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電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
第二の舞台 翠の大陸
43/237

43 初めての対戦

どうして一つの戦いでこんなに長くなったんだ…(。´・ω・)?自分事ながら珍しい。

「やっぱり強いなアンタ」


 決闘後、座りながら休んでいる黒胡椒くんが先輩を素直に称賛していた。その当の先輩も近くの木に寄りかかって休んでいる。二人がこのように疲労しているように見えるが、実際にはHPはそれほど減ってはいない。

 あまり気にしていなかったが、どうやら本来のHPと決闘時のHPは別物という仕様らしい。なのでもしも決闘でHPが全損するようなことがあっても、消滅したりゲームオーバーになったりということはないらしい。それは安心だ。今のように外で戦ってHPが減った時にモンスターに襲われたりしたら不利だからね。


「っとそういえば約束だったな。えっと、何だっけ…ああ、ラグレシアの方向だったか」


「はい。道に迷ってたもので」


「それなら向こうだ。あっちの方にずっと行くとラグレシアから伸びてる開けた道があるからそこまで行けば分かり易いぞ」


 決闘出来て満足したのか黒胡椒くんは心置きなく方向を教えてくれた。


 この大陸の地形は、中央を基点として各方面に幾つかの道が伸びているらしい。なのでその道沿いに行けば迷わず中央まで辿り着けると言う。

 余談だが、前の大陸からの転移で辿り着く場所は大抵がその道の延長線上に

出るらしく、そのまま真っ直ぐ進んでいればそれなりの距離はあれど迷うことなく辿り着けるはずだったらしい。えぇ…


「どうせなら一緒に行くか?俺らも依頼でこれから戻るし」


 黒胡椒くんはそう提案してくれた。案内をしてくれるのなら確実に目的地に着けるのだが、遠慮することにした。こちらは急いで中央に向かわなければならない理由はないし、時間がかかりそうなので途中でログアウトするだろうし。迷子から打破出来るだけで十分。


「そうか? んじゃ俺たちは先に――」


「ちょっと待ってくれ」


 黒胡椒くんが先に行こうとすると、待機していたもう一人がそれを止めた。どうしたと言うのだろうか。


「どうした?」


「さっきの戦いを見て、俺も戦いたくなった」


 ブ○ータスお前もか…

 はい、そこ、暢気に「そうか」とか言わずに連れて帰ってくださいよ。


 その間休んでいてくれと言われた黒胡椒くんは再び休む体勢に入り、もう一人がこちらに歩み寄ってくる。


「一つ訊くのだが、君たちはレギオンのようだが、リーダーは誰なんだ?」


 先輩が休んでいるのを見て気を使ってそう訊いたのだろう。その所為で皆がこちらを指差してくるんだけど。他人事だと思って…


「君か。自分で聞いておいて彼女なんじゃないかと思っていたんだが、違って良かった」


「誤解される前に先に言っておきますが、私は先輩ほど強くないですから」


「そうなのか?リーダーなのに?」


 そうなんです。リーダーだからと言って一番強いとは限らないのです。一番上だからも同意。

 そう疑問を持ちつつもちゃっかり決闘の申し込みは行う。詠の前に決闘を承諾するか否かのウインドウが表示される。


 仕方ない。一回戦って満足するのならさっさとしてしまおう。とは言ってもこういった勝負で手を抜いたら駄目なんだよね…。


 詠が承諾を選択すると、先程と同じように空間が形成されていく。そしてお互いの情報が表示される。



―――――――――――――

雨野 刃 Lv23

〈武勇殿〉

―――――――――――――


―――――――――――――

詠 Lv 21

〈Celesta Sky〉

―――――――――――――



「…これ本名ですか?」


「皆によく言われるがこれでも一応偽名だ。漢字は違う」


 それでも読みは一緒なんですね。

 レベルは黒胡椒くんよりは下とはいえ、やっぱりこちらよりは上か。


 詠は武器を構えた相手を見る。名前に刃って入っているだけあって武器は剣か。だけど普通とは違う。彼の剣は両手に一振りずつ存在した。あれ?装備欄には盾などの一部を除き、片手にしか武器を持てなかった気がするが…。


