162 魔の金策
「思ってたより売れるのね」
「アー」
ドロップ品である例の腕輪を買っていった客を見送りながら純粋な感想が口から漏れた。
品物が其処まで希少なものと言う訳でも無ければ場所も良くないから、流石に其処まで売れ行きは良くないだろうと思っていたバザーだったのだが、予想よりも多くNPCだけでなくプレイヤーさえもが店を訪れた。その上、冷やかしではなくしっかりと品物を買っていった。あの腕輪でさえ、買っていったプレイヤーに言わせれば「素材として活用出来る」と売れていった。
「ん、なんだこの鳥」
「いらっしゃいませ」
「アー」
そしてまた一人の客が訪れた。
カゼマチが招き猫ならぬ招き鳥となっているのが案外目立っているのか、人が通りかかるとカゼマチに気付いては高確率で足を止めている。街中のこんな場所に鳥のエネミーが居ると思っていないから余計になのだろう。此れにはカゼマチも得意気であった。なお、稀に商品と間違えて抱えられそうになるがその時は暴れていた。
「有り難う御座いました」
「アー」
そうこうしている間にも最後の品物が売れ、売物設定をしていた物は全てお金へと変わった。お陰で嵩張っていたインベントリの中もある程度は整理が出来た。このまま品物を補充して次の商売をすることも出来るようだけど、当初の予定が済ませれば良いので此処で切り上げよう。
「戻る前に他のお店でも見ていきましょ」
「アー!」
専用のウインドウを操作して商売の終了を選択し、自分用の場所から離れる。終了を選んだ後もブルーシートが残り続けているが大丈夫だろう。始めだってシステムが先に用意していたのだから、放っておいても片付けられるだろう。……その予想通りに少し経つとブルーシートは消えていた。
「…らっしゃい」
バザー会場を去る通り道にある一つの店を覗いてみる。其処の店主は私と同じプレイヤーのようで、無愛想な男性だった。
その男性が売っている品物は幾つか売れたのか始めからなのかは謎だが少なく、そのどれもが料理アイテムだった。其れこそお祭りの出店などで売られて食べ歩きに適していそうなものだった。
別に今すぐ食べなければならないという状況では無いけれど、このまま去るのも冷やかしになってしまうので、一つ買うことにした。
「そのポテトパックを一つ下さい」
「…まいど」
ポテトパックという名の某ジャンクフードに似た小さな入れ物に入った揚げ芋を購入して再び歩き出す。揚げ芋はカゼマチが興味を示したようなので殆ど与える事にした。揚げ芋を摘まんでいる横でポテトパックの情報を引き出してみると、此れには僅かながら攻撃力上昇の追加効果があるようだった。とはいえ効果時間は其程長くは無い上に、直ぐさま活用する予定も無いのだけど。
ポテトパックを持ちながら様々な店を通り過ぎてはバザーエリアを抜けた。通り過ぎ様に各店の様子を見ていたりしたが、あのプレイヤーが言っていたような掘り出し物は無かったように思えた。そう簡単に出会うとは思っていなかったとはいえ、見れないのは少し残念であった。
「――ん?誰からかしら?」
バザーエリアを後にしてクエストボードの場所まで戻ろうとした時、不意にメッセージ受信を表わす機械音が響いた。
メッセージの宛名はAkariだった。メッセージを送ってくると言う事は経過報告ぐらいかと思ってそのメッセージを開いてみると、経過ではないにしろ報告ではあった。いや、もしくは救援や要請かもしれない。
「良いダンジョンを見つけた?」
内容を簡潔にすると、「やっぱりダンジョンの方が稼ぎ易いだろうからダンジョンに挑むことにした。来られる人集合」という感じの文章だった。
ダンジョンに挑む事は止めはしないけれど、良いダンジョンというのは本当なのかと少し疑ってしまう。この大陸(海)のダンジョンは海中が殆どで水上に出ているものは数少ない。なのでダンジョンとなればどちらかと言えば水中よりも海中の方が主となる。だけど、幾ら海中のダンジョンを知っていても私たちは行くことが出来ない。その方法が今は無いのだから。
「けど、文章からしてやけに自信があるのよね…確認済みかしら?」
ダンジョンと言うだけで其れが海上なのか海中なのかは定かで無いが、見つけたというのは本当なのだろう。どのみち次の依頼を探すために戻るつもりだったので、此処は合流しておこう。
メッセージにはきちんと合流場所も記載されていた。合流場所も何もボードの位置に居るらしいのだけど。
「あ、居た」
「アー」
ギルドの入り口付近のクエストボード迄戻ってくると、賑わっているプレイヤーたちの中にAkariたちの姿も見えた。だけど皆それぞれで動いているからか全員揃っているという訳ではなかった。
「お、来た来た」
「流石に皆忙しいのね」
「距離の関係とかもあるからねー。名残惜しそうな反応が返ってきたよ」
Akariの誘いで戻ってきたのは私たちの他にはるる。ぐらいだった。先輩は来られないとして、残りのわんたんとたんぽぽも受けている依頼が討伐系だからかすぐに戻ってこられないらしく辞退したようである。
結果、ダンジョンに挑むパーティはこの三人と一匹らしい。
「其れで、良いダンジョンってどういうこと?」
「ふっふっふ、此れを見な!」
「何ですか?」
Akariはウインドウを操作して一つのとあるページを表示してみせた。其れはクエストボードで張り出されている物と同じ類いの依頼だった。
「ダンジョンの調査?」
