13 初めての特訓*
「え、その姿もスキルの効果なんですか!?」
「ええ。〈変装〉っていうスキルで少し見た目を変えてるの。キャラメイクみたいに本格的に変えたりは出来ないけれど、あの姿は少し目立つから」
初めてのクエストを終えてから、私たちは次のクエストを決めるまで建物の外で休んでいる。その休憩中の会話で先輩の違和感のあるヒューマンの謎が判明した。ほんとスキルにも色々あるらしい。
スキルの話になったのは、Akariが簡単に覚えられるスキルはないかという話を先輩に振ったのが切っ掛けだったりする。訊くとあっさりと答えてくれて、教えてくれたのは以前にも教えてもらったスキルを覚える幾つかのケースとそれの詳細。
なんでも、簡単な攻撃用スキルなら同じ動きを何回としていると覚えることがあるらしい。これを聞いたAkariは後で普通の剣に武器を持ち変えて素振りをするらしい。ちなみに先に言っていた〈変装〉は転移系統と同じように何処かのクエスト等で手に入れる事が出来るらしい。
「それと、装備にもよるけれど種族によって覚えやすいスキルと覚え辛いスキルのタイプが存在するの。例えば…ヒューマンは基本的な種族でどれも平均的に使えるけれど、Akariさんの鬼は魔法系が覚え辛いけれど剣を主にした攻撃系スキルの覚えは早くて、詠さんの狐人は逆に接近系の攻撃スキルは苦手だけど、魔法…特に付与などの補助系のものは得意と聞くわ」
こういった取得の向き不向きは種族のイメージやステータスの傾向でもある程度予測できると言っていた。種族のイメージというのはイマイチ分からないけど、確かに私の狐人のステータスはどちらかと言えば魔法寄りなのかもしれない。あと、図らずも種族の傾向と今の戦い方が合致しているとも言えなくもない。私は基本援護に回ることが多いから。
「クエスト受けてきたよー」
どうせ外に出るならクエスト受けてた方が良いよね、と手頃なクエストを探しに行っていたAkariが戻って来た。念の為に確認すると受けてきたクエストは一つだけだった。其れも其処まで難しい訳では無さそうで、何なら練習台には良さそうでしょと迄言っていた。気持ちは分かるけれど油断しないように。
◇ ◇ ◇
「一歩踏み込んで頭の上から振り下ろす感じ……ぃやっ!」
Akariが大剣から通常サイズの剣に持ち替えてモンスターに対して何度も剣を振り下ろす。防御の際は姿勢が変わるけれど、攻撃は振り下ろしに拘っている。
今回のクエストは特定のモンスターを複数回倒すことでクリアとなる討伐クエスト、所謂狩りである。複数回戦うことが前提だから攻撃スキルの特訓にはもってこい。スキルが出たらそのまま使い勝手を確認出来るのだから。
今Akariが練習しているのは先輩から教えてもらった基本的な剣技。型に填まったようなその技は剣道を見様見真似で剣を振るっていると会得しやすいという。
「そいっ!せい!」
なんだろね。もうモンスターも関係なしに移動と素振りを繰り返してるよ。敵が向かっていないから良いのだけど結構隙だらけなのが危ない。まぁいいか。その辺はこちらがなんとかしよう。
Akariは放っておいて、ひたすらに弓を弾き矢を射る。時に〈エンフレア〉も交えながら色々と試してみる。弓矢は使っていれば感覚などが少しは分かってくるが、魔法に関しては実際に使うしかない。
ちなみに先輩は私たちのスキルの練習という事を意識しているのか有効打になるような攻撃はせず、一度に襲ってこないように相手を引き付けたり、誘導したりしていた。かなり余裕だった。
「とおっ!」
Akariの振るう剣に淡い光が宿り、前方に力強く振るわれる。あの輝きは間違いなくスキルだった。会得しやすいだけあって意外と早かった。
「出た!…ちゃんとスキル増えてる!…≪スラッシュカット≫!」
敵を前にしているにも関わらず喜びのあまりウインドウを開いているAkari。そのままスキルを使って力強い斬撃でモンスターに致命傷を与えていく。相手が弱いだけあって、初期武器で放っている割には結構削っている。というより今クリティカルだった気がする。
「《スラッシュカット》!…《スラッシュカット》!…《スラッシュカット》!」
Akariが立て続けに覚えたてのスキルを乱発しているが、これはただ喜んでいるというだけでなく、先輩曰く、スキルは使えば使うほどさらに上位のスキルが発現する可能性が上がるという話ゆえである。更には先程まで動きを制限していたのにスキルに混じって別の動きの練習まで始めていた。次への移行が早かった。
「よしきた!《ハイスラッシュ》!」
はっや。
覚えが早いとは言っていたけれど、動きを切り替えて其程時間が経つこと無く次のスキルが出ていた。今回の技は先程出たスキルとは逆で大きく斬り上げる技だった。上位への派生ではなく、別の動きから覚えた技だった。
「やっばい、MP切れた!」
連発していれば当然だろう。
そんな事を思いながら此方も練習に戻ろう。出来れば此方もスキルを増やしておきたいから。流石に支援方法が弓矢の通常攻撃か付加の二択だと少なすぎる。付加を行った後なんてほぼ弓矢しか出来る事が無いのだから。一応短剣もあるけれど、接近系は苦手と言われたのでまだ弓矢の方がスキルが発現し易いだろう。
少し遠くで先輩が誘導している敵が見える。よく狙ってよく狙って……っ!。放たれた矢は正確に敵の額に命中して完全に意識がこちらに向いた。あまり手を出してこない先輩を無視して敵がこちらに突進してくるのでその間にも矢を放ち続ける。偶に回避行動をされるが確実にHPを削っている。そして敵が飛びかかってきた時に放った矢が敵の最後のHPを奪いきる。
【スキルを獲得しました】
敵を倒したタイミングでそんな事が表示された。次の敵はまだ来ていないからその間に確認してみると〈技能スキル〉の方にNEWと付いていた…?
