121 海中洞窟 その1
渦潮に飛び込むことで辿り着くことが出来た海中の洞窟。
その内部は詠たちが流れ着いた地点から奥に続いており、帰り道を探す意味でも奥に進む必要がある。
そして現在――
「《エレメント・カーニバル》!」
そう唱えると、唱えた詠を中心として円状に淡い輝きを持つゾーンが広がった。すると、そのゾーン内に小人のようなエフェクトが数人現れ、その小人たちがワッショイワッショイと騒ぎ立てると、範囲内に居た者全員に赤い闘気が発生した。そして其処から更に、各人の武器にそれぞれ違う色のオーラが纏いだした。今回発生したオーラの色は青であったり、緑であったり、白であったり。
――絶賛戦闘中である。
「何と言いますか、賑やかなスキルですね」
「…わっしょい」
「お祭り魔法とは書いてたけど、本当にお祭り開いてない此れ?」
【秘伝の書 "促進"】によって増えたスキル〈エレメント・カーニバル〉。
同じ範囲付与魔法の〈フィーア・エンフローア〉とは色んな部分で共通点の多いスキルだけど、其れに比べると付与の博打性が高かったりするが、同時に攻撃力自体の底上げが発生したりと、バラエティに富んでいる効果である。エフェクトすらもお祭り感覚だし。
今回皆に付いた色は青と緑、後は白色の三色の性質。
性質で言うとややこしくなるが、分かり易く言えばそれぞれ水と風と光のような感じだと思う。博打色が多いだけあって、水場の相手に慣れていそうな水にしてしまうのはどうしようもない。
「だらっしゃああああ!」
変な性質が付いていても気にしないらしい。武器が青く光っている面々は何の躊躇いもなく攻撃を開始している。
攻撃力も上がっている為か、結構なゴリ押しが見られる。
「《ハイスラッシュ》!」
「《クロスエッジ》!」
数が少ないとは言え、レベルは同じか少し上であるエネミーに対して、一行は押されるよりも先に勢いのままに制圧していく。
此処で現れたエネミーは以前にこの大陸で見たエネミーと其程変わらないタイプだった。やってくる事が似ていた為に対処は其処まで困らない。とはいえ、順調なのはもう一つの理由の方が大きいと思われる。
「ふぅ…」
「さて、続き続きー」
戦闘も終わって一行は再び進行を開始する。
そして話題は先程の戦闘の事になった。
「…そういえば、さっきの戦闘結構楽だった」
「私らのレベルもだいぶ適してきたからねー」
「まあ、其れも有るのだろうけれど」
「…この子のお陰が強いのかな?」
そう言って、詠は伸ばした腕に止まったゼピュロスフェザーを撫でる。
先程の戦闘、順調に進んでいたのは恐らくゼピュロスフェザーの貢献のところが多いだろう。
というのも、攻撃こそしていないがゼピュロスフェザーが敵の頭上を飛び回っていたお陰で敵の意識が其方に向いていたのだ。攻撃すれば他にも注意が分散するとはいえ、向いているときは攻撃が其方を優先する上、隙も出来るのでプレイヤー側としては攻撃し易かった。
「レベルが低いからあんなに狙われたのでしょうか?」
「ヘイトってレベルが高い方が上がりやすいんじゃないの?本能でやばいと感じるとかで」
「…単に目の前で飛ばれるから鬱陶しがられただけじゃ……?」
真相は結局のところ分からない。
真相がどうあれ、先程の戦闘で少々危なかったがゼピュロスフェザーが倒される事は無く、レベルの低さとダンジョンのレベルの関係で、一度の戦闘で無事にレベルアップを果たす事が出来た。元のレベルがレベルなだけに其れも一つだけではない。
この調子なら十分なレベルになる迄、そう遠くないかもしれない。一撃でやられない程度のレベルになってくれれば助かる。
ビシャ……
「ん?」
天井から垂れるものとは違う、水の荒い音が響く。
すると、前方に見えた深めの水溜まりからエネミーが出現した。そのエネミーたちは此方に気付くと勢いよく遠距離攻撃を放ってきた。
「次が来たよ!」
「回避!」
流水による攻撃であったり槍であったりと、此方に飛んできた攻撃を散らばるようにして回避する。そして回避してからが戦闘開始である。Akariやわんたんの近接班に混ざってゼピュロスフェザーも前線に突撃していく。攻撃は出来なくともこのやる気である。
戦闘は今回も順調。
ゼピュロスフェザーが動き回る事で相手を撹乱して、攻撃が通し易くなっている。其処までは先程と一緒なのだけれど、今回は何かが違っていた。
「アレは何かのスキルですか?」
「…どうだろう?」
敵の上空を飛んで注意を引いているゼピュロスフェザーなのだが、飛行するにつれて淡い光が宿り始めている。そしてその光がまた相手を惹き付けている。結果的には変わらないけれど、より結果が認識し易くなったように思えた。
暫く見ていると、ゼピュロスフェザーは速度を落としていった。
そして翼で自らを包むと、光は風となって周囲にゆったりと、吹き抜けていく。その風に誘われるように周囲の敵は今一度其れを再認識する。
敵エネミーがその風に惑わされている様子を見ていると、詠の視界に一つのアナウンスが表示された。
【ゼピュロスフェザー が スキル を獲得しました】
――――――――――――――――――
ゼピュロスフェザー
【所持スキル】
・〈ウィンドマーカー〉【NEW】
――――――――――――――――――
どうやら今発現させているアレこそがスキルのようだ。
「効果は…相手の注意を引く…」
「…さっきまでの出来事がスキルに昇華したの?」
「そうみたい」
何というか、囮役としての地位を確立しつつあるのはどうなのだろうか。そういう種類のエネミーなの?
とはいえ、スキルとして現象の原因がはっきりしたのは良いけれど、スキルとして発現している分、自由が利きはすれど、効力は其処まで長くは持たない。
まあ狙って隙が作れるのなら十分とは思うけれど。
「兎も角、このまま押し切るよ!」
「意気込むのは良いけど、爆破はしたら駄目だからね!!」
「…分かってるわよ」
何故か念押しされた事に少々不満を浮かべながらも、詠は後押しとして淡い輝きのゾーンを広げた。
ステータス確認
未所属
名前 ゼピュロスフェザー 名前設定可能
Lv 1 → 7
種族 ゼピュロスフェザー
ランク S
称号未取得
HP: 40 → 54
/ MP: 140 → 158
STR(攻撃力): 5 → 17
VIT(生命力): 5 → 12
INT(知力): 15 → 33
MND(精神力): 15 → 33
DEX(器用さ): 10 → 26
AGI(素早さ): 15 → 35
LUK(運): 20 → 36
P: → 6




