21 初めての中央*
「へぇー。みんなも最近始めたんだー」
「はい…と言っても私は二人よりも一日遅く始めたんですが」
道中で一緒になった三人のプレイヤーを加えて大陸の中央へと向かう私たち。年齢が近そうなのもあって打ち解けるのは早かった。それ故にパーティについても少し知ることが出来た。
どうやら、"わんたん"と"たんぽぽ"はリアルでの知り合いのようで、"るる。"はゲーム内で出会ったらしい。パーティを組んでいるのもギルドで誘われたからとか。
「それにしても凄いですねせんな先輩。この中で一番レベルが低いのにあの戦いよう」
「…別に貴女たちは先輩と呼ばなくてもいいのでは…」
「いやぁ、なんかノリで」
呼ばれる本人が特に嫌な反応はしていないから深く言う事もないけれど。
それにしても、やはり先輩のプレイは気になるよね。三人のレベルは二桁に満たないけれど先輩のレベルはそれらよりも低い。以前に比べればレベルにも少しは経験値を振っているようだけど未だに武器に多めに振っているのですね。
「それはまあ、先の大陸まで行ったプレイヤーですからねー。転生済みの」
何故かAkariがどやぁと胸を張っていた。唐突な他人情報を話した…というよりその中身のプレイ歴を聞いて新人三人組は驚いて黙っていた。驚きというよりは分かっていないのかもしれない。まあ転生システム自体知っているのか知らないのかな部分だから仕方が無い。
そうこうしている間にも、目的地らしき場所が見えてきた。
直ぐ其処という距離に城壁のような壁が見える。其れだけだと何かのダンジョンにも思えなくはないけれど、人々が入っていく門から見える中の景色からして目指していた中央の街で間違いないだろう。先輩が止めないのがその証拠。
やっと此処まで来た。中央と言うだけあって大きな門の向こうには様々な賑わいが見えている。
「もうすぐね」
「今思ったんだけど、先輩…瞬間移動魔法使えるよね…」
今更ながらAkariが街を目前にそんな事を思い出した。此処まで来て其れを言うのは無しということで…。地道に進んだお陰で色々体験できた上に知人も増えたことですし。言った本人もこういうことは楽せずに一から楽しむって前に言っていたからか、特に責める訳でもなく独り言のように処理している。ちなみに当の先輩は始めから使う気が無かったらしいけれど。
軽く苦労を噛み締めながら街の前まで辿り着き、城壁を潜る。
城壁を潜るとネクスとはまた違った雰囲気と街並みに迎えられる。色合い等は此れまでの街とも共通しているけれどそれらよりも高い建物が増えたように思える。
「着いたぁー!」
「一時はどうなることかと…」
「Akariさんたちと出会ってなかったらあのまま終わってたね」
無事に新しい街に到着して皆それぞれ張り詰めていた糸を解くように気を緩めた。関門を抜けた辺りから緩めていたとか言わない。新人三名に関しては無事に来られた事に安堵していた。大猪の事を思えば其れも納得である。
「さて、着いたけどこの後どうする?宿屋を探して今日はもう落ちる?」
「んー。まだ時間も大丈夫だからなぁ…どうしようか?」
「二人に任せるわ」
「…何するにしろ、当分は此処を拠点にするから、まずはやっぱり宿を見つけておくところからかな」
こういった大きな街にはプレイヤーが集まり易いだけでなく活動拠点にする者も多い為、その分安心出来るログアウトポイントである宿も多く用意されているらしい。ログアウトすれば実体が残らないとはいえ座標は残るから、その地点で何かあれば巻き込まれるかも知れないから妥当である。其れでも数が足りるかは分からないけれど。
「そっちの三人はこの後どうするの?」
「えっと…街の中を見て回ります」
「色々ありそうだからねー」
「同じく」
「それじゃあ此処で別れる?」
「そうですね。…あ、フレンド登録よろしいですか?」
「あ、私も」
ある意味目的は同じとはいえ、偶々一緒になっただけで予定を合わせている訳では無いので三人とは一度別れる事となった。三人分のフレンド登録を無事に済ませた後、三人は街の中へと歩いて行った。また何かあれば連絡でもしてくる事だろう。
「じゃあ、私たちも行こうか」
三人とは別の方向に私たちも歩き出す。
私たちが向かった方向は宿屋が密集しているエリアだった。宿屋街とでも言うのだろうか。店側を考えれば客の取り合いが簡単に予想出来てしまうのだが此れは都合が良い。…と思ったのだが、甘かった。
同じ系統の店が幾つも有るのなら空き部屋ぐらいすぐに見つかるだろうと思ったのだけれど、入る店何処も満員となっていた。大陸の中央のプレイヤーの多さを完全に見誤っていた。此れでも先が開けた分人は減った方らしく、最前線に軽く恐怖したのは内緒。
「此処までは全部満員か…」
「まだ向こうにあるみたいだからまだ可能性は…」
「次も無かったらどうするの?」
「うーん…先輩の簡易テントでも借りる?」
既に三軒も駄目だったからなのか、態々テントを出して貰おうと考えていた。一緒に体感しているから気持ちは分かるけれど。だけど宿のある街の中でまで迷惑掛けるのはどうなのだろうか。