「そう!しかも大事なのは其処じゃないよ!」
「なになに…あぁそういうこと」
依頼内容を深く読んでみる。
内容はダンジョンの調査と言っても自分たちで調査をする訳ではなく調査に向かうNPCを護衛するというもの。NPCの調査に関しては詳しく書かれていないが、NPCを守れる事さえ出来れば、ある程度は自由行動が出来るらしい。だがAkariが伝えたいのは別の事だろう。
この依頼、護衛というだけあってか、移動に関しては考えなくとも良いという。つまりダンジョンの場所が何処であれ行くことが出来る。
「連れて行ってもらおうって事ですか?」
「そういうこと。それじゃあ早速行くよ!まずは依頼主に会いに行くところから!」
そう言ってAkariは依頼主との合流場所に向けて歩き出したので、私たちも其れを追って向かう。
ギルドから歩いて少し、わざわざ人目を避けるような路地を進んで辿り着いた位置。その端に依頼主が立っていた。簡単に見つかるものかと始めは思ったがこんな場所に居るのなら間違いは無い。
依頼主は調査に向いていそうな動き易さを優先した格好をしており、その背後には
形状が少々異なる謎の船があった。船と言うよりボートだろか。恐らくあれで移動するのだろう。
「こんにちわ。依頼主ですか?」
「…ああ。護衛の奴か」
Akariが話しかけると、相手は考え事をしていたのか少々反応が遅れながら返事をした。Akariと話を始めるその依頼主の様子は調査で頭が一杯なのか、話を早々に切り上げようとしていた。というか切り上げた。
「じゃあ、後ろに乗ってくれ」
依頼主は話を終えると直ぐに船に乗り込んでは此方も乗るように促した。其れに従って船に乗り込むが、元々大人数が乗り込む設計では無いのか、後部席に三人乗り込むのは手狭でしかなかった。
「乗ったな。それじゃあ行くぞ」
依頼主は皆が乗ったことを確認すると――いや確認してないわ――船の開閉式になっているらしい屋根を閉じ、船を大海原へと出した。
その後、船は海を突き進むが少しすると突如として動きを止めた。周りには島などが見えるがその場所には何かがあると言う訳では無い。だが其れは海上の話。依頼主は船を止めると何かを操作し始めた。
「今何か鳴りませんでした?」
「それどころか変な揺れもあったけど?」
「…行くぞ。気をつけろよ」
「気をつけろって…?」
次の瞬間、船はガクンと揺れた。
一度の大きな揺れの後、振動は安定していた。先程のような揺れが無いと確認した上で何があったのかと左右に付けられた小さな窓から外の景色を確認してみた。すると、外は先程とはがらりと景色が変わっており、魚などが宙を漂っていた。いや、正確には魚は通常通り泳いでいるのであって自分たちが海の中へと沈んでいっていた。
「潜水艦!?」
「…にしては壁が薄いわよ」
「何か光が纏ってあるみたいですが…」
自分たちが乗っている船は水圧に耐えられるような造りではない。だけど船は実際に水中へと潜っていっている。船が先程とは違って光を帯びている事から察するに、どうやらスキルの応用のようなものがこの船に作用しているらしく、そのお陰で水中へと潜っているようだ。
「こんなものも有るのですね…」
「…個人で手に入れるのは無理ね」
「…アー」
そんな事を言っている間にも潜水船は着々と海底へと向かっていく。
少しして、船の進行方向にあるものが現れた。其れは空気と思われる薄い膜に覆われた遺跡だった。其れこそが依頼主が指定したダンジョンである。
船はそのダンジョンの開けた空間に向けて降下していく。そして空気に差し込むように流れる水流に沿ってその空間内へと進入していく。
ス――――――ガタガタ、ガタン!
「おぉ…なんとか辿り着いたね」
流れからはみ出るようにダンジョンに着地した後、船の状態を解除して皆ダンジョンへと足を踏み入れる。水中に存在しており、空間の外を見れば様々なものが泳いでいる水に囲まれているが、圧迫感は微かにあれど息苦しさは其程感じなかった。
足を踏み入れてから依頼者は船を放置して、早速とばかりに入り口付近で調べ始めている。もう既に依頼は次の段階へと進んでいるようだ。
「護衛と言っても此処からだとエネミーが居るようには思えませんが…」
「エネミーが居なければ自由に動いても良いのだったわね、どうする?」
「其れなら少しお宝でも探してきますか」
依頼主は直ぐに移動する様子はない。その間少しでも稼ごうとAkariは一人ダンジョンの中へと突撃していった。一人だと心配であるが護衛という名目で来ている以上、全員が依頼主から離れるという事は出来ない。というか依頼を受けた本人がいきなり離れてどうするのだ。
「本当に行かなくて良いのですか?」
「まあ良いでしょ。そんな遠くまで行かないわ。きっと」
自分で言っておきながら自滅行為をする光景も浮かんでいるけれど、きっと大丈夫。ほら、そうこう言っている内にもAkariが戻ってきた。…やけに急ぎ足で。
「…何か様子がおかしくないですか!?」
「あー…」
「アー…」
Akariの後方を見てみれば、引き連れてきているようにダンジョンの中からエネミーが姿を現した。
「ごめん!ミスった!」
護衛に来ているにも関わらず、護衛対象の下までエネミーを連れてきてしまったAkariが戻ると同時に私たちは戦闘に突入した。……この任務無事に終わるのだろうか。
【独り言】
一応の予定ですが、金策編が終わった頃に章を変えようと思ってます。




