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電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
再始動と新たな巡り
146/237

閑話 その頃のプレイヤーたち ――水精のリーダー②――

「思っていたよりも深そうですね」

「此れなら良い物が手に入りそうだ」

「でも、難易度高そうじゃない?大丈夫なの?」


 マリナ、ムーン、クラアキの三人が訪れた地下に広がるダンジョン。このダンジョンは始まりの大陸にあるダンジョンにしては少々毛色が異なっていた。というのも、始まりの大陸は一番始めの舞台というのもあって、其処にある通常ダンジョンも比較的シンプルな造りとなっている事が多い。植物や海など舞台を大いに反映したものでも無ければ、危険を感じさせるような雰囲気を伴っている事も少ない筈であった。

 だけど、一行が実際に入った内部からは只ならぬ雰囲気が感じられた。


「何か音が近付いてくるな」

「…後ろから来ます。取り敢えず走って!」


 マリナがそう指示を出して先に走り出したが、他の二人は理解出来ずに後ろを振り返ると、三人が歩いた後の通路から、突進してくるエネミーの姿が見えた。其れを認識した途端二人は逃げるように走り出した。


「この通路で突進はキツいって!」

「そういうことです!だから通路を抜けるまで走ってください!」


ブオォォォォォ!


 後ろの暗がりから三人を追う牛のようなエネミー。迫り来るその突進に、向かい撃つという選択肢は思い浮かんでも実行する度胸は誰も持ち合わせてはいなかった。かなりの速度を出していると思われるその突進に下手に突っ込もうものなら、レベル差など関係なく吹き飛ばされる事が目に見えていた。躱すにしても通路が狭いだけでなくエネミーの横幅が思いの外あって躱すに躱せず、それ故にマリナは通路を突き進む事を選んだ。


「このままだと追い付かれるぞ!」


 三人とも全速力で走っているが、そういう設定なのか追っ手の速度は僅かに三人を上回っており、徐々ではあるが差が縮まってきている。いち早く開けた場所に辿り着けなければ追い付かれる。


 追っ手に追い付かれるのが先か、三人が開けた場所に出るのが先か。


「あ!出口じゃない?」


 どうやら先に辿り着いたのはマリナたちの方だったようで、三人の進行方向に続く通路の壁が途切れているように見える場所が現れた。

 其れが見えた途端、きっと出口だろうと思ったムーンとクラアキが、まだそんな余力を残していたのかと思う程の加速を果たして通路の先へと向かっていく。


「抜けた!」

「よし、ばっちこい!」


 先に抜けた二人は、その場所にエネミーが待ち受けていない事を確認すると、直ぐに後ろから来るエネミーに備えた。そして、マリナが部屋へと抜けるのを確認した後、二人は同時にスキルを発動した。互いを攻撃するかのように正面へと向けて攻撃スキルが放たれたタイミングで追っ手のエネミーが現在地へと到達し、その左右から同時に攻撃が襲いかかった。二人のスキルは命中し、間違いなくダメージを与えた筈にも関わらずその突進は停止には至らず、未だに真っ直ぐに走り抜けようとしていた。だが、その先には誰も居なかった。


「ッ……〈スカイグルーパー〉!」


 走り抜けた後に風溜まりを生むスキル〈エアホッパー〉を使用して空中に飛び上がったマリナが眼下のエネミー目がけて空中より鳥を模した鎌鼬を差し向ける。地面へと降下する鎌鼬の鳥は、全てとはいかないものの、走り続けるエネミーに着弾していき、段々とHPを削っていく。

 エネミーを仕留めるには至らなかったが、エネミーは段々と三人の下から離れていっていた。


「アレ、もうこっちを見てないよね?」

「元から狙ってた訳じゃ無かったみたいだな。そういう役割なのか?」


 まるでただのトラップだったかのように、三人を追っていたエネミーは自身の損傷どころか三人が先に居ない事などお構いなしに別方向に繋がる通路を目視すると、速度そのままに次の通路へと去って行った。


「あ、彼処に…」


 ムーンとクラアキがエネミーが去っていった方向を見て、なんとも言えない感情に囚われている間に、この場を見渡していたマリナが隅の方に何かを見つけた。マリナが何処かへ近寄っていく気配を察した二人もその方向を見て其れに気付くと、急いで其れに飛びついた。


「此れって…もしかしなくとも宝か?」

「意外とあっさり見つかったね」


 その場所の隅に設置されていたのは宝箱のような箱だった。ただ、近付いて見てみれば宝箱にしては少々違和感があるものであったが、ムーンとクラアキはその事に気付く事は無く、不用心に其れへと手を伸ばした。直前にマリナがある事に気付いたがもう手遅れであった。