そんな事を言いながら四軒目に入ったけれど、此れも敢えなく満員。まだ店舗は残っているとはいえ若干滅入りながら次へと歩いていると、道を外れた方向にも何かがあるのに気付いた。駄目で元々、其方にも確認に行って見つけた建物は看板は出ているものの、他とは違って一般住宅のような外観をしていた。
「此処って本当に営業してるの?」
「でも看板はあるから…」
「一応隠れ家のようなお店は有ったりする」
「そうなんだ…」
先輩曰く、現実要素を取り入れているだけあって、同じ種類の店舗でも店舗によって値段に違いがあったりするように、店舗の外観もそれぞれらしい。場所によっては特定の入り口から入らないと店として応対してくれない場所もあるとか。ただそう言った隠れた店舗には何かしらの得があるらしい。
「すみません誰か居ますかぁ…」
恐る恐る店舗かどうかを確認すると、住人であろう老夫婦が出てきた。内装からして違うのかと思っていると、この建物は一階が民家となっていて地下室を宿として貸していると説明された。
宿というよりは一応民家だからなのかお金は取らないようで、その代わりと言って偶に出されるお願いと言う名のクエストは引き受けなければならないという。成る程、交換条件という訳ですか。
後で一室借りると予約して、宿の目途は付いたので此処からは街の散策をしよう。
「此れで気楽にぶらぶら出来るね」
宿を後にして一度街の中央付近へと行ってみる事にする。街は其れなりの広さがあるので案内か地図か有れば歩き易いだろうと思っての事である。
中央付近まで来てみると其処には掲示板が設置されていた。ギルドのクエストボードとは違ってゲーム内のお知らせがメインとなっているその掲示板には幾らかの情報が集まっている。
「割とあるのね」
「古いのも残ってるみたい」
そう言うように掲示板に張られている情報には、最近載せられたものから「冒険の基礎訓練」といった初期から有るのだろうもの等が混ざっている。残念な事に街の地図らしきものは無いけれど、目を引く情報は見つかった。
「臨時イベント【上手くなりたい人の為の基礎講義】?」
其れは最近載せられたであろう一つのチラシ。臨時イベントと書かれているが情報の形式であったり内容からして個人イベントの類であろう可能性が高い。
「ゲームの中でも勉強しろってことなの…?」
「でも"上手くなりたい人の為の"って書いてあるからこのゲームのことじゃない?下に"気軽にどうぞ"とも書いてるし」
講義がどういった形式で行われるのか迄は記されてはいないけれど、以前の個人イベントと比べれば、危険な事は少ないだろう。其れに加えて、基礎について学べるのなら参加して損は無い筈であろう。
「どうするの?」
「んー…折角だから行ってみる?」
「そうだね。怪しかったら即逃げれば良いし」
チラシの案内によると開催場所は近くに位置する店舗の中のようで、開催時間は今から十数分後とかなり近付いていた。
私たちは臨時イベントに参加する為、案内を頼りに開催場所へと向かってみる事にした。
ステータス
未所属
詠 / 狐人
Lv 12
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―――
HP: 120 (HP+150) / MP: 210 (MP+300)
STR(攻撃力):15 (STR+16)
VIT(耐久): 16 (VIT+10)
INT(知力): 40 (INT+20)
MND(精神力): 51 (MND+205)
DEX(器用さ): 31
AGI(素早さ): 62 (AGI+10)
LUK(運): 26
BP : 14
装備
「ノーマルアロー」(STR+8)(重複)
「ノーマルダガー」(STR+8)(重複)
「旅立ちの帽子」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのシャツ」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのロングスカート」(MND+5、HP+50)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
「霊宝珠のペンダント」(MP+300、INT+20、MND+200、全状態異常耐性+30%)
ステータス
未所属
Akari / 鬼
Lv 13
―――
―――
HP: 225 / MP: 126
STR(攻撃力): 54 (STR+23)
VIT(耐久): 43 (VIT+20)
INT(知力): 24
MND(精神力): 26 (MND+10)
DEX(器用さ): 32
AGI(素早さ): 35 (AGI+10)
LUK(運): 15
装備
「銀の刀」(STR+23、MND+10)
「ノーマルシャツ」(VIT+10)
「ノーマルズボン」(VIT+10)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
ステータス
未所属
せんな / 天使
Lv 7
【道を切り拓く者】
―――
装備
「白紙の妖刀 "白月"」