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○狙撃
説明:【射撃】性質の物理攻撃の射程範囲が拡大し
クリティカル発生率が少し上昇する。
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心当たりはあった。というか其れしか無い。
求めていたものとは少々違ったけれど、底上げという面では悪くないとは思う。気になる選択肢の少なさは何一つ変わらないけれど。
近くの敵は大体倒したことだろう。現在受けているノルマ型の討伐クエストは、一定数倒せとは言うけれど、別にその対象が大量発生している訳ではないので勿論探さねばならない。といっても対象に指定されているモンスターはそこまでレアという訳ではないので放っておけば割と出る。ほら、遠くに次が出た。
少し休憩を挟んでから次の敵の場所へと移動する。移動したら先程と同じ。先輩が敵を抑えて誘導して、Akariは同じような動きで攻撃、私は私で色々と模索する。
「あれ…光が…」
同じように矢を射ていると、構えた矢に淡い光が生じた。そのまま射ると此れまでとは違って力強い光と共に敵に着弾した。〈狙撃〉で補正が掛かるにしても此処まで強くは無かった。
【スキルを獲得しました】
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○ホークショット
効果:力を込めて矢を射る。弓技の基本形と呼べる技
性質:【射撃】
消費MP:10
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やはりと言うべきか、攻撃スキルが発現していた。攻撃と言う事で自分の攻撃力の伸びの悪さが足を引っ張っているかもしれないけれど、主力として使えそうなのは素直に有り難い。友人の足は引っ張りたくは無いからね。
其れからもスキルの練習や発現を意識しながら狩りを続けた。その中でスキルについて少し分かった事がある。
スキルの発動方法には大きく分けて二種類ある事が分かった。動作入力と音声入力とでも言うのか。
動作入力は動きによってスキルの発動を促す方法。例えばウインドウを直接操作して起動するやり方。此れは私が自分でやったから分かるが初心者中の初心者がするようなやり方。当然ながら隙が多いから守って貰える後衛ならまだしも忙しい前衛なんかはやってられない。そんな前衛には次の予備動作を真似るというやり方がある。先程のAkariに似て、決まった動きを取るとシステムが補助してスキルを起動してくれる。言葉で発さなくともスキルを出せるけれど、先輩に言わせれば決まった動きを取る分、動きもある程度固定化されるとか。
音声入力は言葉でスキルを起動する方法。一番分かり易いのはスキル名を言う事だろう。スキル名を唱えればその効力が発動してその後の扱い等は結構自由に出来るので汎用性が高い。次に動作で前衛向けがあるように音声でも後衛に適したものが存在する。此方はスキルで決められた言葉を詠唱すれば発動する。術系統のスキルに決まって設定されているらしいけれど、此れは此れで難しい。
スキルの発動一つでも個性が出そうではある。スキル名を言った方が手っ取り早いけどね。
ステータス
未所属
詠 / 狐人
Lv 8
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HP: 95 (HP+150) / MP: 180
STR(攻撃力):11 (STR+16)
VIT(耐久): 11 (VIT+10)
INT(知力): 27
MND(精神力): 33 (MND+5)
DEX(器用さ): 22
AGI(素早さ): 43 (AGI+10)
LUK(運): 19
BP : 7
装備
「ノーマルアロー」(STR+8)(重複)
「ノーマルダガー」(STR+8)(重複)
「旅立ちの帽子」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのシャツ」(VIT+5、HP+50)
「旅立ちのロングスカート」(MND+5、HP+50)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
ステータス
未所属
Akari / 鬼
Lv 9
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―――
HP: 195 / MP: 101
STR(攻撃力): 39 (STR+15)
VIT(耐久): 31 (VIT+20)
INT(知力): 18
MND(精神力): 20
DEX(器用さ): 24
AGI(素早さ): 26 (AGI+5)
LUK(運): 13
装備
「ノーマルブレード」(STR+15 AGI-5)
「ノーマルシャツ」(VIT+10)
「ノーマルズボン」(VIT+10)
「ノーマルブーツ」(AGI+10)
ステータス
未所属
せんな / 天使
Lv 6
【道を切り拓く者】
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装備
「白紙の妖刀 "白月"」