165 金策の修練
別の日。
改めて資金稼ぎへと勤しむ。色々な手段を試したが未だに目標額には至っていない。ダンジョンからの戦利品はそこそこ売れて戦闘などの分を合わせれば確かに他よりは一回辺りの稼ぎは多いだろう。だけどその移動の事を考えれば手間がかかった。他の皆はどうかは分からないけれど金策目的で向かうなら海中ダンジョンは当分は遠慮したいところである。
ちなみに今回ログインしているメンバーは、るる。が外れた事以外は前回と同じである。先輩は今回も不在。ログインしているメンバーは今日も各自クエストなどで金策を行ってくれている。
「さて、次の依頼は…」
そんな事を考えながらも配達系を中心に依頼を地道に熟していく。実入りは少ないけれど移動に困る海中ダンジョンを往復するよりは良い。…間に合う気がしないというのが本音だったりするけれど。
「今出ている討伐は殆ど海中ね…此れは駄目。納品は指定アイテムを知らないし…」
海のエネミーを指定していたり、まだ自分が把握していないアイテムを指定していたりと現在残っている依頼は手間が掛かりそうなものばかり。配達系統は自分でも多めに受けていたが今は一つも張られておらず次の補充を待たねばならない。クエストボードで依頼を受けているのは自分だけではないので受けていないものも少しすると無くなっている事は不思議では無い。特に報酬の良いもの等は直ぐ消える。
「そろそろ手段を変えるのも良いかもね」
依頼の補充を待つ間、息抜きを兼ねて別の手段を探すのも悪くはない。他のメンバーの確認も出来なくはないし、もしかしたら何か思い付くかもしれない、そんな事を考えた。
「…あれ?」
一先ず別の場所に向かおうと方向転換を行うと、通り掛かろうとするプレイヤーの中の一人が此方を見ていることに気付いた。よく見てみればそのプレイヤーの外見に見覚えがある気がした。
女性としてはしっかりした体格に微かに浅黒い肌、そして特徴的なのがその背後にちらっと見える松ぼっくり的なもの。
「何してんのカナー?」
「先行ってていいよ。後で追いつくから」
「ちょっ、カナーさん?」
「じゃあ行っとくよー」
女性プレイヤーが仲間と離れて此方へと向かってくる。あちらは此方の事を確かに覚えていたらしい。そしてはっきりと覚えていたのはカゼマチもなようで、向かってくる女性に対して反応を示していた。
「アー」
「おーおー、覚えてたかカゼマチくん」
カゼマチはその相手に反応を示して周囲を飛んだ後、女性の背中に居る従者にも挨拶らしき反応を見せていた。その従者からは迎撃のような返事をされていたけれど。
此方に来た女性プレイヤーは以前に従者持ちだけの宴で出会った相手"カナー・L"だった。その背中には今日も従者であるマツボール(愛称未定)が存在感を放っている。彼女は確か鍛冶レギオンに籍を置いていると言っていたが、先程一緒に居た仲間はその手の者たちだろうか。
「あの宴以来ね」
「こんにちはカナーさん、こんな所でどうしたのですか?お仲間は先に行きましたよ?」
「あたし?あたしはちょっと素材集めの手伝いをね」
カナー・Lが何処を拠点にしているプレイヤーかは存じないが、この海で居る事を不思議に思って訊いてみると、返ってきたのはアイテム集めと言うことだった。其れも所属が鍛冶レギオンと言うだけ有って探している素材も鍛冶用の鉱石などだと言う。
「手軽な採掘場所は限られているけれど、海なだけあって生息してるエネミーからは鱗とかが取れるのよ」
素材に出来るのは何も鉱石だけではない。エネミーのドロップ品等も素材にするため、使えそうな物、必要な物を求めて攻略とは別に色々と場所を巡ることがあるようだ。この大陸に来たのもこの大陸だからこその素材が目当てのようである。
「それで?そっちは何をしているの?一人でクエスト?」
「少しお金が入りようになりまして…」
少しばかりではないけれど、と思いながらもカナーに大金が必要になった事情を説明する。当然ながら其れを聞いた相手も「どこか少し」と漏らしているが。
「にしても、ホームどころか島も買えるとはね。
だけど島となればホーム以上に費用がかかるだろうし、ホーム自体にも費用が掛かる筈だから本当はもっと必要じゃない?」
「其れもそうなんですけれど、土地を確保しておけば後は何時でも良いと思うので」
購入さえしてしまえば其処は自分たちの土地となる。そうなれば後から他のプレイヤーが拠点を置くことも無いだろうから後は気楽に出来る。だから今は本題のホームの事は置いておいて期限のある島の分だけでも優先させるのが得策。……其れだけでも問題なのだけど。
「其れで訊きたいのですけど、他のプレイヤーはどうやって稼いでいるのですか?」
「どうやってか…」
参考までに他プレイヤーの金策事情を訊いてみた。攻略で貯める等だったらあまり参考にはならないけれど、何か良い方法を知れるかもしれない。
「ダンジョン攻略でもしてたらそこそこ貯まるけど、それ以外なら売買とかかな。特に換金用アイテムなら高く設定されてるから複数なら結構な額になるし」
「換金用アイテムってそんな簡単に集められる物なのですか?」
「まあ種類によるね。」
