168 樹人の観察
安定の書き方模索
――――――――蒼の大陸 とある孤島――――――――
日課のようになりつつある修練島での稼ぎを終えてから私は拠点へと戻る前に少し寄り道をしてとある孤島へと上陸していた。この島には覚えがある。ドラゴンの時に待ち伏せに使った岩が飛び出したような地形の島である。
修練島からの帰りならどちらに向かおうと同じようなものなのだが、わざわざこの場所迄来たのは当然例の実験についてである。
「此処なら人は来ないわね」
海という都合上、人の往来はかなりばらけており誰かが通過したとしても此方のする事には気付かないだろう。孤島に人が居るという事で注目を浴びる可能性はあるが少なくとも騒ぎにはならない筈。
其処まで周辺に注意を払った上で私はウインドウを呼び出す。実験開始である。果たしてゲストの遠隔呼び出しは可能なのか。呼び出すことが出来ると分かったなら少なくとも手間は減るだろう。
ウインドウで現在のパーティメンバーを確認する。当然ながら皆が居ないので今はソロ状態であるが、パーティ選択可能と判定されている者の所には此処には居ないゲストの名がきちんと表示されている。この名前の箇所に触れれば呼び出す事が出来る。
「此処で良いのよね?」
ゲストの名前を選択。
すると正面に種のようなものが現れては芽吹いた。すくすくと育っていくその芽は次第に大きくなっていき、花が咲く要領で呼び寄せた相手が姿を現した。如何にも植物由来のドライアドらしい登場である。もしかすると他にもゲストに種類があれば演出も変わるのだろうか?
『お呼びでしょうか?』
呼び出された側は拠点で居る時と何ら変わらないような反応を見せた。まあ一応予告はあったから。だけど申し訳ない事に此処ではシステムの確認の為だけに呼んだので用事はない。謝りながらパーティから外してみるが直ぐには姿が消えなかった。呼び出す事は簡単でも送り戻すのはまた別なのか、…かと思いきや、少しの時間差で無事に戻ったようだった。まるで戻るか迷ったような間だった。
「まあ時間差の事は置いておいて、確認は取れたから場所を移しましょうか」
確認以外の用事は此の場所には無いので、拠点へと戻る手間は省いて本題へと向けて海を走る。今回の目的は試運転のようなものだから実入りは少なくはなるけれど出来るだけ危険は少なく難易度は低い場所へと向かう。…向かうといっても場所が決まっている訳では無いので其処はのんびりといこう。
――――――――翠の大陸 森の北東部――――――――
結果として、私は一つ前の大陸である翠の大陸へと戻ってきた。本当なら初心者も多い始まりの大陸に戻った方がレベルとしては確実なのだけど其処まで戻るのは時間が掛かる。……決して戻る場所を知らない訳では無いです。…です。
其れに、秘密裏という意味では視界を遮る木々が多い故に他人の目に留まる事は少ない。静かに自分のペースで進める事が出来る。レベル差に関しても少々不安はあるけれど私自身としては他よりも先に倒されると言う事は無いだろう。
ちなみにその倒されなさそうなステータスが此れ。
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レギオン『Celesta Sky』
詠 / 狐人
Lv 35
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【ターザンの同盟者】
HP: 150 / MP: 289
STR(攻撃力): 47
VIT(耐久): 51
INT(知力): 87
MND(精神力): 106
DEX(器用さ): 70
AGI(素早さ): 150
LUK(運): 35
BP : 60
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以前に此の大陸に居た時も何とかなった事に加えて今は其れよりもレベルが上がっている。装備はまだ新調していないけれど其れでもこの大陸の市販の平均ぐらいの性能はあるので大事にはならないだろう。不安に思うことと言えば以前とは違ってメンバーが異なっていたり少なかったりだけど其れでもソロという訳ではない。
不安点は兎も角として早速呼び出すことにする。
先程と同じようにウインドウを操作してゲストを迎え入れる。そして先程と同じように正面で光の種が育ち、イアード・アドネーが姿を現した。
『またお呼びでしょうか』
同じ台詞かと思いきや先程の事を踏まえた台詞だった。だけど今回は直ぐに送還する事はない。今回は本題なのだから。
「少しこの辺りで練習をしましょう」
そう伝えるとイアード・アドネーは此れまでと同じように受け入れた。
此処で一つ観察結果が。受け入れたと言うことはフィールドで活動する訳だけれど、用途に適した格好であったり、準備だったりは特にないらしい。この辺はやはりプレイヤーよりもエネミーであった。
続いても観察結果。普通に歩けるのね。拠点でも動いているので何を今更と思うかも知れないけれど、イベントの時を思うとそんなに動き回っている印象がなかったので、もしかしたら一定範囲内でしか動けないと思ってしまったが大丈夫なようだった。動けなかったら問題だけど。……あれ、従者になるエネミーに動かないものが居たような…
ゲストとしてのイアード・アドネーを観察しながら森の中を歩き始めて少し、ゲストに従者とはまた違ったものを感じていると、突然カゼマチが何かを知らせてきた。その知らせを受けて周囲を確認してみれば、丁度良いエネミーが見つかった。
「数は一匹…試運転には良いかもね」
確認できたエネミーは木に擬態するタイプのエネミーであり、擬態して待たずにノシノシと動いていたことで見つけることが出来た。あの手のエネミーは足の速さが異常という訳ではなく以前に逃げる事が出来ているので、もしもの時の対処も大丈夫である。
「じゃあ先制攻撃とでも」
『対象はあの者ですか。では、私が先陣を務めましょう』
「え――」
そう言うと直ぐにイアード・アドネーは目線の先のエネミーに向かって手を伸ばした。何をするのかと思えば、正面の地面や近くの木々から蔓が伸びては対象を絡め取る。
「此れ、あの時の…」
ゲストとしてある程度弱体化しているとはいえ植物使いは健在のようである。あの植物使いだけでも結構な能力だと思うのだけど。以前の事を思えば攻撃や防御など幅広く使えるのだから。今回で言えば拘束している訳だし。
「…此れでも初期レベルなのよね…」
「アー…」
ただ、以前ならいきなり鞭にして叩きつけそうな場面なのでやはり弱体化はしているらしい。
とはいえ、ちょっかいを掛けたことには変わらずエネミーは此方の存在に気付いて戦闘態勢へと入る。動けないけど。
其れからはゲストを主軸として私たちはサポートを基本にしての戦闘が始まったが、変な戦闘になった。エネミーに対してダメージを其程与えられないが、それ以上に自分たちもダメージを受ける事が無い、それどころか近付けさせない、硬直の長い戦闘となった。
「これはまた…考える必要がありそうね」
そう考えながら結局攻撃に参加することにした。
ゲスト観察結果、初期のプレイヤーよりは確実に強い。だけど主軸を任せるには早かったらしい。サポート×サポートになる。