「何だ此れ!?」

「動き出した!?」


 箱に手が触れた途端、その手を撥ね除けるように箱は暴れ始め、本来の姿を表わした。


 ―――フェイク系。

 非生物に擬態してプレイヤーを油断させて襲う特性をエネミーの系統。主に宝箱に擬態しているものが多く、接触することで擬態が解かれるエネミーたちであるが、今ムーンとクラアキが起こした擬態エネミーは特に変わり者であった。

 擬態しているエネミーは擬態を解く際に収納していた手や足などが出る事も有るが、その殆どは其処まで形が変わることが無い。特に宝箱だと変化が少ないものである。しかし、今起こした擬態エネミーはそんな概念など関係なしとばかりに、その姿を変形させた。箱の形から人型へと。


「速っ!?」


 盾のような板を鎧のように纏った人型となった擬態エネミーは、見た目以上に身軽な動きで三人の間を駆け巡る。


「此奴、どうすれば良いの!?」

「速すぎて攻撃が当たらない!」

「落ち着いて。見たところ攻撃らしい行動はしていない」


 マリナが見抜いた通り、相手は素早く動き回ってはいるが攻撃らしい攻撃は一度も行っていない。行っているのは三人の周りを動き回っているだけ。それ以外が有ったとしても、精々が三人の装備を足場にする程度でダメージは一も無い。始めは宝箱の形をしていたとはいえエネミーである事には間違いないのだが、だからといって敵と認識するには何とも不思議なエネミーである。


「おっと、何か動きに慣れてきたな……って、何処行くんだ?」

「通路に向かってるね?」

「…そういう内容の奴だったのか?」

「そういうってどういう?」

「追えって奴」


 三人の間を動き回っていたエネミーだったが、暫くすると、三人の下を離れて別方向への通路へと向かって進み出していった。もしかするとプレイヤーが少しでもアクションをすると次の段階に進む仕掛けだったのか、三人がそれからどう動こうともエネミーはそのまま走り去っていく。


「もしかしたらアレがこのダンジョンのメインなのかも知れませんね」

「取り敢えず追ってみる?」

「…仕方ないか」


 本来の目的とは少し異なるけれど、どういう意図があるのかには三人とも興味があるようで、罠かもしれないという可能性を予測出来た上で謎のエネミーを追う事を決め、通路へと歩き出した。



 ―――それからはどうもこうも、



「また此れかよ!」

「他にも居たの!?」

「同じならまた進路上から去れば…!」

「その前に兎に角今は走ること!」


 通路進行中にまた突進エネミーに後ろから追いかけ回され、その度に先の経験を参考にして進路上から消える事で突進を逃れたり、


「お、また宝箱があるな」

「この感じさっきと同じなんだけど」

「…今度は大丈夫そうですよ」


 新たに訪れたエリアでも宝箱を見つけては特に疑う様子も無くクラアキが手を触れたり。ちなみにこの時の宝箱の中身は装備品ではなく回復アイテムであり、マリナが他の二人に譲った形である。


「此処にも宝箱か」

「なんかさっきから同じパターンだった気がするんだけど」

「さて今度は…」


 さらに移動した後の別のエリアでも、少々戦闘がありながらも一行は再び宝箱を見つけた。今度の中身は何かとクラアキが手を伸ばしたが、今度の宝箱は先程三人の前に現れた擬態エネミーであり、また別のエリアへと去って行った。


「…まさかプレイヤーが離れると待ってるなんてそんな律儀仕様じゃないよな…アレ…?」

「さあ、どうなんだろうね。でも其れなら私たちも最後まで追わないといけないんじゃないの?」


 再び現れた擬態エネミーが初めに出会った個体と同じ個体なのか、理解している訳でも無いにも関わらず、律儀に追わなければとそんな使命感が芽生え始めているクラアキとムーンであった。



 そして次のエリアを目指して通路を進んでいる頃のこと。


「このダンジョン、やっぱり堂々巡りのような形をしているようですね」

「? 俺たちがループしていると言いたいのか?」


 ダンジョンに入って其れなりに進んでから、マリナはダンジョンに関して観察してみた結果からとある事に気付いた。マリナはマッピングの関係で度々現在位置を確認しており、其処からシステム的な計測も交えて、ダンジョンの特徴に当たりを付けたのだ。