「双剣!?そんなの出来るの!?」


「特定のスキルを獲得すれば、盾じゃなく左右に武器を持てるようになる。その場合は同じ種類じゃないと駄目だけど」


「じゃあ剣と槍とかは無理なんだ」


「ええ」


 後ろからそんな説明が聞こえてきたがあの両手はそういうことらしい。初めての決闘でそれは結構厳しそうだ。

 そんな心境をさておいてカウントダウンは始まる。カウントが進むにつれてお互いに戦いに備える。詠も弓を構える。


 こちらは弓で向こうが双剣。得意とする戦い方は正反対と言える。決闘のセオリーとかは知らないけど、これは近付かれれば終わる可能性がある為に早めに対処しないと。


 そして、カウントが零になった途端、詠は後ろに跳びながらすぐさま矢を放った。先手必勝&兎に角距離を保とうという作戦だ。


「やはりそう来るか!」


 刃は迫りくる矢を、読んでいたかのように躱す。進行を阻害するように続けざまに放たれる矢をも躱す、剣で弾きながら、詠へと特攻していく。

 向こうも理解している。この戦いは自身の戦いを貫いた者が制する!(そもそも系統の違うもの同士だから必然的にそうなるのだけど。)


「止まらない……!」


 矢を放てど放てど、それらを小さな動きで捌きながら確実に距離を詰める刃。詠も決闘のフィールド内を矢を放ちながら後退するように移動しているが、前進している刃の方が速い。

 そして遂に刃の剣が届いた。

 

「―――ッ!?」


 次の矢を射ろうした詠のすぐ横を、スキルと思われる光を宿した剣が通り過ぎた。スキルに伴う加速で残りの距離を一気に詰めたようだ。


「捉えた!――〈ターンスライド〉!」


 詠が距離を取る直すよりも先に刃の持つ片方の剣に光が宿り、その場で斬撃を伴った回転をする。

 詠は回避が遅れて、二回三回と回る斬撃を受けた。


「っく…」


 HPはまだ緑のままだけど、一度で複数回受けたからかそれなりに削られている。このままじゃまずい。すぐにでも離れないと。


 刃はもう次のスキルを使おうとしている。これでは当たってしまう。詠は咄嗟に二人の間に手を伸ばす。


「逃がすかっ!〈クロスエッ――」


「〈ファイア〉!」


 刃の双剣が光を纏い出した瞬間、二人の間に突如燃え上がる炎が出現した。突然の発火によって刃のスキルはキャンセルされ、お互いに距離を取った。


「まさかあそこで魔法を使うとはな。無茶するなあ君は」


 今の炎を少しは受けたはずだが、彼のHPは言うほど減ってはいない。防御が上手いとか硬いとかだけでなく、反応が速いのだ。先程の戦いといい、前衛の人はそこまで戦いでの反応が速くなるものなのか。センスが研ぎ澄まされるというか何と言うか。


「貴方も結構無茶してるでしょ。向かってくる矢に突撃していったり」


「まあそこは、対人だからこそ読み取れたことがあったからな。君は動いている相手に対して矢を射る時、ダメージよりも進路妨害を優先している節がある。無理に狙わず確実性の高い手だ」


 確かに詠は、行き先などを先読みして其処に撃つことが多い。その方が早く止められることがこれまでで多かったからだ。だが今回はその考えを読まれていた上で、身体は狙われないと踏んであそこまで特攻をかけられたのだろう。

 データのモンスターではない対人戦だからこその心理戦。将棋やチェスのような相手の次の手以上を読み、相手の狙いさえも考えて行動する。そんな心理。ゲームの中の物理的な戦いであれ、人と戦うというのは複雑だ。


 …何故か無性に負けたくなくなってきた。

 と言ってもどうすればいいのだろうか。相手は経験が違う。有利な状況にしようとしてもすぐに相手に呑まれるのがオチ。先程のように魔法を使うとしても、不意打ちというのは二度目は通用しないのが殆ど。こうなったらいっそのこと―――


「…郷に入っては郷に従え…か……」


「ん?何か言ったか?」


 種族の速度を活かせば何とかできるだろう。本格的にやったことはないけど、後のことは先程の戦いの先輩の動きでもイメージすれば…


「あれ、詠どうしたんだろ?なんか雰囲気変わった?」


「そうですか?」


「言われてみれば、さっきまで距離をあけることを重視してたっぽいのに、今は逃げる気も感じられないね」


 外野は作戦を変えたような詠に気付いたが、何をするかまでは読めないでいた。

 そんな詠は、外野の声も聞こえない程に集中状態に入っていた。


 集中している詠を見た刃は仕切り直しとばかりに双剣を構え直す。刃は地面を蹴り、先程キャンセルされたスキル〈クロスエッジ〉を発動する。これは両手に持った剣で相手を十字状に交差するように斬り裂く剣技。二つの剣が詠に迫る次の瞬間、剣の軌跡は空を裂いた。


