160 手分け金策
「いやー、助かったよ。有り難う」
「いえ、無事で何よりです…」
「此奴は礼だ。持っていきな」
場所は変わって海上都市の港の一角。三人の船員たちが一通りの感謝を述べた後に仕事を切り上げるようにそれぞれ街の方へと去って行った。港に戻って来られた船の前には私たちだけが取り残される。
今回の件を振り返ると、依頼内容は救援だったようである。
船内で人を押し潰すエネミーと遭遇した後、私たちは甲板まで逃走した。私たちが逃げれば当然狙いを此方に移したエネミーも追いかけてくる。しつこく付きまとわれる、そう思われたけれど結果は意外とあっさりしていた。
船内から外に出た後、カゼマチが自分から〈真化解放〉を発動。急成長を遂げて船内から出てきたエネミーに攻撃を仕掛けた。その光景は怪獣の激突だったと見ていない船員が妄想で言っていたことだろう。ただ攻撃によってエネミーはあっさりと海へと突き落とされた。私は其処からの反撃を警戒していたけれど、エネミーは海に突き落とされただけで怯え、そのまま逃げ出していった。一瞬の戦闘を終えると船員が復活して、現在に至る。
ちなみに、私が目撃したのは踏み潰されている一人のみだったけれど、私が気付かなかっただけで、船底の方にも部屋があり、エネミーから逃げた他の船員が其処に隠れていたらしい。
「感じたほど難易度は高くなかったのね」
「アー」
引き受けた詳細未記載の依頼は先程の別れの後には完了判定となっていた。そして受け取れるようになっていた報酬は配達よりも少し多い金銭。其れと、依頼項目とは別で船員からも報酬が貰え、其方は海の幸の詰め合わせだった。依頼と別にされているので此方は確率によるオマケのようなものだろう。
海の幸は後日使うとしてインベントリに入れておき、次の依頼でも探しに行こう。そう決めて、外のクエストボードの前まで移動する。
「あら」
「アー!」
「ねえ此れなんて…あ、」
すると、後からログインしてきたメンバーと出会った。
ギルドの中で依頼を選んできたのだろうAkariが飛び出して来ては此方に気付き、其れに釣られて外のボードを見ていたわんたんたち年下組も私たちに気付いた。
「遅いよ?」
「ごめんね。こっちも色々あってね」
「でも此れで大体は集まった」
「あら、先輩は?」
集まったという割には、この集まりの中に先輩の姿だけが見当たらなかった。ギルドの中に居るという様子でも無いようだ。先輩にも一応は事情と今後の目的を伝えており、その中でログイン出来る可能性は聞いていたのだけれど…
「あぁ、先輩は入るときは一緒だったんだけど…」
「だけど?」
「急用が入ったとかでどっか行っちゃった」
急用なら仕方が無い。先輩も忙しい筈だし。
ちなみに更に訊いたところ、急用が入ったのはサーバー自体に入る前だったらしい。内容にもよるけれど現実での用件なら今回はもう来られないと思って良いだろう。
それじゃあ、と改めて資金稼ぎの為にクエストへと思考を切り替えよう…としたけれど、其れよりも先にAkariが一人で先に進もうとしたので停止をかけてから、目的を訊いてみた。
「どうせ稼がないといけないなら手分けした方が効率はいいじゃん?」
しっかりと稼ぐ方向に考えていたようで、先に依頼を決めたAkariは他を置いて一人でクエストに挑もうとしていたらしい。ちなみにAkariが持っていた依頼は討伐系らしく、結果によっては報酬にボーナスが付くらしい。
「討伐なら複数人でした方が良いんじゃないの?」
「大丈夫だって」
どれを取って大丈夫なのか判断し辛いけれど、此方の反応など待つこと無くAkariは一人でクエストへと走っていった。依頼対象など迄確認してはいないので追いかけても無駄だろうと思いながら、私は私で次の依頼を探そう。
「簡単なものはないでしょうか?」
「こういう納品なら簡単じゃない?持ってる物なら直ぐに終わるし」
「…でも持ってない物なら苦労する」
「配達なら結構簡単でしたよ。マップにも表示されるから。あ、でも物理的に運ぶ手間はあったかな」
