28 ねるねるねるね*
「さて、今日はどうしようか?」
朝に個人的な軽い用事が有って少し予定が後ろにずれたものの、昼を少し過ぎてから私たちは今日も揃ってこの世界にログインした。先にログインしていても良いとは言ってはいたのだけど、なんやかんやと一緒になった。
「昨日見つけたお店に行かない?あの合成とか試してみたい」
「でもアレ、材料が足りないんじゃなかった?」
前回街を見て回ってとある店を見つけた。其処は装備屋でも道具屋でも無く、所持している素材アイテムを使って何かしらの結果を生むという他とは少し変わった店舗であり、Akariは其処に行こうと言っている。ゲリラ等でやたらと集まった素材を有効活用出来るチャンスではあるのだけど、前回利用する事が出来なかったのである。
「合成?」
そんな話をしていれば、今日は予定を合わせられた先輩が気になって会話に入ってくる。なので昨日のゲリライベントの事も含めて簡単に説明した。
すると、やはりと言うべきか、大抵のことは知っているようだった。
「合成系には種類があって、素材アイテムを集めて装備などを作る作成と所持している武器にアイテムを足して性能を上げる合成の二つがあるの。多分二人が足りないと言っていたのは前者の方」
言われて思い返してみると確かに行える事は複数あった覚えがある。ただ片方を確認して駄目だったから、もう一方も所持している分では足りないのだろうと思っていた。試してみたら出来たのだろうか。
ふとディスプレイを呼び出す。
思えば前回の羽根以外にも素材に分類される物は幾つか持っていた。使い道が特になく売って資金に変える程度しかなく余っているから、其れも合わせれば何かは出来るだろう。
「それじゃあ早速行こうよ。武器に足したりするのなら何かはできるでしょ」
「そうね」
そうして三人で昨日見つけた合成を扱う店へと向かった。
その店舗は他の店と比べるとこぢんまりとしている。中の店員も他の店に比べると言葉が少なくてかなり機械的であり同じことばかり言っている。Akariに言わせれば昔のゲームでの典型的なNPC、ノンプレイヤーキャラクターらしい。
「本日はどういうご用件かな?」
カウンターのおじさんNPCに話しかけると前回にも聞いた台詞の後に、作成と合成のどちらをするかという選択肢が投げられる。
作成では素材が足りずに禄に作れないと思われるので、今回は合成を選ぶ。するとNPCの台詞と共にディスプレイが表示される。其処には合成元や合成素材の選択に関する項目が表示されていた。
関係無いけれど、此処のNPCだけ他と比べて凄く手抜き感があるんだけど…。
「確かに装備に足せるみたいね」
合成元の指定は割と広く、武器や防具に限らず、アクセサリー迄もが表示されている。合成結果にもよるけれど此れなら、装備を変える際はついでに合成もした方が良いのではなかろうか。手軽な底上げ手段として。
とはいえ、私が今持っているアクセサリーは高レアリティで序盤には破格の性能である〈霊宝珠のペンダント〉ぐらいだから選ぶのは勿体ない。そうなれば武器か防具か……。
「じゃあ此れをベースに…どうしよっかなぁー?」
「Akariはどうするの?」
「ん?どうなるか分かんないから、試しに持ってる大剣に昨日の羽根でも足そうかなって」
合成に迷ってAkariの方を確認してみると、其処まで迷う事無く操作を進めていた。
言われてみれば確かに、合成について不慣れな状態でいきなり装備中のものを使うというのは気が引ける。どうなるか分からない以上、合成元諸共消失するという可能性だってあるかもしれない。
そういった場合は大体先輩に訊けば分かるのだけど、先輩はこういう初体験には何も言おうとはしない。今も邪魔をしないで後ろで見ていたりする。
ともあれ、そうなれば私ももう使わないであろう装備を……と思ったけれど、今装備しているブーツで良いかな。消えたりしたら困ることは困るけれどブーツは素早さの数値を上げていて、偶然にも私の種族も素早さが上がり易いものだから、失ったところでAkariと同じになるぐらいだろうからある程度誤魔化しが効く。
そう決めて合成元に装備中のブーツを選択。すると次に合成素材の指定に移るので此処はやはり羽根を選択。試しに選択数を三枚程にして決定を……押そうとした時、カウンターの奥に置かれていた大きな壺の一つに何かが入れられてこれまた現れた棒によって混ぜられ始めた。すっかり背景だと思っていたから突然音が鳴って驚いた。
「うわっ!?始まった!」
どうやらAkariが合成を始めた影響で現れた演出のようだ。
壺からは怪しげな煙が出ている。あれアウトな奴だ。そんな危険物を作っているような光景を見て、隣に居たAkariが全く違うものを連想したのかこう呟いた。
「昔、魔女があんな感じに作ってる駄菓子のCMあったよね。ねるねるだっけ?」
「っ…」
後ろから何やら吹いたような声が聞こえたので振り返ってみると、後ろで先輩が口に手を当ててそっぽを向いていた。え、まさか今のでウケたの?
