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電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
初めてのVRMMOと始まりの大陸
26/237

26 初めてのゲリラ*



【求ム】



 其処には意味深に"求ム"と書かれた張り紙があった。だけど、其れ以外に情報は何も書かれておらずイマイチ意味が分からない。なので近くの人に訊いてみることにした。


「あの…これって何ですか?」

「いや、俺にも分からないんだ。さっき迄は無かったのに突然現れたんだよ」


 突然現れたということは、これは誰かが後から用意したものなのだろうか? と思っていたが、すぐ其れは違うことを知った。


「そういや、今月はまだだったらしいな」


 集まっているプレイヤーの中の一人がそんな事を呟いた。


「今月は…って事は毎回こんな事が有るのか?」

「ああ。こいつはゲリラ的に行われる襲来イベントだ」


 "イベント"というワードに惹かれて周りの人たちがその二人の会話に聞き耳を立て始めた。散り始めていた人や興味が無かった人たちまで此方に興味を向けているようだ。反応から考えるに此処に集まっている人の殆どは知らなかったようだ。その中で唯一知っているであろう男性プレイヤーが説明を始める。


「月に一度、大陸内で行われるエネミーが街に攻めてくるイベントだ。そんで、毎回開始三十分前にこうして報せが現れるんだ」

「攻めてくるの!?この街に!?」

「なんだそりゃ! 俺たちはどうなるんだよ!」


 説明に対して、聞いていたAkariや他のプレイヤーが聞き返す。かなりの大型イベントみたいだけど色々と気になるところがある。


「このイベントは普通のクエストと違って受注の必要はなく、対象者は街にいるプレイヤー全体、参加は自由。クエスト時間は三十分程度。敵の種類はランダム。プレイヤーは時間まで守り切るか、倒し尽せば勝ち。街に一歩でも入られれば負けで、一定期間街の施設が使えなくなる。…そんなところだったか?」

「そのイベント、メリットはあるのか?デメリットの方がデカいんだが…」

「メリット?どうだろうな。敵の数が多いだけあって、かなりの量の経験値とアイテムと金が稼げるぐらいか?あとは…MVP辺りには"称号"とかか」


 称号。確かに今この人はそう言った。この場に居る何人かのプレイヤーが「なんだそれ」といった顔で疑問符を浮かべる。


「"称号"って何だ?」

「称号は称号だよ。ステータス画面に表示したりする奴。物によっては何かしらの効果があったりするんだ」

「「へー」」

「貴方は何度か体験したことがあるんですか?」


 此処迄知っているのだから経験済みだろうと思い、軽い気持ちで訊いてみたのだが、其れに対して男性プレイヤーは「いや」と否定した。


「俺自身は初めてだ。前回は逃してな」

「え、じゃあなんで其処まで知ってるの?」

「さっきまでのは前回参加していた知人から聞いたんだ…と、確か開始時間は中途半端な時間じゃなかったな…となると後八分ってところか」


 男性プレイヤーが現在時間を確認して開始時間を予想する。そして開始時間が迫っている事が分かると、人混みを掻き分けてギルドの出口へと進んでいく。


「あんたたちも参戦するなら早く街の外に出た方が良いぞ。時間になったらすぐ来るらしいからな」


 そう言い残して外へと走っていった。残されたプレイヤーたちも大規模イベントというだけあってなのか、急いで出口から出ると様々な方角へと走り去っていった。

 彼の言う通り経験値稼ぎにはもってこいではある。其れに負けた場合のデメリットもかなり困るので、出来る限り参加した方がいいという考えなのだろう。


「詠、私たちも…」

「そうね。施設が使えなくなるのは困るものね」


 私たちも参加を決め、一番近くにある出入り口からフィールドへと出る。街の外は普段に比べてエネミーの影が一つもなく異様な静けさがあった。


 そういえば、街に攻めてくるとは聞いたけれど、どの方角から攻めてくるか迄は聞いていなかった。周囲を確認すると二人の他にもこちらの出入り口から出ているプレイヤーの姿があるので、あながち間違いではないのだろうか?

 周囲を警戒しながら少々考えていると――



 ――――…パン!



