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電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
新年も変わらず
176/237

163 魔の金策・続

 トラブルはあったものの、私たちは依頼者と共に海中のダンジョンの内部へと進入を果たした。ダンジョンの内部は光が届き辛い海中であるからか薄暗く、それでいて音が有れば響き渡る程に静かな遺跡であった。

 そんな遺跡の中を調査故にゆっくりな歩みで且つ着実に進む。そしてまた依頼主の足が止まった。その視線は先程から観察していた壁の材質などではなく行く手を阻む前方の壁に向けられていた。


「あれ?行き止まり?」

「他に道はありませんでしたし、此処で終わりでしょうか?」


 まだ内部に入って少ししか経っていないにも関わらず、私たちは壁に行き着いた。わざわざ海中まで来た割には思ったよりも短いダンジョンだった…等と私たちが思い始めている隣で依頼主だけが壁に触れてぶつくさと独り言を言っていた。


「…継ぎ目が妙だな…」


 依頼主はペタペタと行き止まりの壁を触る。すると依頼主が触った中の一つの壁が反応を示し、行き止まりの筈だった前方の壁が動いて新たな道が生まれた。入る者をある程度絞るための仕掛けなのだろうか。


「ほー、ダンジョンといえばの定番仕掛けだね」

「そうなの?」

「隠し通路とかでは良くある仕掛けだよ?まあスイッチ系はトラップも多いけどね」

「…行くぞ」


 道が開かれた事で改めてダンジョンの奥へと進む。壁の先の道は入った途端に壁の色が変わっていたり、此処まで殆ど真っ直ぐだった道が曲がり始めたり、先程までとは雰囲気が違っていた。依頼主が調査で足を止めている間に少し横道を覗いてみたりした時には植物のようなものを見つけた。確実に環境が変わっている。


「其処の空き空間にこんなのあったよ」

「こんなものも有りました」


 交代に持ち場を離れては私たちも探索を始める。覗いた先で時に戦闘になる場合もあるけれど、何かを発見して回収出来る事もある。其れで言えばるる。が行った先が崩れていた影響なのか鉱石を幾つか持って帰ってきた。価値は分からないが使い道は様々だから損は無い。それに対してAkariも発見物があるにはあるけれど…


「これ、何か効果があったりするのかな?」

「…毒でしょ」


 飲料製品のようなアイテムが見つかったが、環境自体が古びている雰囲気のあるこのような場所に放置されている物が大丈夫だとは到底思えなかった。取り敢えず其れは置いていかせるとしても他にも似たようなボトルがあった。どうやらそれらは食料では無いらしい。では何に使うのか。


「火炎瓶に…スモーク…」

「駄目じゃない?」

「…アー」


 使い物にはなりそうに無かった。とはいえもしもという可能性は残っているのでこのダンジョンに居る間は持っておくらしい。湿気で駄目な気がするが。


 依頼人が再び移動を始めたので其れを追って付いていく。護衛を頼んだとはいえ依頼人自らエネミーを出来る限り避けようとしているようで、わざわざ別の方向に進んだりと予測が出来ない。

 そしてその避けた先で依頼人は何かを見て止まった。


「…彼処にエネミーが居るな。防衛といったところか。あの材質も気になる、欠片で良いからちょっと取ってきてくれ」


 依頼主が進路先の空間に留まっているエネミーらしき物体を見てそんな事を言い出した。調査と言ってダンジョンの隅々を調べていたが一部のエネミーも含まれているらしい。先程エネミーを避けたのは興味が無かっただけか。


「まさか挑んでこいとは」

「こういう事も有るのですね」

「仕方ない」


 此れも依頼内容に含まれているのだろう。となれば戦闘をしなければクリアには辿り着けないということか。一応依頼は護衛だった筈なのだけど…

 どうあっても戦闘は避けられないと思考を切り替え、目を凝らして目先のエネミーの情報を探る。其れによって少し遠方ながら相手の情報が表示される。



――――――――――――――――


ブロークンゴーレム / Lv 45


――――――――――――――――



 見えたのはエネミーの名前とレベル。最初名前の部分は別の名前が書かれていたのだがその名はぼんやりとしていて、少し経つと現在の名前に変化した。変化後の名前が壊れている事を意味するように、今のそのエネミーの姿も廃れや破損などが目立つ姿をしている。もしかすると名前が変わったのは現在の状態を反映したからなのかもしれない。その他にレベルは高いが壊れているからかHPは全快ではない。此れならばまだ戦えるだろう。

 いざ戦闘と慎重に近付いていくが、そのエネミーは同じ空間に入っても此方に対して反応をしなかった。


「…全然来ないね。本当にエネミーなの?」

「一応判定は出てるのだけど…」


 今一度確認してもそのエネミーの頭上には名前やレベル、HPが表示されている。友好エネミーにしても判定が違う。敵対で間違いはない筈なのだけど。

 反応が無い事に疑問を浮かべている間にもAkariがエネミーに近付いていく。


「反応が無いなら無いで良いんじゃない?要は欠片を採取出来れば良いんでしょ?」


 そう言ってAkariはエネミーに近付いては欠片が取れそうな部分を探している。確かに、戦わないと入手出来ないと私たちは思っていたけれど、依頼主自体は其処まで言っていない。取ってきてくれとしか言っていないから入手出来るのならば方法は問わない筈である(単に研究の事しか頭になかった可能性もあるが)。其れならばAkariの行動も間違いではない。

