34 ターザン・ターザン・ターザン*
いつまで続くのか自分でも分からないターザン回。
「此れは此れで、撃退時の報酬は格段に増えた……と言えなくもない」
逃げ道を塞ぐように自分たちの周囲に現れた影を見て先輩がそんな事を言った。
ちょっと待ってください先輩。そんな暢気なことを言える状況ではないです…。先輩なら離脱ぐらいは出来るかも知れないけれど、他は無理です。逃げようとしても地の利でターザンの方が上だから追い付かれるのは目に見えている。
どうするべきか、周囲を囲む野生児と前方に居るそれらを呼んだターザンを交互に見る。救援が来て人数の差がひっくり返った。配置としては正面は変わらず泥棒だけであるけれど、しかし正面からぶつかるのは遠慮したいだけの圧力を感じる。
「どうする、これで戦闘になったらキツそうだよ」
「じゃ、じゃあ、ダメ元で話しかけてはどうでしょう?」
敵とはいえNPCなのだから一回意思疎通を試みるという手は可能性としてはある。…ただ既に敵対行動をとっている分、今からじゃあ遅いかもしれない。
「…今更やってもこの状況は変わらないんじゃない?」
「だからって下手に攻撃しても…」
敵の増援が来てから睨み合いが続く。向こうも意外なことに動く様子が無い。先程までの雰囲気は何処へやら、正面のターザンがじっと此方を見続けている。
誰もが動かないで様子をみていると、突然Akariが前へと出た。
「ゆ……ゆーきゃんすぴーくじゃぱにーず?」
何でそうなった!
「キ…ィ……森ヲ荒ラス者タチヨ」
割と普通に喋った!?
「コノ森ニ何ノ用ダ」
「何の用だと言われても、私たちはただ通りたいだけでーす」
「信ジラレルカ」
変わらず敵対意思を感じるものの、思ったよりも会話が成立している。
それにしても、相手が話せると分かった途端普通に会話を続けているけれど、Akariはどうするつもりなのやら。
「オ前タチノヨウナ者達ハ、森ヲ荒ラス。ソシテ我ラノ同胞ノ命ヲ奪ウ」
「別に荒らす目的じゃないし、そっちが何か仕掛けて来なければ攻撃する理由も特には無いし」
確かにAkariの言う通り、エネミーでは無いのなら、向こうから襲ってくるでも無い限り此方から攻撃する理由はない。今回にしても、あのターザンが盗んだことが始まりだった訳なので正当防衛的なものである(過剰)。
と言っても、此方がどんな立ち位置だろうと、あの様子からして伝わるとは到底思えない…
「ナラバ、証明シテミロ」
「証明…って言っても何すればいいのさ」
「我ラノ出ス条件をクリアシテミセヨ」
何やら妙な方向に話が進んだと思っていると、私たちの目の前に突然ウインドウが表示された。其処に書かれていることを読んでみるとどうやら収集クエストが発生したようだ。
―――――――――――――――――――――
以下のアイテムを集め、ターザンに示せ
○野生児の勲章 ×3
―――――――――――――――――――――
なんとも要点だけを切り取ったような文章である。
要求された物は今迄無かったアイテムである。此れでは手持ち分だけで済ませるという手段は使えないのは明白。アイテム名に書かれている"野生児"がターザンの事を指しているのなら其れも当然だけど。
「散レ!!」
皆でウインドウを確認していると、正面のターザンが突然そう叫んだ。すると其れを合図に周囲に居た者たちが一斉に森の中へと散って行った。
まさかとは思うけれど、集めるって今のを探し出すという意味なの…?
「どうする?」
「どうするも何も、平和的解決が望めるのならするしかないんじゃない?」
「んー、それもそうか」
唯一この場に残ったターザンは、お手並み拝見とばかりに黙って仁王立ちをしている。話しかけても応える様子はない。集め終わるまで待っているつもりのようだ。なので今取れる選択は先程提示されたものを探してくること。
このまま逃げたらどうなるか、そもそも逃げられるのか、という疑問はあるものの、そんな実験をする気もなく、素直に散って行った野生児たちを探すことにした。
「其れで、先輩さん。〈野生児の勲章〉ってどんなアイテムなんです?」
「……知らない」
え?
「こんなターザンイベントはやったことが無いから」
「じゃあ、以前はどうしたのですか?」
「前に此処を通った時は、邪魔してきた時だけ遠くに吹き飛ばしてた」
歩く邪魔だったから、とさも当然かのように言ってますが、其れは其れでどうなのですか……。救援を知っていたことから考えるに、その選択の方がより邪魔なことになったんじゃ、と訊いたらそれも退けてすぐに走り去ったと言った。随分滅茶苦茶な。
「っとと。……ん?」
幸運なことにエネミーに会うことも無く暫く歩いていると、Akariが何かに躓いた。足元を確認して躓いたと思われる物を拾い上げた。それは変わった形の木片だった。木片と言うよりも加工されている感じがあるから木製のアイテムかな?
