27 レギオン*
双闘!
駆けつけたプレイヤーたちは先頭に立つ犬人の指揮の下、すぐさま展開して各自エネミーに向かい合う。
加勢に現れたその者たちの殆どは獣人が占めているようで、その俊敏性を活かして戦場を駆ける。近接攻撃が得意な者は周りの小物の相手をし、遠距離攻撃手段を持つ者は飛行中の大物に攻撃を仕掛け、盾を持つ者は襲われる味方と敵の間に入って壁となる。偶々居合わせただけの私たちとは違って役割をはっきりと分けた動き。指揮をしている犬人自身も言葉だけでなく剣を持って魔法担当を守っている。
「連携のとれた動き…」
彼らが現れてから崩れていた防衛線が見る見るうちに持ち直していた。人数が増えた事もそうだけど、役割分担が行き届いている事で、隙を見て回復するという行動も入れ易くなっている。お陰で反撃の勢いが盛り返してきている。
「『白虎隊』って言ったっけ?…何かのチーム?」
「雰囲気はそうみたいだけど…」
先程犬人の彼が名乗った『白虎隊』というのは、幕末の会津藩が武家の男子で構成した部隊であり、本来は予備兵力だったそうな。
彼らはプレイヤーであり誰かの予備という訳ではない。大半のメンバーの姿から考えるに、『白虎隊』を意識して付けたと言うよりは、ただ動物の名前が入った名前を付けたと言うところだろう。確認出来る範囲でも虎には見えない獣人も混じっているから。
ちなみに、此のチームのリーダーと思われる軽鎧を纏ったプレイヤーは、種族は犬人のようだが、虎はネコ科の動物である。
「放てえ!」
彼らについて情報が追い付いていない間にも、戦況は変化している。
『白虎隊』の壁役が構えた盾で大突鳥の降下からの突進を受け止める。完全には勢いを止めきれずじりじりと盾ごと押し込まれているが、通り抜ける事が出来ない事により次の上昇までの時間が延び、絶好の隙が生じる。その隙に遠距離役が一斉に弾幕を展開して撃ち落としにかかる。
「全員、次に備えろ!」
大突鳥が再び上空へと逃げると、直ぐに次を想定する。
大突鳥が再度、今度は別の所に突進を掛ければ、其処に割って入るように壁役が盾を構えて入り込み、隙を生み出す。そして其処に集中砲火。攻撃行動に合わせてカウンターのように確実にHPを削っていく。
「なんというか…まるで作業ね」
「まぁこう言うのも何だけど、作戦通りに進めようとしたら必然的に作業ゲーになるから」
「そう…かもねっ」
先程まで一番の脅威だった親玉が着実に攻略されていく光景を見ながら、周りのエネミーを迎撃する。親玉が暴れていると言っても他のエネミーが出なくなった訳では無い。親玉は対応出来る人に任せて、此方はちまちまと零れ出たエネミーの処理に専念する。
少しすると、大突鳥の悲鳴が響き渡る。
連携して抑えていた『白虎隊』の方を再び見ると、HPを失った大突鳥が集団に囲まれながら地面に崩れ落ちる所だった。その身体は獣人たちが放ったであろう炎に包まれており、その炎の中で光となって崩れていく。
すると、大突鳥が消滅した事が関係しているのか、時間はまだ残っているにも関わらず消滅を皮切りに周りの突鳥たちが何処かへ消えていく。親玉が消えて子分が逃げるみたいなものだろうか。
まだ数体残っている突鳥も逃げないものの動揺しているように動きが鈍くなっており、処理するのはそう難しくはなかった。
そして訪れる平穏。
ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
戦いが終わり、防衛戦に参加していたプレイヤーたちが勝利の余韻に浸る。
疲れたとその場に座り込む者、お疲れと仲間と言葉を交わす者。そんな者たちを捉える視界の端に何かが浮かんだ。それはメッセージであり、どうやら戦闘中にレベルが上がっていたようだった。ウインドウを開いて他にも確認してみると、先程の戦闘でのドロップ品と思われる物なども増えていた。
「羽根が結構増えてる…」
「あ、私もだ。これ使い道あるのかな?」
「これが現実だったら装飾なんて作れそうだけどね」
先程の鳥が落としたにしては少し色付きが違う気がするのだが、まぁ其処はゲームの事なので気にしないでおこう。
他にもドロップ品はあり、其方は分かり易く鳥肉であった。大量の食料である。自分で調理が出来れば有り難いところだっただろう。今度調理道具を探してみよう。
「一度戻ろっか」
「そうだね」
防衛が終わって帰還の空気が流れている事もあって、私たちも一度街の中へと引き返す事にした。各方面からも防衛を終えて戻ってくるプレイヤーが多数存在する事もあって、街の中では防衛戦の感想が多く飛び交っている。
そんな防衛戦で使った分のアイテムを気にして、近くの店に立ち寄って少しばかり買い足しておく。ついでに調理道具を探したけれど流石にジャンルが違った。
店を後にすると、街の中央付近で先程の犬人のプレイヤーが率いる集団と再び出くわした。
