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電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
其れは、紅く燃える強者の大陸
199/237

185 仮想のレース

 団体レースを始めようと自分たちで用意したグループに参加すると、画面は切り替わりレースの為のステージに自分が選んだエネミーが現れる。画面が切り替わった辺りから操作側も其れに合わせて拡張され台座からウインドウと同じ要領で操作パネルやら何やらが出現している。先程までの操作では難しいのではと思っていたがこうして拡張されるとは思わなかった。此れは此れで初心者には難しそうであるが。

 ステージの中に皆が操作するエネミーが揃う。操作に慣れる迄の時間なのか揃ってからレースが開始される迄其れなりの時間が用意されているようなので軽く動かしてみる事にする。


「どれで動くのか……此れかな」


 此処からの操作に関しては実際に動かしてみるしかない。だから時間も用意されている訳だし。とはいえ簡単な動きのエネミーなだけあって操作を見つけるのはそう難しくは無かった。


「…なんでブルースライム」

「安価だったから」


 画面越しに此方の選んだエネミーを見た"Akari"から疑問と言うより呆れたかのような声が出た。

 そう、私が選んだのは最序盤から登場するエネミーであるスライムに属する一体。序盤から居るだけあって能力が優れているという事は無く安価だからという理由で選んではみたけれど、特殊な事をしないからこそ動きが少なく動かし易いという利点があった。


「いや確かに安かった気がするけどさ……此れからレースって事忘れてない?」


 そういう"Akari"はレースと言う事を意識したのか選んだのは狼系統のエネミー、その中でも基本形だろう。単純に考えれば身軽で四足歩行なので速いだろうが動きが何処かぎこちない。スライムもそうだがただ前に進むだけでも其れなりの操作が必要なようなので身体がしっかりとしているもの程難しいのだろう。その分動きの幅は大きいようだけど。今"Akari"が後ろ蹴りを間違えて出したように。


「不慣れな事を考えたら操作が少ない方が良いと思うけど」

「でもこれ位の方が後々伸びていくよ?」


 まあ確かに操作が少なくて良いものは使い易い代わりに能力の限界も早いだろうから周りに追い抜かれるのも時間の問題だろう。だけど其れなら其れで他も試せば良い。何ならこの手のものだからこその利点が他にもあるかも知れない。


「とはいえ皆真面目に選んだのね。こういうのは私だけか」

「そりゃそうでしょ。初回とはいえ勝負だからね」


 ステージに揃った他のメンバーの選択エネミーを軽く見渡してみたが自分と同じようなものは誰一人居なかった。皆が選んだのはどれも序盤で見る事が出来たエネミーであるが、飛行が可能な鳥系であったり身軽な猿であったり"Akari"と同じように狼系であったりと、レースという形式に向いていそうなものばかりだ。……最初にレースと既に分かっていたので合わせに行く方が一般な気もするが。


「あ、そろそろ位置に付けだってさ」

「もう始まるのね」


 気ままに動いているうちに開始迄の時間も迫っており、準備を促すアナウンスが表示された。レースというだけ有ってそれぞれのスタート位置は決められている。と言っても殆ど横一列な位置であるが。


「待ってまだ位置に付いて無いんだけど!?」

「…チャンス」

「時間は待ってくれない」


 スタートは時間で決まっているようで位置に付いていなくともカウントダウンは進む。最後の一人が位置に付けた頃にはカウントダウンも寸前まで進んでいた。そしてそのカウントが無くなった時、改めてランプによる合図が始まる。


「まだ刻むんかい!」


 そんなツッコミを放たれる間にも時は刻まれ、今度はあっさりと終わって本当のスタートとなった。その瞬間に静かに待っていたメンバーが進み出していく。とはいえ…


「思ったよりもゆっくりなスタートね…」


 皆不慣れな事もありスタートダッシュが思いの外弾けていなかった。ダッシュでさえ無いようにも思える。競歩でももう少しは加速感があっただろう。ただ其れでも皆が同じ状態なので差はかなり変動する。


「…よし、このペースなら」

「お先……って危なぁ!?」

「変に急ぐとそうなる」


 追い付いては追い抜かされ、急いでは事故ったりと、先頭はかなり混戦状態となっている。"わんたん"の操る獣系エネミーがダッシュで先頭に躍り出た途端に足を絡ませて転倒した事に始まり他の皆も先頭に出ては失速したりと安定しない。不慣れな事のも勿論あるがコースの影響もあるだろう。


 突然であるが此処で今更ながらのコースの確認をしよう。コースは複数用意されているようでプレイヤーは選択かランダムかで選ぶことが出来る。選択なら個人の場合はそのプレイヤーが、団体の場合は集めた中のホストとなるプレイヤーが選んだコースでのレースとなる。そして今回は完全にシステムに任せたコースとなっている。

 今回選ばれたコースは真っ直ぐだけでなく曲がり道なども存在する森のコースとなっている。森と言う訳でコース中には木々が生い茂っている上に足下にまで根が伸びていたりと気を付けなければいけない場所は多く存在する。自然の罠である。幸い坂や崖はなく平面の場所であるがいきなり挑むには厳しいコースとなっている。一応迷わないようにコースの方向がシステムで表示されている事だけは救いか。


