37 初めての波紋*
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「何アレ……?」
狩りの合間に妙な音が聞こえ、音の在処を探って視界を上に向けてみると、木々の隙間から其れは見えた。
其れは、白くはあるが雲とは違い、波のように広がっていき、消える様子も無く通り過ぎていく。空の波紋。
私が気付くと、他のメンバーも其れに気付いて空を仰ぐ。
ずっと電脳の空を見てきた訳ではないが、此れまでには無かった空の変化に一人を除くこの場の全員が興味を惹かれている。単純に好奇心を擽られている者もいれば、危機感を覚える者もいる。かくいう私もこの世界に何かしらの異常でも出たのかと心配になっている。
だが、唯一其れを知っている先輩の言葉で、あの波は其程心配は必要ないことだろうと思った。
「――もう次なのね」
その表情は、驚いている訳でも、焦っている訳でもない。
「もう…って何がです?」
「次の開放戦が行われるわ」
「開放戦……ってそれ本当!?」
先輩は、あの空の波はとある条件を満たした時に発せられる一種の信号だと言う。信号が発せられる条件は二種類あり、鍵を集めて最新エリアのボスダンジョンに挑めるようになった時と、ボスを倒して次の大陸への道が開かれた時、という二通り。要はお知らせである。そして今広がっている波はその色合いから、挑めるようになった前者とのこと。
お知らせをする事で、最前線を離れている強者が戻ってくるように促せる、と考えれば挑戦時点で知らせるのも必要なのかもしれない。
「今の最前線って何処だっけ?」
「確か、此処の次に当たる蒼の大陸だったと思う」
そういえばそうだった。私たちと合流する少し前まで先輩が進んでいた場所。其れがもうすぐクリアされようとしているのか。総プレイヤー人口を考えれば遅いようにも思えるけれど、大陸の大きさや初見での解明等を考えれば、遅いわけではないか。
「つっても、二つ目の大陸に居る私たちには関係ないことなんだけどね」
「本当の大陸ボス戦を見てみたい気持ちはあるんだけどねー」
「見るだけかい!」
皆、興味はあっても結局は今の自分たちには関係ないと結論付けている。現状でのレベルやスタイルを考えれば、数の多い敵でさえ危険が十分にあるのだから当然であろう。一度ゲリラで規模の大きい戦闘は経験していると言っても、大陸ボスとなれば其れの比では無いだろう。
素直に金策に戻ろうとした。そんな時、その場に何かの着信音的なものが響いた。皆が自分では無いと確認してから周囲を探している中で、先輩が一人だけメニューを開いて何かを確認していた。
「今の音って先輩?」
「ええ。単なるお誘い」
「お誘い……って、まさか開放戦の!?」
そう訊かれると先輩は静かに頷いた。
先輩は一時は最前線に居た上、この間の個人イベントの人のようなその手の知り合いも居るようだから、誘われても不思議では無いよね。だけど向こうの連絡主は今の先輩のレベルなどは知っているのだろうか?当時に比べれば幾らか落ちていると思われるけれど。
「ということは行くんですか?」
「………、行かない」
先輩は少々考えた後にそう答えた。考えたような素振りはあったけど、元から決めていたように聞こえるのは何故だろう。
「じゃあどうするんです?」
「今日はこのまま続ける」
先輩がそれでいいのなら私たちは構いませんけれど……本当に良いんですかね? あ、本当にその体で返信を送ってる。いいんだ。
「それじゃあ再開しますか。丁度良い相手も来たみたいだからね」
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スパイダー / Lv 15
スパイダー / Lv 14
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"Akari"の言う通り、後ろを見れば蜘蛛が二匹此方に向かって来ていた。あの数なら余裕だろう。私たちはいっせいに武器を構えた
◇ ◇ ◇
「それにしても、だいぶ短剣使いが様になってきたんじゃない?」
「そう?」
「今試してる中では良い方じゃないかな?」
"Akari"が"わんたん"の戦いっぷりを素直に褒めていた。
試していたものの全ては知らないけれど、確かに近距離の戦い方が良くなっている。"Akari"のような危なっかしさがまだまだ残ってはいるけど。種族が猫人というのもあって、やっぱり動き回っている方が合っているのだろうか?
「んー、言われてみれば他に比べればいい感じかな?スキルも増えたし」
そう言うように、"わんたん"は慣れない武器での戦闘にも関わらず短剣で使用出来るスキルを発現させていた。発現させたのは"Akari"も使える初級の斬り上げ〈ハイスラッシュ〉。動きにも反応して比較的発現し易い近接技とはいえ、軽い試験運用でスキルまで届いたのだから、向いているように見える。
「そのまま其れにしちゃえば?」
「それもアリかなぁ…でもなんか片手が空くんだよね」
"わんたん"の短剣使いは両手で使ったり片手で使ったりとコロコロ変わるが、片手が手持ち無沙汰になっている時が多かった。本人は其れを勿体ないと思っているようだが、空いているお陰で出来る動きもあるのは見ていて分かるので、其処は当人次第だろう。
とはいえ、この様子だと短剣をメインにするのはほぼ決まりなのだろうか。
其処でふと私は気になった。
そういえばと、今試している物の他にどんな武器を試したのかを三人に訊いてみた。すると…
「パチンコと槍」
「…ハンマーと剣」
「盾とパチンコです」
「ちょっと待って」
パチンコそんなに流行ってるの!?しかも今試している分も合わせると三人共パチンコを使っている事になる。というか最後の盾はそれ武器じゃないよ防具だよ。それだと武器持ってないようにも聞こえるけど!?