カナー曰く、換金用アイテムはドロップ品であったりクエストやイベントの報酬であったり採掘であったり、其処まで登場頻度は高くないにしろ様々な手段で手に入るらしい。その中でも入手手段が限られているもしくは入手難易度が高いもの程その価値も異常な程に高く設定されているらしい。
「前に仲間から聞いた話だと、難易度が高いダンジョンで手に入れたアイテムを売ったらホームが買えそうな程の金銭になったって人が居たらしいわ。ま、流れてきた噂だから信憑性は定かじゃないけど」
信憑性は定かではないと言ってはいるけれど、換金用アイテムが其れなりの稼ぎになる事は否定しない。とはいえ手に入ればの話。
「確実に手に入れたいなら修練島に行けば良いんじゃないかな」
「修練島?以前に行きましたけれど、そんなものありました?」
「何時だったか増えたのよ、資金稼ぎ用のダンジョンがね。其処ならランクは幾らか下がるけどその辺よりは稼ぎは良いから行ってみると良いよ。少しは足しに出来るだろうから」
「はい。そうします」
有力な情報を得た。どの程度の足しになるかはまだ分からないけれど別手段としては試す価値はある。報告も兼ねて他のメンバーにも後で伝えておこう。
「さぁて、あたしもそろそろ追い付かないとな。それじゃあ金策頑張ってね。」
「はい、情報ありがとうございました」
「アー」
そう別れを告げると、カナーは仲間が進んでいった方向へと早足で向かっていった。その背中では彼女の従者が別れを言うかのように小さなアクションを起こしていた。
「よし、そうと決まれば修練島に向かおうか」
「アー」
たった今聞いた情報を頼りに修練島へと向かい始める。修練島へは専用の船を使う事で行くことができ、前回は翠の大陸から向かったが、その船は間違っていなければどの大陸からも出ている筈である。なのでまずはその船を探すことから。
掲示板やマップなど乗り場がありそうな場所を探す事少々、その乗り場は現在地の海上都市から離れた位置に存在した。前の大陸でもこんな感じだった気がする。
「メッセージで伝えてと…」
船乗り場の場所も加えてメッセージを他のメンバーに送る。伝えるべき事は大体終わったので早速アクアライドで海を渡る。
水上ではエネミーに見つかったり、カゼマチに乗って加速したりと有りながら、それらしい港のある島に辿り着いた。上陸してみると他のプレイヤーの姿も幾らか確認出来たので何もないという事は無いだろう。
人の流れを見て乗船券売り場と思しき場所を見つけた。近付いて確認してみると、此処が目当ての乗り場で間違いは無いようだった。
「値段が少し上がってる?
…そういえばレベルによって値段が変動するんだったわね」
前回に比べれば当然レベルは上がっているので次の値段に段階が上がっていても仕方が無い。料金を支払って往復のチケットを購入し、そのまま修練島行きの移動艇に乗って出発の時を待つ。
「アー」
「何だ!?…って、ありゃ従者か」
「あら綺麗」
「触ってもいい?」
待っている間、従者エネミーが珍しかったのかカゼマチが異様に人気だった。其程身体が大きくなく、あまり暴れたりしないから構いやすいのだろうか。…あのスキルを使ったらどうかは知らないけれど。
【まもなく発進致します】
待ち時間の終了を告げるアナウンスが現れる。
乗客の確認の後、移動艇は光を越える専用のコースを進み出す。そして、船旅とまでは言えない短い時間で目的地の港へと辿り着く。
【修練島に到着しました。―――】
船を下りて修練島へと上陸する。やはり乗船した大陸が違うためか微妙に降りた場所も違っていた。だからといって何か不都合がある訳ではないが。
島の広場へと入ってまずは掲示板を確認する。各修練の場所など大体は変わっていない筈であるが、今回目的である資金稼ぎ用のダンジョンは前回にはなかった要素であるため探す必要がある。
「あら、気のせいか配置が変化している?」
「アー?」
「あぁ、連れて来た覚えがないから知らなくても当然よ」
前回の案内を完全把握している訳ではなくとも少し違っているように思えるエリア内の雰囲気。ただ要素が追加されたというだけでなく、其れに伴って整理したような感じである。
「其れで肝心のものは…っと、あっちね」
案内に従って広場を進む。通り過ぎる中でそういえばと商店がスキルを売っている事を思い出す。今は余裕がないけれどカゼマチのスキルを考える際には良いかもしれない。…その時はまた忙しくなるだろうけれど。
スキルの事を考えながらも目的地に到着した。そのダンジョンの入り口には注意点が書かれており、其れによるとこのダンジョンには他の修練とはまた違った点が存在した。まずこの中では経験値が発生しないこと。行動によるスキルの発現はあれどレベルアップが一切無いので稼ぐ為だけのダンジョンと言える。他に、このダンジョンには一日の挑戦出来る回数に上限が決まっていた。此れは何を危惧したのだろうか。
「まあいいわ。行こっか」
難易度は其程高くはないらしいから深くは考えないで挑んでいよう。どうせ稼ぐ為に来た訳だから。
そうして私はそのダンジョンの扉を開いた。
【独り言】
記念配信や卒業配信が重なって感情がごちゃごちゃになる。