残りの四人で会話を交えながらクエストボードと睨み合いつつも、皆それぞれの依頼を決める事が出来た。
まず、わんたんとたんぽぽが討伐依頼をそれぞれ選んだ。どちらも討伐と言ってもその中身は微妙に異なっている。わんたんが種類関係無くエネミーを指定数討伐する内容に対して、たんぽぽは指定された一匹を倒せば良いというもの。指定された一匹となると難易度が跳ね上がりそうなものだけど、其処はしっかりと難易度が低そうなものを選んでいる。しかもたんぽぽは難易度を抑えた代わりに同種のものを掛け持っていた。質より量といった感じである。
先程簡単な依頼を探していたるる。はというと、薦めた通りに配達系の依頼を選んでいた。始めは様子見を兼ねて一つだけの受諾のようであるが、少しずつ数を増やしていくらしい。
そして、私はと言うと…
「私も受けてみようかな。練習にもなるから」
「アー!」
「其れ、難易度大丈夫?」
「其れを確かめるためでもあるのよね」
選んだのはわんたんやたんぽぽと同じ討伐系の依頼である。正直この手の戦闘系の難易度表記はイマイチピンと来ていないというのが素直な感想だったりする。敵の種類で判断しているのか、レベルで判断しているのか、其れとも敵の数で判断しているのか、自分で熟せる基準がよく分かっていない。だから一度、今の段階で試してみるのも悪くは無い。なにせ単独といっても従者が付いているのだから。
「じゃあ、何かあったらまたメッセージでも」
依頼も決まったところで、それぞれ自分のクエストを開始していく。
わんたんやたんぽぽはそれぞれの場所へと向かい始め、るる。は早速マップを開いていた。かく言う私も依頼の場所へと向かう。
引き受けた依頼の詳細はたんぽぽと同様のターゲットの討伐。そのターゲットが存在する場所はこの街からそこそこ離れた地点に位置している。距離に関しては誤算である。ただ海中では無いだけまだマシ。
「アー!」
「ん?…あの辺りに何か居るわね」
アクアライドで海上を駆けること少し。海上に何かが突き出ているものが見えた。鮫の背鰭のように出ている其れはまだ此方に気付いていないようで、向かってくる気配はない。
「ターゲットの反応は丁度あの辺りを位置してるわね…」
依頼とマップを確認してみたが、追加された反応は自分たちが見ている方向、正確には海から突き出た背鰭を示していた。あまりに自由に動いているなと思ったが、よくよく考えてみれば、狩りに来る相手を律儀に待っている必要もないのだ。依頼内容にもターゲット追跡がされているものの、付近に居るとしか書かれていない。
「アレで間違いがないのなら、先に攻撃をした方が得ね。カゼマチ、準備は良い?」
「アー」
頭の上に控えていたカゼマチが勢いよく飛び立つ。そしてもうお馴染みになりつつある〈真化解放〉の光を纏って急成長を遂げての急接近。その勢いのままに海から突き出ている背鰭に蹴りを仕掛けた。背鰭のエネミー?は直前まで迫り来る相手に気付くこと無く、カゼマチの爪は相手を捉え、切り裂いて飛び去る。
切り裂いた事でダメージが発生した瞬間、この距離からでも分かるように相手の頭上にHPのゲージが表示された。切り裂いたとはいえ場所が場所なだけに衝撃を吸収されたのかHPは其処まで削れてはいない。
そして、HPゲージが表示されたと言うことは相手も敵意を認識したと言う訳で、飛び去っていくカゼマチに向かって水中から相手が跳ね上がった。
その姿は魚というよりは鮫に別の生き物を混ぜたような、違うな、鮫の特徴を付けて鮫を装ったような別の生き物だった。
正体はさておき、やはりアレが討伐指定のエネミーで間違いはなかった。其れなら後は倒すだけ…なのだけどカゼマチが飛び去っていく影響で、対象までも段々と離れていっている。まずは追いかけてからにしよう。あ、元に戻った。
【独り言】
直前まで投稿準備を忘れていたという…
明らかにペース落ちてますね。
…とあるPVに気付いてテンションは上がってるのですがね?




