146 マスタークリエイトイベント 追跡
「居た!」
海上都市を出て海を進む事少し、目的のドラゴンの身体が大きいこともあって遙か遠くに居ても小さくでは有るがドラゴンの姿が確認出来た。障害物さえ無ければ空を見るだけで方向が分かるのは有り難い。ただドラゴンの機動力は思っていたよりも高いらしい。
「あの様子からして流石に誰も追い付いた人は居ないようね」
「其れはどうかしら」
「ん? 其れはどういう――――」
「アー!?」
「今なんか光ったよ!」
先輩の言った言葉の意味を確認しようとしたが、その必要は無かった。
此処からでは見え辛いけれど、遙か遠くに飛んでいるドラゴンに向かって下から光が撃ち上げられているのが見えた。きっと光は攻撃スキルの光であろう。つまり、既に戦端が開かれていると言う事である。
「もう始まってる」
「早くない!?もう追い付いたの!?」
「待ち伏せ組か。何時来るのか分からないけれどある程度の準備は出来る」
「其れだけじゃ無く、方向さえ分かればテレポートで先回りが出来る」
開始地点は何も海上都市に限られてはいない。大陸中にイベントの参加プレイヤーが散らばっている。開始してから自分の居る場所に対象が飛んでくれば、攻撃をする者も居るだろう。其れに先輩の言ったように街から街へ移動するテレポートも使える。
「そうじゃん!其れがあったじゃん!何でテレポートしなかったんですか?!」
「方向は分かってもその通りに進んでくれる保証は無いから」
「途中で方向を変えられたら先回りの意味は無いですからね」
ドラゴンの正確な行動はまだ分かっていない。其れならばテレポートを使うよりも、機動力は劣っていても地道に追いかけた方が堅実かもしれない。移動手段を有している場合に限るけれど。
「けど、苦戦してるっぽいね」
「やっぱり位置が高すぎるんだよ」
ドラゴンに向かって直線的な光や点滅している光が飛んでいっているが、巧くいっているようには見えない。手前で光が消滅していたり、掠める程度で外れて通り過ぎていたり、撃ち落とそうとしているようだけど撃ち落とすには程遠い。
ただ、敵意を向けられているからなのか、其れともドラゴンの行動パターンなのか、街付近の上空を位置取ったままドラゴンの移動が止まっている。と思いきや。
「あ、動き出した!」
「今度は向こうね」
街付近にある程度滞在した後ドラゴンはまた次の場所へと飛んでいく。その方向を確認して此方も方向を其方へと向ける。其れは他のプレイヤーも同じで、私たちの前に先行していた者たちも其方へと舵を切る。切ったのだがその進行方向にエネミーが立ち塞がる。
「くそっ、イベント中でもエネミーは出てくるのかよ!」
「構ってないで突っ切るぞ!」
先のプレイヤーたちは追跡を優先し、エネミーの脇を抜けるようにして彼方へと疾走する。そうなればエネミーは必然的に後続の此方へと向いてしまう。しかし、此方の水上走行手段で有るアクアライドは、前回の件から学習してバージョンアップさせて速度を上げているのである。前回迄なら逃げるにも一工夫必要だったけれど、今となっては簡単に――――
「って、追いかけてきてるんですけど!?」
「いや、でも少しずつ引き離せてるよ!」
切り替わる対象が居ないから執拗に此方を狙っていたが、速度の差で何とか逃げ延びた。逃げ延びたは良いけれど少し方向を逸れてしまった。
そうこうしている内にもドラゴンはというと、海上からの攻撃に晒されていた。どうやら海上を進んでいる時は街上空を飛んでいる時よりも高度が僅かに低いらしく、先程よりも届いている攻撃も多い。高度だけで言えば移動中が狙い目かもしれない。
「そう?移動中って事は水上走行でしょ?こっちの方が狙い辛いじゃん」
「どうかしらね……慣れた人なら案外水上の方が動き易いかもしれないわ。以前に見かけた人だって水上で高く跳んでいたもの」
「其れ少数派だと思うんだけど……って、本当に誰か跳んでるし」
跳べる程の技術の持ち主は少数派だと思われたが、遠くで飛行するドラゴンに海上から迫る人影のようなものが存在した。その人影はドラゴンの手元へと向かって進んでいたが、途中で失速し、海に落下していた。直接目的の物に触れようとしていたようだ。触れられれば其れで勝ちのルールなら確かに実行する者もいるか。
其れからもドラゴンの向かった先を目指して海を進んだ。流石にあらゆるプレイヤーが既にドラゴンと接触しており、ドラゴンの行く先々は賑やかになっていた。だけど未だに誰もドラゴンの持つ光球には触れられていない。
そしてドラゴンはある島に飛来した。島と言って良いのか、其処は海中から岩が突出したような街も港も無い孤島だった。それ故に其処には先回り出来たプレイヤーは居ない。だけど直に集う事になる筈である。何せドラゴンはその孤島に着陸したのだから。
「地面に降りた!?」
「ずっと空中って訳ではないようね。狙うなら今って事かしら?」
「なら急がないと!海上に居た他のプレイヤーもとっくに行ったよ!」
確かに、私たちの目と鼻の先で続々とプレイヤーが島へと上陸を果たしている。ドラゴンが地上に降りて厄介だった高度が無くなった今は絶好の機会だろう。だけどそう簡単にはいかないらしい。上陸した筈のプレイヤーの数人が飛ばされるように海へと落ちた。
何かを察して先輩が止まった。
「…やっぱり」
「やっぱりって何ですか先輩さん?!」
「説明ではドラゴンはプレイヤーを感知すると迎撃するって言われていた。だけど、街の上に滞在している時も海を渡っている時も一切反撃はしなかった」
「…アー?」
「そうなると、ドラゴンがプレイヤーに手を出す状況は、高度という優位性が無くなった時――――今みたいに」
ドラゴンの咆哮が轟く。
するとドラゴンは再び飛翔を始める。再び飛ぶと言う事は迎撃されて誰も触れられなかったと言う事。飛び立ったドラゴンは今度は私たちの居る方向へと迫ってきた。
「こっちに来た!狙ってみる?」
「いや、此処は走行優先で!」
「何で!?」
「良いから!」
上空を通るのは確かにチャンスかもしれない。だけど其れは有効な術を持っている場合のチャンスである。少なくとも成功するような方法は今は持ち合わせてはいない。
其れに、勝利を狙っていくのならもう少し情報を集めた方が良いかもしれない。そうすれば本当の狙い時も分かるかもしれない。