「そういう意味ではまだ帰ってはいませんが、距離を計算してみますと一定間隔毎にエリアが存在しています。つい先程通り過ぎた道も恐らくは始めの分岐点の場所に戻るのでしょうね」

「え、マジで?」

「暗くて端まで見えないけど…」



――ドド―――――――――



「帰る時は迷わなそうね。適当に進んでも辿り着けそうだし」

「ん?内部がループしてるんだったら、じゃあ、奥地は無いのか?」

「其れは何とも言えませんね。まだ内部の全て通った訳では無いので。もしかすると更に下層があるかもしれませんから」



―――ドドドド――――――――



「確かに、更に下って言うのは有るかも。下に伸ばすのなら層の形を保てる訳だし…」

「…自分で言い出しておいて何だけど、此れそんな話だったのか?

まあともあれ、内部がそういうことなら、定期的にアレが戻ってくるのも納得か」

「アレ?」


―――ドドドドド――――――――



「ほら、今も音が近付いてるじゃん」

「あれ…此れってまさか…?」

「走れ!」

「やっぱりかい!!」



――ドドドドドドドドドドドド!!



 もう何度目かになる通路内での後ろからの突進エネミー。ダンジョン内をぐるぐると徘徊しているのだから、ゆっくりしていれば後ろから来るのは目に見えていた。(実際には通路内は暗く、三人からは其処まではっきりとは見えていないが)

 三人が音を頼りに走り出した少し後、後ろから追いかけてくる突進エネミーの姿を三人は補足した。補足した上で三人は更に足を進めた。


「よし、次のエリアだ!」


 突進エネミーは相変わらず他を認識していないようで、三人が次のエリアに入った途端に進路上から居なくなると、そのまま次のエリアへ向けて走り去っていった。もう対処は慣れたものだと三人が話しながらエリアの中を探索すると、もうお馴染みかもしれないパターンが訪れた。


「…宝箱だな」

「…此れはどうなんだろう…」


 クラアキとムーンが此れまでを踏まえた上で躊躇っていると、その横でマリナが見ていられないとばかりに武器を持った手を伸ばした。マリナは武器である槍の先端を宝箱の鍵付近に向けると、そのままグイッと突き刺して宝箱を開いた。開いた時点でこの宝箱は擬態で無い事は明白であった。


「そんな開け方も有りなのか…」

「まあ、安全に開けられるから良いんじゃない…」


 そんな二人を放っておいてマリナは先に宝箱の中身を確認した。


「此れは…」

「ん、どうしました?」


 ムーン、クラアキと、遅れて宝箱の中を確認すると中には武器が入っていた。其れもクラアキたちも使った経験のある種類の武器、剣だった。


「お、やった剣だ!しかも能力も中々ある」


 宝箱から入手した剣は先の大陸を進むマリナからすれば其処まで高いとは言えないものではあったが、ムーンとクラアキの基準からすれば確かに悪くは無い能力値であった。少なくとも現在装備している物よりは高かった。其れだけでなく追加効果も持っているようであった。


「エネミー相手にクリティカル確率に補正が掛かるのか」

「対人には使えないにしても結構良いんじゃない?」

「そうだな」


 入手した武器はクラアキが使うようで、その場で装備を切り替えていた。

 ダンジョンはまだ全部を進んだ訳では無く、推測も正しいと証明した訳では無いが、マリナに仲間からメッセージが届いた事もあって一行は来た道を戻ってダンジョンの外に出ることにした。


「外は外で眩しいな」

「さっき迄が暗かったからね。……あ、連絡はもう良いんですか?」

「ええ。一度ホームに戻ることになったので今回は此処迄ですね」


 ダンジョンの外に出た後、先程のメッセージの返事を返したマリナはムーンとクラアキにメッセージの事を軽く説明して、同行の終わりを告げた。


「まあそうだな。たまたま一緒になったぐらいのパーティだからな」

「そうですよね…あ、何かあったら連絡して良いですか?」


 終わりを告げられても二人は其処まで引きづったりする様子は無かった。クラアキは目的であった新たな武器を手に入れ、ムーンの方はちゃっかりとフレンド申請を済ませていたから其処まで残念がったりはしていない。

 二人と別れて、マリナは別大陸にあるレギオンホームに帰る為にゲートのある場所へと向けて進み出した。





 後日、この出会いが縁で、ムーンとクラアキがレギオン【サークルブルーム】に入る事になるが、其れはまた別の話。



やりたい事があったから延長したけれど、其処まで行かなかった←

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