先輩はすぐに元に戻って私と目が合うが、何も無かったかのような顔をしていた。…いいんですかそれで。
壺の中は混ぜ続けられ、そして其れが止まると壺から小さな星のエフェクトが飛び出した。どうなったの?
「あ、成功してるAGIが少し上昇してる」
どうやら先程の星のエフェクトが成功の合図らしい。怪しげな雰囲気が拭えないけれど横の反応からして無事に終わったのだろう。
それじゃあと、止まっていた画面を進めて合成を始める。
先程のように奥の壺が動き出す。そして同じように星のエフェクトが飛び出した。画面に合成結果が表示され、合成元にしたブーツのAGIがそこそこ上昇していた。その上昇値は使った数と釣り合っていないがそれはランダムなのだろうか?
「素材にもよるけれど、合成は合成元のレアリティが低ければ成功し易く、高くなるにつれて成功率が下がっていくの」
「普通、逆なんじゃないの?」
「普通は知らないけれど、此処ではそういうところで差をつけてるのだと思う。レアリティの高いものは必然的に性能が上がって、レアリティの低いものを使うことが減っていくから」
現実でも新しいものが出たら、其れまであった古いものに対する注目が減ることはよくある。この成功率の違いによって少しでも救済しているのだろう。
「物好きの中には、見た目が良いってことで序盤で手に入れた武器を合成を繰り返すことで最前線で使える程にした人も居るから」
其れはまた凄いことで。其処までいくと一種の愛とでも言えるのではなかろうか。先輩が言っているのだから本当に最前線で使っているのだろう。
「合成には上限回数が無い代わりに繰り返す程、合成元が壊れる可能性も上がるのに、その人は無駄に運も良かったらしくて」
合成元が壊れる可能性がある事をしれっと告げられた。手軽な底上げ手段と思ったけれど、此れからは気を付けよう。
ふと気付くとAkariが黙っていた。これは何かをやらかす気だ。
「よし決めた。面白そうだから私もそれやってみる!」
「はい? それってどれを?」
「合成を繰り返す!」
そう言うとAkariは再び合成を始めた。まぁ、Akariが其れで良いのなら止めはしないけど。
この合成は勿論お金を要求する。この日のAkariの合成はお金が足りなくなるまで続いたのだった。其の甲斐もあってデメリット持ちだった大剣がAGIのマイナス補正がプラスに変わり、基本性能も色々と強化されたのだった。
……多分、使ったら引き摺るのはどうにもならないと思う。
あと今更使うのかも分からない。
ステータス
未所属
詠 / 狐人
Lv 15
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―――
HP: 140 (HP+150) / MP: 238 (MP+300)
STR(攻撃力):19 (STR+16)
VIT(耐久): 19 (VIT+10)
INT(知力): 47 (INT+20)
MND(精神力): 60 (MND+205)
DEX(器用さ): 34
AGI(素早さ): 74 (AGI+10)
LUK(運): 30
BP : 20
装備
「ノーマルアロー」(STR+8)(重複)
「ノーマルダガー」(STR+8)(重複)
「旅立ちの帽子」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのシャツ」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのロングスカート」(MND+5、HP+50)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
「霊宝珠のペンダント」(MP+300、INT+20、MND+200、全状態異常耐性+30%)
ステータス
未所属
Akari / 鬼
Lv 16
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―――
HP: 253 / MP: 147
STR(攻撃力): 65 (STR+23)
VIT(耐久): 52 (VIT+20)
INT(知力): 28
MND(精神力): 31 (MND+10)
DEX(器用さ): 39
AGI(素早さ): 42 (AGI+10)
LUK(運): 17
装備
「銀の刀」(STR+23、MND+10)
「ノーマルシャツ」(VIT+10)
「ノーマルズボン」(VIT+10)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
ステータス
未所属
せんな / 天使
Lv 7
【道を切り拓く者】
―――
装備
「白紙の妖刀 "白月"」