122 海中洞窟 その2
「あ、鉱石だ。貰っていこー」
「普通に落ちてるのね」
海中洞窟の探索はまだ続く。
洞窟の内部は思ったよりも長い。エネミーが存在していたりするが、岩に覆われた壁や足場を探ってみれば鉱石なども採取が出来たりする。
この洞窟、入り方が少々特殊ではあるが、内容としてはこの大陸に来られるだけのレベルなら比較的簡単で、他のダンジョンよりも取得面が良いかもしれない。
「そういえば、二人鍛冶スキル持ってたよね?此れとかも使える?」
「さあ、どうだろうね」
「今度機会があったら試してみる?」
鉱石アイテムに分類されているのなら問題なく素材として選択出来るとは思う。だけど、選択出来たとして、其れが扱いきれるかはまた別の話である。なにせ、入門レベルに扱えそうな色してませんよ其れ…
「ま、使うかは一旦置いといて、他にも素材とか入手出来るみたいだから集めてみようよ」
その提案には皆も「賛成」とばかりに、洞窟の探索をしながら素材と思われる物質を拾っては集めている。ただ、集めているといっても何も考えずに拾っている訳では無く、遠慮もあれば容量の関係もあって、集める際は少量ずつとした。……と言っても、鉱石は武器を作るのに必要そうな数は拾っていたりするけども。
「あ、此処にも鉱石はっけーん」
「こんなに集まるのなら本当に装備でも作ろうかな?最近ピンとくる装備見つからないしなー」
「アレ?装備はデザイン派ですか?定期的に買い換えている気がしましたけど?」
「いやー、偶にはデザインを拘るのも良いかなぁって思って」
…凄く今更な気もするが。
それにしても、この洞窟は何処まで続いているのだろうか?歩く程に何かしらの素材が発見出来るのは良いのだけど、結構動き続けている気がしなくもない。洞窟内は真っ直ぐと言う訳ではなく、曲がり角や上り下りなども存在し、時には、戻るような方向に進んでいたりする。だけどまだ最奥だの行き止まりだのは見えてこない。出口を探している身としては、其れは帰れない事を意味していたりするので少々焦る。
「ん?待って。何か聞こえない?」
突然わんたんがそんな事を言って皆に静止を掛ける。
耳を澄ませて音を探ってみたが、此処がエネミーの出るダンジョンだから声は聞こえるし、此処が海中だから水の音も当たり前のように聞こえる。特に静止をかける程の妙な音は聞こえない…筈なのだが?
「やっぱ、聞こえるって!」
強いて言うならば、音と言うよりは微かな振動は感じる。感じるが、洞窟が崩れる程の激しいものではない。
其処まで気にする事では無い気もするのだけど、わんたんは振動もとい音の正体を探し始めた。
「此処かぼぼbbb――」
すると、壁を調べていたわんたんの顔に向かって壁から水が噴き出した。噴き出した水は其処まで強くない上に長くもなく、直ぐに静かになった。
「…大丈夫?」
「…いきなり水かけるのは酷くない!?ねえ!」
大丈夫そうである。
短時間水が噴き出しただけなので大丈夫なのは当然なのだが、よく見てみれば、微かながらわんたんのHPが削れていた気がした。
「HP減ってない?」
「え、マジ!?」
「…さっきの水は罠の類いだった?」
罠と言って良いのか分からないダメージだけど、塵も積もればと言う事が有るので、先程の水鉄砲には気をつけることにしよう。
ごく稀に飛び出す水鉄砲に気を付けながら一行は再度進む。
エネミーがタイミングよく水鉄砲に吹き飛ばされたり、採取しようとした鉱石が砕けたりと色々あったが、足は進み、ようやく進行方向に何かを目視した。
「行き止まり?」
漸く洞窟の最奥に辿り着いたかと思えば、其処は行き止まりだった。
「何処かで道を間違えた?」
「いえ、他に道は無かったと思いますが…」
此処までの道は水溜まりなどを除けば殆ど一本道だった。その水溜まりというのもエネミーが出てきたりはしたが、人一人通れるかと聞かれれば、難しいところである。そもそも水路かどうかも謎。
その為、此処が正規ルートで間違いは無い筈だが、実際は行き止まりであり、出口など何処にも見当たらない。
「…もしかして、入ってきたところがそのまま出口であったりする?」
「流石にあの水流を逆行するのは無理じゃない?」
「じゃあ方向としては合ってるのでしょうか?」
洞窟もといダンジョンなら必ず出口か帰還方法が用意されている筈。特にこういう奥が行き止まりの場所なら、戻る手段くらいは存在していた(経験談)。それ故にどこぞの壺のような入った者が出られないような場所があるとは思えない。
「バグダンジョンだったのかな?」
「バグなら直ぐに修正されると思う」
「仕事が速い方だからね、此処の運営は。」
本当にバグなら修正する迄待つしか無いが、流石にそうな訳はない。
「この壁…何か…」
調べる意味で行き止まりの壁を触ってみると、手触りが何やら他の箇所と違った。
何と言えば良いのか、岩壁がざらざらしているのに対して、目の前の壁は妙な滑りが有るのだ。目で見てみても、やたら岩が突出していたり、妙な壁である。
「アァー!」
「ん?」
ゼピュロスフェザーもこの壁が気になったのか、突然壁に向かって突きだした。とはいえ、その程度で壁が動くわけも無く、ゼピュロスフェザーの方が硬さに負けている。
すると今度は空中で自身を翼で覆った。
「此れって…」
翼で覆って塊のようになったゼピュロスフェザーからゆったりと風が吹く。
此れは先程スキルとして現れたゼピュロスフェザーのスキル〈ウィンドマーカー〉。このスキルの効力は風に誘われた相手の注意を集めるものだが、今の状況ではあまり意味は成さない筈だ。それどころか、辺りからエネミーを引き寄せる可能性があるので危険である。
「ストッ…」
止めさせようとした途端、何処からか再び振動を感じた。
ズズズ――――
「何の音?」
「先程とは違いますね此れ…」
水鉄砲とは違う、重々しいような地響きと振動。
「!? みんな、前!」
言われて正面の壁に視線を移すと、行き止まりと思われていた壁がゆっくりと動いていた。まるで地球儀のように丸いものを回しているかのように、スライドしていく壁。
「あ、道が出てきた!」
「ちょっと待って!」
スライドしていた壁は浮き上がるように上へと消えていった。
…と思ったら、直ぐにまた上から壁が沈んできて道を塞いだ。沈んできたのは恐らく消える前と同じ壁だろう。だけど、今度は先程とは違って《《壁と目が合った》》。
「…此れってもしかして」
ギロっとその壁だと思っていたものが此方を見てくる。
その壁もどきはゆっくりと此方に向かってその口を開いた。




