158 自然の島
【独り言】
配信見守ってる場合じゃなかった。
「もう居ない?」
「…追ってきてない」
水中からの襲撃を感知した私たちは逃げるように海の上を進んだ。迎撃という策も無かった訳では無いけれど水中が基本となりえた為に全員逃げを選んだ。その襲撃してきたエネミーが諦めても、他のエネミーが交代とばかりに追ってきたりと、一安心できる迄そこそこ時間が経っていた。
そして、未だに海の上に居た。
「それにしても、今はどの辺なの?」
「…分かんない。結構遠くまで来たみたい」
逃げる事に集中して縦横無尽に動き回ったせいもあり、都市からかなり離れたばかりか、何処をどう進んだのかも曖昧となっている。とはいえ、マップで確認すれば都市の方角ならば分からない事も無い。
一応現在地をマップで確認してみると、現在地は本来の進路から大きく逸れて、自分たちにとって未踏の場所のようだった。その証拠に景色の中に確認できる島や自然演出などに覚えが無いものが多い。
「取り敢えず近くの島に上がりましょうか。また襲われてたら考え事も出来ないし」
「そうだね」
一度考えを改める為にも陸へと上がることにした。その為に向かったのは一番近くに見えていた、緑が豊かな印象を受けた島だった。
「無人島かな?エネミーも居ないのは有り難いけど」
港がある様子は無く、適当に上陸してみたは良いけれど、其処は妙な島だった。以前にイベント中に訪れた孤島のように殺風景という訳では無ければこの海では少ない緑が整えられたように有り、だからといって街や文明がある様子はない。それどころか生命が一つも見つからなかった。
「…休憩所としても良い場所」
「アー」
「おお、その木の実食べられるの?」
カゼマチが島にある木の一つに飛んでいったかと思うと、その木に実っていた木の実のような物を囓り始めた。其れを見てわんたんも手に取っているが、何の変哲も無い食料アイテムのようである。
しかし、食料にしろエネミーにしろ、都合が良すぎるようにも思えるけれど、以前の孤島が殺風景すぎただけで、もしかしたら此方が無人島の基本的なバランスなのかもしれない。そもそも以前の孤島は分類が違った恐れが…
「何かの伏線とかだったりするのかな、この島?」
無人島を見ている内に、先にアクアライドで外周から島を見てきたらしいAkariがそんな事を言った。
「其れはどうしてよ?」
「此処から少し行った先に開けた土地があったんだけど、やっぱり何も無いみたいだから」
「少し行った先…」
Akariの言う事を確かめるように少し歩いてみると、確かにその場所はあった。
外側が入り江のようになっている事に加えて、木々が避けたかのようにあの一帯だけ植物が存在せず、そのまま放置されている。何かの前触れと思っても不思議では無いが、その場所に足を踏み入れる事が出来る上、今すぐに何かが起きる気配もない。
「イベント待ちなのかな?」
「どうかしらね…」
以前のようにドラゴンが着陸する場所にも思えるけれど、其れにしては周りの植物で少し狭い感じがある。他のイベントにしても、都市部の方が案内などが行い易い筈である。
「一体何故こんな空間が…」
「あ、今何か出たよ?」
意味深に開けた土地を確認程度に横切っていると、通り過ぎざまに自分の身体に被るように何かが出現した。何かの罠かと思ったけれど、戻って確認してみると出現したのはウインドウだった。
「何々…」
本当は進入してはいけない場所だったかと少しは考えたが、出現したウインドウに書かれている内容を読んでみる限りは何か禁止行為を伝えるようなものでは無かった。何かのイベントの伏線と言う訳でもない。それどころか、プレイヤーにとっては有益かもしれない。
「アー」
「…此処に居た」
「其処に何かあるの?」
木々方面を見て回っていたわんたんたちも丁度良く合流したので、ウインドウに記されていた内容をまだウインドウを見ていないAkariを含めた皆にも伝えてみた。
「…え?島?」
「この島、購入可能物件扱いみたいよ」
ウインドウによると、この島はプレイヤーが金銭を払えば購入できるらしい。というのもこの島はレギオンの活動拠点となるレギオンホームの一種に当てはまるようで、どうやらレギオンホームには既にある建物を購入するタイプと土地を購入してから拠点を建てるタイプがあるようだが、この島は後者のようである。
ただ、購入規模が島丸ごとなだけあって土地面積が他よりも破格な広さであると同時に、その額もかなりの金額となっている。馬鹿げてくる程に。
「嘘、買えるの!?こんな島が!?」
「まあ金額は相当なものだけど、土地としては良いかもね」
主都市から少し離れている事を除けば、エネミーに襲われる心配もなく平穏に過ごせるので海と合わせてちょっとしたリゾートのように思えなくもない。
実のところ、次への道の他にレギオンホームの事もそろそろ有りかと思っていたので良い機会である。
「え、まさか買う気なの!?」
「購入予約出来るみたいね。予約後一月は誰も買えないようになるらしいからやっておきましょうか」
「いや、何勝手にしてるのさ!」
「え、いつかは触れるであろう事だから…」
今は必要性をそんなに感じていないホームではあるけれど、別に持っても困らないだろう。其れに持っていたら持っていたで、出来るようになる事が現段階で一つ思い浮かんでいる。放置のままにしておくのも勿体ない。ある意味此れも縁なのだろう。
皆が驚きながらも購入予約の操作を済ませると、ウインドウに土地の金額と自分たちのレギオン名が表示された。此れで当分は他のプレイヤーが購入できないようになるだろう。ちなみに予約期間中に購入が出来ない場合は一定期間、その土地を購入どころか予約すら出来ないようである。独り占め対策かな。
「…で、買うなら肝心の金額は?」
「うわー…レギオンメンバー全員で支払えるみたいだけど、其れでも此れは…」
もう購入予約が付いてしまったからか諦めて金額を確認してはその金額に項垂れる面々。レギオン全体でお金を出せると言っても流石に厳しかっただろうか。だけど一度決まってしまった目標をすぐに取り下げるのは癪なのか、やる気を出していた。空元気な気がするけれど。
「あ、一応先輩たちにも言っておかないと」
ある意味ではチャレンジでもある大きな目標なので、今回来ていない二人にも教えておかないといけない。伝えておかないと"るる。"辺りが驚くのが容易に想像できる。主に島の金額で。
購入物件が故に予約以外することも目新しいものもなく、私たちは島を後にして再び海の上を行くことにした。また羅針盤の示すままに進もうにももう方角がややこしい事になっているので一度街に戻る事を決めて。
そしてその帰路…
「にしても、あんな良物件…てか島か、よく取られなかったね?金額はアレだけど実のなる木はあるし土地も広いのに」
「見つからなかった…訳は無いよね。もしかしたら最近売りに出されたとかじゃない」
「そんな都合の良いことあるかな?」
「…不思議ではないと思う。アップデートの度に増えるのは良くある事」
「そういうことにしておきましょうか」
島が購入されずに残っていた事はさておき私たちは都市へと戻った。戻った時に確認した時間ではログアウトする時間も間近に迫っていた。だけど直ぐにはログアウトせず、その前にクエストなどを一度確認しておこうと寄り道をすることにした。次に訪れた時の目当てにするために。要は金策である。
よし(・3・)っ
此れで次のフラグが立った。




