2 初めてのキャラメイク*
これで少し文章力が上がった気がする。少しだけ。
光の粒子となって消えた身体が再構築される。普段の生活では有り得ない感覚だけど特に不調はない。感覚も正常。五体満足。
目を開けるとそこには日常では見ることのなかった空間が広がっていた。空に太陽は無いが不思議と明るく、周囲には時折、光が奔る。
【『バーチャルリンク』の世界へようこそ。ここでは現在、五つの要素を楽しむことが可能となっています。お好きなコースをお楽しみください。】
聴こえてくるガイド音声によると無事に電脳世界に入れたようだ。思っていたよりすんなりと入るんだなぁ。変換されてる時は変な感覚だったけど。
「凛、多分こっちだよ」
「あ、ちょっと」
手を引かれながら一つの門へと向かう。
この場所はまだエントランスのようで、ここからコースに分かれて遊べるような感じらしく、今居る場所を中心に五つの門が電車のターミナルのように配置されている。そもそも『バーチャルリンク』というのはこの電脳空間全体の総称であるため、現在地はただの入り口である。
「ほら多分ここであってるよ」
そう言われて辿り着いたのは、剣などを模した絵が付いていて上部にでかでかと『GAMERS DRIVE』と浮かび上がった門だった。門の向こうには飾り気の少ない現在地とは違って自然に溢れる明るい風景が見える。間違いなく此処だね。うん。
「じゃあ行くよ」
「ちょっと待って。そう言えばどんなのかあんまり聞いてない気がするんだけど」
「実際にすれば分かるよ。んじゃ、レッツゴー」
詳細を聞けないまま『ゲーマーズ・ドライブ』への門を潜ると、いきなり、暗くて先程よりもデータな感じの強い空間へと転送された!?一緒に入った朱里の姿が見当たらないことから察するに、新規が入ると、別々の場所に飛ばされるのだろうか?
『「GAMERS DRIVE」へようこそ。私はガイドを担当する者です。プレイは初めてですか?』
機械的な軌道を描き、青白く迸る光を眺めていると、正面に少女の姿が光を生じて浮かび上がった。その少女は此方に対してマニュアルのような言葉を紡ぐ。これが人工知能、AIというものなのだろうか。
「えっと…はい」
『では、まずこのゲームについて軽くご説明します。このゲームはプレイヤー自身がファンタジー世界を巡るというコンセプトとなっています。ゲーム内での目的は基本的には冒険と攻略となっておりますが、必ずしなければならないというわけではございません。プレイヤーがどう遊ぶかは自由です。』
つまり、好きに遊べと。
『ですが、自由と言っても規約違反をした場合はこちらの判断で追放する場合がございますのであしからず。』
規約って初めて聞いたんですけど!…まぁ大抵はマナー的なことだと思われるけど。それかズル?
『では、次に貴方のアバターのことをご説明します。この「GAMERS DRIVE」の世界ではプレイヤーは仮の身体、専用のアバターを使って行動することになります。今からキャラメイクへと移行しますがよろしいですか?』
つまりこのままの姿で彼の世界に入るという訳では無いらしい。プライバシーの保護も有るだろうけれど世界観に合わせるという方が意味合い的には強いか。まぁ、ここまでは大体分かった。聞き返すこともないから次に。
『まず、貴方には種族を選んで頂きます。』
「種族?」
『選んだ種族によって初めのステータスやその後の成長率などが異なります。
まず、人種に分類される、「ヒューマン」「エルフ」「鬼」「ドワーフ」の四種。この四種はその後の伸びしろは異なりますが比較的ステータスが安定してバランスのいい種族となります。
次に獣人種に分類される、「猫人」「犬人」「兎人」「狐人」の四種です。
こちらは種を通して素早さが高くなりますが、その分それぞれ得手不得手が存在する癖のある種族です』
ガイドの説明に合わせて目の前にそれぞれのアバターのモデルが表示される。どれもファンタジーらしいデザインだ。人種にしてもヒューマン以外は現実には無い特徴を持っているし、獣人種はもふもふが妙にリアルだ。作り手のこだわりを感じる。
『種族は基本的には後から選び直すことが出来ないので慎重にお選びください。』
「基本的には…ということは例外はあるってことですか?」
『……』
反応がない。ただの背景のようだ。
隠すならそこまで追求しないけど。AIってことは機械が主だから訊くだけ無駄だろうから。
それにしても種族か…こういう選択が必要なものはしたことがないから、後のことは気にせずに本当に好みで選ぶしかない。
改めてアバターを見比べる。どれもいい感じだけど、せっかくだから現実とかなりかけ離れてる外見のもので…。となると獣人だろうか?尻尾があるし。でもそれはそれでどれにするかなんだよね。…じゃあこれにしよう。選ぶ場合はこれを押せばいいのかな?
