なのか岩石の崩れる音なのか分からない音と共に残りのゴーレムが全て倒された。残る敵はストレイドールのみ。
「もう後は躱しながら突っ込んどけば何とかなるでしょ」
「いやぁ……それは如何なんだろう…」
「それどういう―――」
意味?と言葉を続けるより先にその変化に気付いた。自分たちの後ろの地面に小さな土煙のようなものがあることに。前から飛んでくる球を躱しながら後ろからの嫌な予感を確認する。
土煙が晴れるとその場には次なる敵が湧いていた。
「…追加入りやしたー」
「嘘ぉぉぉぉぉ!?」
……敵の乱入とかアリ!?