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電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
其れは、紅く燃える強者の大陸
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170 光るイルカに導かれ

 偶然見かけた光るイルカの群れを追って海へと出た私たち(一人+一匹)は海中に残った光を頼りにイルカの進んだ方向へとアクアライドを走らせる。遅れ気味に追い始めたにしては走らせてからして少しして群れに追い付くことが出来た。


「一体何処まで行くのかしら」


 追い付いてからも群れは自由気ままに海を進む。その速度は別に遅いわけではない。現に自分のアクアライドの速度では追い抜くことは出来ない。其れでも追い付くことが出来たのはあのイルカに習慣もしくはパターンと言うものが有ったからである。

 あのイルカは発光するという導くためであろう特徴を持っているが其れは長続きしない。それ故に定期的に光を補充するために海上に跳ねる。その際群れの全てが光を蓄える訳では無く、海中に残った群れはその地点で泳いでいる。その都合で度々進行が止まるので見失ってさえいなければ追い付くことは難しくなかった。


「それにしても…」


 エネミーを避けながらの追跡をしながら、ちらりと別の方を見る。

 追っていて気付いたが、イルカを追っているのは何も自分だけではなかったようである。少し遅れたところには他のプレイヤーたちが此方に向かってきていた。恐らく一度見失ってもう一度見つけたという感じなのだろう。其れを考えるとこのイルカはかなりの距離を進んでいる事になるが…


「お、あの辺りか!」


 後方のプレイヤーがそう言ったように、イルカたちが補充と関係無くその地点で大きく旋回し始めたかと思うと、その地点が目印とばかりに数匹を残して群れは海中へと潜っていった。


「海中と来たか…」

「アーアー」

「流石に海中は厳しいかな…?」


 そんな事を言いながら眺めていると、後方のプレイヤーが追い付いてはイルカが示した地点で止まって何かを操作し始めた。そして準備が整ったのか操作を終えて一人ずつその場で潜水を始めてイルカを追いかけていった。なんという度胸のあるプレイヤーたちだろうか。

 どうしたものかと少しの間佇んでいると、突然潜水地点でイルカの群れが次々に飛び跳ねた。その数は水面付近に残っていた数よりも多いところを見るに潜っていた数も戻っているようだった。とはいえプレイヤーは戻っていないようだけど。


「まだ何処かに案内するの?」


 その疑問は間違っていないようで、光を蓄えたイルカたちはまた次へと進み始めた。プレイヤーたちが潜っていったがどうやら此処がゴールと言う訳ではなくただ候補の一つだったようだ。まるでツアーのようである。

 ただ、困ったことが一つ。


「今の飛び跳ねた音で寄ってきたみたいね」


 イルカが次へと向かい始めるのと同じ頃に別方向から接近する敵影あり。あれだけ大きな音を立てていれば呼び寄せても不思議はないか。状況的には理不尽だけど。

 イルカを追うには先にエネミーを何とかしなければいけない。追う事を諦めてもエネミーは何も一方向からだけではないので逃走も容易ではない。結局のところ戦闘は回避できない。……納得出来ない。










「この方向だったよね」


 時間が掛かりながらも戦闘を終えて群れが向かったであろう方角へとアクアライドを走らせる。方角と言っても戦闘時に位置取りの関係で動き回っていたので本当に合っているか分からなかったりする。結構時間が経ったのか水中の光も既に消えている。


「まあ見失ったのなら其れで終わりでも良いのだけど」

「アー」


 私の言葉に軽く相槌を打つカゼマチであるが頭の上で休んでいたりする。先程の戦闘では当然の如くスキル〈真化解放〉も使用していたので疲労感が出ているのだ。本当ならそのまま飛んでいこうかとも思っていたが時間が足りなかった。

 アクアライドは問題無く、だけど当てもなく進み続ける。今はどの辺だろうとマップを開いてみると思っていた以上に大きく移動していたようだった。もしログアウトするのなら拠点に戻るより近くの街に入った方が良いのでは無いだろうか、ちらりとそんな事が過ぎるぐらいには拠点から離れていた。


「随分遠くまで来たものだ…っとっと」


 誰かが言っていたような言葉をなぞっていると、不意にアクアライドが絡め取られたように揺れた。バランスは崩さなかったものの、海を見てみれば矢張り先程までには無かった筈の流れが生じていた。そしてその流れを辿っていくと流れの先に大きな渦潮が存在した。


「そういえば前にもこんな規模を見たわね」


 広く吸い寄せる渦を見て何時ぞや出くわした渦潮を思い出した。以前に見た渦潮も其れなりに大きかっただけでなく、吸い込まれるとそのまま海中にある洞窟に落ちるという展開があった。あの時はカゼマチを追ってという理由があったけれど、其れがなければ自分から飛び込むと言う事も無かったことだろう。下に洞窟があるなんて予想出来なければ、毎回あるとも限らない。今回の渦潮もどうなるのかは分からない。


「まだこのくらいなら大丈夫だけど、これ以上は流されるわね」


 此方の位置から渦迄は遠いのでまだ其程引っ張る力は強くなく、此れならばアクアライドの推進力で抜け出す事は簡単である。賭けに出る気もないのでこのまま方向転換をして渦から離れようとする。……のだが。


「…―――――!」


 方向を変えて加速しようとした時に渦潮から声が聞こえたので、振り返ってよく見てみると渦潮に巻かれている者が居るようで渦に沿って動き回るHPバーが複数確認出来た。パーティで飲まれたらしい。そのHPは溺れている影響によってじわじわと減少している。このままだと海中に辿り着けるとしてもその前にHPが全損するだろう。

 システムによる強制転送など、相手の意図も有るかも知れないので放置してもいいことではある。


「…仕方ない。もう一度いける?」

「アー!」


 とはいえ見捨てるようで気分が悪い。お節介を焼くことにする。

 休憩を終えたカゼマチがもう一度スキル〈真化解放〉を発動して急成長をした後、その背に乗って渦潮の上へと向かう。効果時間は其程長くなく迅速な行動が求められるので、HPバーの位置を頼りに駆けつけてはカゼマチが通り過ぎ様に足で掴んで引っ張り上げる。勢いもあってその行為が攻撃のように相手のHPを削ったように見えたが気のせいだろう。

 溺れている人数は三人、比較的皆近くに纏まってくれていたお陰で何とか時間内に済ませることが出来た。…なお、一々安全圏まで送っていく時間もないので引っ張り上げた端から渦潮に飲まれない位置で海に放り投げている。外までは面倒みきれない。


「助かったが何だあれは!?」

「よく見たらプレイヤーが乗ってなかったか?」

「…其れよりまずはボードだろ」


 救出を済ませた後、残りの効果時間でそのまま飛び去る。後ろでは救出した者たちが復活したアクアライドに乗り直したり回復したりと無事なようだ。っと、そんなこんなしている内にも残りの時間も終わりのようでカゼマチが元のサイズに戻り、入れ替わるようにアクアライドに乗り直した。


「おつかれ」

「アー」

「さてと、行きますか」


 改めて水路を行こうと加速を始める…その瞬間に頭上に小さなアナウンスが表示された。此れはメッセージの受信だ。エネミーの危険もあるので直ぐに確認せずとも良いかと思っていたのだが、カゼマチが勝手に触れたことでメッセージが開かれた。従者が主のウインドウを操作した事はさておき、其れよりも気になる事が開かれたメッセージには記されていた。


「…気になるけれど、まずは戻らないとね」


 此処で返信しても良いが、断るつもりのないので実際に向かってから訊けばいいかと、アクアライドの速度を上げた。




【独り言】

最近の配信視聴による感情の起伏が激しい。

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