147 マスタークリエイトイベント 再会
「取り敢えず、今分かっている事をおさらいしましょうか」
「そんな暢気な事を言ってる場合なの?!早くしないと誰かに取られるよ?!」
「無謀に突撃するより此方の方が確実だと思うけど?」
ドラゴンに追い抜かれた後に進行の妨げになる海流に直面してしまった事を良い機会と捉えて追跡を切り上げ、私たちは海上都市へと戻ってきた。此処に戻ってきたのはイベントを断念したからでは無い。一度情報を再確認してきたかったからである。情報を纏めれば良い選択肢が見えてくるかも知れない。
さて、早速だけどドラゴンの行動パターンとして現在確認されている事を一つずつ確認しよう。
まず、ドラゴンはこの大陸の中だけを移動すること。開催範囲がこの大陸を指定しているから他の大陸に移動したり、謎のサーバーへと移動したりと言う事はまず無い。運営自ら指定した事だからね。
次に移動は街というより島から島へと移動し、海上で留まる事は無いこと。移動中は空中でいる中でも高度は低い方ではあるけれど、其れでも触れられるような高度では無い。もしかしたら上級者なら届く術を持っているかも知れないけれど、今の所そのようなプレイヤーは見ていない。案外上級者程状況を見ているのかもしれない。
次に移動先での滞在。街の上空へと飛来した場合はその場で留まる。移動中よりも高い場所で留まるけれど大きな行動は取らないから狙う分には其程苦戦することはない。その場合の問題は射程のみ。そして飛来した先によってはその場に着陸する場合がある。プレイヤーからすれば尤も接近出来るチャンスと言えるが、その場合はドラゴンも迎撃状態になる。今の所唯一迎撃が発生する状況である。
「…こんなところかしら」
「まあ大雑把に言えばそうなるね。どれも間近で見てないから詳細は分かってないけど」
栄養補給とばかりに直前で買った料理に齧り付きながらAkariが返した。Akariの言う通りこれらは殆ど外野から窺えた情報に過ぎず、迎撃に至っては行動をしているというぐらいしか分かっておらず、どういった攻撃なのか、どう対処すればいいのか、等は確認出来ていない。此ればかりは経験者に訊かないと。
「そういえばさっきから思ってたけど、強そうな人とか意外と街に残ってるんだね。彼処に居る人とか明らかに強そうな装備してるし。てっきり最前線張ってんだと思ってた」
「割とそういう人ほど行動を絞ってるんじゃないかな?疲れるし」
疲れるし、で片付けて良いのかと思う内容だけれど、少なくともただ追い回すのは効率が悪い。実際に追いかけたからその手の気持ちは分かる。
そうなると、そういうプレイヤーはどういった行動を取るのか少々気にはなる。観察していると何かを考えているようだった。時折ウインドウを開いて何かを見ていたりするが、この人も何かしら作戦を考えているのだろう。
他のプレイヤーにしても焦りなどは無く、冷静に状況を分析して策を弄しようという動きが見られる。
「全く、奴は一体何処まで行ったんだ」
「すまない。某が付いていながら見失ってしまった」
「構わん。始めから大人しくしているとは思っておらんかった」
他のプレイヤーたちの様子を探ってると、その中に見知ったプレイヤーの姿があった。一人は侍のような風貌の鬼で、一人は頑固そうなドワーフ。
その二人は勝手に行ってしまった仲間の事で少々困っているようだった。…その仲間が誰かも見当が付きそうである。
「ねえ、アレって…」
「思ってる通りの人でしょうね。ついでに言うと居るであろう三人目も」
「一応、連絡付けとこうか」
そうして居るであると仮定してとある人物にメッセージを送った。
メッセージの反応を待っている間にも、咆哮と共にこの街に再びドラゴンが飛来した。ドラゴンはやはり空中で留まり街を見下ろしていた。私たちは参加しなかったけれど、街に居たプレイヤーは撃ち落とせないかと幾らか試していた。とはいえ、周辺を見た限りでは全力で挑んでいるのは数人で、残りは本気で挑むと言うよりは、考えを検証しているようなものだった。
身体に擦るものはあれど、誰も光球に触れられぬままドラゴンは再び飛び去っていった。其れから遅れること少し、例の人物は現れた。その人物が私たちに対して何かを言っている事に気付いて、鬼とドワーフも今更ながら此方に気付いた。
「久しいな。其方も参加していたのか」
「はい、お久しぶりです。…それで、アレは良いのですか?」
「ああ……もう少々待って貰えると助かる」
「そうですか…」
レギオン『サークルブルーム』に所属するフィルメル、レツオウ、ゴードンと再会した…のは良いが、勝手に突っ走ったフィルメルが戻ったと言うことでフィルメルがゴードンから説教を受けていた。保護者もといお目付役としてはしておかなければいかなかったのだろう。ご苦労様です。