Akariから借りてその木具を調べてみると、このアイテムこそがターザンから提示された〈野生児の勲章〉のようだ。随分と簡単に手に入った。しかし偶然とはいえ何故こんな所に?散って行った奴らが持っているんじゃないの?
「理由を付けるなら、ターザンからは集めろって指示されただけ。倒して奪えとは言ってない」
「あ、言われてみれば確かに。散って行った奴が持っているとも言ってなかったなぁ」
「じゃあ、落ちているものを拾っていけば良いんですかね?」
拾うだけで済むのなら、探索の手間は大きいけれど、危険が少ない分有り難い。
思い返せば、倒して奪えとは確かに言っていないけれど、其れを言い出すと、その逆も他の可能性も言っていないと言う事になってしまう。杞憂だったら良いのだけど、面倒事の可能性が拭い切れない。
「んじゃ、とりあえず此れは収納して……他も探してみますか」
Akariがそう宣言して、皆で周囲を探してみることになった。
探して見つからなければ少し場所を移動して其処を基点に周囲を探す。そう簡単には行かないと思いつつも、其れを繰り返したことで木の上にあった二つ目の勲章を見つけることは出来た。
そして二つ目を収納している時、先輩が此方を見る視線に気付いた。其れは野生児のものだった。そいつの手には勲章が握られている。
「わざわざ渡しに来た……って訳じゃなさそうだね」
「そうでしょうね」
此方を見ていた野生児は見せびらかすように勲章を振っている。挑発のつもりなのだろうか。そして其れを腰元に収めると、反対の手で持っていたボウガンのような武器の先端が閃いた。
「うわっ」
「あぶなっ!?」
皆が射撃を躱し、近くの木を盾にするように隠れると、野生児は射撃を止めて移動を始める。木から木へと跳びながら確実に距離を詰める。
「皆いいね、狙いは腰の勲章、それさえ取れれば撃退はしなくてもいい」
「「「了解」」」
「合図は詠が……って無理だ。もう来た。じゃあ私から……!」
隠れている間に簡単な作戦を決めはしたものの、相手が予想以上に早かった為に合図を待たず、飛び出すAkari。
Akariは野生児の進行方向に出て真正面から持ち変えていた大剣でバットのように振りかぶる。
「キッ!?」
野生児は飛び込んだが故に躱すことはできず、正面から大剣を受けて投げ飛ばされる。そして地面に転がった野生児が起き上がろうとした時にわんたんたちが足下に魔法攻撃を放って動きを妨害。その間にメンバーの中で速い方の私と先輩が近づき、腰にぶら下がっている勲章を奪いに行く。
―――盗った!
「みんな、勲章は取れた!このままいくよ!」
奪取してそのままの勢いでこの場を離脱する。魔法攻撃を続けていた三人も切り上げて同じように離れていく。
その場に残された野生児は何かを判断したかのように、すぐに追ってくることは無かった。
◇
「はい。持ってきたよ」
少し森で迷ったりもしたけれど、何とかターザンの居た場所まで戻って来た。
今でも仁王立ちしていたターザンに対してAkariが三つの勲章を差し出す。
「……キキッ。ドウヤラ信用ハ出来ルヨウダ。イイダロウ、ツイテ来イ」
そう言って、ターザンは何処かに向かって地上を歩き始めた。ついて来いと言われたので付いて行くことにしたのだけど、大丈夫なのだろうか?
ステータス
レギオン『Celesta』
詠 / 狐人
Lv 17
―――
―――
HP: 158 (HP+150) / MP: 258 (MP+300)
STR(攻撃力):21 (STR+16)
VIT(耐久): 21 (VIT+10)
INT(知力): 52 (INT+20)
MND(精神力): 67 (MND+205)
DEX(器用さ): 38
AGI(素早さ): 81 (AGI+10)
LUK(運): 33
BP : 24
装備
「ノーマルアロー」(STR+8)(重複)
「ノーマルダガー」(STR+8)(重複)
「旅立ちの帽子」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのシャツ」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのロングスカート」(MND+5、HP+50)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
「霊宝珠のペンダント」(MP+300、INT+20、MND+200、全状態異常耐性+30%)
ステータス
レギオン『Celesta』
Akari / 鬼
Lv 18
―――
―――
HP: 274 / MP: 164
STR(攻撃力): 73 (STR+23)
VIT(耐久): 57 (VIT+20)
INT(知力): 31
MND(精神力): 34 (MND+10)
DEX(器用さ): 43
AGI(素早さ): 46 (AGI+10)
LUK(運): 19
装備
「銀の刀」(STR+23、MND+10)
「ノーマルシャツ」(VIT+10)
「ノーマルズボン」(VIT+10)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
ステータス
レギオン『Celesta』
せんな / 天使
Lv 12
【道を切り拓く者】
―――
装備
「白紙の妖刀 "白月"」Lv16
レギオン『Celesta』
わんたん / 猫人
Lv 16
レギオン『Celesta』
たんぽぽ / 兎人
Lv 16
レギオン『Celesta』
るる。 / エルフ
Lv 14