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電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
新年も変わらず
179/237

166 芽吹き

「ゴール報酬はその都度貰えるのね。だから挑戦回数が決まってるのかしら?」


 資金稼ぎ用の修練ダンジョンを三回程クリアした後、報酬を確認しながらそんな事を呟く。


 他とは毛色の異なる資金稼ぎダンジョン、その内部も他とは異なっていた。修練のダンジョンは仕組み的には基本的なものだった。だけど資金ダンジョンでは出現するエネミーの数が決まっているようだった。必ず換金アイテムがドロップするように設定されているからなのだろうか。とはいえドロップ品とゴール地点の宝を合わせればそこそこの数はなる。


「それにしても"黄金の雫"かぁ、どう見ても換金用ね」


 "黄金の雫"、其れはダンジョンの最後に必ず用意されていたアイテムである。黄金の雫という名称であるが液体と言う訳では無く、そんな形をしている金塊である。サイズとしては掌よりは小さい。アイテム詳細を確認すると換金用と思える説明が書かれている。あと一応素材としても使えるらしい。


「其れでこっちは…」


 "古びた金リング"、此方はエネミーからドロップした物であり現在は累計で二十程手に入った。ドロップ品であるので"黄金の雫"よりはレアリティは下がり、入手も確定なので売却価格は劣るだろう。とはいえ、実際価値がどの程度なのかは売ってみないと分からないけれど。


「確認も兼ねて一度売ろうかな」

「アー」

「彼処の商店でも受け付けているでしょ」


 そう決めて、ダンジョンを一度中断して広場にある商店の一つに向かった。此処の商店はスキルなどを売っていたりと一般のものとは毛色が異なっているが、商店であるならば売却に対応しているだろう。元は無かったとしても換金アイテムの安定供給の実装に伴って追加されていても不思議ではない。


「古びた金リングは想定の範囲内として、黄金の雫は思ったより売れたわね。流石ゴール報酬」


 古びた金リングは一つで料理アイテムを余裕で買えるぐらいには売れて、其れが全部で二十程。確定で落とすドロップ品にしては初心者には有り難い程度の金額になった。換金アイテムとして登場したのだから其程安い訳は無いのだが、軽く見積もった以上の結果である。更に黄金の雫に至ってはそれ以上の値段になった。一つでも目標額にはまだ程遠いにしても一回で稼げる値段としてはクエストボードの依頼の報酬よりも上である。回数が決まっているにしても現段階ではかなり良い収入源である。


「まだ回数は残ってるわね。続きに戻りましょうか」

「アー」


 換金アイテムも侮れない、そう思いながら再びダンジョンの場所に向かうと、丁度来たばかりなのであろう助っ人の姿を発見した。


「どう?稼げそう?」

「クエストを繰り返すよりはね」


 Akariとわんたんとたんぽぽの三人、助っ人もといレギオンメンバーがやって来た。換金額についてはまだ報告していなかったが皆此方に切り替えてきたようである。皆もそろそろ切り替えたかったのだろうか。

 そんな訳で、後から加わった三人も資金稼ぎダンジョンへと挑戦することとなった。一緒に挑戦すると言っても当然皆ソロでの挑戦である。パーティで入ると一纏まりにされて戦利品が減ってしまう可能性が少なからず考えられたからである。もしかしたら人数が増えた分を考慮してくれるかもしれないが、其れを確認する余裕は無かった。

 他の三人が順番に入っていくのを見送った後、自分も再びダンジョンの中へと入っていく。難易度は変わらず内容自体ももう把握済みであるので皆よりも早くに終わるだろう。


「――ふぅ、皆はまだみたいね。其れも当然か」


 上限まで挑戦を行って一息吐きながら周りを見てみたが、入れ違いになったようで誰も出てきてはいなかった。どうせ自由行動のようなものなので場を離れても良いが折角合流したので確認はしておきたい。

 仕方なく、皆が上限まで挑戦を終えるまで換金などをしておくことにした。先程は三回分程度の換金だったが、今度はそれ以上の数があるので結果が楽しみである。


「アー」

「あ、出てきた。でもまた行くのよね」


 商店の前まで来た辺りでAkariが外に出てきた。だけどまだ挑戦回数が残っているようでそのままダンジョンへと戻っていった。

 そんな光景を見届けながら私は換金を済ませる。此処のダンジョンだけでかなりの稼ぎになった。挑戦回数は現実で一日が経てば戻るようなので毎回挑戦すればもしかしたら目標額に届くかもしれない。とはいえ届かない事も十分に有り得る為、他の稼ぎも考えなければならない。なにせ此処で稼げるのはあのダンジョンぐらいなのだから。