 突然、街の上空に何かが幾つも打ち上げられる。そして其れに合わせるかのように静かだったフィールドの向こうに幾つもの敵影が湧き始める。先程打ち上げられたのは警鐘のようなものだったのだろう。数は今迄に見たエネミーの群れよりも遥かに多く、街を囲むように広範囲に現れている。



―――――――――――――


突鳥 / Lv 8


―――――――――――――



「うわ、やばっ!」

「マジか、よりによって飛行型かよ!」


 あらゆる方向から街に向かって進行してくるのは一種類、此処迄で一度も見た事の無い、槍のように尖がった嘴を持った鳥型のエネミー。確認出来るレベルはどれも其処まで高くなく大きさも大したサイズではない。どれも低空飛行しているので物理でも届くだろうが、飛行出来る分防衛をすり抜けていく可能性がある。


 暢気に敵の特徴を観察していると、少し離れた位置に淡い光が現れ始める。どうやら近くに居たプレイヤーが攻撃を始めたようだ。だけど、まだそれなりの距離が空いているだけあって放たれた小さな雷撃は向かってくるエネミーには当たらず、近くの地面を掠めた。


「行くぞお!!」


 すると、先程の先制行動が合図となったのか、周囲が本格的に攻撃を始めた。接近戦を得意とする者は走り出し、魔法や射撃を得意とするものは後方から援護態勢に入る。


「やあぁぁぁ!」


 隣を見るといつの間にかAkariも戦闘を始めたようで居なく、遅れるように此方も援護をすることにした。


 街の周辺は程なくして戦場と化し、至る所に炎や雷が飛び交い、淡い光を纏った剣が閃光となって駆け巡る。序盤プレイヤーだらけにしては、使用するスキルがバラエティに富んでいると言いますか、なんて白熱した戦いぶりであろうか。


「…っと、そんなことを考えている場合じゃなかった」


 白熱していると言っても数はエネミーの方が多いようで、他のプレイヤーが幾ら複数を相手取っても防衛から漏れるものは存在する。それらに対して冷静に矢を射る。其れだけでは倒し切るのは不可能だけど、少し動きが止まれば他のプレイヤーが追撃を与えてくれる。このイベントは別に倒せなくても時間まで守り切ればいいのだ。なので深追いは避けて、全体に気を配る。


「《エンフレア》」


 余裕が出来ればこうして近くにいるプレイヤーに対して付加魔法を唱えて、少しでも効率を加速させる。

 とはいえ、時間制の防衛だからなのかエネミーに終わりが見えない。倒した端から遠くに湧いて此方に向かってくる。距離はあるので僅かながら猶予はあるけれど、他と戦っていれば休む暇がない。


 先程ちょっとした隙に一瞬だけメニューウインドウを呼び出して時間を確認したが、防衛戦が開始してからまだ半分も経ってはいない。だが、初めから飛ばし過ぎた為か戦場のあちこちでは始め程の勢いがなくなっていた。


「やばいMP切れた!」


 序盤プレイヤーはまだMPは多くなく、軽減手段も回復手段も限られている。それ故に防衛力の低下が目に見えて現れ始めている。Akariもその一人でエネミーを刀で弾き飛ばしながらも、少しずつ後退してきている。


「詠、ちょっとの間交代して! 回復する間だけでも!」

「なら頭下げてて―――《ホークショット》!」


 Akariはその場でしゃがみ込んだので、その向こうにいた敵を弓矢で射貫く。


 私は援護に徹していたのでまだMPに余裕はある。とはいえ、主軸として敵を抑え込むような立ち回りは出来ない。だけどせめてAkariがポーションで回復するまでは持ち堪える!


 矢を立て続けに放って牽制する。其れによって数体の意識が此方に向くが、一歩下がり、集まってくるエネミーたちの進路を予想してその合流ポイントに対して――


「《ファイア》!」


 炎を放ち、その炎にエネミーたちがぶつかり燃え上がる。

 少し思っていたことだが、どうやら使い方によっては複数体に当たり判定があるらしい。これは利用できる。


 そして一種の検証が終了した頃、Akariも回復を終え、燃えるエネミーたちに再び斬りかかる。


 其れからも戦い続け、残り時間が十分を切り、全体からMPだけでなく疲労も見え始めていた頃、それは現れた。


「な、なんだあれは…!?」


 一人が叫び、皆の視線がエネミーたちの後方に向く。未だに途切れない鳥の群れの後方には他よりも大きな鳥の姿があった。



―――――――――――――


大突鳥 / Lv 15 (レア)


―――――――――――――



「こいつらのボスってことか…!」

「おもしれえ!やってやらあ!」


 疲労で下がりつつあった士気を何とか持ち直す中、其れは動き出す。

 大突鳥は他のエネミーよりも高く飛び上がり、上空から一気に距離を詰めて襲い掛かる。素早い動きに翻弄され、何とか保っていた防衛線が崩れ始める。斬りかかろうとする者も居るが、高度を変えて当たらない距離まで飛び上がることが出来るため攻撃が当たらない。


 どうすれば守り切れるのか、大突鳥の攻撃を耐えながら他のエネミーにも気を配っていると――


「此方側だったか!」


 街の外壁を沿うように別の場所から他のプレイヤーたちが駆けつけた。


「あのデカブツを倒して…俺たち『白虎隊』の初陣を飾るぞ!」


 駆けつけたプレイヤーたちを率いる獣人が高らかに叫んだ。





リザルトは次回。

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