126 モニター中継
「何、あの盛り上がりは?」
「何だろうね?」
見たという看板を頼りに一行が訪れた建物は、紛れもなく食べ物を提供している店だった。
其処は屋台やバー等とは違い、レストランや食堂、飲食スペースと言った方が正しいぐらいに広い店内を持っており、注文を受け取った客が各々好きな席に居座っている。
そんな店内の一角で妙な盛り上がりを見せている集団が居た。
色んなプレイヤーが集まっているのだから、雑談の場にしていたり作戦会議の場にしていたりと、何かしらで盛り上がっていても不思議では無いのだろうが、どうにも其処に集まっている者たちの関係性が分からない。全てが繋がっているとは思えない。其程にバラバラな集まりであった。
「あっちのモニターが原因みたい」
そう言われて集団の中、正確にはその者たちより少し上の方に目を向けてみると、其処には四方に展開されたモニターらしきものが設置されていた。どうにも其処に集まった者たちは全員そのモニターに映し出されているモノに目を奪われているようだった。
「何あのモニター?こんな場所に何故あるの?」
「今迄のお店にはああいった物は無かったですよね?」
同じ『バーチャルリンク』でも別のコンテンツではああいうモニターが使われていた場所はあったが、少なくともこの世界ではあそこ迄の物は無かった筈。
詠たちはモニターが気になり、丁度注文した料理が出てきたこともあって、其れを受け取っては集団からは少し離れた、モニターが見える席へと移動した。
「何が映ってるんだろう…」
「…んぐんぐ……あ、また盛り上がりだした」
食べ物に手を付けながら、モニターの方を見てみた。
すると、モニターには何処かの場所と思われる場所で複数のプレイヤーが向かい合っているような光景が映されていた。その光景から読み取れる情報からして同じ世界であることは間違いない。と言うことは中継ってこと?
「いいぞ、もっといけ!」
「おお、始めから飛ばすねあのエルフの小僧。大技の連発じゃねえか」
「だが、どれも当たっていない。攻め込まれていないとはいえ冷静に対処されている。ああいったタイプはペース配分を間違えれば命取りだ」
「いや…案外何とかなるかもしれんぞ」
「エルフとはいえ、あれだけ撃ってよくMPが尽きないな」
「策があるからこそのゴリ押しなんじゃないか?」
「…種族スキルの〈マナプレイヤー〉か。」
「多分、他にもMP軽減の手段とか併用して、通常回数以上スキルを使えるようにしてるんだろうぜ。策を練った上でのゴリ押しみたいだな」
モニターに移るエルフのプレイヤーが次から次へと魔法を繰り出している。後先考えていないような、それでいて豪快なその猛撃に、始めは順調に回避していた相手のプレイヤーも一つのミスをしたことによって徐々に圧され始めている。本当ならとっくにMPが尽きていそうな程の大技の数々が少しずつ動きを制限していく。
「あ、切れたか」
「急に使うスキルが初級レベル程度に迄落ちたな。やはり精度を犠牲にしたのは悪手だったな」
「漸くノってきたのにな」
「お、反撃が始まるか?」
モニターに映されるプレイヤーたちの様子を見ながら、モニター周辺を陣取っている者たちから思い思いの言葉が飛び交う。気分としてはスポーツの試合中継を見ている気分なのだろう。
その様子を見て大体分かった気がする。
「決闘の中継映像?」
「そのようですね。こんな要素も増えたんですね」
「…けど何処だろう?会場もしっかりしてるみたいだし、観客も居るね?」
確かに、今中継されている二人のプレイヤーは何処かのスタジアムのような場所で観客に囲まれながら決闘を行っている。試合のように行われているのもそうだけど、スタジアムも此れ迄見た大陸の意匠とも違っているように見える。模様などには戦いの場というイメージ故か端々に荒々しさを感じる。コロッセオを彷彿とさせるかもしれない。
「そういえば、以前"先の大陸で決闘が絡んだものが出る"とかって聞いた覚えがあるけど、アレがそうなのかしら?」
「会場も用意されてるからそうなんじゃない?本当に実装されたんだ」
「となると、行われているのは…蒼の先の紅の大陸?」
「そう言われると熱そうだねー」
やはりと言うべきか、中継先の場所は詠たちがまだ訪れていない大陸にあるようである。まだまだ先は用意されていると取っておこう。
「で、私闘じゃなく何かのイベントか何かなら賞品とか出たりするのかな?」
「さあ?」
「…何かはあるかも。他にも試合が控えてるみたいだし」
モニターの中では先程の試合に勝敗が決まったようで二人のプレイヤーは下がっており、少しすると別のプレイヤーたちがモニター内に登場した。
「…多分トーナメントか何かなんだろうと思う。だから何かしらのメリットは用意してる筈」
「一番あり得るとしたら賞金かな?」
其れはまたシンプルな。
まあ企画か何かなら参加費があるだろうから、其れを取り返して余りある額ならまだ利点はあるか。決闘をしたい人ならその経験も十分に得られるし。
などと、モニターを見ながら勝手に納得していると、詠たちの会話が聞こえていたのであろう一人のプレイヤーが口を挟んできた。
「挑戦権も絡んでるんだよアレ」
唐突にそんな事を言い出してきた。
突然絡んできて怪しくも思うが、取り敢えず敵意などは無いようである。
「挑戦権?何の?」
「紅の大陸のボスさ。彼処のボスは強者との戦いを望んでるらしくてな。ボスの部屋に行っただけじゃあ戦闘に応じないとかで、強者の証明としてあの試合を勝ち抜く必要があるんだよ」
「其れは何とも…」
面倒な相手である。
しかも、其れで考えると、複数人でボス戦に挑もうとなると、その人数が勝ち抜かないといけないことになる。其れは随分と手間が掛かる。
「ちなみにボスはもう攻略出来たの?」
「いいや。まだらしいな。只でさえ戦闘条件が面倒な上に、戦闘も面倒らしいとかで、ボス解放してからそこそこ時間が経つのにまだ攻略出来てないらしい」
「へー」
其れなりに時間が経ったので、てっきり知らない間にまた新大陸が開放されているのかと思っていたが、意外にも大陸ボスの撃破に手間取っているらしい。まあ先程の条件を聞いてしまえば納得出来ない事もないけれど。それに、前線の人たちだって偶には別の事も行いたいだろうし。
「お、今度の奴は従者持ちか!」
「しかも二体…従者って複数持ち出来るんだ…な」
「これは、相手の奴不利かぁ?」
モニターでは新たな試合が始まったらしい。
其れを機に、説明をしてくれたプレイヤーは店を出る途中だったようで、言うだけ言って、じゃあな、と言い残しては店から出て行ってしまった。怪しくはあったが、親切心で口を挟んだだけだったようだ。
先程のプレイヤーが去ったことも有り、詠たちは再び料理を食しながら、モニターに映る試合を観戦するのであった。
紅の大陸はまだ先になりそうかな。