「とはいえ、ペース次第では何とかなりそうね」

「アー」

「ん、あーまた出てきたのね」


 今度はすぐに戻らず一休みしているようなので一声かける目的で近付いていくことにした。声を掛けたらまた別の場所に向かおう。









 そんなこんなで数日が過ぎて月が変わり、期日も目前まで迫る中、私たちは再び例の島にやって来ては島のウインドウを呼び出していた。今回は都合を合わせた事も有って全員が揃っている。合わせてまで再び島を訪れたのは当然購入の為である。


「何とかなりましたね」

「…結構ギリギリなところだったけど」

「臨時収入があって助かったぁぁ」

「言い方ぁ…」


 後ろで年下組がそんな会話を言っていた。わんたんが臨時収入と言っているが正確には先輩の所持金である。久しく同行していなかった先輩が手伝えなかったからと足りない分をポンと出してくれたのである。…足りない分と言うが其れも私たちが一日で稼げる以上のかなりの額だったのだが。もしかして始めから目標額の金銭を持っていたんじゃという疑惑が挙がったりしたが、当人は「そんな訳ない」と言っていた。


「じゃあ払うよ」


 ウインドウを操作して皆で集めた金銭を振り込む。するとウインドウは一度閉じられてその地点から島全体に領域のようなものが広がった。そして次の瞬間には目の前に小さな花火が上がり、ウインドウより少し高い位置にアナウンスが表示された。



【☆CONGRATULATIONS☆】


【此れからこの土地は『Celesta Sky』の所有地となります】



 この島は間違いなく私たちのものとなった。此れで期限などを気にしなくとも良くなる。確認の為にもう一度ウインドウを呼び出そうとすると当然ながら購入画面は出なかった。その代わりに次の段階へと進んだと分かる質問が表示された。



【この土地には望んだ場所にレギオンホームを建てる事が出来ます。

レギオンホームを建てることによってプレイヤーに様々な恩恵を受ける事ができ、一部の要素が開放されます。簡易拠点を設立しますか?(後日建てる事も出来ます)】

【YES】【NO】



「早速拠点を建てる事が出来るみたいね」

「其れなら建てちゃおうか!」


 そう言って後ろから伸びてきた手がウインドウに出された選択肢を押した。選択肢からの場所指定の後、目の前にプレハブ小屋と迄は言わないが簡素な造りのドームが現れた。


「簡易拠点の割にはまあまあな広さはあるのね」

「アー」

「…団体前提だから?」

「其れで一人しか入れなかったら駄目だもんねー」


 外観は島の風景と噛み合っていないが、ドーナツのようなドーム拠点の内部は一切家具が置かれていない事を除いても広めだった。


「ほんと何もないね」

「家具などは自分で追加していく形ですか?」

「…みたいね」


 確認した拠点用ウインドウによると何も置かれていない今の状態が初期状態で此処から自分たちが自由に改良していくようだ。ただ家具だけでなく改築などもその都度金銭が必要となる。カナーが言っていた事だ。


「じゃあ当分は増やせないか、大金使った後だし」

「…あ」


 家具に費やす金銭は残っていないだろうから今操作できる要素はない、そう思っていると、ふとある物を思い出して其れをインベントリから取り出す。其れを見て皆は疑問に思う声や思い出すような声を出した。其れらを背に私は拠点の一角に其れを置いた。


 すると、其れは淡い光を放った後に素材を呼び覚ますように小さな枝が伸びた。そして其れが安定すると淡い光が形を成し、一体の樹人となった。




――――――――――――――――――――――――


名称:【霊樹の木像〈イアード・アドネー〉】

情報:ドライアドの魂が宿った小ぶりの木像。


――――――――――――――――――――――――




 随分待たせてしまったけれど、此れで約束を果たすことが出来た。


 目覚めた樹人は以前と変わらぬ雰囲気で声を発した。




【独り言】

唐突ながら金策編はこれで終わりです。

あと、お知らせですが、明日も投稿がありますがその後は少しの間お休みとなります。

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