 Akariはエネミーの後ろへとまわる。元から破損箇所が目立っていたけれど背中に今にも剥がれそうな装甲が見つかったらしい。手を伸ばすだけでは届かず、Akariは近くで引き剥がそうと思ったのか、よじ登ろうとその身体に触れた。

 すると、小さく振動音と共にエネミーに光が宿った。


「動き出した!?」

「壊れていても接触に反応するみたいね…!」


 先程まで反応を見せなかったエネミーが本来の機能を活動させて立ち上がる。Akariは其れよりも先に装甲に手を掛けて引き剥がそうとしたけれど、先にエネミーが動いたことで姿勢が崩れて失敗に終わった。


「…っ、やっぱりやるんかい!」


 そう言いつつ誰よりも先に戦闘態勢に入るAkari。更には先制とばかりにいきなりスキルで攻撃していた。なんというか八つ当たりに近い勢いだった(この場合は対象を間違ってはいないか)。

 破損が多く装甲も錆びている割にはAkariの攻撃でHPはあまり減少してはいなかった。曲がりなりにも此処まで本体の原型を留めただけの事はあるということか、レベルや相性の問題か、どれにしろ面倒である。


「わ、私たちも加勢しませんと…!」

「そうね。流石に一人は危なっかしいし」

「アー」


 とはいえ、欠片さえ手に入れば倒しきる必要は無いだろう。動き出したと言っても破損部分が修復した訳では無い。Akariが触った箇所もそのままで残っている。其れならば何か強い衝撃さえ与えればもしかすると所々が外れるかもしれない。外れたならば其れを確保して離脱すれば良い。


「狙いはあくまで欠片だから破損箇所を狙ってね」

「はい、分かりました!」

「Akariも訊いてた?」

「訊いてるって!傷口に塩作戦でしょ!」

「妙な名前付けるな!」


 軽口を返してきたが、正面から向き合っていたのが回り込むように、立ち回りに変化があったところを見るに理解しているのだろう。


「私も前に出るわ」

「は、はい!」


 回り込むようになっても相手の意識が集中していては動き辛いだろう。だから少しでも動けるようにすれば事も早く済む。


「アー!」

「カゼマチはまだ待機で」

「アー…」


 カゼマチがやる気満々に飛び出していこうとしたけれど其れを制止する。カゼマチなら一瞬で相手の意識を誘う事は出来るだろうけど時間が限られている。正面から対処すれば時間が掛かりそうな相手なら、出来るだけ一気呵成に済ませたい。

 行動を考えながらもエネミーの身体の正面へと出た。だけど標的は動き回るAkariに定めているようで其れを追おうとしている。このまま背中を向くのなら其れでも良いけれど、採取はフットワークの軽いAkariに任せた方がいい気がした。だからその為にも注意を此方へと向ける。


「試しに此れで…!」


 取り出した札を前面にばらまく。ばらまかれた札はスキルの淡い光を帯びた後、エネミーの身体に触れた瞬間に小さな爆発を生んだ。呪符による術技スキル《炸符》。爆発と言っても其処まで強くもなければ実際にHPも削れておらず、消費の事を考えても初歩的なスキルだけど、こうも近くで何度も破裂していては流石に反応する筈。


「っば、結構危ないんだけど!」


 張り付いているAkariの方が先に反応した。

 そんな事より、二度三度と《炸符》を使ううちにエネミーの標的は狙い通り此方へと移った。其れを示すように此方へと腕を伸ばしてくる。其れとは反対にAkariが近付く背後には反応が無い。


「(此れで後は欠片を取れれば…)」


 時折るる。と思われる援護攻撃であったり《炸符》や壁を作る《断符》で注意を引き続けている。その間にAkariは装甲に手を掛けているのだけどそう簡単には行かないようだった。まあ衝撃でも与えれば勢いで剥がれるでしょ。


「其れじゃあお待ちかねの出番よ」

「アー!」


 そう言うとカゼマチが元気よく飛んで行き、急成長の光を纏う。もうあの姿の方が何かと役に立てると自覚しているのか出番となった途端に自分からスキルを起動させていた。(他に使い勝手の良いスキルが無いからかもしれないけれど。今度その辺を考えよう)


「何それ!?」


 急成長を遂げたカゼマチが光の殻から出てきたのを見てAkariが驚いている。声は届いていないけれど後ろではるる。も驚いているだろう。思い出してみれば他のメンバーどころか他のプレイヤーの前でしたことは無かった。目撃されたなら有るけれど騒ぎになる事を避けて公では使っていない。


「説明は後、しっかり掴んでなさい!」

「え…」


 大きな翼を広げたカゼマチはあまり広くない部屋内を大きく旋回した後、そのままエネミーに向かって突撃をかけた。勢いを伴った突撃によってエネミーは吹き飛んで壁に叩きつけられた。…ちなみにAkariも吹き飛んだ。

 地面に転がったAkariは此方に文句があるようだった。だけどその手にはしっかりと剥がれた装甲が掴まれていた。


「するならするで先に言っといてくれないかな?!」

「取ったのなら一度退くわよ!」

「訊いて!?」


 文句をスルーしつつ、まだ変化が続いているカゼマチの足に掴まり、Akariと後方で構えるるる。も回収してそのまま部屋から離脱する。単純な速度で言えばあのエネミーが追いつける訳もなければ早々に追う事を諦めていた。一定の範囲からは出ないようである。


 無事にエネミーの欠片を部屋から持ち帰った私たちは、暢気に考え事に耽っている依頼主と合流した。



【独り言】

記念LiVEなどが多くて軽く召されてる…

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