アバターモデルの前に表示されたボタンを触る。
すると、決定しますか?という文章の後に【はい】【いいえ】と表示されたので、【はい】を押して決定する。
『「狐人」ですね。では次の段階に移行します。』
自分の周りにいろんな画面が表示された。何これ?
『種族が決定されたのでメイク画面を表示しました。こちらではアバターの外見を自由に決めること出来ます。』
自分が使うアバターの外見は結構細部までこだわれるようだ。試しに髪を弄ってみたが毛先まで決められるどころか重力に少々逆らう事も出来た(例はアホ毛である)。ちなみに、個人データを基にしているために身長などは大きく変えられないらしい。現実との差異による混乱を防ぐためなのだろう。
じゃあ、肌の色は特に変えず、髪は腰ぐらいまでで、色は…沢山あるなぁ。綺麗なこの色で。服装はゲーム内容的に項目が無く変えられず、耳はまあまあ長めの鋭角三角形で。尻尾は狐だからなのか九本まで増やせるみたいだけど、多すぎると結構邪魔だから三本ぐらいで。…色!?こっちもか、髪と連動で…よし。これくらいで良いかな。
『キャラメイクが終わりましたら、決定をお選びください』
決定を押す。
すると、出来上がったアバターは輝き出して自分の姿と重なる。光が治まると自分は先程作成したアバター通りの姿になっていた。おお。
『それでは、これで登録は終…忘れていました。アバターネームを決定してください』
君、AIだよね!?そこ忘れるところ?!!気付いていなかったから私も人の事言えないのだけど。
「じゃあ…凛。漢字は凛々しいの凛。」
『そちらは既に使用されています。他の名前をどうぞ』
自分の名前は駄目だったか。まぁ、誰かしら使いそうだけど。他と名前が一緒だとややこしいから仕方が無いとはいえ、こうなったら困るのは事実。活動名義等を持っている訳でも無いから名前のストックなんてないよ。とりあえず思いついた端から試してみよう。
「鈴」
『そちらは既に使用されています。』
「奏」
『そちらは既に』
etc.…
無理だ。思い付く一文字シリーズが悉く弾かれる。一番の難関が名前だとは…。ちなみに一文字に拘るのは単なる癖である。
「じゃあ、詠。漢字は和歌を詠むなどの詠むで一文字」
『使用者なし。そちらの名前でよろしいですか?』
やっと使用されてない名前を見つけた。名前を決定する。…後から気付いたが読み方を変えずに字だけを変えれば通ったのではと少し思うが、もう決定してしまった。
『完了しました。これにて登録は終了します。それではチュートリアルは行いますか?』
チュートリアル…操作練習はしておきたいけど、結構時間がかかったからなぁ。待たせているかもしれないから追々朱里にでも教えてもらおう。てなわけで今はスキップ。
『それでは最後に初期武器をお選びください。この選択は後の成長にあまり関係ございませんので自分が使いやすいと思うものをお選びください。』
そう言って眼前に現れたのは数種類のアイテム。どれも簡素な見た目の割にはしっかりとした武器である。剣、弓、槍などのファンタジーだけでなく現実でも定番なものから斧や篭手などまでバリエーションだけはやけに多い。この辺はまだいい、箒とかは違うでしょ!この並びでこれだけ浮いてるんだけど!?いや使い方次第では何とかなりそうだけど…。
……とは言ったものの、結局一番馴染みがあるから箒で。
『それではこれより「GAMERS DRIVE」の世界への冒険が始まります。チケットをお使いの貴方には特典が与えられますので後程ご確認ください。メニュー画面は人差し指と中指を合わせて振れば呼び出せますので。では、よき旅を。』
ガイドの少女が消えると共に、空間に光が差し込む。
そして、次の瞬間、自然溢れるファンタジーの世界へ。