「変なのあったら使ってみたいでしょ?」
その変な具合の冒険魂は何なのよ…。
「箒と一緒だよ」
私冒険のつもりで選んだ訳では無いのだけど。
「っと、次来たよー」
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スパイダー / Lv 14
スパイダー / Lv 13
スパイダー / Lv 14
スパイダー / Lv 13
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そんな会話中でもお構いなしにエネミーは出現する。相変わらず面倒な戦法を使ってくる敵だけど、其程苦戦はしないだろう。
誰かが言っていたけれど、汚物は消毒よー、と言う通りにこういう相手は燃やせば問題ない。ほら大丈夫。燃えながら突っ込んできたけど結果的に見れば大丈夫。
「それにしても糸くず良く落とすよね。このエネミー」
「それは…蜘蛛だからね?」
屑というより正確には蜘蛛の糸を丸めたようなもの。養蚕業ででも集めそうなやつ。蚕じゃないけど。
アイテム化しているからか、現実世界のように糸に触れてもくっついたりはしないようだ。持ち易いから有り難い。ちなみに分類は素材アイテムらしい。其れ以外に何があるかと訊かれても分からないけど。
「糸って事は編んだり出来るのかしら?」
「どうなんだろ?でも出来るのなら使い道増えそうだね」
其方の製作が可能なら幾つか持っていても良いだろう。自分で使わなくとも必要な人に渡す事も出来るから。……無理だったら無理で"Akari"が合成で溶かすし。
「まあいいや。よし、この辺で一度戻ろうよ。それで余裕があれば中心に向かおう!」
「あれ?行かないんじゃないの?というか武器の方はもう良いの?」
「大丈夫じゃない?」
勝手に話を進めているが、三人の方に確認を取ると問題は無いようだった。幾らか試したからそろそろ確定させるらしい。
そういう訳で、一度ターザンのアジトへと戻ることにした。その後、所持金が思ったよりも溜まっていたので回復アイテムの補充を行い、皆の様子を再度確認して、次の準備に取り掛かることとなった。
ステータス
レギオン『Celesta』
詠 / 狐人
Lv 18
【ターザンの同盟者】
―――
HP: 165 (HP+50) / MP: 268 (MP+300)
STR(攻撃力):22 (STR+16)
VIT(耐久): 22 (VIT+57)
INT(知力): 54 (INT+20)
MND(精神力): 70 (MND+205)
DEX(器用さ): 40 (DEX+20)
AGI(素早さ): 85 (AGI+25)
LUK(運): 35
BP : 26
装備
「ノーマルアロー」(STR+8)(重複)
「ノーマルダガー」(STR+8)(重複)
「ジャングルハット」(VIT+26、DEX+10)
「ジャングルウェア」(VIT+26、DEX+10)
「旅立ちのロングスカート」(MND+5、HP+50)
「ジャングルブーツ」(AGI+25、VIT+5)
「霊宝珠のペンダント」(MP+300、INT+20、MND+200、全状態異常耐性+30%)
ステータス
レギオン『Celesta』
Akari / 鬼
Lv 20
【ターザンの同盟者】
―――
HP: 296 / MP: 178
STR(攻撃力): 78 (STR+59)
VIT(耐久): 62 (VIT+45)
INT(知力): 34
MND(精神力): 37 (MND+10)
DEX(器用さ): 47 (DEX+3)
AGI(素早さ): 51 (AGI+33)
LUK(運): 20
装備
「銀の刀」(STR+23、MND+10)(重複)
「ハンターエストック(合成+5)」(STR+36、DEX+3、AGI+8、壊れやすい)(重複)
「ターザンシャツ」(VIT+20、【獣】耐性+3%【毒】耐性+2%)
「ターザンズボン」 (VIT+20、【爬虫類】耐性+3%【石化】耐性+2%)
「ジャングルブーツ」(AGI+25、VIT+5)
ステータス
レギオン『Celesta』
せんな / 天使
Lv 14
【ターザンの同盟者】
―――
装備
「白紙の妖刀 "白月"」Lv17
レギオン『Celesta』
わんたん / 猫人
Lv 19
【ターザンの同盟者】
レギオン『Celesta』
たんぽぽ / 兎人
Lv 19
【ターザンの同盟者】
レギオン『Celesta』
るる。 / エルフ
Lv 16
【ターザンの同盟者】