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電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
新年も変わらず
154/237

141 異常海域へ


「それじゃあレッツゴー!」


 都市内で開かれた講習を経て、水上移動手段であるアクアライドを入手した後、私たちはアクアライド(結局講習用のまま)に乗って今度こそ異常海域へと目指し始めた。


「こっちの方向で合ってるよね?」

「そのはず」


 都市を出る前に確認を兼ねて乗船券売り場に立ち寄ったので方向は間違いない。その上でマップデータも確認しつつ進めばいずれは辿り着く筈である。

 講習を受けている間に異常が治まっている可能性もあったけれど、未だに航路が戻っていない事も確認したので、まだ異常は解消されてはいないようであった。


「それにしても、実際に海に出るとまた違った感じがするね」

「…波があるから。あの練習は基本水面が落ち着いてたから」

「落ち着いてた…の…?誰かの騒ぎの余波がやたら有った気がするんだけど…」


 アクセルを軽く踏み、アクアライドはゆったりした加速で海の上を進んでいく。だけど練習の時とは違って海には波が発生しており、其の都度、バランス感覚を阻害してくる。波の違いだけでかなり違って思えるだろう。


「あ、今下に何か居た気がする!」

「そりゃ海の上だからねー。フィールドと一緒だよ」

「…此れ、エネミーに遭遇したらどうなるんだろう?」


 此れまで海で戦闘になった事と言えば、釣りからエネミーを釣った時や船上での戦闘ぐらいで、足下全面が水の上という状況での戦闘は一度も無い。ある意味この大陸で一番エネミーとの遭遇率が高く思えるが、此の状況でもし戦闘になれば大変な事になるのも事実であろう。その際は出来れば逃げる手を使いたい。


「逃げるにしても、この速度で逃げ切れるとは思えないんだけど…」

「くっ、バージョンアップしてこなかった事が徒となったか…」

「何そのキャラ…」


 ツッコミはさておき、確かに考えてみれば逃げ切れる可能性は低かった。此方が講習用という以上に、エネミー側は海で活動しているものが大半であり、陸よりも水中の方が機動力が高いというのは当然である。…あれ?此れどうしようも無い気が…


「術系のスキルなら撃てなくはないけど…」

「…私そういう系持ってないんだけど」

「…そのままタックルしてしまえ」


 この状況に慣れる迄、Akariは役に立ちそうに無かった。

 そんな暢気な事を考えているけれど、実際のところエネミーの気配は強まっている。此方が影を認識出来ると言うことは、何時襲いかかってきても不思議では無いということ。海に落ちてもすぐHPが無くなるという事は無いけれど、陸地のフィールドに比べれば危険なフィールドである。


「と、兎も角、何かが出てくる前に急ぎませんか?」

「…もう遅い」

「え?」


 そう返されてるる。は後ろに現れた音に気付いた。

 音の発生源を振り返ると此方に向かって何かが水飛沫を上げて進んでくる姿があった。此処で重要なのは水の上を進んでくるのではなく、真っ直ぐに泳いできていると言う事。泳げる者には例外はあれど、この物体は水飛沫から突起物が飛び出ていた――――つまりはエネミーである。


「アクセル!」


 その声を切りに、軽く踏んでいたアクセルを更に踏み込んで加速を掛ける。今のうちに態勢を、と考えるものの、少しずつ速度は上がっているとはいえ後ろから迫ってくる物体の方が速度は上であり、徐々に距離は縮んでいく。

 そして、距離が縮むにつれて追跡者の顔が水面から出てきた。


「あれって鮫じゃん!海と言えば定番だけどさ!」

「鮫と言って良いのあれ!腕有るんだけど!」



―――――――――――――――――


ギャングシャーク / Lv 33

ギャングシャーク / Lv 33

ギャングシャーク / Lv 35


―――――――――――――――――



 追いかけてきていたのは大海原の衝撃映像と言えばお馴染みであろう鮫を模したエネミーだった。だがこの鮫エネミーは普通の鮫とは違ってヒレの部分が魚人ばりの逞しい腕へと成長を遂げていた。だからなのか、クロールのような動きをしている。おまけに、追いかけてきていた数も逃げる内に増えており、恐怖感が増している。


「此れじゃあ火は使えない。他に何か…」

「アー!」


 迎撃に戸惑っているとカゼマチが威勢良く飛び立った。…のだけど奇妙な鮫に恐れをなして直ぐに戻ってきた。

 カゼマチと入れ替わるように先輩が迎撃を開始し、七色の剣型のエネルギーを鮫に向かって放った。此れは以前にも見たスキルだ。だけど状況が影響して鮫には当たらず、エネルギーは海に突き刺さって爆ぜた。それどころか爆ぜた事で生じた水柱に混ざって鮫は上から奇襲を掛けてきた。


「うそぉん!?」

「でも此れなら!」


 相手が自分から飛び込んでくる事を逆手にとってAkariはスキルを起動した。Akariの持っている攻撃スキルには魔法攻撃はない。発動させたのは勿論近接攻撃。右に左にと二連撃を繰り出す〈ブラッシュ〉で空中に居る鮫を切り払った。鮫はもう一匹居るが其れはわんたんが弾いていた。


