153 舞い上がるは大翼
坊や「坊や、ちょっと自転車借りるよ」
「そういえば此処でログアウトしたんだった…」
前回から数日が空いて、再びログインした電子の世界。目の前に広がるのは大樹が聳える街の光景。様々な人が行き交っているけれど、当然其処には皆の姿は見当たらない。其れもそうである。何せ皆が居る場所は此処より先の大陸なのだから。
前回、招待状を受けて大陸を戻ったけれど、其れが終わった後は時間の事もあって大陸を進まずにログアウトしていたのだった。そんな事も有って先に何人かが来ている筈にも関わらず、直ぐに合流出来ずにいた。
とは言え、今回は全員が集まると決まっている訳でも無ければ、既に全員が来ている訳でも無いので其処まで焦るような事では無い。現に私も"時間が有ったら"とぼかして伝えている。ぼやかしている内に向かえば良いことである。……ログイン履歴を見られると居る事がバレるけど。
「さてと、大陸を渡るには此れを登れば良いのよね」
「アー」
次の大陸に進むために大樹の中へと入り、上へと続く階段を進む。
「此処を登るのも久し振りね。前回は疲れた気がするけど」
「アー?」
上へと目指していると前回の事を思い出すけれど、当の従者は何も覚えていないような声を上げていた。
少しして其れなりに開けた場所へと辿り着く。此処にはショートカット用のゲートが設置されていて、其れを使えば地道に登っていかなくても上へと向かうことが出来る。おまけに時間も大幅にカット出来る。他のプレイヤーに混じってそのゲートを潜ると一瞬にして別の場所へと出た。そして其処から更に上へと続く階段を少し登ると、風が吹く大樹の頂上へと辿り着いた。
「アー、アー!」
「相変わらず此処は風が吹いてるのね。飛ばされないようにね」
「アー」
強風と迄は行かないけれど其れなりに強い風が吹いており、身体を風に預けると自然に押されるように思える。此の場所は元の大樹が大樹なだけあってかなりの広さがあるけれど、端の方に居たら危険を感じさせる風である。……決してわざわざ端の方に行ってバランスを崩しかけているプレイヤーが見えた訳ではないです。
そんな事はさておき、早速次へのゲートへと踏み入る。ゲートの内部に踏み入ると同時に浮遊かのような身体が軽くなる感覚と光に包まれ、感覚が戻ると次なる場所へと移動を完了していた。
辿り着いたのは蒼の大陸に存在する水に囲まれた街の中。以前聞いた言葉を使うならば、この大陸に来た者の殆どが始めに訪れる街。此処から中央へと向かえば皆と別れた街だ。初見では無い分、スムーズに事を運ぶことが出来る。次は此処からの移動に関してだけれど、以前と違うことは自前の移動手段を持っていると言う事。
「船か自前か……一応航路を見ておこうかしら」
一応確認がてら乗船券売り場の方へと向かう。
海の多い此処からの移動手段として取れる選択肢は、船を利用するか、水上移動手段であるアクアライドを使うかの二つである。
船を使う場合は、目的地迄自動で動くためある程度安定した移動が出来るだろうけれど、今の目的としては肝心の航路が安定していないのが難点と言える。
「案の定、直通の便は無いわね」
確認した限りでは海上都市迄の直通は現在のところは予定が無かった。乗り継いでいく方法もあるけれど、行った先で目的地迄の船が有るかは不明であり、向こうへの到着が何時になるか分からない。
そうなるとアクアライドの手段かとも思うけれど、此方は此方でやはり船よりも安全性が劣る。方向を知っていれば真っ直ぐに向かえるとは言え、海上ではエネミーのエンカウントがあるのが常。
「とはいえ、自分で向かった方が早そうね…此れは」
「アー…」
船を使うのも別に悪くは無いが、今回は自力で進む事にし、街の大通りの先にある階段へと向かう。階段を上がりきって水のアーチが出迎える。水のアーチを潜り、その先にある人工物の橋を渡って釣り堀エリアまで来た。此処から先には道が無い。此処からはアクアライドの出番だ。
「アー、アー」
「どうしたの?」
アクアライドをインベントリから出そうとしていると、傍らでカゼマチがどういう訳か騒ぎ出した。まるで任せろと言わんとするような動きを交えて。
カゼマチが地面に着地して何かをしているかと思えば、次第にその身体に光り輝く風が集まっていく。何事かと思っていると其れの答えを示すかのように勝手にウインドウが現れた。其処に開かれているのはカゼマチのデータ。そして其処の一項目の文字が他とは違う色が付いていた。
「此れって…」
其れを確認したと同時ぐらいのタイミングで、光を纏って球体のようになったカゼマチが空中へと浮かび上がる。次第に球体は膨らんでいき元の何倍かまで膨らむと膨張が止まり、今度は球体から光が漏れ出す。
そして光の殻を突き破るように、中からカゼマチと思しき大鳥が姿を現した。その姿を見て先程光っていた文字を思い出す。
―――――【真化解放】
前回の獣人が開いた宴で得たカゼマチのスキル。一定時間だけ従者自身を超強化するというスキルをカゼマチは自分から使用した。
アアァァアーーー!!
発達した身体は一回り二回りどころでは無い程に大きくなり、その大きさ故か、同じような鳴き声でも随分と迫力が違う。
左右に二つずつ合計四つだった翼は、どういう訳か更に左右に一つずつ増やして計六つとなり、その一つ一つが煌びやかになっている。翼だけに限らず、全身を覆う羽毛が鮮やかな色を放っている。
随分と見違えたように思えるけれど、顔をすり寄せてくるので、中身は其程変わっていないようだった。野性を解き放つと言うけれど此れなら危険は無さそうである。
「まさか…乗れって言ってる?」
「アアァ」
確かに人一人乗せても大丈夫な程に大きくはなっている。其れに、此れならエネミーと遭遇する機会も格段に少なくなる。悪くない提案ではある。
「じゃあ乗せて貰おうかな」
そう言ってカゼマチに触れると、今度はカゼマチ自身から光が漏れ始めた。何事かと思っていると、カゼマチは元の姿に戻っていた。一定時間とは言ったけれど、様子見をしているだけで戻ってしまう辺り、思っているより維持は長く保ちそうに無いようである。
とはいえ、折角の提案なのでカゼマチを少し休ませて回復させた後に、もう一度スキルを使って貰い、其れから直ぐに飛び立つことにした。
「それじゃあお願いね」
「アアァ!」
カゼマチが離陸する。上昇の停止を察してしっかりと掴まるのも束の間、カゼマチは一気に目的地へと飛翔を開始した。
【独り言】
最近Vの案件配信だったりを見ていると、MMO系をしてみたくなってきている自分が居る。MMOに限った話では無いのだけどね。ソシャゲ欲でも溢れてるのかな?