「皆ご苦労だった。初陣にしてはいい連携が取れたと私は思う」
どうやら慰労会のようだ。
他の方面は分からないけれど、今回の防衛戦での一番の貢献者は間違いなく彼らだろう。そう思えるだけの活躍をしていた。
「我々はまだまだだが、いつかきっと…レギオン『白虎隊』の名を有名にしよう!」
「「「おー!」」」
戦いの後だと言うのに随分と気合が入っていた。
それにしても"レギオン"とは何の事だろうか?等と思っているとその集団から一人の獣人が此方に気付き、近寄ってくる。よく見るとその人は防衛が始まる前に私たちの近くにいた人だった。
「確か、君らも防衛してたよね」
「え、はい」
「アレの知り合いだったの?」
「いや、知り合いでは無かったんだけど、今回のイベントを機にレギオンに加えて貰ったんだ」
「さっきから出てるけど、その"レギオン"って何?」
Akariが素直に訊いた。
この人が言うに、レギオンとはこのゲームにおけるサークル・コミュニティと言ったプレイヤーが作ることが出来る団体システムの事らしい。そして彼はその団体のリーダーからシステムによる勧誘を受け、其れに応えて団体の一員となったらしい。
「今回は一緒に戦ったんだ、君たちも入ってみないかい?」
「うーん、どうする?」
「折角ですが、今回は遠慮しておきます」
Akariが選択を此方に振ってくるが、迷うことなく断って頭を下げる。
「んー、そうかい。なんかすまなかったね」
「いえいえ」
其れから少し世間話をした後、獣人はレギオンに戻って行った。その後ろ姿を見ながら、Akariがやはりと言うべきか断った理由を訊いてきた。
「特に深い理由はないわ。ただ先輩が居ないから勝手に所属するのは控えただけ」
「それだけ?」
「それだけ」
先輩がこの世界で何処かに所属しているという話は聞かない。だから私たちだけで先輩の居ない時にそう言った話を進めたくなかっただけである。
「…ま、いっか。其れよりこれからどうする? まだ時間は大丈夫だよね?」
現実時間を確認する。今日は早めに帰る予定だったので早めに切り上げてもよいのだが、疲労はあるとはいえAkariはまだやり足りない様子。
「そうね…今からクエストを受けたら遅くなりそうだから、他のお店でも回ってみる?」
「ああ、其れも良いね。さっきの羽根の使い道何か見つかるかもしれないし」
そうと決まれば観光である。
街中を歩き、気になるお店を見て回る。その中で羽根に限らず色んな素材アイテムを合成や作成に使うという場所を見つけるが、羽根だけでは出来ないと知って今回は諦めてログアウトしたのだった。
ステータス
未所属
詠 / 狐人
Lv 15
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―――
HP: 140 (HP+150) / MP: 238 (MP+300)
STR(攻撃力):19 (STR+16)
VIT(耐久): 19 (VIT+10)
INT(知力): 47 (INT+20)
MND(精神力): 60 (MND+205)
DEX(器用さ): 34
AGI(素早さ): 74 (AGI+10)
LUK(運): 30
BP : 20
装備
「ノーマルアロー」(STR+8)(重複)
「ノーマルダガー」(STR+8)(重複)
「旅立ちの帽子」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのシャツ」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのロングスカート」(MND+5、HP+50)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
「霊宝珠のペンダント」(MP+300、INT+20、MND+200、全状態異常耐性+30%)
ステータス
未所属
Akari / 鬼
Lv 16
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―――
HP: 253 / MP: 147
STR(攻撃力): 65 (STR+23)
VIT(耐久): 52 (VIT+20)
INT(知力): 28
MND(精神力): 31 (MND+10)
DEX(器用さ): 39
AGI(素早さ): 42 (AGI+10)
LUK(運): 17
装備
「銀の刀」(STR+23、MND+10)
「ノーマルシャツ」(VIT+10)
「ノーマルズボン」(VIT+10)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
ステータス
未所属
せんな / 天使
Lv 7
【道を切り拓く者】
―――
装備
「白紙の妖刀 "白月"」