128 風の名
ようやく…
「確かに基礎的な試練だったけど…何か疲れた…」
「ひたすら動き回ってればそりゃね…」
疲れた雰囲気で街中の道路へと出る一行。正確に言えば疲労感を感じさせるのは数名で、全員が疲れている訳で無い。
私たちは掲示板で知った基礎訓練をするために、共に記されていた指定場所へとやって来た。其処では自分たちの他にもプレイヤーは存在した(先に向かった事を知っていたから当然だけども)。その者たちは来たばかり故にまだ訓練は始めておらず、訓練を始めようとパネルを操作しているようだった。…どうやら他の人が集まる迄待つという事はしないようで、少しすると後続の私たちの前にもそれぞれ案内のようなウインドウが表示された。そのウインドウには訓練の説明と選択、あと小さなガイドが出てきた。訓練を受けに来たプレイヤー以外誰も居ないと思ったら説明画面の方に組み込まれていた。驚きだった。
「基礎訓練ってああいうことだったんですね」
「第一段階の時点で結構種類があるとは思わなかったわ」
各プレイヤーがそれぞれ選択出来たその訓練の中身は、確かに基礎だった。主にステータス面の。
訓練には段階が存在するようではあるが、今回が初めてと言う事でメニューには他にも項目があったにも関わらず選べたのは始めの段階のものだけだった。とはいえ、その段階だけでも中身は複数に分けられていた。それらはどれも武器を使わない訓練だそうで、確かに始めの訓練と言えるものだった。
…ただ、あんなアスレチックをするとは思わなかったけれど。
「でもそのお陰でスキルは増えましたから」
「そうね。続きも今すぐじゃなくていいらしいし」
訓練というか試練のようだった内容は、プレイヤーのステータスをそれぞれ意識したものとなっている為、種類は分かれている。それ故に一度に全てをしなくとも良い仕様となっている。一つに掛かる時間もそこそこだから分割したのだと思わなくも無いが、実際に受けてみると、選んだ能力の項目を意識したようなアスレチックが待ち受けていた。難易度が其処まで高く設定されている訳では無いが、纏めてとなると、人によっては苦になるだろう。此れはコツコツするのが丁度良い。
なお、メンバーの中でも疲労感に違いが出ているが、特に疲れている人は続けて訓練を複数行った結果である。
そんな疲労感の伴う訓練を受けた後にはきちんとスキルが追加されている。選択した訓練に対応したステータスを底上げする常時発動型のスキルが。(此れで増えていなかったら損でしかない)
訓練選択は特に合わせた訳では無いので、皆それぞれのスキルを獲得している。例えば、詠自身は回避率が底上げされる〈身軽〉であったり、るる。なら魔法に対する防御力を底上げする〈揺れぬ心〉であったりと、内容を知っている訳では無いので皆直感的にピンときたものを選択した。其処で疲労している者たちは勿論獲得したスキルも複数である。
獲得したスキルがそれぞれのプレイの方向性と微妙にずれたチョイスなのは、選択画面でのワードが違うためである。まぁ時間を掛けて全て行えば気にならないけれど。
「私、もう今日は落ちようかな」
精神的にかなり疲労しているようでAkariがそんな事を言った。特に止めはしないけれど、現在時間の事を考えればAkariにしては珍しい。止めないけど。
「それじゃあ今日は解散ってことにします?」
Akariの発言を発端となって今日はお開きといった雰囲気に。
とは言っても、良い頃合いだったとだけで全員が帰るという訳では無く、残る者はまだこの世界に残る。
「それじゃあ、また連絡するよ…」
今日のところはAkariが帰宅。近くに宿屋があるので其処でログアウトするのだろう。同じように数名も用事が控えているだとか理由はそれぞれで、今日のところはログアウトするらしい。
残ったのは詠の他にはわんたんとたんぽぽ。
その中でもわんたんはAkariと同じように疲労している筈だけど、まだこの世界に居るようである。その場で休んでるけど。
「…此処は見ておくから良いよ?」
座っていては邪魔になるのではないかと、掛ける言葉を悩みながらわんたんを見ていたらたんぽぽからそんな提案が来た。どういう風に受け取ったのかは謎だけど、一応残りの時間は自由行動とは決めていたので、配慮でもしてくれたのだろう。
「そう?それじゃあ私もその辺りを見てこようかな?」
「あ、何処か行くの?それじゃあまた次回ねー」
「ええ。じゃあね二人とも」
バイバイと手を振る二人を後に、海上都市の中を歩いて行く。
さて、此れからどうしようか。
先に帰ったAkariたちと同じように帰ってもよかったのだが、自分でもどうしてか此処に残ってしまった。何か此処で用があった訳でも無いのだけど。
思えば、こうしてソロで行動している事もあまり無かった気がする(一匹付いているからソロと言っていいか微妙だけど)。今迄一人で動いている時は後に合流する予定が有ったりしたから、こうして後先考えずにログアウトまで自由に動く機会は少ない。何をしようか。
「アァ」
「…そういえばそろそろ名前を考えないとね」
頭の上でゼピュロスフェザーが鳴いた。
後回しにしていたが、いい加減名前を付けてあげた方が良いだろう。…種族名、長いし。言い易い名前が有った方が正直楽。
「えっと、ウインドウから変更すれば良いのだったかな?」
前回従者のステータス画面を見ていた時に、其処から直接名前の変更が出来るような感じだったことを覚えている。
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所属:『Celesta Sky』
名前:ゼピュロスフェザー ※名前設定可能
主人:詠
Lv 8
種族 ゼピュロスフェザー
ランク S
称号未取得
情報 目撃された事が少ない大変希少な鳥型エネミー。
火の不死鳥とよく似てはいるが属性の他に翼の数など多くの点で異なる。
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「此処をタッチすれば…」
名前の部分に触れてみると、記憶通りに入力画面へと切り替わった。後は此処に新しい名前を入力して決定すれば良い。
「どうしようかな…」
名前と言われてもすぐには思い付かない。
現実と違って何時でも変更出来るとはいえ、曲がりなりにも愛称のように使われる名前だから、きちんとしたものを付けたいと思うのは当然だろう。とはいえ変に凝りすぎると余計に決まらない。
「鳥…鶏肉…チキ…」
駄目だ。食い意地が前面に出てきている。絶対に駄目。
案外単純な名前の方が愛着は付きやすいかもしれない。
そうなると元の種族名がゼピュロスフェザーだから、其れをもじった名前か、見た目通りの"鳥"もしくは色合いや雰囲気に合った"風"に関係した名前にしたいところ。となると…
「バード…ウインド……風見鶏?」
そうして悩むこと少々。
入力画面に一つの名前を入力した。
「…よし」
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所属:『Celesta Sky』
名前:カゼマチ ※名前変更可能
主人:詠
Lv 8
種族 ゼピュロスフェザー
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此れを書いている時にふと"風待〇ジェット"を思い出していたのは内緒。