「え、そういうのも有り!?」

「…エネミーの特徴を活かしてるだけ」

「確かにそういう動きをしてましたね」


 慣れ始めたのか方法を変えたのが功を奏したのか、森に入って少しした頃に"たんぽぽ"が進行速度が加速をした。"たんぽぽ"が操っているエネミーはフォレストモンキーという森に住まう猿のエネミー。そのエネミーの特徴を活かして"たんぽぽ"はコース内の木から木へと飛んで速度を上げたのだ。自分では無くエネミーを操作するからこその行動、恐らく此れがこの娯楽の醍醐味なのだろう。

 しかしエネミーの利点を活かすのは他にも居る。鳥系エネミーを選んだ"るる。"は不安定ながらも始めから飛んでいて今も後続をキープしており、同じく鳥系を操作する"先輩"は先頭程速度は出ていないものの木々よりも僅かに高く飛んで自然の罠を回避している。二人とも扱いが難しそうな飛行を充分に活かしている。


「皆はやいなぁ」

「アー、アー」

「急かされてもね」


 ちなみに私は加速し始めた皆を後ろから見ている。ブルースライムは操作的には安定しているが狼や猿のように急激に速度を上げるという手段は見当たらない。だけどスライムは幸いにもその弾力のある形状のお陰で転倒などは割と平気だったりする。なのでぺちゃぺちゃと確実に進む事は出来る。地道に進んでいこう。


 レースも其れなりに進んだところ。全てを把握している訳では無いがコースの半分はとっくに過ぎているだろう。現在先頭を進んでいるのはコースとの相性もあって"たんぽぽ"であり、その後を飛行の二人がついて行っている。序盤に調子が良かった"わんたん"はと言うと…


「賑やかね…」


 私よりも後方に意識を向けてみると其処には二匹の獣がじゃれ合っていた。正確にはお互いの足を引っ張り合っていた。始めは順調だった筈の両者だったのだが"わんたん"の方が一度のミスで調子が狂い始めた事を切っ掛けに暴走して"Akari"が其れに巻き込まれた形となっている。なんと哀れな。


「わざとやってない!?」

「こっちは真面目だよ!」

「って、なんで此処だけ格ゲーやってんの!」

「格ゲーやってるつもりは無いって!」


 何故ああまでなったのだろう。動こうとすればする程見事に相手を妨害する形になっている。もうあの二人が上位に食い込むのは難しい気がする。


「…見えた」

「ゴールまであの少し…」


 後方の状況を確認している間に先頭陣はゴールを捕捉したらしい。ゴールは森の出口となっておりゴールに近付くにつれて障害物等は減って単純な直線となっていく。此処まで来れば余計な動きは考えずに前に進む事だけに集中すればいい。この調子だと一位になるのは操作が安定してきた飛行の二人のどちらかだろう。先程まで先頭を進んでいた"たんぽぽ"は道が開けてコース上の木々が減ってきた事が原因で先のような加速が出来なくなっていた。再び上がるのは厳しいか。

 そうなるともう殆ど順位は決まったものかと思い始めていると、後ろからもの凄い勢いで追い上げる影があった。


「え、どっち?!」


 "Akari"か"わんたん"か、否、その両方だった。


「そんな事も有りなんですか!?」

「此処で協力プレイ…!?」


 後ろから追い上げてくる影。其れは二匹の獣が協力する事によって生み出された大車輪だった。先程まで足掻いていた二人が何故こんなコンビネーションを可能にしたのかは謎だが野生エネミーでも見ない行動に先を走る全ての者の驚いた。大車輪はどう力が働いているのか分からないが徐々に加速していく。とはいえ……


「このまま行けぇ!」

「でもコントロール効かないんだけど!?」


 大車輪はその勢いで私だけでなく"たんぽぽ"までも追い抜いた。だが一直線に突き進むのみでその進みは次第にゴールの直線を逸れていき、コースを外れて崩壊した。結局あの二人はダウンした。


「やりました!」


 大車輪が場を賑わしている間に"るる。"がゴールへと辿り着いた。その後を"先輩"、"たんぽぽ"と続いていき少し遅れて私もゴールへと入った。先程の大車輪コンビはどうやら脱落と判断されたようでレースは終了とされ、全ての順位が表示された。

 順位に応じて賞金が配られるようで上位三人がそれぞれ参加費よりも多い額が配られ、それ以下の順位にも参加賞ぐらいは配られた。少量ではあるが安価なエネミーを選べる額はあるので私としては使った分が返ってきたと言うところ。脱落した二人にも配られるが其れは参加賞よりも少量だったようだ。


「納得いかない!もう一勝負だ!」

「そうだそうだ!もう一回!」


 あんな結果ならそう言い出しても不思議は無いだろう。我が儘を優先した訳では無いが誰も反対する気はなく此の後も続けて数レース行うこととなった。慣れ始めもあって勿論今度は皆他のエネミーを試したりした。


 …最後の方はもう完全に開き直った様子ではっちゃけた動きが繰り広げられた。例えば、潜んだり罠を仕掛けたりと遊ぶ事を優先してレースと言うことを忘れたかのような動き。納得いかないと言ったのは何処に行ったのだろうか。





【独り言】

そういえば今度金曜に"某自動手記人形"放送するんですよねぇ。

その放送日の投稿がズレたり延期したりするかもしれませんがご了承ください。投稿しなかったらお察しください←

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