「早くしないと他も集まってくるよ!」

「…分かってる」


 薄らではあるけれど海中に向かってきているような影が見えた。迎撃に集中する為にアクアライドを止めているが故に、ゆっくりしていると他のエネミーに囲まれる恐れがあった。とはいえまだ倒せそうに無い。


「其れなら此れで何とかするから離脱して!」

「何か良い手があったの?!」


 別に其処まで良い手ではない。ダメージは其処まで入らないだろうし、触れなければ足止めにならないから潜られたら意味が無い。第一、まだ一度も使った事が無い。だけど上手くいけば此れで距離を稼げる筈。

 皆が鮫を弾いて少し距離を開けた所に、成功を願って私は何時ぞや得たスキル〈バブルポップ〉を発動させた。すると正面にばらまかれるように数個の水球が出現した。数は其処まで多くは無いけれど、大きさは其れなりにあり、水面ギリギリの位置に設置される。


「こんなので大丈夫なの!?」

「分からない…とにかく今はアクセル!」


 鮫を無視して私たちは再度逃走を図った。

 後ろでは此方が動いた事に反応して追いかけようとしていた。しかし、設置していた〈バブルポップ〉が狙い通りに破裂してその動きを止めた。どうやらあの鮫は真っ直ぐ追ってくる時は深くは潜らず、背びれが水上に飛び出したままのようで、そのせいで〈バブルポップ〉に触れて爆発を起こしていた。爆発とはいえ水だから威力は出ないだろうけど進行を妨げるには十分だった。


 アクアライドが其処まで速度を出していなくとも順調に鮫との距離が開いていく。時折念の為に後方に〈バブルポップ〉を再設置する。先輩も似たスキルを持っているようで同じように地雷を設置しながら、進むこと少し。


「…もう追ってこない?」

「一応は撒いたみたいね…」


 あの鮫が直線的な追跡をするタイプで良かったと思いながら、一息を吐く。とはいえ長く留まっていればまた次が来るから少しばかりアクセルを踏んでおく。


「思ってた以上に此れはやり辛いよ…」

「対処法を考えないと進むに進めませんよ…」


 先程は何とか思い付きの作戦が成功したけれど、この先も同じような奇襲が控えていると容易に想像が付く。進むにしても帰るにしても対処法を考えなければHP全損も無い話では無い。

 だけど、止まっていても其れは変わらないと、変わらずに海を進む。


「ん?」


 そんな時、進行方向に何かを目視した。


「なんか、流れてくるね」

「エネミー…という訳でもなさそうですよ」


 ぷかぷかと浮かんでいた其れはエネミーという訳でも無ければ、それらが付けていた装備品という訳でもない、小さな構造物であった。

 その形からまさかと思ってひっくり返してみると、その構造物は今自分たちが使っている物と同系統のアクアライドだった。


「まさか…?」


 乗ってきたであろうプレイヤーの姿が見えず、アクアライドだけが残されている。此れから考えられる事と言えば…先程自分たちが考えた事と同じだろう。

 回収しておくべきかと思った途端、乗り手不在のアクアライドは光となって消滅した。所有が移った訳でも無い様子で、そういう仕様なのかもしれない。


「誰かも私らと同じように向かおうとしてたんだね…」

「待って、他にも何かある」


 アクアライドを見つけた地点より先にも何かが流れてきている。それらはアクアライドでは無く、木材や破片などが大半だった。さながら漂流してきた残骸のようである。其れとは別の地点には海上に顔を出しているエネミーの姿も見えたが、その姿からそれらの仕業と言うには少し妙な気もした。


「っ、見て!」


 更に奥を見て、漸く気付いた。

 遠くの景色が暗くなっていた。其れは夜が近付いているのとは違い、部分的な暗がりで且つ、もやっと広がっているように見えた。


「もしかして彼処が?」

「そうらしいわ。向こうに行くにつれて波が多くなってる」


 波だけで無く、暗がりに近付いていくにつれて天気やエネミーの様子も荒れていっているように見える。此処迄も危険はあったけれど、此処から先は段違いの危険が待っているだろう。


「HPはまだ保ってるか?!」

「HPは保ってるが、状態異常に掛けられたらしい」

「一度安全圏まで退くぞ!」


 異常海域だと思われる方向から先行していたのだろうプレイヤーが慌てた様子で引き返してきた。重傷の仲間を連れているからか彼らは此方に気付かぬ程に急いで私たちが来た方向へと引き返していった。彼らの逃げてきた方向には一瞬だけど何かの影が見えた。その影に彼らを追う気配はない。


「こっちにも来るよ!」


 彼らの後ろにあった影は動いてはいない。だが、別の方向から此方に向かって何かが近付いてきた。恐らくエネミーだ。幸い数は一匹。

 まだこの状況に慣れておらず、処理方法も思い付いていないけれど、異常海域へと進むために、強引ながら押し通ることを選んだ。



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