「そういえば今日は三人だけなの?他のメンバーは?」
「他は皆私用があるゆえ、某たちがフィルメルの面倒をだな」
「面倒って、其処まで子どもじゃないんですけどー!」
「まだ途中だろうが!!」
フィルメルが何か言葉を発する毎に説教が長くなるのでは無いだろうか。
そんな事を思いながら少し待つとフィルメルの説教も落ち着き、改めて二人が此方に加わった。
改めて確認してみたところ、三人も今回のイベントに参加しているらしい。と言っても突っ走るフィルメルを追うようにレツオウとゴードンも参加したと言う方が正確のようである。その証拠にフィルメルはドラゴンに何度も挑みに行っているのに対して二人はあまりドラゴンと接触していないようである。
折角なので、三人にも分析に加わって貰うことにした。
「ほぉ、確かに敵を知る事は大事だ」
「其れなら某も聞いた話がある。力になれるだろう」
話の分かる二人は協力的であった。
なお、フィルメルは「会議するよりも突っ込んでいけば」とまたも突っ走ろうとして頭を鷲掴みにされていた。…取り敢えず話を進めることにした。
「先程一人で居る時の事だが、妙な話を聞いた」
「妙な話?」
「此度の催しは光球に触れるのが目的であるが、どうも其れを妨害している動きがあるとか」
「妨害って、プレイヤーの足止めとか?」
「そう直接的なものでは無い。精々、竜に向けられた攻撃を撃ち落とすぐらいだ」
プレイヤー自身に危害は無く、攻撃に他人の攻撃がぶつかる程度なら単なる事故では無いかと思われたが、レツオウの聞いた話では悪意は無さそうながらも、故意に行っている節があるという。
「他の噂も集めてみたところ、その者たちの意図も分かった」
「其れは?」
「あの竜自体は撃破不能に設定されているらしいが、鱗などは攻撃によって剥ぎ取れる上にその鱗も良質な素材のようで、一部の者たちは其方も狙っているようだ」
やけに時間が掛かっているとは思っていたが、其れはただ苦戦している訳ではなく、素材収集の動きも存在したが故のようだ。イベントが終わればドラゴンも居なくなって収集が出来なくなるから。
あとしれっとドラゴンが撃破不能だと暴露されたけど此方は不思議は無いか。目的はドラゴンが持っている物だし。
「其れがある内は早々にクリアされる事は無いってこと?」
「其れはどうだろうな。優先順位など人それぞれだからな。素材に興味が無ければ早々に決めるだろう」
「と言っても、そう簡単にはいっていない」
イベント状況については分かったけれど、相変わらず攻略法についてはさっぱりである。それどころか撃破不可となれば撃ち落とす事も可能なのか謎である。
「人によってはドラゴンが地に下りている時に上から飛びかかれば、という案を行っている奴もいたが、そう上手くいくとは思えんな」
「だけど、案外其れが正攻法なんじゃない?」
「飛びかかるのは兎も角として、陸に下りている時というのは正しいかもね。空はどう足掻いても無理」
「空と言えばさ、フィルメルって飛べないの?」
「うぃ?」
そう振られたフィルメルの種族は転生によって選べる精霊種の一つである"シルフ"であり、風に纏わる種族名の他にアバターにも其れを意識したようなデザインが含まれていたりする。本人もかなり身軽なのもそのイメージを後押ししたのだろう。だから飛べるという質問が生まれた。
だけど――――
「ああ、此奴は飛べんぞ。」
「そうなの?」
「確かにシルフの専用スキル 『風翅』は飛行を可能にすると言われているが、其処まで高くは飛べんし、そもそも此奴はまだ専用スキルを開放しておらん」
「いやだって場所知らないから仕方ないじゃん!」
スキルを持っていないのなら仕方が無い。そもそもフィルメルの性格なら、持っていれば既に試している可能性が高かった。どちらにしても此処で居る時点で無理という事が証明されていた。
また有効そうな手が消えた。
「やっぱり地に下りた時を狙うのが一番現実的なのかな」
「飛行が一番厄介であるからな。だがそうなると問題は迎撃を掻い潜る方法だが」
「で、どうだったんだフィルメル、お前さん突っ込んでいったんだろ?」
「え?下りてるときには出くわしてないから知らないが?」
「使えんな」
「使えんなって酷くない!?」
どうやらフィルメルは海上から特攻を仕掛ける組だった。もしかしたらあの時のプレイヤーだったりして…
「方法もだけど、下りた時に駆けつけられるかも問題じゃない?何処で下りるかも分からないし、さっき追い回した時も割と寸前で飛ばれてるし」
「あ、其れだったら……」
何か思い当たる策があるのか、駆けつける件に関してはフィルメルから提案があった。……あったのだけど、直前の行い故なのか何故かゴードンから小言が飛んだとさ。説教ではないからまだ大丈夫だろう(何が)