「――なっ!?」


 刃の放った攻撃を躱し、詠は刃の頭上にいた。詠は自身の種族である獣人の俊敏性を活かして攻撃と同時にジャンプして刃を飛び越えたのだ。普段どころか現実では絶対にやらないが、人間やれば出来るものである。


「後ろか!」


 刃もすぐに反転させて背後に回った詠に対して剣を振るう。だが、またも詠は跳び上がってそれを躱す。

 そして正面に着地し、そのまま反転したことで生まれた隙に向かって正拳を打ち込んだ。


「そういう手で来たかっ!」


 再び剣が振り回されるので一度後ろに跳んで距離をとる。


 感触はあった。ちゃんと当たった。だけどHPはそれほど減っていない。それどころか一ミリも減っていない気さえする。ダメージを与えられていない? 接近戦に関係するステータスの低さはあるけど変動なしというのは変だ。武器でないから? もしくは攻撃スキルでないから?


 衝撃は与えられてもダメージを与えられないことに悩んでいると、相手が動いた。今度は各方位をカバーするように〈ターンスライド〉を始めとした動きの数々。


「詠ってあそこまで運動神経良かったかなぁ?」


「この世界じゃ、ある程度の補正がかかるからじゃないの?」


「それに種族によっても違いますから」


「そういうものなのか。…それにしても何度か攻撃は当たってるはずなのに何で少しも削れないんだろ?」


 戦闘状況を見てAkariが疑問に思った。詠自身も思っていることだった。その答えはすぐに分かった。


「あの双剣のように特定のスキルをもってないと、素手でダメージが発生することはないの」


「え、そうなの!?」 


 どうやら術技ではなく徒手空拳を可能にするスキルが存在するらしい。先程の戦いから考えるに、その要素を含む攻撃スキルを使っていた二人もそれを持っているのだろう。


「じゃあかなり不利じゃん! 攻撃も全部は躱せてないし、ダメージを与える手段も限られてるし」


「そうでもないかもね」


「え?」


 勝敗を心配する彼女たちの視線の先で、燃える様な閃光が弾けた。それによって刃のHPが僅かながら減り始めた。どういうことかと思ったらもう一度同じ閃光が弾けた。なんと詠が掌底の流れで零距離で〈ファイア〉を発動していたのだ。


「少しはタイミングを掴めてきたかな…」


「零距離で魔法とは…危ないことをするな君は」


「仕様がないじゃないですか」


 詠が使える魔法の内、付与魔法である〈エンフレア〉などは攻撃に付与するのであって、武器を使っておらずスキルでもない為に、攻撃と判断されない素手でのやり方には効果が期待できない。なら似たようなことを直接するだけ。

 詠は掌底で相手の身体に触れる直前に、その接触点を対象にして魔法を使った。そうしたらどうだろう、付与させた時と似たようなことが出来たのだ。ただ少し難点を挙げるならば、この戦法にはMPという限界がある他に自分も巻き込むという難点が存在する。どういう訳か自分にもダメージ判定があるのだ。とはいえその点はある程度改善出来てきたが。


「さて…」


 詠は構え直す。もうすでにその手に弓は無く、完全な格闘スタイルである。対する刃は戦ったことのないトリッキー攻撃に翻弄されながらも良い経験として楽しんでいた。


 当てては離れ、また当てては離れるヒット&アウェイ。

 飛び交うスキルの光、立ち昇る小さな炎。少しずつ削られていくHP。動き続ける両者。始めは望まぬ戦いではあったが、今となってはこれまでにない程の勢いに乗っている。


 そんな新たな可能性を見出した戦いも、終わりが訪れようとしていた。


「―――やっ!?」


 動き回っていた詠が着地後すぐに跳ぼうとして不注意で足を滑らせた。そんな隙を刃は逃さない。


「貰った!〈スラッシュカット〉!!」


 ―――振り下ろされたその剣によって決闘は終了した。


 決闘後、疲労でその場に寝転がる詠の下に外野陣が集まって来たが、思いの外疲れたので今は休ませてほしい。途中から柄にもなく飛ばしていたのだから疲れて当然か。


「ナイスファイト!」


「なにそれ」


親指立ててこっちに向けられましてもどうしろと…

















【スキルを獲得しました】

決闘は今のところ経験値は得られません。


最後のアレはそろそろ入れたかっただけ。






あと個人事ですが、近々結婚式に行ってきます。

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